オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第103話 押し付け合いと脅迫

 

 

 皆さんこんにちは、ハンター協会会長の座に2番目に近いゴン・フリークスです。原作レオリオのこともあり予測しなかったわけじゃないですが、いよいよ覚悟を決めなければいけないか。

 

 

 

 

 

 第二回投票結果を受けて開催された、上位8名の候補者による所信表明演説。

 その前に今回落選してしまった8名はコメントを求められたが、最後の一人がマイクを持った段階で大きな拍手が巻き起こる。

 

 下顎を中心に頭も含め包帯でぐるぐる巻きにされ、大袈裟なほどしっかりした頚椎カラーを装着したジンが眉をひそめて一歩前に出た。

 

『喋れねぇのにマイク渡すとか嫌がらせか? こちとら昨日から何も食ってねえしこれからしばらく流動食で憂鬱なんだよ』

 

 引っ込み思案で筆談をしたサンビカ・ノートンと違い、顎が死んでいるジンはオーラを変化させて文章を作りコメントしている。

 

「よく避けなかったなマダオ! そこだけは見直したぞ!」

 

「痛みに耐えてよく頑張った、感動した!」

 

『うっせぇうっせぇ、お前等居酒屋で盛り上がってたの知ってんだぞこのヤロウ』

 

 前回はブーイングやヤジが大半だったにも関わらず、今回はゴンの一撃を避けずに受けたことで割と好意的な意見が多い。

 それもこれも見るからに重傷だが茶化せるレベルにまで治療したレオリオのおかげだが、普通に完治させようと思えば完治させることも可能だった。

 父親になったレオリオ的にジンの育児放棄を許せなかったことで、命に別状がなくゴンが気に病まない所まではと治療した結果が今の状態だった。

 

『まぁこうなったのはオレのせいでもあるからそこはいい。ただチードルとサンビカはまだしも知り合い全員に治療拒否されたのは許さねぇ!』

 

「自分のせいってわかってんなら甘んじて受け入れろ!」

 

「サンビカさん! 貴方への恋の病を治療してください!!」

 

『え、気持ち悪い。嫌です』

 

「恋をしてていいってことですか!? 罵倒ありがとうございます!!」

 

『え、無敵?』

 

 何故かサンビカやチードルに飛び火しながらも落選者達は壇上を降り、残る候補者が改めて演説を行う準備が進んでいく。

 

 第二回所信表明演説、ほとんどが会長を目指してアピールしていた第一回と打って変わり“誰を”押し上げるかの戦いとなっていた。

 

(…なんとなくこうなるんじゃないかと思ってはいたけど、私以外で打ち合わせでもしたんじゃないでしょうね?)

 

 第4位にランクインしたハッカーハンターのイックションペが画面越しに改めて棄権を申し出る中、チードルは己の立ち位置を決めかねていた。

 第8位のモラウが自分のかわりにゴンを推薦したのを皮切りに、ランクインしていた十二支ん全員が示し合わせたようにチードルのことを推薦したのだ。

 仮に十二支ん全ての票がチードルに集まった場合100票の大台を突破し、2位のゴンを上回る可能性が出てくる。

 

(けど本当にそれでいいの? 私とゴン君で票を取り合って、それでパリストンに勝てるのかしら?)

 

 第一回と票数に変化なしだったパリストンは、それだけの固定票があるということでありスタート地点からして先を行っている。

 パリストンがいくら嫌われ者とはいえ、早く選挙を終わらせたい者やどうせネテロが復帰するなら誰でもいいと考える者が出てきても何ら不思議ではない。

 

(ネテロ会長を復帰させるという手札がある以上、長引けば長引くほどパリストンの有利。それに何より、今の十二支んを見てあの人はどう思っているの?)

 

 イックションペの演説が終了し、回ってきたマイクを持ったチードルは講堂の一番奥、変わらずそこに陣取るネテロを見やった。

 最近の昔を取り戻したような若返りではなく実際に若くなったその姿は瑞々しい覇気に満ち溢れており、面白そうに壇上を見つめるその目はまるでチードルを試しているかのようだった。

 

 これまでのハンター協会、これからのハンター協会、そしてアイザック・ネテロが本当に望んでいること、多くのことを考えすぎたチードルの頭の中で張り詰めていた糸が切れ、本能の赴くままにその口を開いた。

 

「やっぱり私は会長に向いてないわ、他の十二支んが勝手にしたように私も勝手にする。…私チードル・ヨークシャーはゴン・フリークスを推薦させてもらうわ」

 

 まさかの発言に大きなざわめきが広がり、驚愕する十二支んも無視してチードルは続ける。

 

「今までのハンター協会は、アイザック・ネテロという強さとカリスマに甘えていた。強者を自負する私達ハンターがそれでいいの? 会長が頼りないなら、自分が支えるくらいの気概が必要なんじゃないのかしら」

 

