ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

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 遂にあの話が始まります。私も初めてこの展開を知った時の衝撃は忘れられません。


LEVEL.71 正体の時間

 期末テスト終わりの演劇発表会。こちらもE組それぞれの長所を活かして見事にやり切った。特に狭間の脚本及び杉野の名演技は、此度の発表会に大きな爪痕を残す結果となった。これでE組一同残りの学園生活は暗殺と受験勉強に専念する事が出来る。

 

「ウヌ、渚とカエデがどこに行ってしまったのだ?」

 

ガッシュが教室を見渡すと、先程までいたはずの2人がいなくなっていた。ガッシュは何事かと考える素振りを見せていたが、殺せんせーが何かに納得したように頷く。

 

「私が見てきますよ、ガッシュ君。君達はゆっくりして下さい、ヌルフフフ」

 

「分かったのだ!」

 

殺せんせーがそのまま教室を出て行く。その後残った生徒達は暗殺計画についての話し合いをする事にした。出てきた案としては極寒の環境を利用して先生を襲撃する事、先生をスキーに誘った時に雪山を水に溶かした上で襲う事などが挙げられた。

 

「そう言えば速水ってスキーの経験者だったよな」

 

「そうね。スキー場で暗殺するなら任せて」

 

千葉が速水に声をかける。彼女はE組に来る前はスキー部に属しており、雪山に関しては場慣れしている。生徒達のどんな経験が暗殺に活きて来るか、分かったものでは無い。

 

「清麿、スキーとやらも楽しそうだの!」

 

「あくまで暗殺の為だがな(ウィンタースポーツと言えば、前回のスケートは悲惨だった)」

 

ガッシュはスキーに興味を示すが、清麿はウマゴンペアや水野達とスケート場に行った時の惨劇を思い出す。それなりの大人数で行ったのにもかかわらず、誰一人としてまともに滑る事が叶わなかった。それだけでは無くお互いの足の引っ張り合いが始まり、散々氷の上で転がり回るだけで終わってしまったのだ。そして清麿の顔色が悪くなる。

 

「おい高嶺、他にもいい案ねーのか?つか何辛気臭せー面してんだテメーは」

 

「大した事では無いんだが……」

 

寺坂がぶっきらぼうな口調で清麿に問いただす。他の生徒達も何事かと思って彼の方を向く。そして清麿はスケート場での出来事を彼等に話すと、クラス内では笑い声が響いた。

 

「ギャハハハ‼そんで思いっきりこけたってか⁉」

 

「ぷっ……ねぇ高嶺、そん時の写真とかない訳?」

 

「高嶺君、中々面白い事を話すね~。ククッ」

 

「やべぇ。想像しただけで笑えてくる……ハハハハ‼」

 

その話題は特に寺坂・中村・カルマ・岡島のツボにハマった様で、彼等は清麿をあざ笑う。他にも笑みを浮かべる生徒達が多く、清麿の堪忍袋の緒が切れる。

 

「じゃかあしい‼だったらお前等も滑れるんだろーな⁉俺の事笑った奴、全員でスケート行くぞ‼」

 

清麿が怒鳴り散らす。彼はヤケを起こしている。暗殺の話はどこへやら、気付けばE組はスケートの話一色になっていた。そんな光景を見た速水がため息をつく。折角自分の経験を活かしたスキーでの暗殺の話題が遮られて複雑な心境だ。そんな彼女の視界には頭を押さえたガッシュが入る。

 

「ガッシュ、どうしたの?」

 

「ヌウ、凛香……スケートで転んだ時は本当に痛かったからの。それを思い出してしまったのだ」

 

今となっては笑い話になっているが、氷の上に思い切り体をぶつけたのだからタダで済む訳が無い。ガッシュが顔を青くしていると、原が彼の頭に手を置いた。

 

「まあ、どのスポーツも常に怪我のリスクがあるからね。皆無理しなきゃいいけど」

 

原は熱くなるクラスメイト達に心配の眼差しを向ける。今の彼女の目線は子供達を見守る母親のそれだ。そんな中、狭間が首を横に振りながら会話に加わる。

 

「どんどん話が逸れていくわね。まぁ、焦る必要は無いんでしょうけど」

 

彼女は素っ気なく言い放つが、その顔にはわずかながら笑みが浮かんでいる。影を好む狭間だったが、E組に入った当初と比べて大分楽しそうな顔をする頻度が増えてきている。そんな彼女をガッシュが見つめる。

