オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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 お久しぶりです作者です。
 リアルが多忙で更新が滞りまして申し訳ありませんでした。だいぶ落ち着いてきたので少しは早めに更新出来るようにがんばります。

 更新止まってる間も誤字脱字報告や感想をくれる方はもちろん読んでくださった皆様に感謝を。これからもうちのゴン共々よろしくおねがいします。



第22話 ピエロの再来と200階の洗礼

 

 皆さんこんにちは、レオリオの能力と相性が良かったのか明らかにムキムキになったズシにやっちまった感がすごいゴン・フリークスです。

 ズシは念に関して原作通りでも、自分達とほとんど同じタイミングで200階に到達しそうです。

 

 

 

 ゴン一行は天空闘技場の計らいなのか、黒星の付いたレオリオとクラピカも含め全員同じ日に200階に到達した。

 結局100階以降ゴン達同士が試合を組まれることはなく、それぞれ余裕を持って勝ち進めたのは修行的に見て良かったのか悪かったのか。

 もっともヒソカがいない代わりにズシとウイングという体系化された技術を持つ組手の相手がいたため、キルア以外の面々は基礎技術がかなり大きく成長している。

 そしてゴン達に追い付けなかったことを悔しがるズシを残し、4人と一匹は200階の受付のある階層へエレベーターで向かっていた。

 4人のファンだと興奮するエレベーターガールから200階以降のルール説明を受け、まるで違う仕様に混乱しながらもなんとか把握していく。

 そして何故かエレベーターから降りた後も案内を続けるエレベーターガールに付いて行けば、受付手前の廊下の先に一人の奇術師が待ち受けていた。

 

「200階へようこそ、君達なら直ぐに上がってくるとは思ってたけど予想以上だよ♥」

 

 そこにいたのは相変わらずピエロの様な格好とメイクをした男、粘ついた禍々しいオーラを垂れ流すヒソカが立ちふさがった。 

 

()()()()()()()()だけど4人とも素晴らしい成長だ♥ゴンも伸びてるってことは良い師に巡り会えたのかな♠」

 

 漏れ出ていた殺気に警戒はしても萎縮しないゴン達に笑みを浮かべると、ヒソカは滾るオーラを抑えて踵を返す。

 

「とりあえず何回か戦ってみてルールに慣れるといい、君達とヤル時を楽しみに待ってる♥」

 

 廊下の先に消えるヒソカを見送ると、ゴン達は受付で200階闘士の登録をして滞在するホテルへと戻って行った。

 

 

 

「明日はズシも連れて見に行きますので、皆さん油断せずしっかりと初戦を白星で飾りましょう」

 

 ホテルに戻ってきたゴン達は早々に明日の試合を組まれ、それぞれがぱっとしない戦績の所謂初心者狩りが対戦相手と決まった。

 200階の闘士を軽く調べていたウイングも、修行の名目で対戦相手の発こそ教えなかったが実力的に問題にならないと太鼓判を押す。

 

「実際ウイングから見て200階以降の実力ってどんな感じなの?今の所ヒソカくらいしか相手になる奴見てないんだけど」

 

 ベッドでゴロゴロしながら対戦相手への不満を隠さないキルアに苦笑いを浮かべたウイングは、自分がいくらか見た限りという前置きをして見解を述べる。

 

「治療に重きを置いたレオリオくんは別として、正直に言えば強者はフロアマスターを含めてもごく一握りでしょう。キルアくんレベルとなると片手でも十分数えられます」

 

 その言葉に機嫌の良いような張り合いのないような微妙な表情のキルアだったが、続くウイングの意見には露骨に顔を顰めた。

 

「逆にその片手で数えられる闘士は全員が格上だと認識して下さい。特に皆さんが戦う可能性がある中ではヒソカとカストロの2人が要注意となります」

 

「ふむ、ヒソカのことは我々もある程度の情報はあるがそのカストロとはどのような闘士なのだろうか?」

 

 クラピカの質問に少し考え情報をまとめたウイングは、カストロの説明として虎咬拳を使うおそらくは強化系の闘士だと述べる。

 

「戦績は200階の初戦でヒソカに負けたのみの9勝1敗、それも発を一切使わず勝利しているところを見ると地力はかなり高い。私の見立てではキルアくんでも勝てるか怪しいと見ています」 

 

「じゃあ無視していいんじゃね?本人の性格は知らないけどヒソカにリベンジするかさっさとフロアマスターになるっしょ」

 

