オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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小話8 最終決戦前

 

 

 ハンター協会が本部を置くスワルダニシティの郊外。

 小さな町が形成されている広大な面積の中央で、ある三ツ星(トリプル)ハンターの本拠地でもある“聖騎士病院”は今日も多くの患者に対応していた。

 

『経過は問題なし、今回も半年かからずに産まれそうね』

 

「そうか、やはりレオリオ以外からも太鼓判を押してもらうと気が楽になる」

 

 そんな世界的に見ても大規模な病院の側に建つ大きな一軒家、そこにハンター女子連盟幹部にして人気もトップクラスの2人、お腹が大きくより妖艶になったクラピカといつもの女医姿なサンビカがいた。

 

『レオリオさんはまたゴンくん達のお守り? 病院が落ち着いたとはいえ軽々に動いていい立場じゃないと思うけど…』

 

 レオリオが多くの患者達からの融資により築いた聖騎士病院。

 その運営に携わるのは大半がレオリオの弟子となったハンターや医者であり、医療技術はもちろん戦闘力も申し分ない一勢力として認識されている。

 

「それはそうなんだがな、結局のところゴン達の側がこの世で一番安全なのは変わらない事実だ。ここまで落ち着いたのならたまには羽でも伸ばさなくてはな」

 

 世界的に貴重でなおかつ超一流の医療系能力者のレオリオは、有名になるほど表からも裏からも様々なちょっかいをかけられるようになった。

 最初のうちはそれこそゴンやヒソカにキルアといったメンバーが大々的に動いて蹴散らしていたが、レオリオの子供達にまで危険が近づいたと判断したレオリオに恩があるハンターや裏の顔役達が水面下で動くようになり一時期情勢が荒れに荒れた。

 そんな状況を憂いたレオリオは若輩で未熟だと認識しながらも一念発起し、元々大量にいた弟子入り志願者達を全員面倒見ると宣言した。

 結果として指導面で普通に優秀だったレオリオは多くの実力者を誕生させ、彼等はレオリオのパラディナイトという名字から“聖騎士団”を名乗り世界に散ることで医療系能力者の絶対数を激増させた。

 そんな聖騎士団の上位勢が常に複数滞在する聖騎士病院は患者の治癒率も安全性も高く、表裏関係なく重鎮から孤児まで多くの人で賑わう不可侵領域としての地位を獲得している。

 

 何より下手に手を出した場合ハンター協会の暴力装置と2人のツレがもれなく来訪することが判明して以来、どんな悪逆非道な裏の気狂いであっても決して迷惑をかけないよう気を配るようになったが。

 

『そういえば聞きましたよ、幻影旅団の働きで流星街が一部開放されるんですね。条件付きで釈放したのは10年近く前でしたか?』

 

「もうそんなに経つのか。ゴンの頼みとはいえ不安もあったが、それも気にならないくらい普通に過ごせているということが何より幸せだな」

 

 幻影旅団は効率的なゴミの再活用や大国が預けた気になっていた逸品などを利用し、各国が無視できないレベルの普通に大きな経済圏の獲得に成功した。

 劣悪な環境は変わらず多くのモノが捨てられるのは変わらないが、ついに外貨の獲得にすら手を出し始めて“スパイダーズランド”なるテーマパークを開園するまでになってしまった。

 

 度重なる筋肉とピエロによる蹂躙で心身共にボロボロにされ、心の傷を癒やすために造られた側面もあるのは蜘蛛達だけの秘密である。

 

「しかし、今回もゴンとヒソカの我儘だと笑って出発したが絆の鎖(リンクチェーン)が落ち着かない。何も起こらなければ良いのだが」

 

『まあ少なくともレオリオさんは大丈夫じゃないですか? むしろ最近ストッパー役をこなせてしまうキルアくんの方が心配です』

 

「…そうだな、無事を祈って待つのもまた良妻の務め、今は安静にして」

 

「「お母さん!! ゴン兄(キル兄)またあの変態と出かけたの!?」」

 

 部屋に騒々しく突入してきたのは、レオクラ夫妻の長子にして立派に成長中の双子クレアとカリン。

 父母の才能を正しく受け継ぎすぎた才媛の二人は、教わる相手も豊富すぎるという恵まれた環境も相まって強さという点では箱庭有数の実力者に数えられるティーンエイジャーである。

 

 最近はませてきてそれぞれゴンとキルアを狙っており、日々ピエロと熾烈な争いを繰り広げていた。

 

「いつもの組手だ、そこまで目くじら立てることもなかろう」

 

「そんなのわかんないじゃん! あの変態なんだよ!?」

 

「ゴン兄見る目は昔からやばいけど、最近はキル兄見る目もやばい」

 

「「それになにか嫌な予感がする」」

 

 手を繋ぎ目の色を緋色と紅紫色に染めた双子が、まるで予言のように厳かに告げる。

 

「「絶対嫌なことが起こる。早くお父さんに連絡して連れ戻して!!」」

 

 子どもの癇癪とも念能力者の直感とも取れるその剣幕に、クラピカとサンビカもやや不安そうに顔を合わせた。

 

 

 

 

 

 

 

 多くの瓦礫が転がるだけの殺風景な荒野。

 

 十年以上前に行われた箱庭最大の戦闘により、全ての生き物達が逃げ出し今なお戻らぬ死の大地。

 

 その荒野の縁、安全圏と思われる位置に3人の人影がいた。

 

「この位置ならば余波も届くまい。もっとも、あの頃よりゴンが強くなっている以上油断はできんがな」

 