 

「どうしたのよ?ガッシュ」

 

「何だか綺羅々が変わったような気がするのだ!」

 

狭間の変化にガッシュが気付く。無駄にテンションが高まる事こそないが、彼女もE組での日々をしっかりと楽しんでいる。そして狭間は何かを思いついたように口を開く。

 

「あら、人はそんな簡単に変わるものじゃないわよ?」

 

彼女は笑みを浮かべるが、それ以上に顔に影が差している。狭間は無邪気に自分に話しかけるガッシュに対して、幽霊のような顔をして見せた。

 

「ヌオオオオ‼」

 

それを見たガッシュは冷や汗をかきながら震えて逃げ出す。そしては原に隠れてやり過ごそうとした。

 

「狭間さん、あんまりガッシュ君を怖がらせないでね……」

 

そんな原が怯えるガッシュの頭を呆れ混じりに撫でる様子を、速水は何とも言えない表情で見ていた。

 

 E組での何気ない日常が繰り広げられていると思われたその時、突如外から何かが破裂した音が聞こえてきた。それと同時に校舎が揺れる。先程まで盛り上がっていた生徒達の顔が一斉にこわばり、彼等はすぐに外へ出た。

 

 

 

 

 生徒達が音の聞こえて来た方に向かう。そこでは倉庫の前で殺せんせーが尋常でない程に動揺しながら、倉庫の屋根上を見つめている。そして生徒一同先生と同じ方に視線を向けると、そこには驚愕の光景が存在した。

 

「あ~あ、失敗しちゃった。ダメだな、私」

 

屋根の上には茅野が立っている。しかし生徒達は彼女を見て愕然とする。何故なら彼女の首からは有り得ないはずのものが生えていたのだから。

 

「茅野さん、何なんですか?それ……」

 

「嘘、一体何が……茅野さん」

 

奥田と神崎が信じられないといった様子で一歩前に出る。しかし他の生徒達も考える事は同じだ。彼女は触手を生やしている。なぜなのか。そんな彼等の疑問に答えるかのごとく、茅野は口を開く。

 

「“茅野カエデ”って本名じゃないの。今までずっと演技してきたんだ、ひ弱で無害な女子にね。“雪村あぐり”の妹って言えば分かりやすいかな?」

 

彼女は淡々と語る。演技と言うのは嘘ではない。実際に今の茅野の顔は別人のように険しくなっている。そして茅野は冷たい目つきで殺せんせーを見つめると、多くの生徒達が動揺する。その原因は彼女の冷徹な視線故では無い。雪村あぐりの名前が出て来た事だ。

 

「カエデ……何を、言っておるのだ?」

 

ガッシュが冷や汗をかきながら彼女に問いただす。彼には状況の整理が出来ていない。そんなガッシュを見た茅野は何かに納得したように話し始める。

 

「そっか、ガッシュ君はお姉ちゃんとは面識が無いんだったね。なら知らなくても当然か……それより、コイツが私のお姉ちゃんを殺したんだよ」

 

「「「「「な⁉」」」」」

 

茅野が殺せんせーを指差して言い放つ。彼女の衝撃的な言葉を聞いて生徒達が驚く中で、彼女は話を続ける。

 

「だから私はお姉ちゃんの敵を討つ為だけにE組に入った。今まで皆と仲良く過ごしてきたのもそれがバレないようにするための演技、嘘っぱちなんだよ。他の事はどうでも良い」

 

茅野は言い放つ。これまでのE組での生活は彼女にとって偽りの物であると。仲間と共に苦楽を共にしてきた事も、全て演技でしか無いと。ガッシュは彼女の言う事をようやく理解した。しかし彼はそれを認めたくない。だから反論する、大声を張って。そうでもしないと、ガッシュの何かが崩れるかもしれなかった。

 

「そんなハズなかろう‼カエデ‼お主は私達がクリアとの戦いから帰ってきた時、泣きながら喜んでくれたではないか‼あんなにも心配してくれたではないか‼なのに……」

 

「いや、それも全部演技だって言ってるじゃん。ガッシュ君は騙されてたんだよ」

 

彼の叫びは茅野には届かない。彼女は冷たくガッシュを突き放す。今のガッシュの前には、かつて自分を弟のように可愛がってくれたクラスメイトはもういない。いるのは触手を持った復讐者のみ。

 

「ヌゥ、それでも……」

 