 勝てるか怪しいと言われて気に入らないキルアも、わざわざケンカを売るほどでもないと早々に頭からカストロを追い出す。

 その後ゴン達は初戦ということもあり、軽い調整をするとウイングと別れ自室へと帰っていくのだった。

 

 

 節約のため4人一緒の大部屋に滞在するゴン達は、順に入浴を済ませると寝るまで短いながら雑談するのがここ最近の日課となっていた。

 普段なら明日の試合やその日の修行について話すのだが、この日はそれ以上に遭遇したヒソカの話題が中心となっていた。

 

「しっかしクラピカの裁定する者の鎖(ルーリングチェーン)完璧だったじゃん。ヒソカの奴ウチでの修行全然覚えてねぇし、後はどのタイミングで思い出すかだけだな」

 

「効果の高さには私自身驚いている。恐らくヒソカが私の中で蜘蛛としてカウントされているのだろう、あの時は鎖も具現化できない絶対時間(エンペラータイム)のゴリ押しだったのだがな」

 

 ヒソカと別れてククルーマウンテンを旅立つ直前、クラピカはまだ未完成のルーリングチェーンを使用していた。

 初使用ということとヒソカとの実力差から不安もあったが、問題なく試験後からの記憶を封印して天空闘技場へ向かわせるという行動を取らせることが出来た。

 ヒソカ自身に抵抗する意志がなかったのも大きな要因だが、クラピカも鎖を具現化し日々成長している以上ルーリングチェーンについては心配いらないだろう。

 

「ヒソカが記憶を思い出す合言葉は“変態ピエロ”で良いとして、それ以外にもなんかあったよな?」

 

「幻影旅団について新しい情報を手に入れたらだよ、少しは覚えとけよレオリオ」

 

 相変わらず仲良くじゃれるキルアとレオリオを尻目に、ゴンは明日の試合についてクラピカに質問する。

 

「クラピカは鎖を常に具現化する方向でいくんだよね、明日使うのはやっぱり導く者の鎖(ガイドチェーン)?」

 

「一応強大な者の鎖(タイタンチェーン)も試してみるつもりだ。思い入れのない相手でどれほど弱体化するかのチェックもかねてな」

 

 発のチェックをかねるクラピカに対して、キルアやレオリオはとりあえず発を使わずにオーラの運用だけで戦うことを宣言する。他人に知られても挽回がきく能力とはいえ、知られないにこしたことはないのだ。

 その後いくつかの雑談を挟みながらも、4人はいつもよりかなり早く就寝して試合に備えるのだった。

 

 

 

 迎えた翌日、ゴン達4人の200階初めての試合はルーキー対初心者狩りにも関わらず満員御礼で凄まじい盛り上がりを見せていた。

 200階以下の試合とは違い、試合間隔が空きやすいことや凄惨な決着が多いことで余程の好カードかフロアマスターの試合でもなければここまでの盛り上がりは普通ありえない。

 しかしこの日は情報屋のタレコミから多くの観客が会場に集まり、ゴン達の試合を今か今かと待ち構えていた。

 

 そして闘士の控室では、今までのキャリアで経験したことのない盛り上がりに早くも心の折れかけた者達がいた。

 両足が無く一本の義足で体を支えるギド、左腕の無い能面のような顔をしたサダソ、車椅子に座る線の細いリールベルト、顔の右半分が崩壊している筋骨隆々のゴードン。

 

「なあ、オレ達ひょっとしてとんでもないことしちゃったんじゃないか?」

 

「いやいやいくらつよいといってもせんれいからはのがれられないだいじょうぶだいじょうぶ」

 

「もう駄目だ、おしまいだぁ」

 

 今にも卒倒しそうなほど取り乱す3人に対し、リーダー格のゴードンだけは戦意を滾らせていた。

 

「お前ら少しは落ち着け! いつもどおりルーキーをシバくだけの簡単な試合じゃねーか!」

 

 ギドはクラピカ、サダソはキルア、リールベルトはレオリオ、ゴードンはゴンとの試合を組まれており、ゴードンはこの試合に勝てば10勝を迎える大事な試合だった。

 

「確かに奴等はルーキーにしては強い、だが戦闘中に纏が出来なくなる程度なら問題ねーよ!変にいたぶろうとしないで速攻片付けりゃいいんだ!」

 

 計らずも同時期に洗礼を受けたことで奇妙な連帯感の生まれた4人は、時にルーキーを取り合い時には互いに試合を組むことで200階という魔境になんとか食らいついてきた。

 

「俺達はフロアマスターになる!そのためにここまできたんだ、いい加減に腹括りやがれ!」

 