 チードルはちらりと隣、とあるピエロにデコられて派手になったミニチュア玉座に座るゴンを見る。

 少し嫌そうにチードルを見上げるその小さな身体にはこの場の誰よりも筋肉とオーラが詰まっていて、事務仕事は分からないがこと強さに関してはネテロを超えたとネテロ本人から聞いていた。

 

「ゴン君は強さを示した。私はこの子の及ばない所に手を貸すのもやぶさかじゃない。アイザック・ネテロに放り投げるつもりの私達頼りない大人より、そのつもりがないゴン君の方がきっと良いハンター協会になるわ」

 

 考えることを止めたチードルは講堂を見渡し、巣立つ雛を見るように嬉しそうなネテロを確認して決意を固めた。

 

「ハンター協会は新しくなるべきよ。暗黒大陸という脅威に対抗すべく、私達全員が更に強くならなくてはならない。ゴン・フリークスならハンター協会を今よりもっと強くできる!」

 

 持ち上げられてむず痒そうにするゴンと表情の抜け落ちたパリストンを横目に、元々トップより参謀としての手腕のほうが高いチードルは意気揚々と締めくくる。

 

「これからのハンター協会のために恥もプライドも捨てなさい! ゴン・フリークスに清き一票を!!」

 

 憧れるだけだった自分を捨てたチードルのオーラは、今までにない輝きと強さでもって美しく彼女を彩った。

 

 

 

 ゴンはモラウとチードルに散々持ち上げられた手前二人の気持ちを無下にすることもできず、やりたくないというスタンスは変えないながらもしっかりと自分の考えを述べていた。

 チードルの熱弁により他のハンター達も茶化すことなくしっかりと耳を傾ける中、パリストンは普段の笑みすら消えた顔で深く思考の海に潜っていた。

 

(まさかこの段階でチードルさんが諦めるとは、強さもそうですが思っていた以上に人望もあるんですね)

 

 自分の敵はジン、あるいはそのジンが何らかの手段で押し上げる人物だと考えていたパリストンの予想は盛大に空振り、いつの間にか自分のすぐ横で筋肉がウォームアップを始めていた。

 

(しくじりました、呑気にジンさんを笑っている場合ではなかった)

 

 パリストンは録画していたジンの無様な姿を肴に愉しんでいたのは現実逃避だったと今更ながら気付いたが、選挙はまだまだ長くなると判断して大した手を打っていなかったことが裏目に出た。

 

(このまま便乗してゴン・フリークスを当選させる? …それはないですね、それだけは我慢なりません)

 

 ジンがパリストンを大きく評価していることの一つ、望む形に収まるなら勝ち負けに一切拘らない強かさ。

 しかしパリストンが求める終着点はアイザック・ネテロの復帰であり、今まさに当選してもネテロを復帰させるつもりはないと断言したゴンとは相容れなかった。

 

(今回は何とか子供に任せるべきではないと主張し、最悪でも過半数は超えないように動く。ここを凌げばいくらでも手を打て…)

 

「何考えてるのパリストンさん?」

 

 演説が終わりマイクを渡そうと歩いてきたゴンが、その黒い眼でパリストンのことを見上げていた。

 

「…少し考え事をしていました。どうやら非常に手強い相手が誕生したようなので」

 

 いつもの笑みを浮かべてマイクを受け取ろうとしたパリストンは、接着されたように動かないマイクとゴンに動きを止めた。

 

「何を考えてるかはわからないけど、手を出す範囲にはちゃんと気を配ってね」

 

「何もするなではなく範囲ですか? その言い方ですとつかれたくない弱みがあるように聞こえてしまいますよ」

 

 パリストンはゴンの性質をある程度看破し、これなら何とでもなると心の中で暗い笑みを浮かべた。

 たとえどれだけ強くとも弱点があれば打倒でき、直接戦闘ではなく策と罠を弄する者こそハンターである。

 

 性格破綻者だが腐ってもハンターなパリストンも、ジンと同じく生粋の修羅の本質を見誤った。

 

「そうだよ。オレには大事なモノがたくさんあるからね」

 

 ネテロですら修羅とハンター両方の側面があるにも関わらず、ゴンのハンター的資質など雀の涙ほどしかない。

 

「だからもしこれから先オレの大事なモノに何かあったら、とりあえずパリストンさんを襲うことにするよ。貴方が関係しているかどうかはどうでもいい、疑わしいから罰する」

 

 とんでもなく横暴な襲撃宣言に流石のパリストンも唖然とし、そっとその小さな手が触れてきた瞬間、パリストン・ヒルの脳内でクシャクシャに丸められた己の姿が鮮明に浮かんだ。

 

「もう一度言うよ、手を出す範囲を間違えないでね。オレまだ人殺しになる気はないんだ」

 

「……肝に銘じておきましょう」

 

 マイクを渡したゴンはニカッと笑って玉座に戻り、パリストンは何もなかったかのように演説を始める。

 

(本当にふざけていますね、何故フリークスはこうも苛立たせてくれるのか)

 

 パリストンに勝つつもりなど最初からなかった、しかし思い通りの結末に持っていく自信はあった。

 どんな手を使ったとしても、負けることになったとしても、最後に笑っているのは自分だと高を括っていた。

 

(もうゴン・フリークスの周囲に手出しができない、それどころか逆に守らなければいけない)

 

 ゴンの大事なモノが傷付いた時に下手人が誰であれ一番最初に処される身となってしまった今、パリストンは身の安全のため他人の安全に気を配らなくてはいけなくなった。

 

(なんとかしようにも、ゴン本人をどうにかできなければ手の打ちようがない!)