「ガッシュ君」

 

「!カエデ……」

 

口元を震わせながらも言葉を発しようとするガッシュに茅野が微笑みかける。その時の彼女の笑顔は今までE組の皆に見せて来たものだった。それを見たガッシュは安堵の表情をする。しかし、

 

「ほら、また騙された。懲りないなぁガッシュ君は」

 

「な……」

 

茅野は先程までとは異なる邪悪な笑みを浮かべる。まるでガッシュに対して、今までの自分は嘘偽りであると改めて思い知らせるかの様だ。それを見たガッシュは絶望に支配された。これまで彼はどんな強敵に力の差を見せつけられようとも、どんな危機的状況に遭遇しても諦める事は無かった。しかし親しい者からの裏切りを受けて、ついにその心が折れた。そしてガッシュは全身を震わせて膝をつく。

 

「ぐう……ウヌウ……」

 

「ガッシュ君って王様目指してるんだよね……だったら、こういう演技も見破れるようになった方が良いんじゃない?そんなんじゃ」

 

「茅野‼もうやめろ‼」

 

立ち上がれないガッシュに対してまだ茅野は追い打ちをかけようとする。しかし、それは清麿の怒鳴り声によって防がれた。彼は自分のパートナーが散々罵られた事で切れている。そしてガッシュの方にはようやく倉庫から出て来た渚が駆け寄った。

 

「やっぱり高嶺君は怒ると怖いな……そういえば高嶺君さぁ、私が何か隠してるって事に気付きかけてたよね?」

 

「⁉」

 

そう指摘された清麿は目の色を変える。彼は何度か茅野の言動に違和感を覚える事があった。だがその事を彼女は感づいていた。

 

【答えを出す者】(アンサートーカー)、だっけ?その力を使われればバレてたけど、それで見破られる事は無いって確信があった。だって高嶺君、それで私を見ようなんて絶対しないでしょ?」

 

清麿はこの力を乱用してこなかった。イトナの事を探る時ですら一瞬躊躇った程だ。勝手に人の抱える物の答えを出すのは、相手にとっても良い気分はしないだろう。だから彼は安易にそれを使用しないと決めていたが、清麿のその決断すら茅野は織り込み済みだったと言う。清麿は言い返さない。

 

「まあいいや、またやるよ殺せんせー。場所は後で連絡するから」

 

茅野がそう言い放った後、彼女は尋常ではない速度でその場を離れる。殺せんせーやガッシュならそれを止められた可能性もあったが、今の彼等にはそこまでの余裕が無い。

 

 多くの生徒達がその様子を見て呆気に取られていたが、その中でもイトナが顔を青くしながら口を開いた。

 

「有り得ない……メンテもせずに触手を生やし続けてるなんて……地獄の苦しみだぞ」

 

かつて触手を体内に宿していた彼だから理解出来る。誰かに管理してもらわなければ、触手の持ち主は脳の中で棘だらけの虫が暴れ続けるような激痛に襲われる。それを表情に出さずに耐えきる事など出来るはずが無いと。だが、茅野はそれをやってのけた。

 

「茅野……そんな……」

 

清麿が歯ぎしりをする。もしも自分が違和感に気付いた時に【答えを出す者】(アンサートーカー)でその正体を探っていれば、別の道があったのではないか。苦痛に苛まれる茅野を救う事が出来たのではないか。そんな後悔が彼を襲う。清麿が両手を力強く握りしめる様子をクラスメイト達が心配そうな表情で見つめる。

 

「俺の……せいなのか……どうすれば?」

 

彼は思わずそう呟く。しかしその発言を聞いたE組の多くは、途端に彼に対して否定的な目線を送る。その中でもカルマがため息をついた後に、呆れ混じりの表情で話し始めた。

 

「高嶺君……流石にそれ、自惚れすぎでしょ?」

 

「しかし、赤羽」

 

「何でも自分の力で思い通りに出来るとか思わない方が良いって」

 

カルマの言葉に反論しようとする清麿の発言をも彼は遮り、冷たい視線を送る。カルマには怒りが込みあがっている。高いスペックを持ち合わせる同級生が、ある意味力に溺れかけている事に対して。

 

「その力で茅野ちゃんが隠してる事を知ってどうすんの?仮に一番良い方法を導き出せたとして、それを彼女がはいそうですかって簡単に受け入れると思う?」

 

