皆さんこんにちは、明らかに原作より盛り上がってる天空闘技場が不思議なゴン・フリークスです。
いつバレるのかと思っていた頭の上のギンは、帽子ということで落ち着いてしまい外すに外せなくなりました。
ゴン一行の快進撃は留まることなく続いており、ゴン達が100階に上がる頃には全員にファンクラブと二つ名が付けられる事態となっていた。
レオリオは最初に付けられたリョナリオの二つ名もズシが勝ち上がるに連れて良い方向で認知されるようになり、今では昔ながらのプロレス等が好きだった層に熱狂的な支持を受けるまでになっていた。
もっともファンが多いクラピカはその端正な見た目とバランスの良い戦い方、そして陰のある表情から若い女性を中心に老若男女幅広く貴公子の二つ名で熱狂されている。
キルアは原作と同様に背後へ回って手刀一閃で勝ち上がり続けていて、そのスピードと猫の様な見た目からもじって銀豹の二つ名が付けられその小生意気さも愛されていた。
そしてゴンはというと原作と違い相手の攻撃を受けるか避けた後に腹パンで倒すということを続けていて、最初は腹パンマンなどと呼ばれていたが膝から崩れ落ちる対戦相手が跪いているように見えてきたことからいつしかキングの二つ名が付けられていた。
一説には4人のファンクラブ会長が同一人物という噂もあり、しかもフロアマスタークラスではないかと囁かれているが真実を知る者はいない。
そんな順風満帆な4人だったが天空闘技場の一つの壁とも言える100階において、4人の内2人が黒星になるという事態が発生してしまった。
最初の黒星はクラピカ、鎖と寝食を共にする生活に疲れ果てていた100階のリング上でついに鎖の具現化に成功してしまう。
ただ武器が解禁されてない階層で具現化してしまったことにより反則負けを言い渡され、ファンによる暴動が起こる寸前の大騒ぎとなってしまった。
しかし当の本人は鎖との生活から解放されたことを純粋に喜び、満面の笑みで次の試合に現れ多くのファンを悶絶させていた。
そして2人目の黒星はレオリオ、その日100階で組まれた対戦カードはレオリオvsキルア。
4人が有名になるほど議論が活発になっていた、誰が一番強いのかという疑問に1つ目の答えが与えられた試合だった。
『さあ今日の天空闘技場でもっとも熱い100階の試合、その中でもこれ以上ないほど注目度の高い一戦が今まさに始まろうとしています!!』
天空闘技場での観客の入は当たり前だが上の階に行くほど多くなり、下に行くに連れて物好きやお目当ての選手の追っかけ等が幅を利かせるようになる。
そんな中今の天空闘技場ではゴン達が戦う階層のチケットが大高騰しており、ダフ屋はもちろん立ち見の観客までいるという盛況さを誇っていた。
『先ずはこの選手、最初の不人気なんのその、ただ今人気急上昇!プロレスファンから愛される大味なスタイルが特徴のグラサン決めたナイスガイ!レオリオことリョナリオ選手だぁー!!』
「逆だ、逆!」
もはや恒例となりつつある実況からの煽りを受け、それでも大きな歓声に応えながらリングに上がるレオリオ。
まだまだ余裕で勝ち上がってはいるが対戦相手の格も上がっているため、試合時間は長くなってきている分対人戦の経験を多く積んで成長を続けていた。
『続いて登場は見た目に似合わぬ獰猛な銀豹!90階では首裏一閃を嫌い最初から背を向けるという奇策に出たホーア選手相手に、わざわざ一度正面にまわってからまた背後に回るという余裕を見せたスピードスター!小生意気な仕草がたまらないマスコット、キルアきゅんですぅー!!』
実況が個人的な趣向を剥き出しにするのを見て、彼女にウインクしながらリングに上がるキルア。
興奮でバグった実況がなんとか人の言葉を取り戻した頃には審判の注意や身体検査も終了し、後は開始の合図を待つだけの状態となっていた。
『んっん、取り乱してしまい大変失礼いたしました。それでは改めまして!本日の天空闘技場メインイベントと言っても過言ではない、レオリオ選手vsキルア選手まもなく試合開始です!!』
リング上で向かい合う2人は互いにこれといった緊張は見られず、そして油断も慢心もない理想的な精神状態だというのが傍目にもよくわかる。
