荒れ果てた荒野で向き合う2人、ゴン・フリークスとヒソカ・モロウの顔には穏やかな笑みが浮かんでいた。
ハンター試験で出会った時と変わらぬ服装と見た目には一切変化がない、しかし内包する強さは別次元に飛躍したヒソカ。
「その格好久しぶりだね、なんか昔に戻った気分になる」
「ふふっ、ゴンも相変わらず煽情的じゃないか♥その服装、ちゃんとわかってくれたんだね♠」
お互いに本気の本気、いつからか組手では着なくなった一張羅。
幾万の戦いに明け暮れた2人は死闘前にもかかわらず凪のようなオーラで佇んでいたが、ゴンの微笑みの中についに悲しみの色が混じった。
「ずっと、ずっと続くと思ってた。キルアとヒソカがいて、レオリオとクラピカが見守ってくれて、ネテロ爺やビスケに構われて、いつまでも切磋琢磨できるって」
「……そうだね、その未来を夢見たのはゴンだけじゃないよ♣ボクも実は三日三晩悩んだからね♠」
ヒソカは自分が限界に到達した時、相反する二つの想いが胸中に発生した。
すぐさまゴンを
ゴンと出会ったばかりの頃のヒソカなら悩むことなく
結果としてヒソカは言葉通り三日三晩悩み続け、それでも己の原点と本心を正しく理解し決意を固めた。
「ゴンと、君と本気の本気で限界を超えてヤリ合う、そして壊す♠そうやって最高と最悪を味わうために、ボクはここまで来たんだ♥」
それが遠い昔に思える天空闘技場で発露した、ヒソカの人生を決定付けた
穏やかに、それでも隠せないド級の狂気を滲ませ出したヒソカを見つめたゴンは、やはり止められないのだと、来ないで欲しいと願いながら同時に待ち続けたこの戦いに臨むべく力を解放する。
「オレが目指した最強のゴンさん!!」
大気が炸裂し土煙が舞い、それを吹き飛ばして暴力そのものが顕現する。
メルエム戦を上回る筋肉の圧縮率により髪状筋肉がレオリオ達にも視認できる程天高く伸び、至近距離で見ればジンですら腰を抜かす人類を超越した
「あぁ、本当に、本当に綺麗だ。こんな至高の君を、ボクが、ボクだけが穢すんだ」
ヒソカのオーラが死者の念すら可愛く見えるレベルで黒く染まり、ゴンさんを全力で
ヒソカは胸に手刀を抉り込むと、己の脈打つ心臓を引き抜いた。
「
まだ脈打っている心臓を媒体にパニックカードを具現化させ、全てのカードがジョーカーという馬鹿げたデッキを完成させる。
「♡のロイヤルストレートフラッシュ、“愛の揺り籠”」
「♢のロイヤルストレートフラッシュ、“線香花火”」
オーラが弾けトランプに宿り周囲を旋回し、それを足場に空中へと浮かび上がる。
「♤のロイヤルストレートフラッシュ、“斬々舞”モード
斬撃効果のあるオーラが更に研ぎすまされ形を作り、もはや具現化されてると言ってもいい触れるもの全てを切り裂く刃が形成される。
「♧のロイヤルストレートフラッシュ、“透明人間”をグリムリーパーに付与」
空気も何もかも切り裂き続け耳鳴りの様な音を奏でていたグリムリーパーが、オーラはもちろんその姿を消し去り一切知覚できなくる。
「おまたせゴン♥君のためだけに誂えたボクの死装束、似合ってる?」
胸元や口元まで自身の血で染め、バンジーガムによる心臓がオーラを全身に送り込む鼓動が周囲に響く。
人類の到達点に至ったヒソカによる一回限りの上限突破、逃れられぬ死を条件にしたゴンさん同様人類を超越したありったけ。
「もうこれで終わる。さぁ、最後の死愛だよ☠」
「全部受け止める。そして最後に勝つのはオレだ!!」
初撃はヒソカ、オーラを纏うトランプ群が一斉に閃きゴンさんに狙いを定める。
飛び退いたゴンさんの居た位置が切り裂かれ、数kmに及ぶ恐ろしいほど滑らかな亀裂が発生した。
「やっぱりグリムリーパーは放出して操作してるんだね!」
「教えといてなんだけど、その強化された直感は本当に厄介だよ♠」
ヒソカのトランプを囮にした不可視のグリムリーパーによる遠距離斬撃を、
ヒソカ監修による強化項目の解釈拡大により未来視に近い直感を得たゴンさんは、数多のトランプもグリムリーパーも全て紙一重で躱していく。
