オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第20話 天空闘技場到着と新たな出会い

 皆さんこんにちは、ヒソカがいないと割とマジで空気が爽やかなことに驚いているゴン・フリークスです。

 いかな野蛮人の聖地とはいえ、野獣はさすがに管轄外だそうで仲間外れのギンがしょげてます。

 

 

 

 ゴン一行は数日間の移動を終えると、野蛮人の聖地と呼ばれ世界第4位の高さを誇るタワー天空闘技場へ到着した。

 周囲は闘技場の挑戦者や観戦する格闘ファンのための宿や道場といった施設で賑わい、毎日多くの人が訪れそして去って行く。

 ゴン達はそんな街並みの観光もそこそこに、朝も早い時間から天空闘技場の受付へと続く長蛇の列に並んでいた。

 基本的にガタイが良くむさ苦しい男達が並ぶため、完全に子供のゴンとキルアはもちろん長身だが細身のレオリオや純粋に線の細いクラピカも周囲の注目を悪い意味で集めていた。

 しかもクラピカは具現化の修行で軽くノイローゼ気味となり顔色が悪く、レオリオにいたってはファイトマネーの額を知って目がジェニーマークから戻らなくなったせいでより目立つ集団となっていた。

 

「クラピカとレオリオちゃんと聞いてたか?受付の記入欄には武術経験10年以上って書かないと上に行くのに時間かかるから間違えんなよ。あとレオリオは特に気を付けないと相手殺しちゃうからいい加減戻って来い」

 

 天空闘技場の経験者で現役暗殺者のキルアからの注意に、医者を目指し不要に人を傷付けたくないレオリオも流石に気合を入れ直す。

 クラピカも表情は暗いながらしっかりと受け答えはしており、少なくとも不覚を取ることだけはないと思われた。

 長年ギンと全力のぶつかり稽古をしていたせいで実は手加減が苦手なゴンも、キルアから極太の釘を刺されているがのんきにタワーを見上げて感嘆の声を上げている。

 経験者の性か半ば3人の保護者と化したキルアに先導され受付を済ませると、アナウンスされるまでの待機時間を他の参加者と共に待合室で待つ。

 

「そういや決めてなかったけどさ、もしオレ達がかち合ったらどうすんの?それと他に使える奴がいた場合使っていいのか?」

 

 当たり前の話だが、勝ち進んでいくほど人は少なくなるためゴン達が対戦する可能性も上がっていく。

 そして少ないながらも念の使い手とはいるもので、同時期に受付していれば対戦する機会もあるかもしれない。

 

「オレ達が当たったら使わないで勝負しようか、もし使える人が相手だったらその時は本人が判断するってことで」

 

「オッケー。なあなあ、誰が一番早く200階行けるか競争しようぜ。遅かった奴は罰ゲームってことにしてさ」

 

 キルアの提案は流石に却下されたが、不甲斐ない試合をした場合はその日の食事を奢るということに決まった。

 そして4人の中でレオリオが最初に呼ばれると、間を置かずに全員が呼ばれそれぞれのリングへと上がっていく。

 

 この日から数ヶ月間、天空闘技場は未だかつてない熱狂の渦に包まれることになるがまだ誰も気付いてはいなかった。

 

 

 

 ゴン達はなんの問題も見せ場もなく試合に勝利し、全員が50階へ行くように指示されると揃ってエレベーターへ乗っていた。

 ただしエレベーター内にはもう一人、ゴンやキルアと変わらない子供が同乗していて互いに何となく意識しあっていた。

 

「押忍!自分は心源流拳法のズシっす!皆さん先程の試合見事だったっす!色々教えてもらえないっすか?」

 

 エレベーターを降りたところで、もう一人の子供ズシがゴン達へと挨拶に来る。

 ズシのマネをして押忍と挨拶をするゴンとキルアに、3人を微笑ましそうに見ていたレオリオとクラピカが自己紹介を終えると待合室で談笑する。

 ズシはキルア以外の3人がプロハンターであり、全員が心源流拳法師範ネテロと面識があることに目を丸くすると一番気になっていたことを質問した。

 

「今の皆さんの纏とても見事っす、けど何で試合の時はやめてたっすか?こうやって向き合ってると、自分なんかとは比べ物にならないってよくわかるっす」

 

