「ティオ……どうして……」
ガッシュの前にはティオが魂の状態で立っていた。今は魔物の戦いの最中でも無く、金色の本の力が出ている訳でも無い。それなのに何故この場に彼女がいるのか。真相は不明だ。
『詳しい事は私にも分からないけど、アンタがいつまでも泣いてる姿を見てられないと思ったのよ。そしたら、気付いたらこうなってたって訳』
「ティオ……クリアとの戦いが終わっても、ずっと私達を見ておったのか?」
ティオは魔界からもガッシュを見続けていた。魔界を救ってくれた友を、ずっと気にかけていたという。自分達の為の明日を作ってくれた仲間に、いつまでも下を向き続けて欲しくは無かったのだ。
『ええそうよ、ガッシュと清麿がこんな問題まで抱えてると知った時はビックリしたけど。今の私達にはもう見守る事しか出来ない……そう思ってたけど、また話せるようになったわね』
ティオは微笑みかけてくれる。クリアとの戦い以降、再びガッシュと話せる事が嬉しいようだ。ましてや今の彼はこれまで経験しえなかった絶望に打ちひしがれている。それならば、彼女のやるべき事は1つしかない。
「ティオ……カエデが……」
『ええ。私もマルスに裏切られた経験があるからガッシュの気持ちは分かるわ。でも辛いのはアンタだけじゃないでしょ?清麿や渚、他の皆だって同じじゃないの?だから立ち上がりなさい!』
ティオは発破をかける。彼女はガッシュの心境を理解した上で、あえて甘やかす様な言い方はしない。かつてティオ自身がクリアの圧倒的強さの前で心が折れかかっていた時、彼のお陰で立ち上がる事が出来た。そんなガッシュを彼女は信用している故だ。彼なら再び立ち直ってくれるとティオは確信している。
『ガッシュ。私、カエデとはあんまりお話する事が出来なかったけど……ガッシュのクラスの人とも清麿達程一緒にいた訳じゃないけど……貴方達が過ごした日々が全部嘘偽りだったとはどうしても思えない。だから、ここでアンタに立ち止まって欲しくない』
ティオもE組の生徒の何人かと顔は合わせている。彼女は特に渚と仲が良く、ガッシュペアがE組にて楽しい日々を送っていた事も知っている。いくら茅野が心の内に何かを抱えていたとしても、それらを演技の一言で切り捨てられる事が彼女には考えられない。そんなティオの言葉はガッシュの心に届く。
「ウヌ……ウヌウ……」
ガッシュは涙を流しながらもようやく立ち上がった。ここで伏していても何にもならない。そしてティオの言葉を聞いた彼は決意を新たにする。
「ティオ……ここまで来てくれてありがとうなのだ。お主のお陰で元気が出たぞ!……カエデがどんなにひどい事を言っても、カエデは私の……私達E組の、大切な友達だ‼だからカエデはあのままにはしておけぬ‼必ず私達で皆の下に連れ戻す‼」
例え茅野がE組を、ガッシュを見限ろうとしても関係ない。彼が茅野を友と思う気持ちは変わらない。そしてガッシュは茅野と向き合い、E組全員で彼女を止める事を決めた。例え茅野自身がそれを拒絶しようとも。
『やっとガッシュらしくなってきたわね。これなら大丈夫そうかしら』
ティオは安堵の表情を浮かべる。彼女はどんな事があっても、ガッシュには前を向いていて欲しいのだ。
『じゃあ私は行くわね。ガッシュ……またアンタが弱音を吐くようなら何度だって来てあげるから!』
「ウヌ‼」
ティオはそう言い残して姿を消した。ガッシュが見たティオは本当に魔界から来てくれた彼女の魂だったのか、それとも彼は幻を見ていたのか。それは分からない。しかしそれは大きな問題では無い。再び立ち上がったガッシュは校舎に入る。皆で友を連れ戻す為に。
「……ガッシュ君、戻ってこないね。高嶺君、本当に彼を1人にして大丈夫かな?」
その頃E組の教室では、片岡を始めとして多くの生徒がガッシュを心配する。茅野が可愛がってくれてた分、彼が受けた精神的ダメージは大きい。ガッシュはこれまで厳しい戦いを何度も乗り越えてきたが、親しい者からの裏切りはこれまでの苦痛とはまるで異なるだろう。しかし清麿の意志は固い。