ヒソカはメルエムすら対応出来なかった速度域での真っ向勝負を成立させていた。
「期待してたけど正直無理だと思ってた、ようこそヒソカ! スピードの果ての世界へ!!」
「こうでもしないとゴンに触れられないからね♦」
ゴンさんの馬鹿げた身体能力によってもたらされる時間を止めたかのような高速移動は、もはや
極限まで強化されたバンジーガムによる身体がヒソカの思考速度に追い付き、ゴンとキルアに次いで百式観音を置き去りにする高速戦闘を可能とした。
「バン☆」
「くっ!?」
ゴンさんの身体能力も直感もすり抜けて命中したパニックカードが斬撃効果を撒き散らしながら炸裂し、その金剛体に一目でわかるほどの確かな損傷を与えた。
「今のパニックカード、何枚か使ったね?」
「もちろん♪これで終わったら興ざめだったけど、その程度にしかならないのはそれはそれでまいっちゃう♣」
呑気に会話しながらヤリ続ける2人、しかし今のヒソカの一撃は、ゴンさん以外に当たったらどんな手段を使っても粉微塵になること確定な即死技。
ゴンさんも耐えこそしたが筋肉を圧縮している都合上、損傷から破裂しないようにかなりのオーラを消費していた。
「楽しいね、楽しいねゴン♥君も同じ気持ちなら、これほど
「楽しいに決まってる。それにやっぱり、オレが心の底から勝ちたいと思うのは、お前だけだヒソカ!!」
「あはっ♥」
箱庭どころか惑星の中でも最強格の2人は加速を続け、濃密ながら刹那の死愛が熾烈さを増す。
「やっべぇ!? 今すぐ行くぞレオリオ! 間に合わなくなる!!」
「早くねぇ!? まだ髪が見えただけじゃ」
キルア達がゴンさんの髪状筋肉を視認したのとほぼ同時に、キルアは
守る対象が増えるのを嫌いアルカとナニカを留守番させたことを後悔しながら、それでも最善を尽くすべくオーラを練り上げた。
「直ぐにお前でもわかる! マジでこのままじゃどっちも死ぬぞ!!」
「余も行こう、露払いは任せよ」
レオリオは治療に影響しないギリギリの全力で身構え、キルアはレオリオに負担をかけないように注力しながらも耐えられるギリギリの速度で駆け出す。
メルエムも駆け出して余裕のないキルアの前に出ると、己の知覚領域を前方に集中し備える。
凄まじい速さで走り出した3人に、想像を絶するオーラの波動と大小様々な瓦礫が殺到した。
「はぁ!??」
「カァッ!!」
移動に全力を注ぎほとんど無防備なキルアと抱えられたレオリオを守るため、メルエムはその太陽のごときオーラと
一流どころかネテロですら減速が必要な絨毯爆撃を突っ切りながら、唯一ゴンさんとヒソカの戦闘を知覚するキルアは血が出るほど唇を噛み締める。
(くそっ、やっぱり遠い、強さも、知識も、何より覚悟が!)
余りの高速戦闘に移動しながらでは内容を殆ど理解できないが、それでも追い付いたと思っていた2人がまた手の届かない所に逝ってしまったのだけは思い知らされていた。
(ふざけんな、ふざけんじゃねぇぞ! 絶対に追い付く、今のままで終わらせてたまるかよ!!」
雷神の叫び、世界に轟くその想いが届くことはなく、最強と最凶は脇目もふらずに進み続ける。
ゴンさんとヒソカの死闘はとどまることを知らず、死線を悠々と超えるデッドゾーンのヤリ合いは互いを何歩も先へと押し上げ合う。
ヒソカはゴンさんの拳や脚に引っかかって四肢が引き千切れ、その四肢を
ゴンさんは被弾が増えながらも自身すら抵抗なく切り払われるだろうグリムリーパーだけは確実に回避し、何とかジャジャン拳のタメが作れないか機をうかがう。
戦闘時間で言えばまだ1ラウンドのゴングすらなっていないが、ゴンさんは素のオーラ量、ヒソカは死の誓約で溢れるオーラにより念能力者10人以上のオーラを既に消費していた。
空中を踊るように舞うヒソカと空気や舞い上がる瓦礫を蹴って三次元に駆け回るゴンさんは、極限の集中によりお互いしか見えておらず周囲への気配りなど端から考えてすらいない。
正しく天災と形容されて当然の、箱庭どころか星そのものにダメージを与えかねない2人。
止めるべきか、そもそも止めることが可能かを考え出した新世界の門番“案内人”を他所に、ゴンさんの直感が、ヒソカの直感が、勝つための最適解を同時に導き出した。
