皆さんこんにちは、そろそろ観光ビザが切れそうなゴン・フリークスです。
ゴン一行の修行にキルアが参加するようになり一週間が経過した頃、その日も初心者3人がヒソカに念ありの組手であしらわれた後の反省会を行っていた。
一番惜しいところまでいくのはもともと基礎の出来ていたキルアであり、発は無しのルールではあるが何度か一撃を与えてすらいる。
レオリオは最も技術的に劣っているが体格ゆえの身体能力もあり、ヒソカには通じていないものの初心者同士の組手では悪くない勝率を得ている。
逆に3人の中ではクラピカが最も低い勝率となっており、念の基礎ではややリードしているが戦闘力の点では差ができ始めていた。
「やっぱりレオリオは考えなさすぎ、クラピカは考えすぎ、キルアは逃げ腰すぎとしか言えないね♣レオリオとクラピカはほとんど素人みたいなものだからまだいいけど、正直キルアはそれなんとかしないといつか折れるよ♠」
念の四大行をある程度まで鍛えた3人は次に攻防力移動を重点的に鍛錬しており、ヒソカの言う通りの欠点がそれぞれに見られた。
特にキルアはある一定以上の念を感知すると無条件で引く癖があり、ゴンとヒソカはその点がとにかく惜しいと常日頃指摘するが本能に刷り込まれたように改善の兆しがない。
「わかってんだけどなー、家の訓練始めてからずっと言われてたせいかどうしても引いちまうんだよ。やっぱ一回追い込まないとダメかなぁ」
キルア自身面白く思っていないため、苦い顔で髪を掻き打開策を考えるが精神的なことのためそれも難しい。
レオリオとクラピカも自身の欠点はなんとなく把握できているが、これも性格が如実に現れているだけのため早期の改善は困難である。
「ゴンとギンのあれを見ればわかるけど、念の攻防力移動は基礎にして奥義とも言えるくらい重要だからね♦上に行けば行くほど素早くギリギリを見極めなくちゃいけないよ♥」
ヒソカの言うように少し離れた場所で組手をするゴンとギンを見れば、まるで本気の勝負のような速度で互いに拳や爪をぶつけ合っている。
そこらの底辺能力者であれば間に入った瞬間ミンチになる威力が出ているが、本人達は叩いて被ってジャンケンポンを本気でやってるくらいの認識でしかない。
それこそキルア達も念の攻防力が追い付かないだけで、流なしの組手ならなんとかついていけるレベルだ。
「あれだけ流ができればそれだけで念能力者として中堅以上を名乗れるよ♦君達も初心者は卒業できるくらいの練度になってるから、ボクの言った欠点を直せれば一気に伸びる♥」
ほとんど無呼吸で続く殴り合いを3人で見学していると、キルアが今まで気になっていた疑問をヒソカに尋ねた。
「ゴンが強いのは良くわかるんだけどさ、正直言ってヒソカに対して勝ちの目があるように見えないんだよね」
ゴンとギンそしてヒソカの強さは、キルアもこの一週間の修行で痛いほど理解させられている。
特にヒソカの強さは圧倒的で、オーラの運用や戦闘技術においてこの場の誰よりも上をいっている。
それに対してゴンの強さはオーラの運用で追い縋っているがヒソカには及ばず、戦闘技術にいたってはキルアが念なしの組手で勝ち越せる程度でしかない。
それこそゴンは発の相性が良くなければ勝てないとキルアは見ているが、試験の時にヒソカのほうが相性が良いと本人が言っていた。
「それはあれだろ、ゴンは操作系っぽいから搦め手がハマれば勝てるってことじゃねえのか?」
「いや、ゴンが操作系だとするならばいくらなんでも筋肉対話の効果が弱すぎる。とにかく基礎を重視する点からも、ゴンは強化系だと私は思うぞ」
ゴンの
「オレもゴンは強化系だと思う。ギンやヒソカと組手してる時、明らかにゴンのほうがオーラ量が少ないのに威力が釣り合ってるからな。全員の戦い方が近接戦主体なのも見ればわかるし、それを考えれば強化系が一番濃厚だろ」
レオリオとクラピカはキルアほど組手から読み取れなかったが、説明を聞いてから凝でよく観察すれば確かにギンのほうがオーラを多く使っているのがわかる。