 その質問に対し修行の本番は200階からであることや、キルア以外の経験のためワザと縛りを設けていることを告げる。

 ズシは単純に自分と見ているところの違う4人を素直に尊敬し、それでも同じ位のゴンとキルアに隠しきれない対抗心を芽生えさせていた。

 

「すごいっす!皆さんさえ良ければ今度お手合わせ願えないっすか?今の自分がどこまで出来るのか知りたいっす!」

 

「いや、それを知るためにここに来たんじゃねえのか?まぁオレ達の目的も能力者との試合だし願ってもないんだが」

 

 ゴンとキルアと違い見た目相応に子供らしいズシにレオリオが対応していると、何とアナウンスでレオリオとズシの試合が通達される。

 

「じゃあズシはいつもどおりでレオリオは纏使わないで試合してもらおうかな。多分どっちにとってもいい経験になると思うよ」

 

 このゴンの提案が一波乱起こす原因となるのだが、この時それを予見できた者は誰もいなかった。

 

 

 

 天空闘技場ではお馴染みの、石版が並べられただけの簡素な四角いリング。

 リングには対戦するレオリオにズシ、そして審判の3人が上がっており今まさに開始の合図がされようとしていた。

 

『さあー!今回の対戦カードはレオリオ選手にズシ選手、共に1階を圧倒的強さで勝ち抜いた2人だー!!』

 

 何組も一度に勝負が行われていた1階と違い、50階までくれば観客はもちろん実況や賭けが当たり前の様に付いてくる。

 

『レオリオ選手はその細身からは想像出来ない怪力で相手を場外に投げ飛ばし、ズシ選手は見事なコンビネーションで何倍もの体格差を物ともせずにKO勝利を収めています!』

 

 実況が賭けを煽るように選手の簡単な経歴や戦闘スタイルを喋り、賭けのオッズが決まればいよいよ試合が開始される。

 

『賭けのオッズは1.5対3.0でレオリオ選手の有利となりました!ズシ選手は大穴となることができるのか!?試合開始です!!』

 

「試合開始!!」

 

 合図と共に動いたのはレオリオ、その場で受けて立つ構えのズシに駆け寄ると1階の時と同じように投げ飛ばすため襟を掴みに行く。

 しかし心源流を正しく学んでいるズシにしてみればあまりにもお粗末な動き、回し受けの要領でレオリオの手を弾くときれいな正拳突きを腹部へと叩き込む。

 

「クリーンヒット! 1ポイントズシ!!」

 

『おおーっと、まず先制したのはズシ選手だー!しかしレオリオ選手にほとんどダメージが見られません!これからどうなってしまうんだー!?』

 

 一撃を入れてすぐさま離れたズシと、ダメージは少ないながら警戒して追いすがることはしなかったレオリオ。

 

(まずいっす、レオリオさんは纏をしてないのに自分より力が強いから掴まれたら何も出来ないっす。なんとか打撃戦で優位に立たないと押し切られるっす)

 

(まじーな、これじゃどうあがいても掴めそうにねえ。正直子供を殴るのは勘弁だが、勝つためには打撃戦でいくしかねえか)

 

 お互い考えをまとめる一瞬の空白の後、大きく深呼吸したレオリオが再びズシへと迫る。

 そこからは激しい乱打戦となり、互いに相手の攻撃を防いでいたがレオリオが力尽くでズシのガードごと腹部へお返しの拳を入れたことでいったん距離が離れる。

 

『これは凄まじい攻防だー!50階の試合とは思えない白熱した勝負に会場のボルテージが上がっていくぅー!!しかしズシ選手は体格差の不利がいかんともしがたーい!』

 

(思った以上に一撃が重いっす、こうなったらあれをするしか)

 

 ズシは腰を落として独特な構えを取ると、レオリオから意識を外さないようにしながらオーラを練り上げていく。

 ズシが練か発を発動させようとしていると察したレオリオは阻止するために駆け出すが、

 

「ズシっ!!!」

 

「ヒッ」

 

「ぬぉ!?」

 

 観客席から響いた凄まじい声に思わず顔を向けると黒髪にメガネの一見冴えない男性が立ち上がっていた。

 レオリオは男性の見事な纏を少し観察した後、構え直したズシに向き直ると自分も構えて戦闘を再開した。

 

