オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第102話 花火と収容計画

 

 

 皆さんこんにちは、第一回選挙の結果9位にランクインしたゴン・フリークスです。12歳に組織の長をやらせようとするとか正気ですかね?

 

 

 

 

 

「息子に負けたザコとかまるでダメなおっさんのマダオとか言ってる奴屋上に出ろ、久しぶりにキレちまったよ」

 

 大講堂に集まった600名以上のプロハンター達が見つめる壇上に、第一回選挙上位16名が座っている。

 下位の者から所信表明演説を行うことになった彼等のトップバッター、最下位16位のジンが中指を立ててハンター達を挑発していた。

 

「黙れマダオー!」

 

「負けたのは事実だろうが見苦しいぞ!」

 

「ダブルハンターの面汚し!」

 

「ちくわ大明神!!」

 

「誰だ今の!?」

 

「上等だ全員ボコボコにしてやる!!」

 

 売り言葉に買い言葉であわや暴動が起きかけるも、スペシャルゲストとして最後尾に陣取るネテロの一喝と早く終わらせたい十二支ん達によりジンが椅子に括り付けられて進行していく。

 

 そして誰もが注目する同率9位の大物ルーキー、机の上に置かれたミニチュアの玉座に座るマスコットキャラゴンの順番がやってきた。

 

「えー、親父…ジンがご迷惑をおかけしてます。287期のゴン・フリークスです」

 

 ピヨンが悪ノリで用意したミニチュア玉座から立ち上がったゴンは対して変わらない大きさのマイクを抱えて一礼し、その可愛らしい見た目から女性ハンターや変態ピエロから黄色い声援が飛ぶ。

 ゴンは講堂が静かになるまで少しばかり待つと改めて一礼し、言葉を選びながらも正直に語り始めた。

 

「まずはオレに投票してくれた人にお礼を言います。けどすいません、正直な所会長はあんまりしたくないです。まだまだ自由に過ごしたいし、何より子供に務まることじゃないと思う」

 

 ゴンの言葉にそれはそうと納得してうなずくハンターが多い中、関わりの深い者達ほどそんなことはないと心の中で否定する。

 何故か基礎知識が少ないながらも凄まじく念への造詣が深く、他人の言うことをよく聞く素直さを持ちながら確固たる自分の意志は貫き、何より見た者に希望と羨望あるいは絶望を与える圧倒的強さを誇る。

 

 ビスケを筆頭にネテロの後釜ではなくネテロ以上の逸材として投票され、会長職に押し込んで少し大人しくさせたいという願いから実現した9位だった。

 

「質疑応答は最後らしいからもう特に言うことはないです。皆さん次の選挙はよく考えて投票してください」

 

 会長になりたくないと言いながら不快感のない演説に大きな拍手や口笛が響き、ついでに猿ぐつわをされているのをいいことにジンが盛大に煽られる。

 再びネテロの一喝が入った後はスムーズに進行していき、一位だったパリストンが聞くだけでわかる綺麗事を並べたのを最後に質疑応答へと移った。

 真面目な者の質問や予め用意されていた政策関係の考えをそれぞれが答え、なかなかに長くなった質疑応答もついに終わりが見えた所で満を持してゴンが手を挙げた。

 

「もう終わりみたいだから最後に個人的な用件を言います。親父…、しっくりこないからジン・フリークス。会いに来たから殴らせろ」

 

『ウオォォ!!』

 

「やれやれやっちまえ!」

 

「その気に入らないマダオをぶん殴れ!」

 

「さよならジンさん、どうか死なないで」

 

 ゴンからジンへの鉄拳制裁宣言に湧き立つハンター達に反応せず、厳重な拘束を器用に自力で解いたジンがマイクを取る。

 

「やなこった。見つけられたわけでもなし、自分の力じゃないくせに殴らせろはねえだろ。そもそもオレが殴られる理由は何だよ」

 