 その後もゴードンが発破をかけ続けたおかげで、何とか気を持ち直した3人は空元気にも見える明るさを取り戻し改めて自分達の勝利を誓い合う。

 しかし一番手で会場に向かうギドは、マスクの下で溢れる冷や汗を最後まで止めることが出来なかった。

 

 

『さぁさぁ会場に集まった格闘ファンの皆様、遂に我々が待ち望んだ試合が始まろうとしています!!』

 

 ゴン達への贔屓を一切隠さないことで逆に専属の座をゲットした女性スタッフは、今日も人生最高潮で活き活きと実況に勤しんでいた。レオリオ以外ファンクラブ会員二桁メンバーの肩書から、早口で説明されるゴン達のプロフィールは天空闘技場で知ることのできる限界まで網羅している。

 

『それでは一人目に登場してもらいましょう、4人の中で人気No.1!100階で見せた鎖に縛られたいファン急増中の正統派イケメン、貴公子クラピカの入場だー!!』

 

『彼は攻守共にバランスの良い闘士だ。その分突出した所が無い印象だが、この200階でどのような戦いを見せてくれるか非常に興味深い』

 

『続きまして貴公子に二つ目の黒星を刻むことができるのか、不気味な佇まいとパッとしない戦績のギド選手入場です!』

 

『中々トリッキーな戦法を使う点では面白いが、いかんせん決定力や対応力に難がある。残念だが何かきっかけが無ければ消えてしまう闘士だろう』

 

『まるで解説者のように振る舞う謎のロン毛は置いておきまして、注目の試合がいよいよスタートです!』

 

 

 

 開始の合図を聞きながら、クラピカは凝を用いて静かにギドを観察していた。洗礼を受けて五体不満足になっているとはいえ、それでも念に目覚めて生き残ったという事実は決して油断出来ないと考えている。

 

(…なるほど、相手が未知の念能力者というだけでここまで厄介になるのか。見るからに機動力は無さそうだが、それをどうやって補っているのか)

 

 もともと考えてから行動するタイプのクラピカは、必然的に相手の出方を伺うことが多くなる。それは決して悪いわけではないが、精神的に追い詰められていたギドにとってはいい方に転がった。

 

「ちくしょうやってやる、そのキレイな面ボコボコにしてやるぜ!舞踏独楽からの戦闘円舞曲(戦いのワルツ)!!」

 

『出たー!ギド選手の十八番舞踏独楽、見た目は普通のコマですが一つ一つが大の大人を昏倒させる威力を持っています!今日は大盤振る舞いかいつもより数が多いぞ!?』

 

 ギドがばら撒いた大量のオーラを纏ったコマは、互いにぶつかり合いながら不規則な軌道でクラピカを襲う。最初は余裕を持って躱していたが、徐々に範囲を狭めるコマにやがて追い詰められていく。

 悲鳴を上げるファンと実況を他所にクラピカは変わらず凝での観察を続け、コマの動きの規則性やおおよその威力はもちろん追加効果も無い純粋な物理攻撃だと看破した。

 

(この程度ならば不要な警戒だったか、ウイングさんの言うとおり大した相手ではない)

 

 クルタ族特有のゆったりした袖口から垂らした一本の鎖にオーラを込め、その名を口にすることで想いも込める。

 

導く者の鎖(ガイドチェーン)

 

 静かに呟いた直後、今まさに殺到するはずだった大量のコマが一つ残らず破壊あるいは場外へと弾き出される。

 オーラを込められた鎖は凄まじい速さと最良最短の動きでコマを迎撃しており、全てを見切れたのは片手で数えられる真の強者のみだった。

 

『一体何が起きたというのでしょうか!?気付けばリング上にコマは一つも残っておらずクラピカ選手も無傷で佇んでいます!』

 

『あの鎖が全てのコマを弾いたのさ、惚れ惚れする程の美しい軌道はまさに計算され尽くした無駄のない動きだった』

 

 ヒートアップする会場とは逆に、己の攻撃手段を一瞬で粉砕されたギドは無傷ながらほぼ満身創痍の心境だった。もはやコマも所持しておらず、リングの外で虚しく回るコマもどこかしら破損しているのが感覚的にわかっていた。

 

「無意味に痛めつける趣味は無い、降参をお勧めする」

 

 圧倒的強者の余裕をまざまざと見せ付けられたギドは、しかし逆に開き直って恐怖と羞恥を怒りへと変える。折れる寸前に燃え上がった心は、普段のギドでは考えられない澄んだオーラを噴出させる。

 

「こうなったら時間切れでも狙わせてもらうぜ、竜巻独楽!」

 