「最近の組手は負けっぱなしだからな、ここらで泣かせてやるよキルアきゅん」
「きゃーリョナリオこわ~い。出来もしないこと言わない方がいいよ、後で恥ずかしくなるからね」
2人よりも緊張感漂う観客やスタッフをよそに、レオリオは構えキルアは軽くステップを踏む。
全ての準備が整ったのを確認した審判が身構えると、先程まで賑わっていたフロアに静寂が訪れる。
「試合開始!!」
審判の合図とともにフロアへ響き渡る轟音。
しかし殆どの観客が開始位置から動いていない両者と、拳を振り抜いた体勢のレオリオを見て何が起こったのか理解できていなかった。
「…クリーンヒット! 1ポイントキルア!」
しばしの逡巡の後に審判が告げた判定に、視認できていない観客からは困惑の声が上がる。
『謎の轟音がしたと思ったらキルア選手がポイントゲットだー!恥ずかしながら私は今何が起こったのか全く見えなかっ
「フフフ、なるほど大したものだ」
…誰だお前は!?』
女性実況スタッフの隣にいつの間にかいた長髪の濃ゆい男性、彼は不敵な笑みを浮かべるとマイクにギリギリ拾われるくらいの声量で話し出す。
「今の一瞬で2人の凄まじいレベルが垣間見えたよ。私としては銀豹が圧勝すると見ていたんだが、中々どうしてリョナリオも捨てたものではないな」
『(イラッ)おにーさんは今のやり取りが見えていたんですか?もし良ければ教えて頂けると助かるのですが』
「結果だけ見れば銀豹がリョナリオの腹部を殴り、返しの拳を避けて開始位置に戻っただけさ。しかしその中には多くの心理戦が
『あの一瞬でそんなことがあったなんて驚きです! この試合これからどうなってしまうんだぁー!?』
やれやれ」
試合開始から1秒にも満たない刹那の時間を全て見通せた者は会場全体のほんの一握りであり、一瞬の交錯で何を思い何を考えていたか分かるのは当人達だけである。
キルアは試合開始瞬間の極度の集中の中、細心の注意を払いながらレオリオの背後に回るフェイントを入れた。
キルアとレオリオの戦績は今の所9割以上キルアが取っているが、毎回油断出来ないどころか最近は純粋なパワーで上回ったレオリオに冷や汗をかかされている。
そのために今までの試合で貫いてきた背後に回る動きを捨てて挑んだのだが、正面から来たキルアに対してしっかりと攻撃を合わせてきた。
(ちっ、やっぱ引っかからないか)
レオリオは発の修行を始めてからというもの、どういう訳か相手の体の声が聞こえると言い出していた。
相手が次に取る動きや体の不調な部分、目に見えない怪我などを見るだけでおぼろげながら把握しだしたのだ。
ゴン曰く、感知できないくらいのオーラを飛ばしてその反響やらなんやらから無意識に知覚しているのではないかとのことだった。
(ま、反応出来ても意味無いけどね)
キルアはレオリオの攻撃が当たる前に腹部を殴ると、その反動も利用し何食わぬ顔で開始位置へと戻る。
空振った拳は当たれば無事ではすまないが、当たらなければどうということはないのだ。
(今回も全部避けて圧勝してやるよ)
余裕の表情を浮かべるキルアだったが、その背中を冷たい汗が流れるのを止めることはできなかった。
キルアに早くもポイントを取られたレオリオだが、殴られたダメージは少ない上に精神的な乱れも殆ど無かった。
何故なら普段の組手からこうなることは分かりきっており、後はどれだけキルアの意表を突けるかが勝敗を左右すると理解しているのだ。
(まずキルアに気持ちよく攻めさせちゃいけねぇ、さっきみてえに単発で終わらせる。そんで何とかしてオレの土俵に引き摺り込む)
キルアを見れば余裕からか警戒しているのか、すぐに攻めてくる様子は見られない。
観客達の歓声も気にならない集中の中、レオリオは作戦を決めると構えを解きおもむろに歩き出した。
『おーっとレオリオ選手、まるで散歩でもするかのようにキルア選手目掛けて歩き出した!?それを受けてかキルア選手も構えを解いて棒立ち状態、一体何が起ころうとしているんだ!?』
「なるほど、速さで追い付けないリョナリオはあえて歩くことで銀豹にカウンターを押し付けたな」
『カウンターを押し付けたとは一体どういうことです?』