「んー、さすがキルアはよく見てるね♥レオリオとクラピカも大分仕上がってはきてるし、戦闘スタイルの確立もかねて発の本格的な修行に入っても良さそうだ♦」
そんな成長著しい3人を嫌な笑みで見ていたヒソカは、ゴン達の組手が終了したのを確認してこの後の修行内容の変更を告げる。
「まずキルアの疑問を解消するためにボクらの発の説明を、次に君達の発について話し合おうか♥」
組手等の体を動かす修行が終了しいつもなら念の鍛錬を始める夕暮れ時、ゴン達は森の拓けた場所で車座になっていた。
指導者組の発がわかるということで本来は必要ないが、レオリオの希望によりグラス等の水見式の準備も出来ている。
そして誰から水見式をするか決めようと思いきや、圧縮を解いていてまだ大きいままのギンがグラスに肉球をかざして練を行う。
「おー!ギンはオレと同じ放出系だったのか、こうやって見るとオレの反応はまだまだだな」
レオリオの言う通りギンの水見式はグラスの水が光も通さないほど濃い緑色に染まり、レオリオはもちろんクラピカとキルアもその反応の強さに驚いている。
そして本来はあまり褒められたことではないが幻影旅団との戦いを見据え、互いの能力について認知し合うと決めていたためゴンがギンの代わりに発の説明をする。
「ギンの圧縮は皆知ってるね、後はオレが咆哮って呼んでる鳴き声にオーラを乗せる能力が3種類あるんだ。遠距離用で前方に打ち出すタイプ、近距離用の周りを吹き飛ばすタイプ、最後に高周波を強化して三半規管とか内臓にダメージを与えるやつだね」
どことなくドヤ顔で座るギンに対し、ただ感心するレオリオと違いキルアとクラピカはその能力の厄介さに瞠目する。
そもそもが大型の獣であるギンは身体能力や五感において人間を軽く上回っていて、そのくせにゴンと長年鍛えていたことでより強靭な肉体を誇っている。
そんなギンがオーラを纏って突撃してくるだけでも脅威となるのだが、接近戦を嫌って距離を取っても攻撃手段があるのはシンプルに強力である。
「これは予想以上に凶悪な組み合わせだな、蜘蛛との戦いでも存分に頼らせてもらうよギン」
クラピカの頼みにフンスと返事をするギンを横目に、レオリオがグラスの水を入れ替えてゴンとヒソカに視線を送る。
するとヒソカが先に水見式を行うがしばらくしても一切の変化が起こらず、ヒソカが練を止めたところで嫌そうな顔をしたキルアが指先を水に付け舐める。
「なんか大味の菓子みたいな雑な甘味がするわ、ヒソカはオレと同じ変化系で味も同じ甘さかぁ」
「ククッ、一番上手く指導出来るんだから喜んでくれてもいいのに♥ボクの能力は
「ん?てことは能力自体に攻撃力とかはないんだな、もっと戦闘寄りの発だと勝手に想像してたぜ」
「実は今新しい発を開発中でね♦そっちは戦闘寄りの能力だから期待しててよ♠」
レオリオの疑問はキルアとクラピカも感じたことだが、能力について考える前にゴンからの補足が入る。
バンジーガムやドッキリテクスチャーの応用力はもちろん、バンジーガムの戦闘への貢献度はヒソカの戦闘技術によって途轍もなく高いことを指摘され皆納得の表情を浮かべる。
「つまりヒソカは近接戦でマジに最強クラスなのかよ、それで何で新しい発を作ってんだ?今のまま練度を上げたほうがリスクは少ない気がするんだが」
ゴンの説明で新たな疑問が出来たレオリオの質問に対し、ヒソカは満面の笑みを浮かべるとゴンへ粘ついた視線を向ける。
「確かに戦闘スタイルの変化はリスクになりうるけどね、今のままだとボクは将来ゴンに絶対勝てなくなるのさ♣ゴンがこのまま順当に成長したら、真っ向勝負で勝てる存在はいなくなるからね♥」
ヒソカの評価にキルア達3人が一斉にゴンを見れば、ゴンはドヤ顔ダブルピースでふんぞり返る。
微笑むヒソカ以外の3人がイラッとしているのを尻目に、ゴンはさくさくと自分で水見式の準備を整える。
「そこまで自信があるなら見せてもらうぜ、ゴンの水見式と発をよ!」
