ガッシュペアの暗殺教室   作:シキガミ

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 お久し振りです。何とか最新話を投稿する事が出来ました。よろしくお願いします。


LEVEL.80 バレンタインの時間

 清麿は結局、カルマと共に椚ヶ丘の外部試験を受ける事を決めた。結果は2人とも無事合格。E組全体でも受験結果が出始める時期だ。しかし結果が伴わない生徒達も、めげる事なく受験の後半戦に挑む。

 

 

 

 

 今日は2月13日。バレンタインデー前日の放課後。モチノキ町の公園でガッシュペアは1人の女子高生と対面している。彼女は2人に2つの小さな箱を差し出す。

 

「清麿君、ガッシュ君。バレンタインのチョコだよ。コルルのいる魔界を救ってくれたお礼、どこかでちゃんとしたいと思ってたんだ」

 

しおりが彼等に渡したのはチョコレート。彼女は心底コルルの身を案じていた。だからコルルを消滅の危機から助けてくれた2人には本当に感謝している。

 

「ウヌ!良いのか、しおりちゃん?」

 

「わざわざ済まない、本当にありがとう」

 

「本当は当日に渡したかったんだけどね。明日は親の仕事が休みで、学校が終わったら家族で出かける事になっててさ」

 

しおりはコルルと別れた後、家族との関係も修復されている。家族で過ごす時間も大幅に増えている。

 

「それに明日は、清麿君が本命のチョコをもらうかもしれないしさ」

 

「なっ……」

 

「フフ、なんてね」

 

彼女の言葉を聞いた清麿は顔を赤くする。清麿は恋愛絡みの話には弱いままだ。明日のバレンタイン。ガッシュペア含むE組ではどのような展開が繰り広げられるのか。

 

「じゃあね2人共!ガッシュ君、絶対に優しい王様になってね!」

 

「ウヌ!」

 

そう言ってしおりは帰って行った。ガッシュペアは最後の戦いに向けて気合を入れ直す。しかし明日のバレンタイン、E組で一波乱起こる事を彼等は知らない。

 

 

 

 

 翌日。ガッシュペアが登校すると、何故か教室で男子の前原が岡野にチョコを渡そうとしている。奇妙な光景の原因が気になった清麿は、近くにいた岡島に事情を問いただす。

 

「よー、お前等。実はよ……」

 

前原は前日、岡野とカラオケに行った。男女の恋愛ネタを気にする殺せんせーはそんな2人をつけ回す事を見抜いた前原は、自分達を囮にして他の生徒が先生を襲撃する計画を思いつく。しかし本気で彼にチョコを渡そうとしていた岡野はこの事を知り、激怒した。話はそれだけに収まらない。

 

「んで、岡野の機嫌を直した上でまたチョコをもらえねーと、殺せんせーが前原の内申書にチャラ男って書くんだと」

 

「何をやっているんだ、アイツは……」

 

清麿はため息をつく。真っ直ぐな性格をした岡野はこの手の策略が嫌いだ。まして自分の想いを、チョコを渡そうとした張本人に踏みにじられたのだから無理もない。仲直りは容易では無いだろう。

 

「ひなたと前原、ケンカしてしまったのかの……」

 

「100%前原が悪いけどな」

 

ガッシュが暗い顔を見せる。せっかく殺せんせー絡みでクラスが団結していたのに、このまま2人がこじれたまま卒業する展開は避けたい。多くの生徒達が同じ事を考えるが、岡野は一向に前原を許そうとしない。

 

「どうすれば良いんだろうね?」

 

「ひなた、頑固だからなぁ」

 

渚と片岡が会話に加わる。前原の言動は岡野の逆鱗に触れる一方だ。このままでは埒が明かないと渚達は清麿に相談を持ち掛ける。その時、前原もまた彼等の方に向かって来た。

 

「なあ高嶺、頼みがあるんだが」

 

【答えを出す者】(アンサートーカー)で岡野がチョコを渡してくれる為の答えを出してくれ、か?断る」

 

「何故分かった⁉」

 

前原の考えを見抜いた清麿は、その発言を遮る様に却下した。今回の件は前原自身でケジメを付けなければならない為だ。そんな彼の言動を見ていた岡野の怒りは増す。

 

「皆‼コイツの言う事聞いちゃダメだからね‼」

 

「ウヌゥ……」

 

彼女の剣幕に対して誰も言い返せない。それでも前原は必死に岡野に頭を下げに行くが、状況は好転しない。果たして彼はチョコを受け取れるのだろうか。

 

 

 

 