「渚にも言ったが、これはガッシュに与えられた試練だ。本当にあいつが茅野を思うのなら、ちゃんと戻って来るさ」
彼はガッシュに手を差し伸べる選択肢を持たない。それに彼がへこたれたままであるのなら、茅野を連れ戻す際の戦力にもならないだろう。一見厳しいようであるが、清麿がガッシュを信用した上での決断だ。
「高嶺君、結構ガッシュ君に対してスパルタだよね……」
「ガッシュは王になるからな。これからも辛い壁を乗り越えなくてはならん事は多々あるだろう。今はあいつを信じてやってくれないか?」
片岡が諦めた様な素振りを見せる。清麿の発言に対してE組の多くは言い返せない。この中で一番ガッシュの事を分かっているのは清麿だ。そんな彼がガッシュを待ち続けるのなら、自分達もそうするべきだと彼等は判断した。
「あえて突き放すのは信頼の証か……高嶺君とガッシュ君の関係、ちょっと羨ましいな」
不破が納得したような素振りで口を開く。これまでの戦いで培ってきたガッシュペアの絆。お互いを信頼する関係は易々と崩れる物では無い。そして教室の扉が開く。
「皆、遅くなって済まぬのだ‼私はもう大丈夫だぞ‼」
ガッシュがこれまで通りの明るい表情で教室に入ってきた。それを見た多くの生徒達は安心したような顔を見せる。彼は見事に試練の1つを乗り越えて見せた。そして清麿が笑みを浮かべながらガッシュの頭に手を乗せた。
「ガッシュ、よく1人で立ち上がったな。これで」
「それは違うのだ!」
しかし清麿の言葉は否定される。ガッシュは1人で立ち上がった訳では無い。
「ティオが現れてくれたのだ。ティオは私を元気づける為に来たと言っておった。そうならなければ、私は立ち上がる事が出来なかったかもしれぬ。私もまだまだだの」
ティオの言葉が無ければ、ガッシュはどうなっていたか分からない。彼の心に大きな闇が住まう事になっていたかもしれない。だがそうはならなかった。今のガッシュは前を向く事が出来ている。
「ティオちゃんが⁉本当に来てたの⁉」
彼女と仲の良かった渚を始めとして、多くの生徒が驚く。魔界に帰ったハズの彼女がなぜ現れたのか。それは分からずじまいだが、ガッシュはティオには感謝している。
「そうか……ティオは何て言ってたんだ?」
その中でも清麿はすぐに平常心に戻ると、ガッシュに改めて事情を問いただす。ガッシュがティオとの会話を皆の前で説明すると、清麿と渚が口角を上げる。
「ハハハ、ティオは変わらないな」
「ティオちゃん、ずっとガッシュを気にかけてるんだね」
彼女の強気な物言いに清麿と渚が感心する。ティオがどれだけガッシュを思ってくれているのか、その会話だけでも彼等は理解出来た。そして元気になったガッシュを見たクラス一同、全員で茅野を止める決意をする。そんな彼等は殺せんせーの方を向く。
「まずはガッシュ君、おかえりなさい……そして皆さんの言いたい事は分かります。先生の過去について、ですかね」
殺せんせーは皆の思いをすぐに察した。茅野の言動。殺せんせーは何故雪村先生の意志を継ぐのか。そもそも先生の正体は何なのか。E組一同、殺せんせーの言葉に頷く。しかし先生は首を横に振った。
「勿論全て話す事は約束します。ですがそれは、E組全員が揃ってからです」
殺せんせーが口を割るのは、茅野がここに戻って来てからだと言い放つ。彼女も大切なE組の生徒なのだから。まずは茅野を連れ戻さない事には始まらない。そして殺せんせーの持つスマホに茅野から連絡が届く。“今夜7時。椚ヶ丘公園奥のすすき野原まで”と。
「クラス全員で向かいましょう。茅野さんは何としても先生が止めて見せます」
殺せんせーは茅野の暗殺を正面から受けるつもりだ。例え自らの命に代えてでも。かつてガッシュペアがクリアとの戦いに挑んだ時の様に。そんな決意をする殺せんせーだが、ガッシュと渚が一歩前に出る。
日も短くなっており、6時を過ぎれば辺りはほぼ真っ暗だ。そして椚ヶ丘のとある岩山の崖にて、黒いノースリーブのワンピースに着替えた茅野が街を見下ろす。
(ここまで私は完璧に演じて来た、今日この時の為に)
彼女はここに来るまでの過程を思い出す。
