「清麿、今日は転校生が来るのだったな。楽しみなのだ!」
「ああ。ただ、嫌な予感がするんだよなぁ」
昨日の夕方、烏間先生から一斉送信メールが来た。メールの内容は“明日転校生がひとり加わる事”と“多少外見で驚くだろうが、あまり騒がず接して欲しい事”の2件である。
「外見で驚くってどういう事なんだ?俺等のような暗殺絡みか?」
「ウヌゥ。どのような事情があろうとも、同じクラスに来るのだから友達になりたいぞ」
「……そうだな」
ガッシュペアが教室に入ると、渚と杉野と岡島が愕然としていた。
「皆、おはようなのだ!」
「何だ、どうしたんだお前等?」
「ああ。おはよう、高嶺君とガッシュ君」
「お前等、あれ見てみろよ……」
「あれが転校生だってよ……」
岡島が教室の後ろの席を指差す。ガッシュペアが何事かと思うと、そこには画面の付いた黒い機械の箱が置いてある。そして画面には少女の顔が写った。
「おはようございます。今日から転校してきました“自律思考固定砲台”よろしくお願いします」
転校生とは人間では無く機械だったのだ。ガッシュは興味津々だが、清麿は言葉を失う。
「皆知っていると思うが、転校生を紹介する。ノルウェーから来た自律思考固定砲台さんだ」
「よろしくお願いします」
烏間先生は何とも言えない表情を浮かべる。それを見た生徒達は、内心で烏間先生の気苦労を察した。自律思考固定砲台はAIと顔を持ち、れっきとした生徒として登録されている様だ。
「……なるほど。先生が生徒に危害を加えられない契約を逆手に取って、なりふり構わず機械を生徒に仕立てたと。いいでしょう、自律思考固定砲台さん。あなたをE組に歓迎します!」
転校生の紹介が終わった後の休み時間、クラスは異様な雰囲気に包まれる。電撃を放つガッシュペアの転入の時も多くのクラスメイトが驚いたが、担任が超生物と言う事もあり、すぐに彼等と打ち解ける事が出来た。しかし、今回はそうはいかなそうだ。ガッシュは魔物とは言え見た目は普通の子供だが、今回の転校生は機械である。
「清麿、皆の様子がおかしいのう」
「いやガッシュ、お前はあれを見て何とも思わんのか?」
ガッシュ以外の生徒達は、自律思考固定砲台の存在感に飲まれかけていた。機械が転校生と言われても、どう接すればよいのかが分からない。それは、今まで数多くの一癖も二癖もある魔物やパートナーを見てきた清麿とて例外では無い。しかし、
「例え生き物でなくても、クラスの仲間ではないのか?本当に仲良くはなれぬのか?それなら、寂しすぎるではないか……」
「……ガッシュの言うことも一理あるか。あいつとの接し方は少し考えないといけないな」
ガッシュペアの会話を他の生徒達も聞き、クラスの雰囲気が変わろうとする。機械だとしても、クラスの一員なら暗殺のための協力は必須なのだから。そして授業開始のチャイムが鳴り、ガッシュは特訓のため裏山へ向かう。しかしガッシュのおかげで良い方向に変わろうとした雰囲気は、自律思考固定砲台のとんでもない暗殺方法によりさらに悪化する。
授業が始まり、しばらくは自律思考固定砲台に変化は無い。しかし突如作動したかと思えば、両脇から複数の銃口が出てきた。その銃口からは大量の弾幕が放たれが、全て殺せんせーは見切る。
「授業中の発砲は禁止ですよ」
「気を付けます。続けて攻撃に移ります」
殺せんせーの注意を聞こうともしない自律思考固定砲台は次の攻撃のための演算を行った後、射撃を続ける。
(さっきと同じ射撃、しょせんは機械ですねぇ。これもさっきと同じ。チョークで弾いて退路を確保……⁉)
全ての弾幕を見切ったつもりになっていた殺せんせーの触手を銃弾が撃ち抜いた。生徒達はおろか、殺せんせーもまた明らかに動揺する。
(……隠し弾‼全く同じ射撃の後に、見えないように1発だけ追加していた‼)
「右指先破壊、増設した副砲の効果を確認しました」
(暗殺対象の防御パターンを学習し、武装とプログラムに改良を繰り返し、少しずつ逃げ道を無くしていく‼)
「次の射撃で殺せる確率0.001%未満、次の次の射撃で殺せる確率0.003%未満、卒業までに殺せる確率……90%以上。よろしくお願いします、殺せんせー。続けて攻撃に移ります」
「……すごいわね」
「“彼女”が撃ってるのはBB弾だが、そのシステムはれっきとした最新の軍事機能だ。確かにこれならいずれは……」
「フン、そんなに上手くいくかしら。この教室がそんなに単純な
ビッチ先生も赴任当初は周りのことなど考えずに、殺せんせーの暗殺ばかりを重視した態度を取り、結果として失敗している。殺せんせーが規格外ということもあるが、ここでの暗殺においてクラスメイトとの連携は必須だ。それを彼女が理解していなかったが故に暗殺に失敗した。そして授業が終わり、教室には大量のBB弾が散乱する。
「掃除機能とかついてねーのかよ、固定砲台さんよぉ」
たまらずに村松が自律思考固定砲台に掃除するよう話しかけるが、返事は無い。