 その後の戦闘は終始レオリオが主導権を握るも、ズシの技量と本人の気質から攻めきることができず長い時間をかけて10ポイント先取のTKO勝利となった。

 最初は観客も盛り上がっていたのだが、時間が経つに連れ次第にいい年した大人(レオリオ)いたいけな子供(ズシ)を甚振っているように見えたことから徐々にレオリオにヘイトが溜まっていってしまう。

 結果レオリオは天空闘技場挑戦初日にして鬼畜グラサンに陰険ゴリラ、リョナリオ等の二つ名がつけられヒールレスラーのように一躍有名選手となってしまうのだった。

 

 

 

 一番早く試合が組まれながら一番遅く勝利したレオリオは、ゴン達を伴いズシとその師匠らしき男性のもとを訪れていた。

 レオリオ自身どうしても中途半端な手加減になってしまい、無駄に傷を負わせたことを非常に気に病んでいた。

 

「いえいえ、この程度の怪我など日常茶飯事です。むしろこちらとしてはズシにいい経験を積ませられたとお礼を言いたいくらいですよ」

 

 身だしなみがズボラなズシの師匠はウイングと名乗ると、先の試合内容を謝罪するレオリオに笑顔で対応した。

 むしろ若干の気まずさを滲ませ、ズシとエレベーター前で話していた時から人となりを観察していたことを告げる。

 

「皆さんの若さでそこまで念をおさめていることに驚いてしまいまして、問題無いのはなんとなくわかってはいたのですが我ながら慎重に過ぎました」

 

 しばしの謝罪合戦の後ゴンは少し込み入った話がしたいとウイングに持ちかけ、ウイングもそれならばと自分達が取っているホテルへとゴン達を招待した。

 

 

「単刀直入に言うと、オレ達に念の手ほどきをして欲しいんだ。今まではオーラ運用の基礎や応用だったからなんとかなったけど、系統別の修行とかはほとんど知らないから」

 

 ズシとウイングが滞在するホテルに付いて早々、ゴンは心源流師範代であるウイングに念の修行を依頼していた。

 もちろん心源流でないゴン達はこの天空闘技場でのファイトマネーから代金を支払うこと、医療系の発を開発中のレオリオがズシの治療を行うこと、そしてズシがよければ筋肉対話で身体能力を上げることを条件として付け加える。

 

「いやー、ゴンくんはその年でしっかりしていますね。指導料はほとんど取りませんので、皆さんもこのホテルに泊まりませんか?その方が指導時間も取れますしね」

 

 最終的にはズシへの筋肉対話の依頼と相殺するということで指導料は決まり、ゴン達も天空闘技場の宿舎からこのホテルに滞在することとなった。

 

「しかし本当にいいのだろうか?心源流の師範代ともなれば本来かなり高額な指導料を受け取るものではないのか」

 

 心源流拳法師範代という立場のウイングが直接指導するとなれば、実際千万単位の金額が動いてもまるで不思議ではない。

 のんきに儲けたなどと喜ぶレオリオやキルアを嗜めるクラピカに、ウイングは微笑みながら指導料を取らない理由を告げる。

 

「理由は2つあります。1つはゴンくんの筋肉対話にはそれだけの価値があるということ、そしてもう1つは私の師匠からの指示で一人でも多くの才能を育てるよう言い付けられているんです」

 

 そこでウイングは一度ゴン達とギンに視線をやると、自分に言い聞かせるように言葉に力を込める。

 

「皆さんの人柄、そして才能が素晴らしいのは確信しました。正直なところ私ではすぐ力不足になると思われますが、教えられることは出来る限り伝えさせて頂きますのでよろしくお願いしますね」

 

『押忍!』

 

「ぐま!」

 

 ウイングの言葉に年少組とギンは返事で、クラピカとレオリオは頭を下げることで答える。

 頷いたウイングは何やら驚いているズシに気付き、何か気になることでもあったのかと尋ねる。

 

「ずっと帽子だと思ってたのに生き物だったから驚いたっす!その子はゴンさんのペットすか?」

 