「「最初は、グー!!」」
ゴンさんは長い髪状筋肉を
ヒソカはグリムリーパーで切り刻めるのは片方一人、そして
「「ジャン!」」
(ジャジャン拳は使われちゃったけど、当たらなければどうということはないよ♠)
硬が一箇所にオーラを集中させる技術な以上、ヒソカはどちらかのゴンさんが拳にオーラを纏うのを待ってカウンターを入れるつもりだった。
「ケン!!」
拳に闇を纏ったゴンさんを置き去りに、もう一人のゴンさんが突っ込んできた。
ブラフ、ヤケクソ、新能力、様々な疑念がヒソカをよぎるも、世界最高の戦闘巧者は迷わない。
(硬じゃない一撃なら何とか耐えられる、真に警戒すべきは硬を圧縮したあの拳のみ♠)
迫るただのゴンさんでも大ダメージは免れないが、それ以上に全てが決する一撃こそを警戒するヒソカ。
「グっ…」
熱崩壊するゴンさんには一瞥もくれず、ヒソカは闇を纏った拳を構えるゴンさんに突撃した。
「グーー!!」
「バイバイ、ゴン!!」
ゴンさんの闇の拳とヒソカのグリムリーパーがぶつかり合い、星を砕こうとしていた戦闘が嘘のような静寂が訪れた。
「嘘だろ!?」
「間に合わなかったか」
最後の一合の直後に辿り着いたキルア達が見たのは、身体の半分以上が吹き飛びながらも立ち続けるヒソカと、拳を振り抜いた体勢で立ち続ける頭の無いゴンさんだった。
「くそっ、レオリオ! ヒソカのバカは間に合うか!?」
「くくっ、無理だよ♦レオリオならわかるだろ?」
「……ヒソカの身体は、残ってる部分もほぼ全てがオーラの塊、多分バンジーガムだ。ヒソカは死にそうなんじゃねぇ、もう死んでる死者の念だ」
「正解♠」
悲惨な見た目のヒソカはゴンさんの身体を撫で、苦痛など一切感じていないような穏やかな笑みを浮かべていた。
「ゴンは本当に頑固だよ、当てやすいとはいえ顔じゃなくて胸を狙うんだから♣まぁ、それでも殆ど引き分けに持っていけるんだから凄いんだけど♥」
ゴンさんの身体が崩壊を始めて徐々に崩れ出し、キルアとレオリオが唖然として信じられない現実に向き合う寸前。
「ボクの勝ちだよゴン、これからも頑張ってね♥」
「ぶはぁっ!?」
『はぁ!?』
ゴンさんの崩壊した身体の中から、デフォルメ化したマスコットゴンが飛び出した。
「くっそ、負けた! ヒソカ!! 勝ち逃げする気か!?」
キルア達が目を丸くするのを無視してヒソカに詰め寄るゴンは、非難するような声とは裏腹に今にも泣き出しそうな表情を浮かべていた。
「くふふっ、その通り、ボクは君と真っ向から戦って勝った♥君はこれから先どれだけ強くなろうとその事実から逃げられないのさ♠」
それこそヒソカが最後の戦いを決めた一番の理由、ゴンを
「あぁ、最高の気分だよ。最高の君を壊せた、これからも最高な君にボクを刻めた。ボクは、ボクはこの瞬間このために存在したんだ」
「勝手に満足するな! ヒソカは今死者の念なんだろ!? だったらこれからもずっと一緒に、」
「それは無理♣誓約でこの一戦限りって縛ってたからね♠」
ヒソカの身体が空気に溶けるように薄くなっていき、涙ぐみ出したゴンの頭を器用に撫でながらキルアに視線を向けた。
「キルアがいるから刻むだけ刻んで逝ける♦ゴンを独りにしないでよ?」
「…言われるまでもねぇよ。てめぇより強くなって見返してやる」
「あはっ、それは楽しみだ♥」
ヒソカはレオリオにウインクだけすると、ゴンの頭から手を離しその小さな手を握った。
「念大全には書かなかったこと、死者の念になってわかったこと、そしてボクを置いていくよ♠」
ヒソカの姿が掻き消える寸前、ゴンの手に死者の念とは思えないほど洗練されたオーラの本が具現化された。
「念の真理と言っていいかな? ゴンならきっと力にできる」
涙を流すゴンの頭を軽く叩いたヒソカは天を仰ぎ、幸せいっぱい最高の笑顔を浮かべる。
「あぁ、本当に、本当に楽しい人生だった♥」
土煙が晴れて差し込んだ光の中、誰よりも狂い誰よりも強かった変態ピエロ、ヒソカ・モロウは一片の悔いなく消滅した。