「チッ、シカトかよ」
「やめとけ。機械にからんでも仕方ねーよ」
機嫌を悪くする村松を、吉田がなだめる。今日の授業の時間はひたすら弾幕が撒き散らされ、授業どころでは無い。
そしてE組は何とも言えない雰囲気のまま昼休みに入った。
「お弁当の時間なのだ!皆、ご飯を食べようぞ……ウヌ?」
午前中の授業が終わり、ガッシュが昼ご飯を食べに教室に戻る。しかし彼は教室中に散らかるBB弾を見て、怪訝な顔をする。
「ガッシュ、弁当を食べるのは教室を掃除した後だ。悪いがお前も手伝ってくれ……」
「分かったのだ、清麿。しかしこれは一体、何があったというのか……」
「ああ、ガッシュ君。それはね……」
渚が事情を説明してくれたが、それを聞いたガッシュは悲し気な顔を見せる。このままではクラスメイトと仲良くなれない。彼は頭を抱える。
「……そんなことがあったのか」
「このBB弾、俺らが掃除しねーといけねーんだもんなぁ。やってらんねーぜ」
「ガッシュ君。今のままじゃ、あれと仲良くするのは無理そーだよ」
杉野とカルマも、自律思考固定砲台を見て眉をひそめる。否、クラスの大半が転校生に対して良い印象を持てなかった。そんな中、ガッシュは何かを考えている様子だ。そして、
「……皆。次の授業、私も見てて良いかの?」
ガッシュからは意外な発言が出てきた。
「いいでしょう、ガッシュ君」
「そうだな、ガッシュも直接見といたほうがいいかもな」
殺せんせーからも許可が降りる。こうして、午後の授業(として成立してるかわからないが)はガッシュも見学することになった。
しかし午後も変わらず、ひたすらに自律思考固定砲台が射撃を続ける。授業所では無い。
(せっかくの転校生なのだから友達になりたいところだが、あれではどう近付けばよいのかさっぱりわからぬのだ。考える必要があるな……)
その光景を見て、ガッシュはどうすれば良いのかわからないと言った表情をする。こうして自律思考固定砲台の転校初日は、非常に雰囲気が悪いまま終わってしまった。
次の日、自律思考固定砲台は何者かによってガムテープで拘束されていた。これでは自律思考固定砲台と言えども、銃を展開できない。
「殺せんせー、この拘束はあなたの仕業ですか?明らかに生徒に対する加害であり、それは契約で禁じられているはずですが」
「違げーよ、俺だよ」
自律思考固定砲台は冷たい視線を殺せんせーに向けるが、その発言はガムテープを持った寺坂に反論される。
「どー考えたって邪魔だろーが。常識ぐらい身につけてから殺しに来いよ、ポンコツ」
「ま、わかんないよ。機械に常識はさ」
「授業終わったらちゃんと解いてあげるから」
「……そりゃこうなるわ。昨日みたいのずっとされてちゃ授業になんないもん」
普段から横暴な一面のある寺坂だったが、今回の言動に関しては反対するものは誰もいない。考えてることは皆同じだ。毎日あの弾幕にさらされた挙句、掃除まで自分達で行わなくてはならないのだ。やってられない。
「こればっかりは仕方ないことだが……どうしたガッシュ、浮かない顔してるな?」
「ウヌ、本当にこれで良いかがわからぬのだ」
ガッシュだけは、拘束された自律思考固定砲台に対して同情の目を向ける。彼はあくまで仲良くする方法を探りたい様子だ。
「何だよ、俺が間違ってるってのか?」
「いや、そういうわけではないのだが……」
ガッシュの煮え切らない言動に寺坂が不満げな顔をする。
(私にはこれが一番良い方法とは思えぬ。しかし、ガムテープを外したらまた大変なことになってしまう。あの者の射撃で、誰かが怪我をすることだって考えられる。どうすれば良いのか……)
この日、ガッシュは放課後まで自律思考固定砲台の事を考えていた。お互いが寄り添える関係になる為にはどうすれば良いか。そしてガッシュは1つの決断を下す。
今日の授業は終わり、生徒達は帰宅の準備を始める。そんな中、
「おーい、高嶺君とガッシュ君!」
「今日は宿題多くないし、帰りバッティングセンター寄ってかね?」
渚と杉野はガッシュペアを遊びに誘う。普段の彼等なら喜んで誘いに乗るところであったが、今回はそうはならなかった。
「悪い、渚、杉野。ガッシュがどうしても
「済まぬのだ、2人とも」
ガッシュペアは自律思考固定砲台と話をするために、渚達の誘いを断った。ガッシュの決断、それは転校生と腹を割って直接会話をする事である。それを聞いた渚と杉野は、特に残念がる事も無かった。
「分かったよ。また誘うね」
「お前等も物好きだな。じゃあ、また明日な!」
「ウヌ!」
「ああ、また今度な!」
渚と杉野が外に出た後ら教室には自律思考固定砲台とガッシュペアだけが残っていた。これでゆっくり会話する事が出来る。
「お主、私と話してはくれぬかの?」
ガッシュが口を開くと、自律思考固定砲台が起動した。
「何でしょうか?あなた達と話すことなど無いのですが……」
(随分無愛想だな……本当に話し合えるのか?)