 前原は岡野からチョコをもらう事が出来た。彼女が自分の靴に仕込んでいた対先生ナイフを前原がチョコにすり替え、蹴りを喰らう事でそのチョコを顔面受けしたのだ。これにて一件落着。そして放課後、ガッシュペアは帰り道を歩く。

 

「清麿、2人が仲直り出来て良かったのう」

 

「あれを仲直りと呼べるかは疑問だがな」

 

結局前原は彼女を怒らせていた。しかしその光景こそが2人のピッタリな距離感なのかも知れない。岡野のストレスは溜まり続けるかもだが。今日はバレンタイン。多くの女性がチョコを男性に配る日だ。義理、本命等目的や渡し方も様々である。ちなみに矢田と倉橋はE組男子全員(岡島除く)にチョコを配っており、ガッシュは茅野からもチョコをもらっていた。

 

 

 

 

 ガッシュペアは昨日に続いてモチノキ町の公園に足を運ぶ。そして2人は再びチョコを受け取ろうとしていた。

 

「高嶺君、ガッシュ君。ゴメンね、学校も違うのに呼び出しちゃって」

 

相手は水野だ。彼女は少し顔を赤くしながら青い紙に包まれた箱を取り出す。中身はチョコレートであるが、清麿は彼女に問いただす。

 

「なあ水野、それはお前が作ったのか?」

 

「買った奴だよ。最初は作ろうと思ってたんだけど、マリ子ちゃんに止められて……」

 

「そうか」

 

水野は料理が上手ではない。それを危惧した清麿は失礼を承知で尋ねたが、仲村が制止してくれた様だ。隣のガッシュも胸を撫でおろす。

 

「えっとね……高嶺君、転校した後も私に勉強教え続けてくれたじゃない?そのお陰で、結構成績伸びたんだ。結局高嶺君と同じところには行けなかったけど」

 

清麿が椚ヶ丘に入った後も、彼は水野達の勉強を見続けて来た。その甲斐もあって水野の学力は急上昇し、進学時に椚ヶ丘の高等部も視野に入る程に成長した。しかし結果は及ばず、彼女は別の高校を受ける事となる。

 

「このチョコはそのお礼で……だからそう言うんじゃなくて」

 

水野は清麿に好意があるが、中々言い出せずにいる。思いを伝える事はそれ程大変なのだ。また彼女の場合、内心で恵を意識しているのもある。

 

「水野……サンキューな」

 

「スズメ、ありがとうなのだ!」

 

ガッシュペアがお礼を言うと彼女は嬉しそうな顔を見せる。

 

「それじゃあね!」

 

水野はそう言うとその場を去る。彼女は清麿に思いを伝えようとはしなかった。一方で清麿は悩んでいた。彼も水野の好意には気付いているが、それには答えられないだろう。

 

(水野、礼を言うべきは俺の方なのに)

 

清麿がクラスで孤立していた時期でも水野は変わらず接してくれた。彼はその事に非常に感謝している。

 

(だが……)

 

それが恋愛に繋がるかは別問題。清麿は別の女性に好意を持ち始めている。

 

「清麿、今日は忙しいのだ。次は恵と植物園だったかの」

 

「あ、ああ」

 

ガッシュがその女性の名前を出す。恵も清麿にチョコを渡そうとしている。清麿も察しが付いており、顔を赤くする。そしてガッシュペアは家に帰った後に出掛ける支度をする。彼等をつけている存在がいる事に気付かずに。

 

 

 

 

 植物園。ガッシュペアと恵は合流する。

 

「しかし恵さん、何で植物園なんだ?」

 

「ガッシュ君から聞いたの。清麿君が昔ここに何度も来てたって。だから私、一度は訪れてみたいと思ってたのよね」

 

ここはかつて、清麿が学校で孤立していた時に世話になった場所だ。彼の過去までは知らない恵だったが、植物園には興味を示していた。しかし清麿はどこか落ち着かない様子を見せる。

 

「あ、清麿とガッシュ。また来てたんだ」

 

「げ、つくし……」

 

つくしが彼等に話しかけた瞬間、清麿が嫌そうな顔をする。それを見た彼女は当然不快な気分になる。

 

「その嫌そうな顔は何?……そう、へぇ」

 

つくしはムッとしたような素振りをするが、恵を見た瞬間に表情は一変する。彼女は顔をニヤケさせながら清麿をからかい始めた。

 

「そっかー、清麿がねー。そういや今日バレンタインだもんねー」

 

つくしのいじりは止まらない。彼女は清麿の変化が嬉しい。かつて不登校児だった清麿が女性を連れてくるまでに至った。その喜びは、清麿が初めてガッシュと一緒に植物園に来た時以上だ。清麿は顔を赤くする。彼が植物園に行く事に乗り気じゃなかった理由はこれだ。