 

 あまりにも理不尽、あまりにも不平等、だがゴンにはそれが許され、その圧倒的強さがパリストンの暗躍を許さない。

 

(僕自身の命を賭けても周囲をいくらか害するのが精一杯、失うものと得るものがまるで釣り合っていない。屈辱です、僕が子供の思い通りに動くことを強制されるなんて!)

 

 それはどこまでも老獪なネテロとも、どこまでも神算鬼謀なジンともまるで違うもっと単純な暴力による強制力。

 

「皆さん! 自分が正しいと思う本当に会長になって欲しい人へ投票しましょう!」

 

 パリストンは手駒達にこれからは好きにするよう指示すると、自分の敗北を腸が煮えくり返る思いで認めた。

 

(いいでしょう、君は会長になりなさい、それから第二ラウンドといこうじゃないですか)

 

 そんな苛立つパリストンに追い打ちをかけるように、ジンの申し訳ないような同情するような不快な視線が向けられた。

 

 

 

 

「残念じゃったの、ワシに拘りすぎたのがお前の敗因じゃ」

 

 投票が終わったハンター協会の廊下、歩いていたパリストンは後ろからネテロに話しかけられて振り返る。

 その顔はおもちゃを取られた子供のような表情を浮かべ、ニヤニヤと笑うネテロをうらめしそうに睨んでいた。

 

「ゴン・フリークスに合格を言い渡したのは貴方だそうですね? あんなハンターでもなんでもない存在にライセンスを発行しないでくださいよ」

 

「それについてはマジごめん。当時は流石にここまでとは思わんかった。まあ元々本人の気質はあんまり関係ないんじゃし、どっかしらで合格はしてたじゃろ」

 

 ネテロは遅かれ早かれだったと弁明しながらも、暴力を背景とした脅迫に強制を受けたパリストンに本気で謝罪した。

 

「しっかしゴンの奴ちゃんとお前のこと警戒しとったの。なんか手出しでもしたんか?」

 

「してませんね。見てたならわかったでしょうけど僕もジンさん同様過小評価してましたから。…アレはちゃんと評価しててもどうしようもないですがね」

 

「本当にのぅ、突き抜けた強さがあれば他は何も要らないを地でいっとるからの。暴力に手足を生やしたらああなるんじゃろ」

 

 つい最近まで頭脳戦に心理戦と玄人好みの攻防を繰り広げていた2人は同時にため息を吐き、これからやってくるであろうもっとシンプルなハンター協会に一抹の不安を覚えた。

 

「しかしよく耐えたの、ゴンの奴かなり本気で脅してきたじゃろ? 普通なら悲鳴を挙げての失禁ものじゃ」

 

「あぁ、顔に出にくいだけですよ」

 

 一部の者しか気付けなかっただろうゴンからの威圧を思い出し、パリストンは辟易した様子で派手なスーツの上着を脱ぐ。

 

 襟元から見えない部分は大量の冷汗で色が変わっており、靴を脱げば流れ落ちた汗で靴下までびしょびしょになっていた。

 

「貴方がいなくなってあんなのがトップに座るなら潮時ですかね。僕も本腰を入れてビヨンド氏に協力しようかなと」

 

「かっかっか、それも良いんじゃないか? ただそれを決めるのはもう少し待ったほうがよいと思うぞ」

 

「…へぇ、ここからまだ何かあるんですか?」

 

「さあのぅ? ただワシもそうじゃがお前やジンがもう終わりと思っとるのが怪しい」

 

 ハンター協会からの離反を匂わせたパリストンに笑いながら、ネテロはまだなにかあるというある種の確信を得ていた。

 それはゴンと長く殴り合って見えたモノ、調べただけのジンやパリストンには決して理解できぬモノ。

 

「あやつの思考回路の根っ子には、最終的に殴ればなんとかなるというアホな結論がある。そのくせして考えられない脳筋ではなく考えていないだけの脳筋じゃ、頭の中がどうなってるか予想がつかんわい」

 

「……僕としては愉しいことになれば別にいいんですけどね。期待しないで待ってみますよ」

 

 圧倒的暴力により二人目の被害者が発生し、運命の第3回投票結果が発表される。

 

 多くの者にとって想定外の流れ、しかし一部の者にとっては予定通りの展開を迎えようとしている。

 

 最後に泣く者はいったい誰か、それを決める筋肉はビーンズと悪巧みを開始した。

 

 

 

 

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