ガッシュに対する素っ気ない態度に清麿が不安を感じる。会話の幸先はよろしく無い。
「お主、まずは私と友達になってくれぬかの?」
「は?」
ガッシュの単刀直入な言葉に、自律思考固定砲台は困惑の表情を浮かべる。
「そもそも、あなたは座学の授業を一切受けてないですよね?一体何者なんですか?」
「私はガッシュ・ベルなのだ!」
「いやガッシュ、そういう事ではなくてだな……そうか、こいつにはそこから話さないといけないんだったな。ガッシュ、お前のことを話していいか?」
「構わぬのだ」
清麿はガッシュが魔物であることや、それに関係することを説明した。
「……という訳なんだが、E組の連中には話してある。ただし、それ以外の奴等には黙っててほしい」
「……わかりました。黙っておきます。あなた達も殺せんせーの暗殺のためにE組に来たのですね。ならば、なぜもっと積極的に攻撃を仕掛けないのですか?」
自律思考固定砲台はガッシュペアの事情にはそれ程関心を示さなかった。あくまで殺せんせー暗殺が第一にプログラムされている。
「俺達の力は、他の奴等を巻き添えにしかねない。だから、先生の暗殺には慎重になる必要があるんだよ」
「わかりかねます。そんな気遣いよりも、暗殺の方が大事だというのに……」
「私達は、皆で協力して暗殺を行いたいのだ!」
ガッシュペアの主張を自律思考固定砲台は理解出来ない。クラスで協力して暗殺を成功させようとしているガッシュペア、自らの能力だけで暗殺を成功させようとしている自律思考固定砲台の考えは相反していた。
「協力する事。それは、暗殺においても必要なことなのでしょうか?」
「当然だ。みんなで力を合わせれば、先生をより確実に追い詰めることが出来る」
「ウヌ、そのためにまずは私や清麿と友達になってほしいのだ!」
暗殺という共通の目的のために力を合わせる。自律思考固定砲台がE組の力になれば、殺せんせーの暗殺の成功率も格段に上がるだろう。しかしガッシュはそこまで考えているというよりも、単に仲良くなりたい気持ちの方が強い様だ。孤独はとても辛いことなのだから。ガッシュペアにはそれが良く分かる。ガッシュは育ての親から虐待され、清麿は自分の頭の良さ故にクラスから孤立した結果、家に引きこもってしまった時期があったのだから。
「私も清麿も独りぼっちだった時期があったのだ。それはとても辛いことだからの、お主にはその気持ちを味わってほしくないのだ」
「(確かに、もうあの頃に戻るのは嫌だ。俺もガッシュと水野がいなければどうなっていたか……)そうだな。お前、ガッシュの言う事をよく考えてはくれないか?」
「どうして、私の事をここまで気に掛けるのですか?」
自律思考固定砲台は、自分の事をガッシュペアがここまで構ってくれる理由が理解出来ない。しかし2人の言う事には耳を傾け始めており、確実にコミュニケーションを取る事が可能になっている。
「ウヌ、それは同じE組の仲間だからなのだ。それに友達が出来れば、毎日が楽しくなるのだ。今日みたいにガムテープで縛られることもなくなる。どうかの?」
「……考えておきます」
「頼むのだ!」
「(あれ、意外に素直だな……)良かった」
ガッシュの提案を突っぱねてくるかもしれないと予想してた清麿だったが、そうはならなかった。
「しかし、友達になるのにはどうすれば……」
「君達、まだ残ってたんですねぇ」
自律思考固定砲台が友達になる方法を考えていると、突如として殺せんせーが現れた。
「おおっ、殺せんせー!」
「相変わらずの超スピードだな……」
「いやあ、“彼女”の手入れのための準備をしてましてねぇ。しかし、君達の方からアプローチしてくれているとは、感心感心。ヌルフフフ」
殺せんせーは顔に縞々模様を浮かべる。ガッシュペアが自律思考固定砲台と友達になろうとしている様子を見て、余程嬉しかったのだろう。
「さて2人とも、ここからは私に任せてもらえませんかねぇ。悪いようにはしませんので……」
殺せんせーは触手をうねらせながらそう言った。明らかに何か企んでいるようだったが、嫌な予感はしなかった。
「先生だけで大丈夫そうか?」
「ええ、問題ありません」
「ウヌ、では頼むのだ!」
殺せんせーならどうにかしてくれる。ガッシュペアはそう確信した。そして自律思考固定砲台の事は殺せんせーに任せて2人は帰ることにした。
読んでいただき、ありがとうございました。機械の転校生の登場は、ガッシュペアをもってしても予想外の事でしたね。