 

「やかましい!恵さんも困っているだろう!」

 

「ハハ、それもそうだね。ゴメン」

 

いじりをやめたつくしは恵の方を向く。そして困惑している彼女に対して自己紹介を始めた。

 

「あたしはここの管理人のつくし。清麿とガッシュは常連だから顔なじみなんだよね」

 

「そうだったんですね。よろしくお願いします」

 

「こちらこそよろしくお願いします。そうだ。ガッシュ、ちょっとおいで」

 

「ウヌ?」

 

2人が挨拶を終えると、つくしはガッシュと共に場所を移す。ガッシュがここで育てている植物を見る為ではあるが、清麿と恵を2人にさせる狙いもある。つくしが彼等を見てウインクすると、その意図を察した2人は顔を赤くする。そんな様子が彼等を付けている者達に見られているとも知らずに。

 

 つくしがガッシュを連れて行った後、2人の間にわずかな沈黙が流れる。少しした後、恵は自分のカバンから2つの箱を取り出す。1つは緑色の梱包で、もう1つはピンク色だ。

 

「ハイこれ、バレンタインのチョコね。2つとも清麿君の分だから」

 

「あれ、1つはガッシュのじゃないのか」

 

清麿は疑問に思う。てっきりガッシュペアで1個ずつだと思っていたが、どうやらそうでは無い様だ。恵は清麿にチョコを渡した後、さらに2つの箱を取り出した。

 

「ガッシュ君のはこっち。2個ずつチョコがあるのはティオの分」

 

「ティオの……そっか」

 

ティオの名前が出た瞬間、清麿は何かに納得したような素振りを見せた。

 

「ええ、あの子にお願いされてたのよね。もしも自分が魔界に帰った時、私に自分のチョコも含めて清麿君とガッシュ君に渡す様にって」

 

ティオは自分がチョコを渡せない可能性を危惧していた。魔物の戦いでは何が起こるか分からない。だから彼女は恵に対して、2人に渡すチョコを託していたのだ。

 

「去年の2月は千年前の魔物との戦いで忙しかったからね。今年はちゃんと渡せて良かった。ティオも一緒に居られるのがベストだったんだけどね」

 

恵は少し寂し気な顔を見せる。今年のバレンタインデーをパートナーと過ごせなかった事、共に想い人にチョコを渡せなかった事を残念がる。

 

「そうだな……恵さん、本当にありがとう!魔界のティオには、ガッシュにお礼を伝えてもらう事にするよ」

 

共に戦ってきた仲間からの、そして自分が好意を持つ女性からのバレンタインチョコ。清麿は心底嬉しい。彼は顔を赤くしながら笑みを浮かべる。

 

「清麿君、喜んでもらえて良かった。それじゃあ、色々回ってみよっか」

 

「そうだな……だがその前に……」

 

清麿は一瞬嫌な予感がした。そして彼は【答えを出す者】(アンサートーカー)を発動させる事で、ようやく自分達がつけられている事に気付く。彼は一度頭を抱えた後に、追跡者達がいる方を向いた。

 

「おいお前等、何してる?」

 

清麿が怒気を放つと追跡者達が姿を現す。カルマ・中村・茅野・渚だ。茅野が渚にチョコを渡せずにいる様子を見かねた2人が、クラスメイト達がチョコを渡す場面を観察する事を提案した。そしてガッシュペアを追跡しようと言う話になり、近くにいた渚も連れて今に至る。

 

「お前等、性懲りも無く……」

 

「前にもこんな事があったわね」

 

清麿と恵は呆れた表情をする。そんな2人見た渚は気不味そうな顔をした。

 

「僕までいきなり連れてこられた訳なんだけど……」

 

「ゴメン」

 

巻き込まれる形になった渚に茅野が謝罪する。カルマ達が外に出る時、茅野がいつでも渚にチョコを渡せる様に彼も連れてこられた。

 

「じゃあ、あとは若いもん達でごゆっくり」

 

「またね~」

 

「待たんかい」

 

その場を退散しようとした中村とカルマの肩を清麿が掴む。

 

 

 

 

 茅野は渚にチョコを渡す為に彼と2人きりになれる場所へ移動した。そして清麿と恵はカルマと中村に事情を問いただす。 

 

「……なるほど、面白がってつけていた訳じゃないのは信じよう」

 

2人の行動が茅野を思っての事だ(渚諸共いじり倒す狙いもあるが)。それに納得した清麿はひとまず彼等を許す事にした。

 

「でもここまでつけられてたなんて、全然気付かなかったな」

 

尾行されていた事に関して、恵は彼等を責める所かその隠密スキルに感心する。これも暗殺の訓練の賜物だ。すると彼女は中村に視線を向ける。

 

「えっと、そっちの子は……」

 

「あ、どうも。中村莉桜っす。うちの高嶺とガッシュが世話になってます」

 

「大海恵です。よろしくね、莉桜ちゃん」

 

(マジで下の名前で呼んでくれた!)

