オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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小話2 その後の天空闘技場・後編

 

 

 リング上で向き合うギドとサブに歓声が降り注ぎ、いつもの審判によるルール説明が終わるとバラとズシの試合で上がったボルテージがさらなる高まりを見せる。

 その細目でギドを注視するサブは仮面で見えない表情を見極めようと目を凝らすが、その姿からは過度の緊張もない実にリラックスした自信にあふれる雰囲気しか感じ取れなかった。

 

(こいつの序列はたしか20位に届かない程度だったはず、俺とバラなら問題なく勝てるはずだが、この天空闘技場に特化させてるらしい戦法は厄介だな)

 

 試合開始の合図とともにリングから降りた審判を確認したサブは、先手必勝とばかりにギドへ駆けるも手が届く前にその派手な鎧から小さな物体がばら撒かれた。

 

 それは形や色は一つ一つ違うものの、共通して派手でゴツゴツとした手でつかめる大きさの独楽。

 

 ちびっ子の歓声を受け止めるギドが構え、オーラを増大させると発の名を叫んだ。

 

舞闘独楽(ゴーシュート)!!」

 

 ばら撒かれた20を超える独楽達が猛烈に回転を始め、互いに弾き合いながらリング内を駆け巡る。

 

「このっ!?」

 

 回ってる最中は特に変哲のない普通の独楽だが、弾き合う時のスピードが常軌を逸していた。

 展開を止められなかったサブは何とか回避を続けるも、ついに斜め後ろから突撃してきた独楽の直撃を受ける。

 

「ぐわぁーー!?」

 

 決して小柄ではないその身体が軽々と宙を舞い、リング外に弾き出されて転がった。

 

「クリーンヒット+リングアウト! ギド選手2ポイント!!」

 

 ちびっ子の歓声がさらに大きく響き渡り、リングの外で堪えることなく立ち上がったサブは忌々しげにリング上のギドを見上げた。

 

(糞がっ、マジでダメージ無しかよ! しかも本当に変な声が出やがった!?)

 

 クラピカとの試合で敗北し鍛え直したギドは、その過程で独楽について調べている最中にある漫画とアニメに出会って衝撃を受けた。

 そして当時放送連載されていたものは全てチェックし、実物を取り揃えたギドは舞闘独楽を天空闘技場ルールに特化した能力へと調整した。

 

 独楽は相手に当たっても一切ダメージを与えられない代わりに、ただただ弾き飛ばす威力だけを一点強化。

 KO勝利を捨て、体勢を崩せばダウン、リング外に弾き出せばリングアウト、そしてヒットにより得られるポイント勝利のみに賭けたのだ。

 これにより鳴かず飛ばずで初心者狩りに終始していたギドは殻を破り、見事念願だったフロアマスターの地位へと上り詰めた。

 

 なお弾き飛ばされた際に無様な悲鳴を上げてしまうのは、全世界のちびっこ達の無垢で純粋な想いの賜物である。

 

『さあギド選手いつものパターンに入ったか!? あいかわらず出血やグロポロリがない親御さんも安心安全クリーンな試合です!!』

 

『あの独楽を掻い潜るか破壊するかが第一関門なのだが、サブ選手はどういった選択をするかな?』

 

(ちっ、これはあんまり使いたくなかったんだが、そうも言ってられねぇか)

 

 リングアウトによるカウントダウンをギリギリまで待ってから戻ったサブは、独楽が襲いかかってくる前にオーラを高めるとその細目を限界まで見開いた。

 

『な、なんとサブ選手開眼した!? 戦闘スタイルや顔に似合わないまんまるパッチリお目々です!!』

 

『細目でも見えていただろうに、何か他に目的があるのか? …いやアレはまさか!?』

 

 ギドに向かって普通に歩き出したサブに独楽が殺到するも、その全てをギリギリ皮一枚で躱して進み続ける。

 

「ひゅ〜〜」

 

『な、なんだぁ!? サブ選手のパッチリお目々がカメレオンのようにギョロギョロと気持ち悪い動きを!?』

 

『あれは散眼、四方から迫る矢を払うためあみだされたと言われる絶技! しかもあの軸のブレない歩法、全ての隙をなくす御殿手(うどぅんでぃ)も併用するとは!?』

 

 ボマーズのテクニック担当にふさわしい技を見た観客から感嘆の声が上がり、サブはパッチリお目々に爆笑するバラとゲンスルーへの報復を決意しながら歩み続ける。

 

「よお、ここまで来たら手が届くぜ?」

 

「くっ、竜巻独楽(ギドタイフーン)!!」

 

「遅い!!」

 

 至近距離まで寄られたギドは自身が回転する竜巻独楽を繰り出そうとするも、回転数が上がり切る前にサブの連撃が鬱憤を晴らさんと襲いかかる。

 

「どらぁ!!」

 

「ぐはぁっ!」

 

 サブの猛攻により別に鉄製でもなんでもない見た目重視の鎧がひび割れ砕け、最後の強烈な一撃により吹き飛ばされてリングに叩きつけられた。

 

『サブ選手見事な猛攻だ! ボロボロになったギド選手にちびっこ達の悲鳴が響き渡るぅー!!』

 

『あれだけの攻撃をくらったからな、まさかこのまま決着か?』

 

「「「ギドがんばえー!!!」」」

 

 ボロボロでダウンするギド、そしてノーダメージで見下ろすサブに会場は決まったと弛緩した空気が流れるが、サブ自身が違和感を感じて臨戦態勢を崩さなかった。

 

(確かに当てた、だがそれにしても脆すぎる。まるで初めから壊れること前提で、ダメージを分散させる目的があるように!)