 片腕がなく尾の生えた美丈夫、太陽国家メンフィスの国王にして最強のキメラアント メルエム。

 

「ここからじゃ姿どころかオーラすら見えねえが、それでもいないよりかはマシだろ」

 

 いつものスーツとサングラスに加え、医師免許取得を機に白衣を羽織るようになった精悍さの増したレオリオ。

 

「オレのアンテナは何とか届いてる。決着が付き次第急行するからレオリオは準備だけ頼むぜ」

 

 そしてイルミと変わらぬ身長に細いながら針金の如き筋肉を纏う、父と兄とは異なり短く刈り揃えられた銀髪が眩しいキルア。

 

 今や世界最高の王、医者、そして修羅の一角という箱庭最高戦力が荒野の奥を見据えている。

 

 メルエムもレオリオも知覚できない荒野の中心では、紛うことなき世界最強の2人が最初で最後の、真の殺し合いをすべく対峙していた。

 

「しっかしヒソカの奴どうしたんだ? 急にマジの殺し合いだって言い出すし、せめてクラピカの出産待ってくれても良かったのによ」

 

「余が観たところ焦りというより諦観がほんの僅かに見えたのだが、なにかあったのではないのか? まぁそれ以上に期待と緊張、目が潰れんばかりの喜びに満ちていたが」

 

 主治医と患者の関係でもあるレオリオとメルエムが疑問に思う事の顛末は、ゴンとヒソカの一番近くにいたキルアにはなんとなく推し量ることが出来ていた。

 

「ヒソカがな、到達しちまったんだ。あいつの限界点、これ以上がない最強のヒソカにな」

 

 本来人の一生とは、何かを極めるには圧倒的に短すぎる。

 

 芸術に終わりがないのはもちろんとして、武術に関しては全盛期イコール身体能力と技術のトータルバランスで決まるのが一般常識。

 

 ヒソカ・モロウはその常識を覆し、半世紀すら必要とせずに身体、技術、そしてモチベーションを己の限界まで突き詰めることに成功した。

 

「オレは最近ゴンよりもヒソカの方が理解できねぇよ。ゴンからの要請であいつが書いた“念大全”ですら数世紀先のオーバーテクノロジーだってのに、多分あいつの頭の中にはそれ以上のもんがある。念の深淵、それすら見えてるのかもな」

 

「ふむ、ハンター協会から発行された念大全か。あれは余はもちろん、コムギですら解析不能箇所が多すぎる。あれだけの叡智を保有しながら人の形や性質を維持しているとは、改めてキメラアントに闘争による独立はなかったと確信できる」

 

 今や念に覚醒した者にとってのバイブルとなった念大全。

 ハンター協会から正式に発行された“起承転結無”の5冊にわたるヒソカ作の指南書は、これまでの知識では考えられないほど洗練され情報量も多いまさにオーバーテクノロジーの塊と言ってよかった。

 初心者が読むべき基礎が詰まりに詰まった起の書は誰でも理解できるが、4冊目となる結の書は理解はまだしも実践できる者は10人にも満たない難易度となる。

 

 そして5冊目の無の書にいたっては、ヒソカ以外は理解すら困難を極める読む者に何ももたらさない正しく無の書と言う他ない奇書の類だった。

 

「それよりなんで今なんだ? ゴンはゆっくりでもまだまだ強くなるんだろうしヒソカも強さの維持はできんだろ? 最高のゴンと戦うのがヒソカの目的だと思ってたんだが」

 

「あんなド変態ピエロの考えなんて知らねえけど、特に小難しいことなんてねえだろ。ただただシンプルに、ゴンに勝ちたいんだろ」

 

「あぁ〜、それならまぁ納得だな」

 

 普段の修行で勝とうが負けようが関係なくツヤツヤしているヒソカに麻痺していたが、本来ヒソカは死力を尽くして相手を壊すことにこそ快楽を感じる変態性癖持ちである。

 自分の限界に到達したなら相手を待たずに勝ちを拾いに行くのは、それはそれで破壊衝動持ちとして何らおかしくない選択と言えた。

 

「っしゃ! ならしっかり集中して待ちますかね。どう転んでも悲惨なことになるだろうからな」

 

「一応ノヴから鍵ももらってる。いざとなりゃお前ん家の手術室に繋がるぜ」

 

「ならクラピカの補助も受けれるな。今日は確かサンビカさんも居た気がするし心強いぜ」

 

「あの辺の女子ハンター仲いいよな。それにしても次のガキで何人だっけ?」

 

「診断だと9男と13、14女の三つ子だな。クラピカの奴自重を知らねぇ」

 

「……頭がおかしくなりそうだ」

 

 集中は切らさないながら呑気に会話するキルアとレオリオを横目に、決戦場を貸し出すことを対価に同伴したメルエムは見えないヒソカに思いを馳せる。

 

(あの色は見たことがある、忘れもしないあの決戦だ)

 

 キメラアントの未来のために行われたハンター協会との決戦、それに臨む己を含めた全キメラアントが纏っていた決死の色。

 

(しかもあの時の我々以上に仄暗い決意。あの男、ここを死に場所と定めたか)

 

 何度も死愛、何度も殺し愛、その度にしぶとく生き残って強くなってきた修羅達。

 

 それ故に近くで見続けていたキルアとレオリオが気付けなかったヒソカの決意、そしてどの道止められなかったであろう箱庭最強を決める戦い。

 

(願わくば、悔いなき最高の一局にならんことを)

 

 人類を超越した筋肉と人類の到達点に至ったピエロ、強いのはどちらか最後の強さ比べが幕を開ける。

 

 

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