オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第0.5話 死んだあの人に会う話

 

 

 皆さんこんにちは、そろそろゴン・フリークス8歳です。

 

 突然ですが、予期していなかった事態に困惑を隠せません。

 

「こんなに美味しい美人の手料理を毎日食べてるなんて、ゴンくんがこんなにすくすく育つのも納得ですよ」

 

「最近の若い子はお世辞が上手くて困るわ。年甲斐もなく勘違いしちゃいそう」

 

「お世辞なんてとんでもない!全部本心です。あの、ご迷惑でなければ滞在中またお世話になってもいいですか?」

 

 カイトお前、ミトさんのこと狙ってないか?その人ジンの影響もあって根無し草なハンターのことあんまり好きじゃないぞ?

 

 原作には無かったはずの出会ったばかりのカイトによるゴンの家庭訪問。ことの発端は、数時間前のことだった。

 

 

 

 

 くじら島、人口は少なく観光客すらほとんど来ない小さな離島に、漁師以外では珍しい訪問者が到着した。

 彼の名はカイト。ゴンの父親であるジン・フリークスに鍛えられ、ベテランを名乗れるだけの実績と実力を持つプロハンターである。この日カイトは、師匠のジンからの最終課題『ジンを探し当てる』を達成するため、ジンの生まれ故郷くじら島を訪れたのだ。

 しかし、カイト自身はここで有力な手掛かりが見つかるとは思っていない。あの抜け目のないジンが、故郷を訪れただけで足取りを掴めるような簡単すぎる課題を出すとは思えず、そもそもここ数年帰郷したという形跡もないからだ。

 それでもくじら島を訪れたのは、旅の途中でたまたま近くにいたことと、尊敬するジンの故郷を見てみたいというミーハー心からだった。もっとも、あまりの閑散ぶりから早々に訪れたことを後悔し始めていたが。

 

「ま、適当に見て回った後は森で暇でも潰すかな」

 

 完全に無駄足だったと愛用の帽子を被り直すカイトだったが、その予想がいい意味で裏切られる事を彼はまだ知らない。

 

 早々にジンへの手掛かりを諦めたカイトは、島民でもほとんど入らない森の奥深くにいた。鬱蒼とした森はそれだけで人の侵入を拒み、危険度の高い猛獣や毒虫は熟練の猟師でさえ対応を誤れば簡単に命を落とす魔の領域だ。

 そんな森の中を、カイトは散歩しているかの様にサクサクと更に奥へと進んで行く。プロハンターであるカイトは、珍しい動植物をハントするのが生業の幻獣ハンターとして活動しており、くじら島とは比べ物にならない危険地帯に滞在した経験が数多くある。そんな彼からしてみれば、致死の毒や呪いが無い上に商売敵の危険な密猟者もいないくじら島の森は散歩気分で歩き回ってもなんの問題も無い。

しかし、経験豊富なカイトだからこそ、この森にある違和感を感じとっていた。

 

(妙だな、この森と似た様な生態系は何処にでもある。これといって特筆する生物は生息しない上、異常な環境も無いはずだ。)

 

 この森はカイトからしたら平和そのもので、すべてが自然なままの美しい姿に幻獣ハンターとして感動すらしていた。

 

(だからこそおかしい。ほとんどが見知った生物ばかりだが、どいつも本来種が持っている能力よりも優れている)

 

 素早い種はより俊敏に、力強い種はより頑強に、臆病な種はより巧妙に、それぞれが種として優れている能力を一段階上に引き上げていた。

 

(これだけ違いがあるなら何らかの原因があるのが普通、おそらく成長を促した何かがいるはず。それが突然変異した野生動物なら問題ないが、良からぬことを考えてる人間だった場合厄介だな)

 

 環境などの変化から、その地の生態系が変わるケースは自然界ではそこそこ存在する。それ自体は特に忌避することではないが、これが人為的となるとまずろくなことにはならないというのがカイトの経験則である。

 

(ま、この島にとって悪影響がありそうなら対処するってことで、とりあえず原因究明といくか)

 

 ただの暇つぶしのはずが、予期せぬ幻獣ハンターとしての務めを果たすために森の奥へ奥へと進んで行く。あいも変わらず環境的な異常を見つけられぬまま、森の規模的におそらくは最深部の拓けた場所に到達する。

 そこでカイトが目にしたものは、プロハンターとしても驚愕してしまう様な光景だった。

 

 二つの影が凄まじい重低音を響かせながら、互いにぶつかり合い相手を倒さんと気迫を込める。その姿を、多くの獣たちが囃し立てるように囲んで、各々思い思いの歓声を上げている。

 ぶつかり合うのは、くじら島の環境ではトップに君臨するであろう通常より引き締まった体を持つキツネグマと、こちらも負けずに鍛えられた体をした十代前半に見える少年だ。

 幾度となくぶつかり合う両者は、驚くべきことに念の四大行の一つ練を行っている。それも下手な念能力者ならば、一撃で叩きのめせるほどのオーラが吹き出していた。

 

 念の源となるオーラ、それは生き物が持つ生命エネルギーであり、命あるものは例外なく保有している。そして本来、人間より野生の獣などの方がオーラの扱いを本能で理解していることが多い。理由として、人間は日常において気配を消すなどといった生命エネルギーのコントロールをまずしないことと、生命エネルギーの宿らない無機物の中で生活していることが大きいと思われる。とはいえ、普通の獣では念の四大行にたどり着くことはまずないため、相手をしている少年に教わったか、真似したかのどちらかだろう。

 そうなると、問題は念を使える少年となる。早々に森に入ったカイトだが、島民の中に念能力者がいないこと位は確認していた。つまり、少年は自分で今の領域まで鍛えたか、カイトが気付けないレベルの第三者に教わっていることになる。

 謎だらけだが、少なくとも少年のオーラはこの上なく澄んでいて、周りの獣たちはもちろん闘っているキツネグマからも慕われていることが伝わってくる。

 

 いいハンターは動物に好かれる。

 

 長く幻獣ハンターを続けているカイトにとって、目の前の光景は一つの理想であり、決して壊してはならないものだ。

 

(それはそれとして、少なくとも話くらいは聞いとかないとな)

 

 ついに少年がキツネグマを負かしたことで、よりヒートアップする獣たちと少年に近づきながら、さて何から聞いたものかと明らかにジンの血縁らしき少年に話しかけるのだった。

 

 

 


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