『出たー!ギド選手の最終手段竜巻独楽!自分が高速回転することであらゆる攻撃を弾き飛ばします!!』

 

『ギド選手はもともと回転運動でもある化勁を修めていただけあってあの手の動きに精通しているのだろう、滑稽に見えて中々侮れない技だ』

 

 観客が思っていた以上に抵抗を見せるギドだったが、クラピカからすればいくらでも対応可能な欠陥だらけの技にしか見えなかった。そして実現可能な手札の中から、あえて失敗する確率の高い方法を選択する。

 ガイドチェーンとは別の一回り太い鎖を新たに取り出し、高速回転するギドを囲む様に展開すると最後は力強く引き絞ることで一気に締め上げる。

 

強大な者の鎖(タイタンチェーン)

 

「うおー!?」

 

 ギド含め会場中が決着かと息を呑んだ瞬間、甲高い音と共にクラピカの鎖が粉々に砕け散った。

 使用する相手への感情の強さで能力の振れ幅が大きいタイタンチェーンは、キルアとレオリオでは捕まった時点で一切の身動きを押さえ付けられる。たとえゴンでさえも本来の姿に戻らなければ身動きが取れず、本気で千切ろうとした場合でもギリギリで切断出ないほどに硬い。しかしギドの様にクラピカにとってなんの興味も無い相手に対しては、ガラス細工にすら劣る程の脆弱性を発揮した。

 誰もが困惑で静まりかえる中、実験結果に満足したクラピカは改めてガイドチェーンを取り出すと変わらず回り続けていたギドへと繰り出す。

 

「え?」

 

 ガイドチェーンは恐ろしい程緻密な力加減でギド渾身の竜巻独楽を縛り付け、拍子抜けするほど静かにその回転を押さえ付けた。

 

「もう一度だけ聞こう、降参するか?」

 

「あっはい、降参します」

 

 試合中にも関わらずまるで自室にいる時のように自然体なクラピカに改めて戦慄したギドは、惨敗と言える結果ながらも何故か大切なものを思い出していた。自分がまだ流派を学びだした頃の何処までも強くなれるという向上心と、何度も経験した挫折に無理矢理抗う反骨心。

 審判と実況が告げる決着を聞きながら、早くも退場しようとするその背中に疑問をぶつける。

 

「なあ、あんたも挫折しそうになったりするのか?」

 

 答えは期待していなかったが、歩みを止めたクラピカは少しも考える素振りを見せずに断言する。

 

「毎日挫折の繰り返しさ、私の目指す強さはあまりにも高く遠い。だがどれだけ立ち止まりそうになっても、無理矢理引き摺っていく親友達に恵まれた」

 

 クラピカは顔だけ振り返ると、ファンは疎かギドすら見惚れる微笑みを浮かべる。

 

「まだ自分の強さを誇ることは出来ないが、親友達なら世界中に自慢出来る私の誇りさ」

 

 今度こそ止まらずに去っていく眩しい姿を見つめながら、洗礼以降疎かにしていた流派の鍛錬を含め修行し直すことを心に誓った。

 

 

 

 クラピカの試合で最高潮に盛り上がっていた天空闘技場だったが、キルアとレオリオの試合は会場が盛り下がる程呆気なく勝負が付いてしまった。

 キルア対サダソ戦ではサダソが発である不可視の腕(インビジブルハンド)で先手を取るも、念に目覚めていれば凝すら使わずに視認できるオーラの腕にキルアが不覚を取るはずも無い。結果サダソは10秒と持たずに昏倒させられ、キルア推しの実況すら物足りない試合となってしまった。

 レオリオ対リールベルト戦は開始早々リールベルトが2本の鞭による双頭の蛇による二重唱(ソングオブディフェンス)で身を守ろうとするも、特に衝撃波が飛んでいくわけでもなくオーラが大して込められていない技ではどうにもならない。練でオーラを増したレオリオが特攻を仕掛け、サダソ戦同様リールベルトも10秒持たずに敗北した。

 

 

 初心者狩りのメンバーが集まる控室では、今にも死にそうなサダソとリールベルトの2人に希望に満ちたギドとはっきり明暗が別れていた。そして沈む2人を負けたにも関わらず励ますギドを見るゴードンは、今回のゴン達の快進撃で天空闘技場が変わるかもしれないという期待を抱いていた。

 洗礼によって顔の右半分が崩壊しているゴードンは自分と同時期に洗礼を受けた3人を誘い初心者狩りを始めたが、全ては200階に上がってくる念に目覚めていないルーキーを思ってのことだった。