茅野の目的は殺せんせーへの復讐。クラスメイト達がそれを知ったところで止められる保証など無い。ガッシュペアなら力で取り押さえる事が出来るかもしれないが、それで彼女自身が納得するハズが無い。呪文や【答えを出す者】(アンサートーカー)をもってしても本当の意味で茅野を止めるのは至難の業だ。それなのに清麿が自分なら出来ると決め打ったような言動をする。その事はカルマの逆鱗に触れた。

 

「……済まない、赤羽。お前の言う通りだ。この力は万能じゃないって、分かっていたつもりだったんだがな」

 

清麿は素直に謝罪する。カルマの叱責により冷静さを取り戻した彼は、すぐに自分の間違いに気付く事が出来た。茅野の本性が露わになって焦るあまり、彼は周りを見ようともせず、自分の力だけでどうにかする可能性ばかりを探ってしまった。清麿が態度を改めた様子見たカルマは、ホッとしたような顔をした後に彼の肩を叩く。

 

「頼むよ高嶺君。この後()()茅野ちゃんをどうにかする方法を考えないといけないんだからさ」

 

カルマが清麿を見て口角を上げる。今の清麿は次に成すべき事が分かっている。多くの生徒達も2人のやり取りを見て多少なりとも気が楽になった。そんな時、寺坂が一歩前に出る。

 

「つーかよ……誰が悪いって話になったら、茅野の苦しみに気付いてやれなかった俺等全員の落ち度だろーが。カルマ!高嶺!テメー等だけで勝手に話進めてんじゃねーよ!」

 

彼は言い放つ。茅野は大切なE組の仲間だ。そんな彼女が間違った方向に向かっているのなら、クラス全員でそれを止める以外の道は無い。かつてはいじめっ子のガキ大将だった寺坂だが、彼もまた暗殺生活を通して誰かを気遣う事が出来る様になっている。

 

「……皆さん、ここにいるのも何ですし、先ずは中に入りましょうか」

 

殺せんせーが生徒達に教室に戻る様に指示する。いつまでも寒い外に居続ける訳にはいかない。先生の言葉を聞いた生徒達の多くは歩き始める。しかしガッシュは立ち上がりこそしたものの、足を動かそうとはしなかった。そんな彼の隣にいた渚は声をかける。

 

「ガッシュ、僕達も戻ろうよ。後は教室でこれからの話し合いを」

 

「済まぬ、少し私を1人にして欲しいのだ」

 

ガッシュは渚の言葉に対して首を横に振る。そんな彼を見かねた生徒達は何事かと思いガッシュの方を向くが、清麿が口を開く。

 

「そうだな……悪い皆、今はガッシュをそっとしてやってくれないか?」

 

彼はガッシュの考えている事が分かった。ガッシュはまだ立ち直れていない。今の彼には時間が必要なのだと。清麿の言葉を聞いた生徒達は、ガッシュに心配の眼差しを向けながらも校舎に入っていく。

 

 

 

 

 ガッシュを除くE組の皆が教室に戻った。教室内で生徒達は口を開かない。その中で、まずは殺せんせーが沈黙を破る。

 

「高嶺君、律さん、イトナ君……勿論ガッシュ君もですが、君達は雪村あぐり先生とは接点が無いのですよね。彼女は私がE組に来る前にここの担任を勤めていた人です」

 

今回の一件のキーパーソンである雪村先生。彼女は殺せんせーの前のE組の先生だ。しかし転校生達は先生の事を知らない。だから殺せんせーは彼等に雪村先生の事を紹介するところから始めた。

 

「茅野は……その人の妹だって言ってたな」

 

殺せんせーの説明を聞いた後、清麿が苦虫を噛み潰したような顔をする。E組の前担任の妹、それこそが茅野の正体。しかも先生は殺せんせーが命を奪ったという。多くの生徒が疑問に思う中、三村がスマホを取り出した。

 

「皆。“磨瀬榛名”って憶えてるか?」

 

彼のスマホには1人の子役女優が映し出されている。彼女は現在休業中だが、その画像を見たE組一同は驚愕する。髪型や雰囲気こそ異なるが、その少女の容姿が茅野そっくりなのだ。そして磨瀬榛名は芸名であり、彼女の本名は“雪村あかり”。雪村先生と同じ苗字だ。

 

「実は茅野の事、前に見た事あるような気がしてたんだが……そういう事だったのか」

 