(今でも覚えてる。息絶えた姉とその血を弄ぶ触手の怪物)
雪村先生は教師としてのみならず、夜は結婚相手の働く研究所での手伝いをしていた。しかしそこで突然の大爆発が起こる。たまたま近くにいた茅野は研究所の侵入に成功するが、その時には彼女の姉は死んでいた。
(そこで見つけたんだよね、触手の種を……触手が私に聞いて来たっけ。“どうなりたいか”を。私は“殺し屋になりたい”って答えた。アイツを殺す為に)
茅野の願いはただ1つ。姉の命を奪ったであろう超生物への復讐。そして彼女はE組での生活を振り返り続ける。
(椚ヶ丘のE組に入って、上手く渚に隠れたと思った矢先にガッシュ君と高嶺君が転入してきたんだよね。しかも高嶺君、何回か私の事に気付きかけてたし)
ガッシュペアの転入は彼女にとっても予想外だ。超生物の命を狙う暗殺者の参戦はある程度予測はしていたが、まさか電撃を放つ2人組が来るなどとは思うまい。しかも清麿は何度も激戦を乗り越えた経験から、茅野に違和感を覚える事がしばしばあったという。
(触手の戦いについて来れるとしたら、間違いなくあの2人)
茅野はガッシュペアへの警戒を深める。今回の暗殺において最も脅威となり得る2人。ガッシュの身体能力と清麿の
(でも、ガッシュ君のメンタルは一度へし折った。仮に立ち上がってきたとしても問題は無い。だって……)
「私の準備が整うまで待てって言ったんだけどなぁ」
茅野の思考を遮る様に1人の男が彼女に話しかける。茅野が後ろを向くと、そこにはシロが立っていた。彼女が触手を所持する以上、今回の一件にシロが絡んでいても何らおかしくはない。
「最初からアンタに期待なんかしてない。イトナ君の事も見捨てたくせに」
茅野は冷たく言い放つ。協力関係だと思っているのはシロだけの様だ。しかしシロは得意げに話を続ける。
「代謝バランスも不安定なんだろ?メンテもせずに触手を使えばどうなるか……」
シロの言葉に聞く耳も持たず、茅野は触手の一撃を繰り出す。しかしそれは紙一重でかわされる。シロもただ者では無い。
「私1人で殺るの。今すぐ消えて」
茅野は全身に汗をかいている。触手の副作用による激痛は今も彼女を苦しめ続けている。それでも彼女は気丈な態度を崩さない。この暗殺を成功させる為に。そして約束の時間も迫ってきており、茅野はその場を超スピードで離れて目的地に向かう。それを見たシロは呟いた。
「冷たいなぁ、私はたったひとりの兄だというのに」
午後7時、すすき野原にてE組一同と茅野は対峙する。
「約束通り、殺されに来たんだね!」
彼女は乾いた笑みを浮かべる。その頭の中には、復讐の事以外は入っていない。E組一同は触手に蝕まれる茅野に心配の眼差しを向ける。しかし彼女が止まる事は無い。
「やっと、お姉ちゃんの仇が取れる」
茅野が殺せんせーを指差す。彼女はこの日を心待ちにしていた。全ては死んだ姉の為。しかし彼女の復讐を肯定する者は他には誰もいない。殺せんせーが本当に雪村先生を殺したなどと、他の生徒達には考えられないのだ。
「茅野、考え直す気は無いか?」
「殺せんせーがそんな酷い事するとは思えないだろ」
竹林と杉野を始め、多くの生徒達が茅野の説得を試みる。しかし彼女は耳を貸さない。茅野は姉を先生が殺したと決め打っている。そんな状態ではクラスメイト達の声は到底届かない。今度は清麿とイトナが一歩前に出る。清麿は
「それ以上触手を使ってはいけない‼茅野自身が持たないぞ‼」
「今、体が熱くて首元だけが寒いだろう。触手の移植による代謝異常だ。そんな状態で戦えば」
「うるさい」
イトナの話を遮ると同時に、茅野から生える2本の黒い触手は炎を纏う。彼女は全身の体温をさらに上げて、その熱を触手に集めたのだ。当然茅野の負担は大きくなる。
「茅野さん……それ以上は……」
殺せんせーが言いかけた瞬間、茅野は燃える触手で自分と先生の周りに炎のリングを作り上げた。彼女は復讐をやめるつもりは一切無い。またリングには、殺せんせーの苦手な環境変化の狙いもある。
「これで邪魔者は入れない……ハズだったんだけどなぁ」