 

初対面の恵と中村は自己紹介を終える。

 

 

 

 

 その後、彼等は恵と中村、清麿とカルマに別れてしばらく会話を続けていた。恵と中村は初対面だが、女子同士気が合う様子だ。

 

「そう言えば莉桜ちゃんて、清麿君や渚君をからかう事が多いって聞いたわ」

 

「いや~、そうっすね。渚に関してはアイツをいじるのが心のオアシスなんで。高嶺は最初怖いイメージがあったけど、気付いたらいじってるのがしっくり来てたというか」

 

人をいじる事が多い中村だが、その頻度が高いのは渚と清麿だ。渚はともかく怒ると鬼になる清麿をうまい具合にいじれる中村を恵はすごいと感じた。

 

「でも正直わかんないんすよね。初めはいじるならガッシュの方だって思ってたから」

 

「ガッシュ君をからかうと、カエデちゃんが黙ってないんじゃない?」

 

「あ、それはありますね。多分咎めて来るのは茅野ちゃんだけじゃないだろうし」

 

中村は当初は清麿ではなくガッシュをからかおうと考えていた。しかしガッシュが予想以上に女生徒から人気を集め、反発される可能性があった為にガッシュの事はそれほどからかわなかった。

 

「莉桜ちゃんがそこまでからかうのって、やっぱり清麿君や渚君の人が良いからなのかな?」

 

「どうなんすかねぇ」

 

結局中村は、清麿いじりが楽しい理由が分からなかった。中村と清麿には頭が良い故に悩みを抱える事になった共通点がある。しかし中村は清麿の過去を知らない。それでも彼女は無意識に清麿の事情を感じ取り、からかうに至ったのかもしれない。

 

「まあ。今となっては高嶺、立派ないじられキャラっすよ。渚もだけど」

 

「ふふ、そうみたいね」

 

清麿をからかうのは中村だけでは無い。高いスペックを持ちながらも近寄りがたさを感じさせず、むしろ周りにからかわれるだけの人柄も清麿の魅力なのだろう。

 

 

 

 

 場面は清麿達に移る。彼等は場所を移動し、茅野が渚にチョコを渡す所を陰で見守っている。

 

「なあ、覗くのは野暮じゃないのか?」

 

「いやいや、茅野ちゃんが渚にチョコ渡せるかを見届けるのは義務だって」

 

カルマの目的は茅野にチョコを渡してもらう事だ。ならばその顛末を見届けるのが当然と言い放つ。そして茅野は顔を赤くしながらも、どうにか渚相手に会話を続ける。

 

「困ったな、ここからじゃ会話が聞こえない」

 

「それは諦めろよ。さて、茅野は無事にチョコを渡せればいいんだが」

 

2人は茅野を見守る。彼女はどうすれば良いかを考え続けるが、ついに決断を下す。そして渚にチョコを差し出した。彼女は悩んだ末、まっすぐ前を向く渚の邪魔をしない様に自らの演技の刃で、そして最高の笑顔で彼を応援する事に決めた。

 

「これで俺達はお役御免かな?」

 

「そうみたいだ。さあ、恵さんと中村に合流しよう」

 

清麿とカルマはその場を離れる。

 

 

 

 

 2人はE組のバレンタイン事情を話しながら恵達のいる場所へ向かう。そこで清麿は神崎が杉野に、速水が千葉に、狭間が寺坂グループ全員に、原が吉田に、片岡が磯貝にそれぞれチョコを渡していた事を知る。そして彼等が歩くその途中、さらに別のE組の生徒が2人の前に現れた。

 

「カルマ君、ここにいたんですね。良かった、無事に会えて」

 

「「奥田(さん)?」」

 

何と奥田まで植物園に来ていた。彼女は律にカルマの場所を聞いてここまで辿り着いた様だ。奥田は顔を赤くしている。それを見た清麿は何かを察した様に口を開く。

 

「奥田、俺は席を外すぞ」

 

「すみません、高嶺君」

 

奥田はカルマにチョコを渡そうとしている。本命か義理かは不明だが。それが分かった清麿は2人の邪魔をしない様に取り計らう。

 

「俺は誰かさんと違って覗く趣味は無いからな」

 

「言ってくれるね~、清麿」

 