彼は何かに納得したような物言いをする。磨瀬榛名は休業期間が長くて多くの人々の記憶から消えかかっていたが、テレビ業界に詳しい三村は彼女の事を憶えていた。だから茅野を見て思うところがあった様だが、正体に気付く事は出来なかった。そして三村は彼女の出演する動画を律に頼んで流してもらう。

 

「確かに茅野だ……スゲー演技だな……」

 

前原の言う通り、画面に出て来る彼女の演技力はかなりの物だ。それをもって1年近くクラスメイト達に自分の正体と触手による苦痛を隠していた。そして茅野の動画を見ている渚が思い詰めた表情をする。そんな彼に対して清麿が声をかける。

 

「渚、大丈夫か?」

 

「うん、考えてたんだ。茅野が僕やガッシュと一緒にいる機会が多かった理由を」

 

茅野はE組においては基本誰とでも仲良しだ。しかしその中でも誰と行動を共にする事が多いかと言われれば、これは渚とガッシュだろう。その事には彼等と気が合う以外の理由があったのではないかと渚は予測する。

 

「茅野は多分、僕の殺気の陰に自分の殺気を隠していたんだろうね。そして……」

 

「ガッシュと仲良くしていたのは……俺の気を少しでも緩める為、か?」

 

「そうだと思う」

 

清麿と渚は同じ結論に辿り着く。渚に隠れて自分の暗殺の才能を誤魔化す事、茅野の事情に感づく可能性のある清麿に警戒されない様にガッシュと交流を深める事。どちらも自分の目標を達成する為であると。茅野は渚とガッシュを利用していたのではないかと2人は考える。

 

「ガッシュ、大丈夫かな?」

 

渚はこの場にいないクラスメイトに心配を向ける。ガッシュがこの事を知れば、これが事実であれば彼はさらに傷付くだろう。清麿は渚の肩に手を置く。

 

「アイツが心配なのは皆同じだが、これはガッシュが自分で乗り越えなければならん事だ。そして茅野を連れ戻す為にはガッシュ……そしてE組の皆で迎えに行く必要がある。酷な様だが、ガッシュには自力で立ち直ってもらう。親しい者からの裏切り……これもアイツが王になる為の試練なのかもしれん」

 

ガッシュペアはかつて何度も強敵との力の差を思い知らされた事がある。しかし、その度に仲間と共に困難を突破してきた。しかし今回は違う。ガッシュは仲間だと思っていた者から突き放された。これは今まで経験した事が無い。

 

 

 

 

 校舎の外ではガッシュが1人、膝と手を地面について涙を流す。今まで自分が友達だと思っていたクラスメイトからの裏切り。それはこれまで経験してきたどんな絶望とも異なる。簡単に立ち直れる訳が無い。

 

「ヌウ……ウヌゥ……」

 

同じ裏切りと言えば、かつてビッチ先生は死神側に寝返ってE組の生徒達を死の危険に晒した事がある。しかし彼女自身が散々葛藤していた上に、死神の心理掌握もあった為、純粋に先生だけの意志とは言い難いかもしれない。またウォンレイペアもファウード復活の為に敵対した事があったが、こちらはリィエンが人質に取られていた状況だ。しかし茅野は違う。初めからE組の事を何とも思っていないと言い放った。元から自分達を見限るつもりしか無かったのだと。

 

「ヌオォ……カエデェ……」

 

ガッシュの脳裏には彼女とのE組での日々が思い浮かぶ。楽しかった事や大変だった事、どれも大切な思い出だ。しかし茅野はそれらを偽りだと断言した。ガッシュはそれがたまらなく悲しかった。

 

「ぐ……うぅ……」

 

ガッシュは未だに立ち上がれない。ここでいつまでも落ち込んでいる訳にはいかない。そんな事は彼にも分かっている。しかし、それでも茅野に裏切られていた事実を受け止める事は叶わない。ガッシュは泣き続ける。彼は一向に頭を上げようとしない。そんな時、ガッシュの耳には聞こえるハズの無い少女の声が届いた。

 

『こらガッシュ!いつまでメソメソしてるのよ!』

 

「ウヌ⁉」

 

その声を聞いたガッシュは顔を上げる。

 

「ヌゥ、どうして……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ティオ‼」

 

彼の目の前には、今は魔界にいるハズのティオが立っていた。

 




 読んでいただき、ありがとうございました。久し振りにティオを出す事が出来て良かったです。
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