 

「実に見事だ、ここまで追い詰められるとはな」

 

 サブの疑念を肯定するように、ダウンしていたギドがゆらりと立ち上がる。

 

「鎧は砕けた、しかし同時に枷も外されたぞ!」

 

 オーラを噴出させたギドから壊れたパーツが弾き飛ばされ、今までの鎧より一回り小さい黒と金に彩られた姿へと換装された。

 

『まさか!? あれは二期アニメ最終決戦時のファイナルギア!! 完成していたというのか!!』

 

『知ってるのかロン毛!?』

 

『アニメに実写かつ完全ノーCGで出演するギドの最終奥義、アレが来るぞ!!』

 

 アニメを見た者達から爆発する歓声が上がり、その想いが力となってギドの発を強化する。

 

闘争舞闘(バトルドーム)、展開!」

 

「何だこりゃあ!?」

 

 突然リングの外側が反り上がり、平面だったリングがすり鉢状になって2人を囲む。

 

「刮目せよ、最終奥義、超台風独楽(ギドハリケーン)!!」

 

 元々ばら撒かれていた独楽、そして砕けた鎧から変形した独楽が縦横無尽に弾き回り、ギド自身も回転して独楽の饗宴へ加わる。

 

「おまっ、ふざけ、ぐわぁーーーー!?」

 

 更に増えた独楽、すり鉢状故に濃くなる密度、弾かれたサブはリング外に吹き飛ばされることすら許されず、リングの上でミキサーに入れられたかのごとく翻弄される。

 

 ダメージはない、しかし人間の三半規管はピンボールの球にされて無事なほど強靭ではない。

 

「これで終わりだ! 独楽を相手のボディに、シューーッ!!」

 

「「「超、エキサイティン☆」」」

 

 ギド自身による突撃に悲鳴すらあげられず吹き飛ばされたサブはリング外に弾き出され、今日一番の歓声が会場を満たして震える。

 サブはリングアウトのカウントダウンを聞きながらも生まれたての子鹿のように震えて立てず、意識ははっきりしているが故に特大の恥辱を感じながら床を叩いた。

 

「リングアウトによるテンカウント! 勝者、ギド選手!!」

 

 ちびっこ達の憧れ、そして大きなお友達の想いを胸に、ギドは両手を広げて歓声に応える。

 

 

 

「結局もつれ込んだか、まあ前座としては盛り上がったんじゃないか?」

 

 

 

 大興奮に水を差すように、ゲンスルーから暗いオーラが溢れ出す。

 

 

 

「ふふっ、前座のほうが良かったと言われんようにしなければな」

 

 

 

 ゲンスルーに呼応するように、カストロから鮮烈なオーラが溢れ出す。

 

 

 

『これは!? まるでゴン選手とヒソカ選手による伝説の試合と似た空気を感じます!』

 

『アレにはまだ及ばんだろう、しかしこれから行われるのは、間違いなく天空闘技場頂点の戦いだ!』

 

 ゲンスルーは蹲るサブの肩を叩くとリングに上がり、カストロはギドとハイタッチをしてリングに上がる。

 

 2人のオーラから審判はリングに上がることを諦め、やや離れた位置から声を張り上げた。

 

「試合開始!!」

 

 凄まじい衝撃と音が響き渡ると、リング中央で2人が指と指を合わせて拮抗していた。

 

『これはいったい!?』

 

『なるほど、掴んで爆破させるゲンスルーと引き裂き食い破る虎皎拳のカストロ、共に開手による戦闘スタイルが故のあの形か』

 

 ゲンスルーは爆発から自身の手を守るため、カストロは流派の基本としてお互いが手指の部位鍛錬に余念がない。

 さらに手にオーラを集めることに関しても極めている2人の戦闘スタイルは思った以上に似通い、それが故に互いの練度と実力を正確に認識し合った。

 

「良い腕だ、しかしその程度なら“我等”に蹂躙されるだけだぞ!」

 

「ぐぅっ!」

 

 拮抗していた2人だったが、カストロが発動した自分自身(マイセルフ)により一気に形勢が傾いた。

 同じ実力者が増えるという単純にして強力な能力により、ゲンスルーの負傷が目に見えて増えていく。

 

「双虎の舞・乱!」

 

「ちぃっ!」

 