「最初の一撃はリョナリオがカウンターを取りかけた、ゆっくり歩いてる以上銀豹はカウンターを警戒しなければならずそれだとダメージを与えることが難しい。ならば銀豹自身がカウンターを狙うことでこの試合に決着を付けようということだろう、あれは棒立ちではなく無の構えとも言える高等技術だ。しかし互いに言葉も無く示し合わ
『どうやら先程とは逆にキルア選手がカウンターで試合を決しようとしているようです!これからは瞬き厳禁だー!』
せた様はまるで美しい舞踏を見ているようだ」
観客が固唾を呑んで見守る中キルアとレオリオの距離が刻一刻と近付いていく、一足で届く距離からやがて手をのばせば届く距離までくると会場全体が緊張感に包まれる。
そしてついにレオリオはキルアを見下ろすほど近付くと、こちらも構えもせずにただ立ち止まる。
「お互いに制空圏に入りながら動かないとは、いよいよ終わりが近いな」
『恐ろしい緊張感です!一体何が起こるんだー!?』
誰もがこれから壮絶な攻防が行われると確信する中、まるで戦意の無い握手するかのようにゆっくり伸ばされたレオリオの左手がキルアの右手を鷲掴みにした。
『な、何ということだ、圧倒的に速いはずのキルア選手をレオリオ選手が捕まえてしまったー!私でも避けられそうな遅い動きだったのに何故!?』
「驚いたな、まさに無策の策と言うべき作戦。一発で全て終わらせることが出来るからこそ警戒される攻撃をあえて捨てることで意識の外を突いた!こうなってしまえば体格で勝るリョナリオが一気に試合を
『キルアきゅん負けないで!そんなゴリラ叩きのめしてー!!』
…」
キルアの右手を掴むことに成功したレオリオは、大粒の汗をかきながらも集中を途切れさせることなくキルアを注視し続けていた。
無抵抗で近付いたために精神的な疲労はピークであり、今にも出そうになる一息を無理矢理噛み殺しながら体に力を込めていく。
(これなら避けるのも限界があんだろ、なんとしてもここでぶち込む!)
掴まれたにもかかわらず変わらぬ表情で見上げてくるキルアに薄ら寒いものを感じながらも、この手は絶対に離さないと決意するレオリオ。
(いくぜ、ここで勝ちゃあ大金星よ)
改めてキルアの右手を万力の如き力で握り締めたレオリオは、その手を掴んだまま糸の切れた人形のように膝から崩れリングにキスをした。
『…え?』
一切の音がなくなった会場で、突如吹き出した汗を拭いもせずに荒い呼吸を繰り返すキルア。
未だ離さないレオリオの手をキルアが苦労して外すと同時に、やっと我に返った審判が高々と終了宣言を告げる。
「レオリオKO! 勝者キルア!!」
審判の言葉で止まっていた時が動き出し、会場が割れんばかりの大歓声で埋め尽くされる。
『決着!決着です!!また何一つ見ることはできませんでしたがキルアきゅんの大勝利ですやったー!!』
「なんてことだ、あの年でアレを出来る者が存在するのか!」
『見えていたんですかロン毛!?』
「人は何か行動する時、必ず意識と動きにタイムラグがある。思ってから動くまでに刹那の空白があるのだ、すなわちその空白を見切れば無意識の相手を一方的に攻撃できる!」
『だから何があったかさっさと言え!』
「リョナリオは攻撃しようとしたはずだ、銀豹はその空白を突いて顎に意識の外からの攻撃をやり返したのだ。先の先と言われる本来あんな子供が出来ていい技術ではないが、銀豹の名に恥じないまさに神速と言ったところか」
大歓声の中でもよく聞こえる実況と解説でさらに興奮する観客達は、試合の余韻に浸りながら生で観戦できた幸運を噛み締めていた。
『試合時間こそ短かったですが歴史に残ること間違いなしですね、勝利したキルア選手と健闘したレオリオ選手に盛大な拍手をお願いします!やっぱりキルアきゅんはサイコーなんだなって!!』
大興奮が続く会場の片隅で、実況の言葉に深く頷く200階闘士がいたとかいないとか。
夜も更けた天空闘技場近場のホテルで、今日もまたズシの悲鳴をBGMにゴン達は反省会を開いていた。
最近はウイングという最高クラスの指導者もいることで、より具体化された課題等が提示され成長に拍車がかかっている。
もっともこの日は鎖から解放されたクラピカが早々にダウンしたため、いつもよりは軽い雑談と変わらないものだった。