レオリオが言い終わるのと同時に、ゴンはグラスに向けて練を行う。
それは時間にしては1秒にも満たない短い間だったが、それだけでグラスの周りに小さな水溜りが出来るほどの水が溢れ出る。
その勢いに思わずのけ反るレオリオとは逆に、キルアとクラピカはグラスに顔を寄せて今見た光景が見間違いではないことを確信する。
「なるほど、ゴンはこういう反応になるのか♠」
「どういうこったゴン、ヒソカが変化系でギンが放出系ならお前は強化系以外ありえない。特質系のはずがねぇだろ」
納得がいかないと詰め寄るキルアを不思議そうに見るレオリオに対し、クラピカが先程の水見式の反応を解説する。
「水の量が増えるのは強化系の反応だが、ゴンの水見式では葉も高速で振動していた。すなわちゴンは強化と操作2つの性質を持つ特質系という訳のわからない反応が出ていたんだ」
「あぁ?何だそりゃ、どうやったらそんな反応が出るんだよ、クラピカの劣化版てことか?」
キルア達が揃って詰め寄るのを落ち着かせ、ゴンは自分の能力である
貯筋解約の時点でゴン本来の体格に絶句する3人だったが、最後に脳筋万歳の効果と制約を聞いてついに我慢の限界を迎える。
「お前散々制約について注意してたくせに自分はド級の制約設けてんじゃねーよ!」
「よくもまあ発に重要なのは応用性などと言えたものだな、ゴンの発では真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすしか出来ないではないか!」
「ていうかもう全部筋肉じゃねーか!!」
3人に群がられるゴンを眺めていたヒソカだったが、さすがに話が進まないと止めに入る。
まだまだ文句を言い足りなそうにしながらも、とりあえずはゴンに詰め寄るのを止めた3人。
「まあ色々言いたいのはわかるけど、ゴンの発自体はかなり強力だよ♥ボクの新しい発は脳筋万歳に対抗するために作る能力だしね♣」
「そうか?搦め手とか遠距離で戦われたら割と対応されちまいそうな気がするけどな。マジに真っ直ぐ行ってぶっ飛ばすだけじゃ辛くねえ?」
ヒソカの評価に疑いを向けるレオリオだが、キルアとクラピカは嫌そうな顔をしながらも能力の強力さは理解していた。
「強化系に付きまとう操作系への対策は、既に自分を操作していることでクリアしている。そもそも搦め手を使うということは直接の戦闘力が低いということだからな、ゴンとしては無理矢理なぎ倒すつもりなのだろう」
「そんでもって強化240%がエグすぎ。込めるオーラが強化系でも倍以上、隣り合ってる変化と放出だと3倍必要とか悪夢だろ。そんな奴を近付かせないようにするにはどうすればいいんだよって話」
「そういうこと♣今のゴンがだいたい150%くらいだっけ?これくらいならまだボクでも真っ向勝負できるけど、180%以上になると厳しくなってくるんじゃないかな♦」
「あー、考えてることとやってることは頭悪いのに、結果だけ見れば天才的ってことか。…念って奥が深いんだなぁ」
説明を聞くにつれて段々と顔が引き攣っていたレオリオがそう締め括ると、水見式の道具を片付けたゴンがキルア達に考えてる発を聞く。
「うっし、じゃあ気を取り直してオレから発表すんぜ。と言っても実はまだ大筋しか決まってなくてよ、ゴンの筋肉対話を医療用に改変したいんだが可能か?」
「もちろん。医療特化にすればオレよりよっぽど強力な能力になるよ。オレからもいくつか組み込んでほしいアイディアがあるから今度一緒につめてみよう」
まだ医療用の発としか決まっていなかったレオリオは時間をかけずに終了し、続いてキルアが口を開く。
「オレの発なんだけどさ、実はもう出来ちゃってるんだよね。変化系ってわかったときにビビビッときてさ、ちょっと前にとりあえず発動したんだ」
そう言ってキルアは両手の人差し指をゆっくりと近づけていくと、パチリと小さな音と一瞬の光が瞬く。
その現象にゴンとヒソカは驚愕し、クラピカとレオリオはただ純粋に感心する。