リングの中には茅野と殺せんせーのみ、他の生徒は炎のせいで中には入れない。そう思われたが1人、炎の中でもお構いなしに割り込んでくる生徒が彼女と先生の間に入る。
「どういうつもり?そこ、どいてくれないかな……
ガッシュ君‼」
「カエデ‼今のお主に殺せんせーを殺させる訳にはいかぬ‼」
ガッシュが殺せんせーを背に、両腕を広げて茅野の前に立ちふさがる。両者の鋭い目線がお互いを睨み付ける。お互いに引き下がる選択肢は持ち合わせていない。
「もう一度言うね、ガッシュ君。そこどいて……痛い目にあいたくなかったらさぁ‼」
「絶対にどかぬ‼カエデ、お主に後悔して欲しくないのだ‼」
茅野がこれまでに出した事のないようなドスのきいた声でガッシュを怒鳴る。しかしガッシュはそれには屈しない。そして彼は茅野に負けず劣らずの大声で返すと、彼女は訝し気な顔をする。
「言ってる意味が分かんないんだけど……後悔って何?」
「本当に殺せんせーがカエデのお姉ちゃんを殺したかどうか、分からぬでは無いか‼それに、これ以上苦しそうにするカエデを見てなどいられぬ‼」
他の生徒達も考えていたが、本当に殺せんせーが雪村先生を殺したかどうかは分からない。茅野自身でさえ、直接彼女の命が奪われた場面には出くわしていないのだから。しかし茅野の精神は触手に支配される一方だ。
「そうとしか考えられないんだよ‼邪魔しないで‼」
茅野が上空に跳ぶと同時に2本の触手がガッシュを襲う。炎を纏ったその攻撃は火山弾そのものだ。触手の超スピードを見切るのはガッシュでも容易では無い。わずか2本のはずの触手が十数本にも見える。時には叩き付け、時には薙ぎ払う。触手の攻撃方法は変幻自在だ。
「聞き分けの悪い子にはお姉ちゃんがお仕置きしてあげる‼」
茅野の殺意が完全にガッシュに向く。それこそが狙いだ。茅野からメールが来た時、当初殺せんせーは自ら彼女を止めるつもりだった。しかし今の茅野に殺せんせー暗殺を成功させる訳にはいかないとE組は結論に至る。先生の話を聞く為にも。その為に先ずはガッシュが茅野を相手取る事となったのだ。
「今のお主に、殺せんせーは殺させぬ‼」
隕石のごとく苛烈な触手の連撃。それが地面に叩き付けられる度にクレーターが増える。マントでの防御すら間に合わない。それでもガッシュは致命傷を避け続ける。しかし全ての攻撃を見切るには至らない。彼は横からの触手の薙ぎ払いを喰らう。
「グハッ……」
「どうしたのガッシュ君‼エラそーな事言っときながら結局逃げるだけじゃん‼」
ガッシュは吐血する。茅野が容赦ない攻撃を繰り出す一方、ガッシュからは反撃は行わない。否、反撃できないのだ。その理由は1つ。そして炎の触手が2本、彼を捕えて巻き付く。
「捕まえた♡君が私に攻撃なんか出来る訳ないもんね」
「ヌゥ……」
茅野がガッシュと仲良くなった理由がこれだ。自身と交流を深めておけば、いざ離別したところで彼に電撃を放たれるリスクは少なくなる。実際にガッシュが茅野に攻撃する事は出来ていない。そうでなくとも彼女を傷付けるなどあってはならない。清麿もそれが分かっており、無理矢理に攻撃呪文を唱える事はしない。
場面はリングの外に移る。E組一同が茅野達を見守る。その中でも清麿は
「な……これは……」
「ダメだ、茅野の波長は触手のせいで乱れすぎてる。あれじゃあ猫だましは使えない」
彼等は作戦変更を余儀なくされる。猫だまし以外の何かで茅野の殺意を忘れさせるしかない。新たな方法を考えるが、その間にも茅野の精神は触手に支配されていく。
「ガッシュ君が押されてる、こんな事が……」
「俺の時なんか比べ物にならない。それ程に今の茅野は強い」
しばらくE組一同は2人の戦いを見ていると、不破とイトナが怪訝な顔をする。触手の力を得たクラスメイトが魔物相手にも渡り合う程の強さを見せる。しかし、そんな力にリスクが無い訳がない。
(だが、あそこまで触手に侵蝕されてしまえば……)
「茅野は死なせないよ」
イトナの思考を渚が遮る。彼の表情を見た渚には、イトナの考えはお見通しだった。触手の侵蝕による茅野の生命の危機。それでも渚は諦めない。彼は茅野の殺意を忘れさせる方法を1つだけ持ち合わせていた。