「しかし皆さんには何度驚かされればいいんですかね、クラピカくんの具現化する早さもそうですがキルアくんとレオリオくんの試合は実に見事でした。正直あれほどの試合は心源流の道場でもなかなか見られませんよ」
ウイングからの称賛に照れるレオリオと憮然とするキルア。
まるで勝敗が逆のようだが実際やりたいことが出来たのはレオリオであり、キルアは状況からやむなく取った手段が偶々成功したに過ぎず素直に喜べていなかった。
「キルアくんはアレを成功させたことにもっと自信を持っていいんですよ?実戦で先の先を取るなんて私でもほぼ不可能なんですから」
「そうだそうだ、勝てるかもって思ったオレの期待をぶち壊しやがって」
髪をかき回してくるレオリオにされるがままのキルアは、大きくため息を吐くと素直に喜べない理由を口にする。
「あれはレオリオに掴まれてたから出来たんだよ。能力が発動した感覚があったから間違いない、つまりはズルしたってこと」
掴まれた時点で自分の負けだと悔しそうに言るキルアだったが、キョトンとしたレオリオに反論される。
「禁止してたのは纏だけだから問題無いだろ?オレも無意識で能力使ってる疑惑あるしお互い様だ。勝者がうじうじしてたら敗者も面白くねえんだからもっと堂々としろって銀豹さんよ」
笑って背中をバシバシ叩いてくるレオリオにキルアが反撃をしていると、ズシへの筋肉対話を終えたゴンが合流してくる。
「じゃあ後はレオリオお願い。いつもより下半身強めにしたからよろしくね」
試合後よりボロボロになったレオリオがズシの回復に向かうと、自分とズシをオーラで囲い治癒力を強化させながらマッサージを行う。
凄まじい早さで鎖を具現化させたクラピカに、もはや普通の医者では太刀打ち出来ないレベルの治療を施せるレオリオ。
キルアの電気も既にスタンガン程度の出力なら問題なく発生させられる上に、無意識に近いとはいえ応用と言える使い方までやってのけた。
しかし何よりウイングが恐ろしく感じているのは、ここにきてのゴンの成長率である。
今までは鍛錬相手の都合で力任せの戦い方しか出来ていなかったゴンだが、心源流の師範代ウイングのしっかりと体系化された武術に触れることで不足していた技術を筋肉対話により力尽くで吸収していた。
(あの身体能力と発に技術が追い付いてしまえば、もはや正攻法で止められる存在はいなくなるのでは?)
キルアと朗らかに談笑するゴンを見つめながら、ウイングは1つの決断をする。
(私が伝えられることがなくなり次第、師匠にゴンくんの引き継ぎをお願いしましょう。彼ならばいつかネテロ会長をも超える最強の体現者となれる!)
マッサージを終えたレオリオも含めてもう休むように3人を帰すと、ウイングは遅い時間ながら携帯電話をかける。
『こんな時間になにさ、あんたから連絡寄越すなんて随分久しぶりだわね』
普通に眠そうにしながらも横着せずに出てくれた師に謝罪すると、雑談もそこそこに用件を告げる。
「実は今臨時の弟子を4人と一匹ほど面倒見てまして、師匠にその報告とお願いがあってかけさせて頂きました」
『へえー、あんたが臨時にしかも大人数の弟子を取るなんてよっぽどね。けど手伝って欲しいとかだったらお断りよ、しばらくは仕事中だしあたしもそこまで暇じゃないわさ』
相変わらずそうな師匠に苦笑いを浮かべるウイングは、近いながらも意味合いが違うお願いを伝える。
「手伝いは結構なんですが、9月過ぎに彼等の修行を引き継いで欲しいんです。全員が類稀な才能の持ち主で、特に一人は私の身には余りそうでして」
遠くない未来師匠やネテロ会長を超えると告げれば、受話器越しでもわかる程度には興味を引けたと確信する。
『…確約はできないけど一応頭に入れとくわさ。名前だけでも聞いとこうかね』
4人と一匹の名前を告げればクルタ族にゾルディック家にフリークス、しまいにはキツネグマとあまりに個性的すぎるメンバーに師の大きな笑い声が聞こえてくる。
『そんな奴等の面倒見るなんて本当にらしくないわさウイング。そんな弟子に免じてタイミングさえ合えば引き継いであげる、このビスケット・クルーガー様がね』
自信満々に告げるその声は、世界最強の一角に足る溢れんばかりの覇気に満ちていた。