「ギンって名前でオレの相棒だよ。自分も天空闘技場で戦うつもりだったのにダメって言われてずっと拗ねてたんだ」

 

「へー、かわいいっすね!自分はズシっす、よろしくっす」

 

「ぐまー」

 

 ウイングはにこやかに握手をするズシとギンを見ながら、どうやら気付いていないズシに対して忠告する。

 

「可愛い見た目に騙されてはいけませんよ、ギンくんも念能力者でズシより圧倒的に強いですからね」

 

 その言葉で一瞬手を引っ込めるも、ズシは唖然としながら結局またギンに触る。

 

「マジすか、こんなにちっちゃいのに」

 

 驚くズシに同じ道を通ったキルア達が同意していると、視線を合わせたウイングにゴンが許可を出すように頷く。

 

「そもそもゴンくんとギンくんは本来の姿ではないようですからね、念能力者を見た目で判断してはいけませんよ」

 

 次の瞬間ビルドアップするゴンとギンに目を見開き声も出ないズシ、さらにキルア達も能力を聞いていないウイングが何故気付けたのかわからず驚いている。

 

「実は私の師匠が同じ様な能力を持っていまして、勘としか言えませんがわかる人にはわかるものです」

 

「師匠の能力言っちゃっていいのかよ」

 

 一応弟子の立場になったとはいえ、出会って1日目の相手に師匠の能力をバラすウイングに思わず突っ込むキルア。

 

「問題ありません。知られたところで不利になる能力でもなし、皆さんが悪用するとも思いませんしね」

 

 そしてまるで自分のことのように自慢げな顔で続ける。

 

「何より我が師、心源流師範ビスケット・クルーガーはただひたすらに強い。あの人の心配をするには、実力が足りていませんよ原石達」

 

 そしてゴン達は少ないながら荷物を取りに一度天空闘技場に戻り、宿舎でなくホテルに泊まることを告げると一部スタッフに残念がられた。

 

 

 

 ズシが纏の精度を上げる修行によく集中出来ているのを確認しながら、ウイングは今は居ない4人と一匹について思いを巡らせていた。

 まず驚くべきは肉体の完成度、全員が驚くほどバランス良く鍛え上げられており振り回されるどころか十全に使いこなしていた。

 次は基本的なオーラ運用の精度の高さ、少し見せてもらっただけで四大行はもちろん応用もかなりの練度だとわかった。

 そしてゴンとギンを除いた3人にいたっては精孔を開いてまだ一ヶ月強という恐ろしい才能、ズシもかなり才能溢れる有望株だが正直見劣りしてしまう程。

 しかしそれらがどうでも良くなるほど、ゴンから感じた修羅の片鱗がウイングの脳内を駆け巡っていた。

 

(冷静になってわかりましたが、私はズシと変わらない子供に張り合っていたのですね)

 

 普通ならありえない師匠の能力を勝手に教えるという暴挙は、ゴンの底知れなさに対する対抗心からのものだった。

 今戦えばほぼ間違いなく自分が勝つだろう、しかしビスケットを自慢した時に垣間見たオーラがその自信を蝕んでいく。

 

(もう枯れてしまったと思っていましたが、存外私も負けず嫌いが治っていないようです)

 

 ビスケットという最強格に師事していた故に見えてしまった自分の限界と、師範代の立場を得たことによる後進の育成という義務によって目を逸らしていた己の研鑽。

 燃え尽きていたとばかり思っていたウイングの強くなりたいという欲求が、ゴンという業火に煽られて再び燃え盛ろうとしていた。

 

(師範に報告することが増えましたね、とんでもない原石を4人と一匹見つけてしまったと)

 

 集中していたズシが思わず反応してしまうほど、ウイングのオーラは抑えきれない高揚感に揺らめいていた。

 

「…師匠が今握りつぶしてるジュースは自分が買ってきたやつっす。そんでその汚れたシャツとズボンを洗うのも自分なんすけど何か言うことないっすか?」

 

「え、うわぁ!?すいませんついやってしまいました!新しいジュースも用意しますから許してください!」

 

 服を汚してわたわたと慌てる姿には威厳も何も感じないが、心源流拳法師範代ウイングは間違いなく世界でも指折りの強者の一人なのだ。

 

 

 

 

 


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