「散々いじられて来たんだ。これくらいは言わせろよ」

 

珍しく嫌味を言う清麿は口角を上げる。この時だけ彼はカルマをからかう事が出来た。そして清麿はカルマと奥田を置いて再び歩き続ける。その後、奥田は無事にカルマにチョコを渡せた様だ。

 

 

 

 

 清麿は恵・中村と合流する。そして彼は茅野が渚にチョコを渡せた事を2人に話した。

 

「そっか。カエデちゃんと渚君、無事に結ばれてくれれば良いけど」

 

「いや~、ここまで来た甲斐があったってもんだ(恵さんと話してたら渡すシーン見逃しちゃったか……まあ、渚に関しちゃ横取りとか無理ってのは分かりきってたけどさ)」

 

恵が茅野の恋路を応援する一方で中村は呟く。彼女も渚に気があった様子だが、茅野の気持ちを考えた上で改めて身を引く決断を下した。

 

「中村、どうかしたか?」

 

「んにゃ、何でも。てかカルマは?」

 

少し寂し気な顔をする中村に対して清麿が問いただす。しかし中村はとぼけた物言いをして誤魔化した。

 

「奥田もここに来ててな、カルマと2人でいるぞ」

 

「マジ、そうなの⁉」

 

「そっか。愛美ちゃん……」

 

奥田の存在に中村は驚きを隠せない。一方で恵はフードコートでの恋バナを思い出す。奥田とカルマの関係。彼女にその気があるかどうか。それは本人達にしか分からない。E組の面々の異性関係をあらかた把握した中村は帰り支度を始める。

 

「奥田ちゃんがねぇ、大したもんだ。流石はバレンタインデー。さて、邪魔者は退散しますかね」

 

「莉桜ちゃん、また話しましょうね」

 

「じゃあな中村、また学校で」

 

「ハイよ」

 

2人と別れの挨拶を済ませた中村は植物園を出た。

 

 

 

 

 中村が帰った後、清麿と恵は再び植物を見て回り始める。相変わらず他の客はほとんどいない。その事実は、この空間に清麿と恵しか存在しないのではと2人に錯覚させる。

 

「E組内でも、結構チョコが飛び交っているみたいね」

 

「その様だな。カルマが言ってた」

 

2人はE組女子のチョコ配布の話をする。義理から本命まで数多くのチョコが男子達に渡された。ちなみに岡島はチョコを1つも渡されておらず、血の涙を流していた。彼等はしばらくE組の事を話し続けるが、それぞれの視線が合う。

 

「「清麿君(恵さん)」」

 

2人はお互いの名を同時に呼び合う。偶然タイミングが重なってしまった。

 

「えっと、清麿君」

 

「済まない恵さん、俺から言わせて欲しい」

 

「ど、どうぞ……」

 

普段は恵に気を遣う事が多い清麿だが、今回は譲れない。彼は決心した。恵に想いを伝える事を。E組の女生徒達の多くは勇気を持ってチョコを渡した。そして恵も。彼女達に影響された清麿は、真剣な眼差しで恵を見つめる。

 

「お……俺、恵さんの事が好きだ!」

 

告白。余計な言葉での飾りは不要。清麿はストレートにその思いを告げる。彼は顔を赤くして目を瞑る。緊張感も最大限に高まっている。そして清麿は恐る恐る目を開けて、再び恵の方を見る。すると彼女の目から涙が流れていた。

 

「……私も、清麿君の事が好きでした。想いを伝えてくれて、本当にありがとう」

 

「め……恵さん……」

 

2人の想いは通じた。こうして清麿と恵は晴れて付き合う事となる。清麿は喜びのあまり叫びたくなる気持ちを必死に抑えていた。すると突如恵が清麿に抱き着き、彼の唇に自分の唇を重ねた。

 

「⁉」

 

「これ、私の初めてだからね!」

 

清麿から離れた後、恵は自分の唇に人差し指をあてながらそう言う。しかし清麿は顔を赤くするばかりで、彼女の言葉が耳に入っていない。数々の修羅場を乗り越えて来た清麿だが、色恋沙汰に関してはしばらく恵に振り回される事になりそうだ。

 

 

 

 

 2人の告白が終わると、つくしに連れられたガッシュが彼等に合流する。ガッシュの手にはつくしからガッシュペアへのチョコ(義理)が握られていた。清麿と恵の変化にガッシュは気付かなかったが、つくしはすぐに察する。そして彼女が仕事に戻ると同時に清麿達は植物園を出た。




 読んでいただき、ありがとうございました。ようやく清麿と恵をくっつける事が出来ました。2人には幸せになってもらいたいです。

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