「ミトさんやばあちゃんに迷惑をかけたこと、オレをほっぽってたこと、後はグリードアイランドのGMの人達からも頼まれてる。何よりカセットの録音、あれがオレを怒らせた」

 

 殴られることを拒否するジンに盛大にヤジが飛び、ゴンは机の上を歩いてジンの目の前まで移動する。

 机に立っていても見上げるゴンは珍しくいやらしい笑みを浮かべ、眉をひそめたジンの顔に指を突きつけて声を上げた。

 

「能力の反動で弱体化してるオレが怖いの? オレの実力知ってるからビビってるんだ?」

 

「…あぁ?」

 

「皆の前で無様な姿を晒したくないんだね、わかった。今回は見逃してあげる」

 

「あんだと?」

 

 ヤジと囃し立てる声を意に介さず、ゴンとジンの2人は一触即発の空気を醸し出していく。

 

「おいおい、小さいくせに自尊心ばっかデカくなってんのか。無様な姿はお前が晒すんじゃねえかって親切心を踏みにじられるなんてな」

 

「うわーやさしいね。それが殴られたくないから出た親切心じゃなければ少しは見直したのに」

 

「何だよ随分突っかかるじゃねえか、今殴りたい理由でもあるのか? あぁそうか、オレを見つける自信がねぇのか」

 

 生粋のハンタージンの観察眼はゴンを大したハンターではないと判断し、フリークスの血を継ぎながらこの体たらくかと内心失望した。

 

「わざわざ探すつもりなんてないよ。そこまで暇じゃないし興味もない」

 

 ゴンの本質、修羅を見誤った故に裏目を引いた。

 

「どうせなら弱体化中だから殴りたいんだ。だって次に偶然会っちゃった時に殴ったら、ジンを殺しちゃうじゃんか」

 

 ゴンの目はそのことを一切疑っておらず、しかもその時が来たら躊躇しないという覚悟に満ちていた。

 何のことはなく告げられた重い言葉に講堂内がつかの間の静寂に包まれ、ゴンの覚悟を見たジンが帽子に包まれた頭を掻いてため息をつく。

 

「ちっ、わーったよ、そこまで言うなら今殴られてやる。もう一回とかそういうのはなしだからな」

 

 ついに観念したジンの言葉にハンター達がどこぞの外国人化し、再度講堂で歓声が爆発した。

 

「流石に屈んでなんてやらねえぞ、顔殴りたきゃ自分で届かせな」

 

「もちろん!」

 

 ジンは机から飛び降りたゴンの前に仁王立ち、気炎を上げる小さな身体からふと目を逸らすと不思議なものがいくつか映った。

 酷く憐れむ目で自分を見つめるチードル、信じていないはずの神に十字を切って祈るカイト、他にも何人かよく知らないハンターからも同じ視線を送られており、何より最後尾でニヤけるネテロの表情が気になった。

 

 死ぬんじゃねぇぞ小僧 ――

 

 そう動いた口に視線で疑問を送ろうとした瞬間、ジンの足元からバカみたいなオーラが噴出した。

 

(はぁ!?)

 

 突然立ち昇った人外のオーラに講堂内は強制的に静まり返り、ゴンを知る者達は惨劇から目を逸らすように瞑目する。

 

「最初は、グー…」

 

 一般ハンター数人分はあろうかというオーラが右手に集まり、そのまま圧縮されてさらなる暴力を纏っていく。

 

(おいバカお前そこまでとは流石に聞いてねえぞ!?)

 

 もちろんジンもゴンについてはちゃんと調べていたが、その結果は“とてつもなく強くなっている”としかわかっていなかった。

 ゴンの強さを直接見た者ですらちゃんと説明できないためそれは不十分な調査であり、百聞は一見に如かずの諺通り自分の目で見なければ実感することはできない領域に到達しているため見誤った。

 

「ジャン、ケン…!」

 

(避ける!? バカ野郎んなダサい真似できるかよ!)