 近年の天空闘技場では勝つことこそが全てという闘士が増えており、特に200階の闘士はフロアマスターという目的のためより顕著な傾向にある。上がってきたばかりのルーキーをあえて再起不能にするのは当たり前で、ライバルであれば試合中の事故を装って始末することも平気で行われている。

 ルールで禁止されてはいないためゴードンも文句は言えないが、だからといって自己鍛錬以上に相手を害することへ心血を注ぐようでは全体の質の低下を避けることはできないと憂慮していた。

 

(まさか一番きつい洗礼を受けたギドが変わると思わなかったが、それだけ彼らの影響力が強いということ。血生臭いだけだった天空闘技場に、爽やかだが鮮烈な空気が満ちてきている!)

 

 本人としては希望に満ちた優しい微笑みだが、他人が見たら舌舐めずりする獄卒以上の凶相を浮かべるゴードン。見た目で損をする体も心も大きな闘士は、初心者狩りを始めてから初めての格上への挑戦に戦意をこれでもかと滾らせる。

 

「おぅお前ら、俺とキングの試合をよく見とけ、きっと天空闘技場が変わる瞬間を見れるはずだ。モニター越しじゃなく生の空気を感じてこい」

 

 どう見ても悪人なゴードンの纏う空気が清廉な武闘家だということに、己も武闘家としての心を取り戻したギドは今更ながら気づいた。同時に今までの言動や行動がどんな考えの下行われていたのか、色々なことと一人戦い続けていたリーダーの望みが叶う時がきたのだとわかった。

 

「…ゴードン、やっとあんたのことを知ることが出来たんだと思う。いらぬお節介だとわかっちゃいるが言わせてくれ、武運を祈る!」

 

 ゴードンは返事をその背中と迸るオーラで済ませると、静かに控室を出てリングへと向かった。

 

 

 

『ついに長いようで短い試合が終わり今日のメインイベントがやってきました!まずリングに上がるのはここまで9勝でフロアマスターへ後一歩に迫る男、力と合気の融合を果たしたベテラン闘士ゴードンだー!!』

 

『大柄な体躯と発達した筋肉に目が行くが、驚くべきはその力を完全に扱うことの出来る器用さと言える。相手の力を利用するだけでなく自分から崩しにいけるのは間違いなく強い』

 

『そして来ました!小さなその体のどこにあれだけの力が隠されているのかここまで全試合KO!対戦相手全てを跪かせてきた毛皮の帽子がチャーミングな暴君!“キング”ゴンだー!!』

 

『ここまで底の知れない選手も珍しい、戦闘スタイルはもちろん実力の一切が不明で分かるのは力が強いことくらい。だが一番恐ろしいのは彼がキングと呼ばれていることに誰も文句を言わないことだ、この天空闘技場で彼に表立って刃向かう闘士がいないということだからな』

 

 実況達の話を耳にしながら、ゴンの眼前に立つゴードンは純粋な敬意を抱いていた。念において我流の自分とは比べるべくもない静かで重い纏、そして足音や筋肉の動きから分かる尋常じゃない体重を感じさせない身のこなし。

 

(間違いなく我が人生最強の相手、どれだけ持ち堪えることができるか)

 

 ゴードンは洗礼で見た目こそ醜悪になったが、ギド達と違いリハビリや戦闘スタイルの変更も必要無かった。しかも他人を蹴落とすのではなく真っ当に自己鍛錬を積んだため、初心者狩りと貶されているがその実力はフロアマスターと遜色ない。

 

(力はこちらの方が上なのか?少なくともリーチは勝っている、ならば距離を取って先ずは主導権を握ればどうにか)

 

「それじゃ駄目だよ」

 

「…なに?」

 

「勝てない勝負はもちろんある、だけど勝つのを諦めていい勝負は絶対に無い」

 

 今まさに勝つためでなく時間を稼ぐ戦いを考えていたゴードンはその事実に愕然とし、知らないうちに弱気になっていたことを恥じると大きく深呼吸する。

 

「ゴードンさんが何を見てるのかは分からないけど、きっと長く試合をするより短くても全力の試合をするべきだよ。正直期待してなかったんだけど、今はあなたと戦うのを楽しみにしてる」

 

 武闘家としての心が奮い立つのを自覚しながら、好戦的な笑みを浮かべるゴンにゴードンも笑みを返す。胸を借りるつもりで、しかし勝利を諦めずに普段以上のオーラをその身から絞り出す。

 

「試合開始!」

 

 審判の合図と同時に、ゴードンの顔にゴンの拳が突き刺さった。

 

 

 




 

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