場面はガッシュ達に戻る。触手に捕えられたガッシュはそのまま地面に叩き付けられた。その後も触手の猛攻は続く。上下左右、2本の触手はガッシュを逃がすまいと彼を狙い続ける。しかしガッシュに攻撃は当たらない。彼は実戦中にも成長を続け、触手を見切り始めている。
「ちょこまかと‼」
茅野は苛立ちを覚える。自分の攻撃が命中する気配が無い。ガッシュの成長は彼女を焦らせるのには十分だ。そして彼女はミスを犯す。茅野は2本の触手でガッシュを押し潰そうとするが、その攻撃は余りにも大振りで隙だらけだ。ガッシュはそれを見逃さない。そしてそれは、リングの外にいる清麿達も同じだ。
「ラウザルク‼」
清麿は肉体強化の術を唱える。これなら直接茅野を傷付けるリスクは無い。また突然呪文を唱える事で茅野を動揺させる狙いもある。ここでも触手の弱点を突いていく。そして強化されたガッシュは2本の触手を完全に受け止めた。ラウザルクの使用中なら、熱によるダメージもそれ程気にならない。
「くっ……この術があったか!」
茅野は勝利を急ぐあまり隙を作ってしまった。そしてガッシュに捕えられる。触手細胞は高い戦闘能力とスピードを得る事が出来るが、パワーはそれ程上がらなかったりする。だから力勝負になれば、強力な魔物相手に勝ち目は無い。そしてガッシュはダメ押しと言わんばかりに触手に自らのマントを絡める。
「カエデ、やっと捕まえたのだ‼」
「やだ‼放して‼」
「絶対に放さぬ‼」
茅野は体をジタバタさせるが、ガッシュから逃れる事は出来ない。そんな状況にイラつく茅野は叫び続ける。
「何で邪魔するの⁉お姉ちゃんの事、ガッシュ君には関係無いじゃん‼ほっといてよ‼」
「そんなの出来る訳なかろう‼私は……
ガッシュにとって、E組にとっては友達を見捨てる選択など有り得ない。だから例え茅野が復讐の道に走ったとしても、皆が彼女を見捨てる事はしない。そして茅野の後ろには殺せんせーが回り込み、先生の触手で彼女の体を捕える。
(殺せんせーまで……もう逃げられない!でも、これで……)
「不意を突く形になって申し訳ありません。ですが、私もまた君達を放す訳にはいかない!お姉さんに誓いましたから!」
ガッシュと殺せんせーによって茅野の動きは完全に封じられた。そして彼女の目の前には渚が着地する。彼は茅野の殺意を忘れさせる方法を思いついた様だが、どのように上から跳んで来たのか。茅野が周りを見渡すと、清麿と磯貝が隣り合っているのが視界に入った。
(磯貝君……そうか、体育祭の時のイトナ君と同じ事を渚に……)
彼女は渚が磯貝との連携で炎を跳び越えた事を察する。茅野は動かない。そして渚は彼女に接近する。猫だましが有効では無い今、彼に何が出来るか。他のE組一同も彼を見守る。
「言わせないよ茅野……全部演技だったなんて」
渚はそう言い放つと同時に茅野を抱きかかえ、何と唇と唇を重ねた。それを見た多くの生徒は驚愕する。岡島・不破は目が飛び出そうになり、清麿に至ってはさらに顎が外れかかっていた。
(E組での思い出が嘘だったなんて、復讐しか頭になかったなんて……絶対に言わせない)
渚はキスを続ける。その間に茅野の顔は赤くなり、彼女の頭の中は復讐どころでは無くなる。そして殺意が忘れ去られていく。ちなみにこの光景はカルマと中村によってスマホで撮影されていた。
「殺せんせー、どうだったかな?」
渚の15hitのキスを受けた茅野は気絶する。それと同時に彼女は横になり、触手も勢いを無くしてガッシュから解放された。
「満点です渚君‼」
「ヌゥ……渚……」
殺せんせーはピンセットを持ち出し、茅野の触手を抜く。より素早く、より正確に。生徒の命がかかっているのだから。そうして彼女の触手が完全に除去された。ちなみにガッシュには目の前の光景が理解出来ていない。渚の言動に対してどう反応すれば良いか分からない様子だ。
読んでいただき、ありがとうございました。原作で渚がキスで茅野を止める行為には、度肝を抜かれました。