 

 本能から動こうとする身体を意地と根性で抑え込んだジンは全力でオーラを励起してゴンが見つめる先、己の顎にありったけの硬を施して歯を噛み締める。

 

「グーッ!!」

 

 小さなミサイルが発射され、ジンの下顎に小気味いい音を立てて着弾した。

 オーラのせめぎあいによる刹那の均衡、しかし構わず振り抜かれたゴンの拳により勢いよく花火(ジン)が打ち上がる。

 

 重力の楔から解き放たれたジンは減速することなく天井へと突き刺さり、それでもなお止まることなくそのまま穴の中へと消えていった。

 

((……えぇ〜〜))

 

「死んだんじゃないのぉ〜」

 

 ジンが殴られることにテンションを上げていたハンター達の顔は青褪め、見えなくなってしまったその末路を見るかのように天井の穴を見上げる。

 

「ふ〜っ、スッキリした!!」

 

「いややりすぎだろ!? マジで死んでねえよな!?」

 

 満面の笑みで飛んだ飛んだと喜ぶゴンにツッコミを入れたレオリオが天井に飛び上がり、ジンの安否を確かめるべく穴の中へと侵入していく。

 

「あれ、足見えねえな? 随分深く埋まってんなって上の階の天井に刺さってんじゃねえか!? え、うそ生きてる!?」

 

 穴から響くレオリオの声で伝わるジンの惨状に誰もが身体を震わせ、講堂内には腹を抱えたネテロの笑い声だけが響き渡る。

 

「じゃあこの後は二回目の投票だよね? 皆、早く終わらせてご飯食べに行こうよ」

 

「この空気でよくそこまで普段通りにできるな、しかもレオリオは置いていくのかよ」

 

 ゴンはさっさとヒソカの肩に乗るとキルア達を連れて講堂を出ていき、残された面々は天井から響くジンに呼びかけるレオリオの声を聞きながら唖然とし続ける。

 あまりの暴力にジンと同レベルでしかゴンを見ていなかったパリストンもアレはないと盛大に顔をしかめ、しばらくしてやっと進行役だった十二支ん巳のゲルが再起動して投票を促す。

 

 レオリオの応急処置を受け救急車で運ばれたジンの欠席以外は特に問題も起きず、第二回選挙はゴンへの物議をかもしながらもどうにか終了した。

 

 

 

 

 

 第二回投票が終わったハンター協会ロビーにある喫茶店。

 多くいる事務員も利用することからそこそこ広い店内の一角に、ダブルハンターのビスケを筆頭に何人かのベテランハンター達が集合していた。

 年代も専門も統一感のない彼等の共通点、それは第一回投票においてゴンを指名したということだった。

 

「さて、だいたい集まったし始めるわさ。脳筋を会長の椅子に座らせるための対策会議をね」

 

 進行を務めるのは実績年齢共にトップのビスケット・クルーガー、サポート及び書記係としてホワイトボードの横にノヴが佇んでいる。

 

「話し合いはいいがこんなハンター協会内でやっていいのか? どこにパリストンの目があるかわからんだろ」

 

「そんなもん外に行っても変わらんわさ。ここほど設備が充実しててやりやすい場所もないんだし気にすんじゃないわよ」

 

 モラウの懸念を一笑に付したビスケはそのままノヴに紙を渡し、その内容をホワイトボードに書き出させる。

 

「ついさっきビーンズから教えてもらった二回目の結果よ。もうサイトにも載ってるだろうから不正じゃないわよ」

 

 第一位 パリストン・ヒル 249票

 

 第二位 ゴン・フリークス 92票

 

 その後三位にチードルと続いていき、ゴンは得票数以上にその増加率が異彩を放っている。

 パリストンの増減無しはまだいいほうで他の候補者が軒並み得票数を減少させた中、一人だけ8倍以上という大量の新規票を集めたからだ。

 しかも本人も言っていたようにゴン最大の問題点が年齢でありそれ以外にさして問題点がないことを鑑みると、子供だからという理由で投票していない者もある程度多いと予測できる。