 ガードの上からかまわず打ち込まれた乱打に逆らうことなく、ゲンスルーは自ら吹き飛ばされることでカストロの猛攻から一時的に逃れた。

 

「ちっ、わかっちゃいたが一握りの火薬(リトルフラワー)だけじゃ無理か。タイマンじゃなくて恥ずかしくねぇのか?」

 

「ふっ、ルール上問題ないならかまわんだろう。何よりこれはタイマンさ、ゲンスルーと“カストロ”のな」

 

 本来武闘家ならば忌避感を覚えるはずの2対1、しかしカストロはゴンとの試合でその辺りのジレンマを完全に払拭している。

 一つは何でもありの念能力者同士の戦いであること、二つ目にヒソカやゴンというはるか格上との実力差を知ったこと、そして何より分身(ダブル)ではなく自分自身(マイセルフ)だと認識したことが決め手だった。

 今のカストロに以前までの心的ストレスはなく、ただただ強さで上を目指す清々しい心があるだけ。

 

 幸か不幸か修羅と言えるだけ壊れていないが、武闘家としては最高峰の高みに至りかけていた。

 

「ふぅ、そこまで開き直られちゃ揺さぶれねぇな。ちなみにカストロさんよ、俺はあんたに爆弾を仕掛けている」

 

「…何?」

 

「俺がボマーと口にしながら触れていた場所、そこにリトルフラワーとは比べ物にならない威力の命の音(カウントダウン)を仕掛けている。時限式で取り外しは基本的に不可能、解除するには俺に触れながら『ボマー捕まえた』と言わなくてはいけない」

 

 カストロは急に自身の能力説明を始めたゲンスルーを訝しげに見ていたが、自分の肩から鳴り始めた音に気付いて視線を向ける。

 強いオーラを内包した爆弾が時を刻んでおり、刻一刻と死へのカウントダウンが進んでいた。

 

「能力を説明することが能力の発動条件。お前の命もこれで…」

 

「随分爆発まで時間があるな、これを早める方法もあるということか」

 

「…」

 

「もう一人の方に爆弾が反映されないのも助かる、貴様も知っているだろうが2人同時にダメージを受けなければなんとかなるからな」

 

「……」

 

「試合前に起動されていたらどうなっていたか、他に何を隠している?」

 

「………」

 

 油断なく構えるカストロと、指先でメガネを直す表情の読めないゲンスルー。

 これからさらなる激戦を予感していた観客は息を呑んで注目し、満を持してゲンスルーが口を開く。

 

「はな、話をしよう。あれは数ヶ月、いや数年前のことだったか、」

 

「時間稼ぎには乗らん!」

 

「ちくしょうが!」

 

 片や天空闘技場ルールに適応した武闘家、片やまだまだルールに適応しきれていない実力は確かなチンピラ。

 

 多くの観客の期待を裏切り、いっそあっけなくゲンスルーがリングに沈んだ。

 

『なんてことでしょう、2人の間にこれほどの差が!?』

 

『やはり数は力ということか、本当に実力自体は拮抗していたのだがな』

 

「ふざけるなぁ!!」

 

「金返せ!!」

 

「ボマーズのリーダーちゃうんか!?」

 

 あまりに見所のない試合に観客達は荒れに荒れて暴動一歩手前の空気が生まれ、巻き込まれてはたまらないと多くの観客が帰ろうと席を立つ。

 

『皆様ご安心ください! 初のチームバトルは不完全燃焼で幕を閉じてしまいましたが、なんと今朝決まったばかりのサプライズエキシビションマッチが開催されます!!』

 

『え、私は何も聞いていないのだが』

 

『正直早く言いたくて危うく口が滑るところでしたが、皆様ご満足いただけること間違いなしです!!』

 

 実況のテンションはチームバトルのどの試合より最高潮に高まり、その嘘偽りない喜色満面の顔は観客の足を止めるには十分だった。

 荒れていた観客も口を噤んで続きを待ち、今まで試合をしていたメンバーも退場せずに様子を窺う。

 

 そして実況の彼女は、最推しの帰還を声高らかに告げた。

 

『エキシビションマッチ!! 対戦カードは残虐ピエロと銀豹、ヒソカVSキルアきゅんだぁーー―!!!』

 

 驚愕の対戦カードに誰一人声を上げられない中、入場口からヒソカとキルアが登場してリングに上がる。

 

『あぁ、あぁ〜久しぶりのキルアきゅん! お前等! 今夜は余韻で寝られねぇぞ!!』

 

 冗談のような夢の対戦、しかし今まさに現実になろうとしている試合に観客のボルテージが急上昇する。

 

『天空闘技場の転換点、伝説の時の復活だぁーーー!!!』

 

 会場がビリビリと震える程の歓声に包まれ、2人の修羅が不敵な笑みで対峙した。

 

 変態ピエロと雷小僧、頂を追う者同士の死闘が幕を開ける。

 

 





 ゲンスルーファンの皆、本当に申し訳ない。
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