「見ての通りオーラを電気に変化させた。今はまだ静電気くらいが精一杯だけど、直ぐに出力上げていけるだろうし色々応用も考えてるぜ」
そう言ってギンに静電気を流し全身の毛を逆立て3人で盛り上がるのを尻目に、ゴンはなんとも言えない表情でキルアを見つめる。
「正直かなり驚いたよ、ボクでも初めて見る素晴らしい能力だ♥まあゴンは色々言いたいこともあるんだろうけど、今のキルアは楽しそうだしあんまり気にしすぎないほうが良いよ♦」
ヒソカの珍しい慰めの言葉に、ゴンは一度大きく深呼吸すると原作でビスケット・クルーガーが言った今笑えていることが奇跡という言葉の意味を正しく理解する。
「ゾルディック家もキルアのことを考えて育ててきたんだってのはわかるけど、それでも文句の一つも言いたくなるよ」
いよいようっとうしくなったギンが暴れてもみくちゃになり楽しそうに笑う3人を見ながら、ゴンは尊敬するような慈しむような複雑な表情で言葉を紡ぐ。
「これから先もずっと、皆で笑って過ごしていけるように頑張らないとね」
そんな決意を新たにするゴンを、ヒソカは恍惚としたような舌なめずりするような変質者の表情で眺めていた。
暴れていたギンもどうにか落ち着き、ほとんど日も暮れかけている中クラピカの発について説明が始まろうとしていた。
一週間前にクラピカが取り乱したこともあり、実際に見ていたレオリオと話に聞いているキルアは若干落ち着かなそうにしている。
クラピカはそんな2人や硬い表情のゴンを見回すと、苦笑いしながらこの一週間考えていたことを順番に述べる。
「まず大前提として、蜘蛛特化の能力は作らないことに決めた。代わりと言っては心許ないが私は少々感情的になることがあるからな、感情の振れ幅による能力の増減を極端にすることを考えている」
蜘蛛特化にしない代わりに、蜘蛛が相手なら最大限効果のある制約を付けることは譲れないクラピカが決めた制約。
普段使いとしてはデメリットの方が大きいが、この制約を付けるのは複数作る予定の能力の一つだけであり蜘蛛以外でも強化されるため圧倒的に使いやすくなる。
「そして具現化する対象だが、それぞれに能力を持つ5つの鎖を具現化しようと思う。系統が判明したとき、朧気ながらそのビジョンが浮かんだのだ」
「鎖を具現化か?言っちゃあなんだが、もっと攻撃的なのを想像してたぜ」
相変わらずレオリオが疑問を投げかけるが、クラピカ以外全員思ったことでありクラピカの返答を待っている。
「当然の疑問だな。実は私自身予想外でな、6系統の話を最初に聞いた時は具現化系だったならば使い慣れている刀になると思っていた」
ハンター試験の前から使っているクルタ二刀流用の一対の刀を撫でながら、しかし一切の後悔を感じさせない決意のこもった態度で続ける。
「鎖が浮かんだときは蜘蛛を野放しに出来ない、繋ぎ止めなければいけない故だと思った。しかしこの一週間考えた結果、それがただの建前だということに気付いた」
刀から手を離し目を閉じるクラピカは、自分の心の中の一番奥にあった想いを感じていた。
「復讐のためだけならば、相応しいものは他にいくらでもある。わざわざ鎖を選んだのは、今の私がもっとも大事なものを繋ぎ止めていたいからだった」
目を開けたクラピカはゴン達一人一人と視線を合わせると、少し照れたようにはにかみながら自分の想いを口にする。
「私が繋ぎ止めておきたいのは、お前達との絆だ。東方には運命の相手とは赤い糸で結ばれるという伝承があるらしいが、私は糸などという頼りないものでは我慢できなかった。もっと強固な絆を欲した結果が鎖だったのだ」
クラピカの手からゴン達それぞれに伸びる鎖という名の絆が、うっすらとだが確かに見えたような気がした。
最後は真剣な表情で、万感の思いを込めて能力の名を告げる。
「
なお、自分だけクラピカから伸びる鎖が見えなかったヒソカ。
彼は4人と一頭のやり取りを似合わないきれいな笑顔で眺めながら、尊いと一人静かに呟いていた。