 

 ビスケを筆頭にこの場に集まったメンバーにとって、パリストンとゴンの差は決して絶望的大差というわけではなかった。

 

「とりあえず今回も俺に投票してくれた奴等には直接ゴンを推しといた。まぁ八位だったから次の演説の時に壇上でも言うがな」

 

 この場にいて唯一ランクインしたモラウも本来なら今回の演説でゴンを推薦したかったのだが、大して広まっていない幻影旅団共同討伐とまだ正式発表されていない情報の多いキメラアント決戦での功績ではさして効果なしと見送っていた。

 しかしゴンが図らずも最もわかりやすい(暴力)で存在感を示してくれたため、遠慮なくゴンの推薦に動くことを全員が決めた。

 

「しかしジンさんの弟子として複雑な気分だな、自業自得とはいえあんなことになって票が集まるとは」

 

 ゴンに打ち上げられて汚い花火になったジンは、レオリオの応急処置もあり顎の罅と重度のムチ打ちと診断され明日には退院できるとのことだった。

 レオリオがいなければ顎の粉砕骨折に頚椎損傷脳挫傷とわりと深刻だったのだが、そこも踏まえたゴンの一撃は確かに世界最高峰のジンに届いた。

 

 ゴンが大幅弱体化中でなければ、ジンがネテロも認めた世界で五指に入る実力でなければ、事態はさらにグロテスクなことになっていたのは間違いないが。

 

「まぁカイトの言う通り自業自得だし、いいアピールになったわけだからジンのことはいいわさ。問題はどうやって他の十二支んに分散してる票を集めるかよ」

 

「そうですね、今はまだ数人で分け合っていますが、おそらく最終的にはチードル氏に集まるでしょう。彼女を攻略できればほぼ勝ったようなものなのですが」

 

 ノヴの言うように過半数の票を得るための最大の障害は十二支ん、特に会長職に最もらしい性分のチードル・ヨークシャーがあげられる。

 その愛くるしい見た目はもちろん実績も三ツ星(トリプル)ハンターと申し分なく、固定票が約37%で過半数を超えられないパリストンより厄介とすら言えた。

 

「あのー、すいません。そもそもの疑問なんすけどゴンが会長になってもネテロ会長に戻らないすか? 何か十二支んのほぼ全員が公約にネテロ会長復職を明言してましたけど」

 

 ナックルの疑問は演説の中一部例外(ジン)を除き候補者で共通していた公約、まだまだカリスマ溢れるアイザック・ネテロの復権についてだった。

 ゴンはそのことに関して何も発言してないが、ネテロのことを尊敬して慕っているのは誰の目から見ても明らかな点から十分に結末として考えられる。

 ただ年の功と師匠としてそこそこ長く接してきたビスケからすると、ナックル含めメンバーの多くが懸念する事態はまず起こらないと見ていた。

 

「あの子は普段から好き勝手してるくせに責任とか義務とかにはしっかりしてるわさ。もし当選したら自分なりのベストを尽くすでしょうね、だからこそ少しでも大人しくさせるために縛り付けるのよ」

 

 若干申し訳無さそうに、しかし絶対に成し遂げるという決意を滲ませるビスケ。

 それを受け他のメンバーも改めて決意し直し、代表してモラウがその場を締めるべく口を開く。

 

「大人としては子供に重役を押し付けるのはどうかと思うが、ゴンを野放しにできないってのは同感だ。最終目標はパリストンもチードルも破ってゴンの会長就任、気合い入れてこうぜ」

 

『了解』

 

 こうして大人達の悪巧みが本格的に始動し、筋肉の与り知らぬ所で事態は進んでいく。

 

 子と亥が完全に見誤り、元観音の思っていた通りに進む会長選挙。

 

 最後に笑うのはいったい誰か、少なくとも既に被害者が一名。

 

 

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