オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第23話 合気vs筋肉と訪問者

 

 皆さんこんにちは、ギンの食費で天空闘技場のファイトマネーがガンガン削れてるゴン・フリークスです。やっぱり小さくなってるのはストレスみたいなんで、今度外に行って思いっきり相撲でもしようと思います。

 

 

 

 観客は凄まじい音に驚くより先に、リング上で起こった予想外の出来事に驚愕した。

 開始と同時に距離を詰めて殴りかかったゴンが、その力を利用されて強かにリングへと投げ落とされたのだ。顔を殴るために飛び上がっていたことが災いし、ゴードンがダメージを受けながらもギリギリで受け流せた力と合わさった投げは抵抗出来ずに小さなクレーターを作り出している。

 

(っ!間に合った、我ながら会心の出来!)

 

 クレーターを作るだけでは収まらずバウンドして吹き飛ぶゴンに残心を崩さず、受け流すのが間に合わなかったダメージの回復に努める。多少のダメージは残るがあまりある成果を得られたと気が緩みかけたゴードンだったが、リングの端に軽やかに着地したゴンに気を引き締め直す。

 

(あれでダメージが無いのか!?フロアマスターでも確実に仕留められる威力のはずだが、何らかの能力による防御か?)

 

(ものすごく丁寧な投げだった、合気に関して言えばウイングさん以上かも。それに殴った感じ違和感がある)

 

 回復と出方を伺うゴードンと、先のやり取りの違和感を考えるゴンによって戦闘に間が生まれる。そこで開始から面食らっていた人々がようやく追い付き、束の間の静寂が実況の叫びと観客の歓声で破られ物理的にフロアが震えた。

 

『なんという攻防だ!開始と同時にゴン選手の一撃が決まったと思えばゴードン選手が投げ返した!?』

 

『見事な合気だったがゴードンはダメージを負ったな、しかし投げが決まったことからポイントはゴードンに入った』

 

 ゴン初めての被弾とポイントを取られた事実に会場のボルテージが際限なく上がる中、ゴードンは出来る限り心を鎮めゴンの出方を伺い続ける。先の交錯からゴンの異常な怪力と謎の重りが頭にある事を見抜いており、自分から攻めた場合合気をかけるのが困難と判断していた。

 

(あの重量が頭に乗ってればバランスが崩れるのが当たり前なんだが、力技で数百キロの塊と化してやがる。ならあの怪力を利用して最後は重さで投げるのが最もダメージを期待できる)

 

(このレベルの合気を体験できるのは初めてだし、ポイントに余裕あるうちは何も考えないで行ってみようかな)

 

 ゴンは軽く屈伸と跳躍でダメージが無いことを確認すると、技術差がある相手に対して最悪とも言える無策の特攻を敢行する。反応しきれなかった一発目と違い冷静に観察していたゴードンは、下からの攻撃を逸してゴンを浮かせると反撃されない内にリングへと叩き落とす。

 そこから先は、ある種あべこべな戦闘が続くこととなった。

 本来圧倒的に不利なはずの小さな体格であるゴンが果敢に攻め、有利なはずの筋骨隆々であるゴードンが華麗な技術で受け流す。リングの上はゴンの踏み込みによる亀裂と投げられたクレーターが無数に生まれ、間断なく行われる特攻と投げに審判のポイント宣告すら間に合わない。

 やがて会場はゴードンの予想外な健闘に感化され、試合前そこそこあったブーイングが今や見る影もない。会場の応援も徐々にゴードンへ傾きだし、クレーターの数が10を超えた辺りから声援はゴードン一色と言っていい。

 

『一体誰が予想出来たでしょうか、試合前と打って変わって会場はゴードンコールで埋め尽くされています!おおっと!?飛びかかったゴン選手が今度は足で投げられた!!凄まじい技術です!』

 

『いささか違和感のある投げもあるが予想以上にゴードンの動きが良い。ゴンに何か打開策がなければこのまま決まってしまってもおかしくはない』

 

 そしてゴードンを掴んだはずのゴンが逆に投げられたところでポイントがついに9となり、敗北寸前の崖っぷちへと追い込まれる。ゴンがここまで続けた無策の特攻を止めると、やや間合いが開き再び戦闘に間が生まれる。

 向き合う2人は実に対照的で、追い詰めているはずのゴードンは汗が吹き出て大きく息を乱しているのに対し、ゴンは呑気に服の埃を払うだけで汗すらかいていないように見える。

 

「はぁ、…時間稼ぎに付き合ってもらえるなら、そこまでダメージが無い理由を教えてもらいたいんだがな」

 

「ん?発の影響もあるけどただ単純に硬いだけだよ」

 

 なんとか息を整えたゴードンの質問にあっけらかんと答えたゴンの解答は、考える限り最も聞きたくなかったものの一つであった。

 

「嫌んなるねぇ、改めてKO勝ちは消えたわけだ。ちなみに考えてたみたいだが俺の能力に見当はついたか?」

 

「摩擦の操作か強化でしょ?あれだけ投げられれば流石に気付くよ」

 

 ゴンの自信有りな即答に苦笑を浮かべたゴードンは、足元に散らばるリングの欠片に人差し指を付けると円を描くように持ち上げる。ただ側面に触れているだけの欠片は、重力を無視したかのように指先にくっついて離れない。

 

「御名答、操作できれば良かったんだろうが生憎強化系でな。下手に高望みしないで強化だけに絞ってみれば、やることがシンプルになった分肌に合う」

 

 発を切ったのか指先から自然に落下する欠片に、今度は逆の手の甲で触れれば接着したかのように引っかかる。この能力のおかげでゴードンは、掴まなくとも触れさえすれば合気を十全にかけられるようになった。

 

「今の俺は指先の一点、足先の一点でも触れれば崩せるし流せる。回復に付き合わせといてなんだが、ここまでくればTKOする自信があるぜ」

 

 体力も回復しよどみなく構えるゴードンに対し、ゴンは気まずそうに頬をかく。なんと言ったらいいのか悩むゴンだったが、察しているゴードンは先に口を開く。

 

「お前が全力を出してないのはわかってる、だが技術に関しちゃ本気だったのもわかる。フィジカルで負ける相手に勝つのが合気本来の使い方、たとえ全力でこようと次の一撃は命懸けで取って勝たせてもらうさ!」

 

 闘気とオーラを滾らせ笑みを浮かべるゴードンは、一度閉じた目を開いたゴンに凄みを感じながらも怯まず立ち向かう。

 

「オレもここで負けるつもりは無いよ。ゴードンさんの合気、真っ向から潰させてもらうね」

 

「ハッ、やれるもんならやって…」

 

 あえて鼻で笑い気を強く持とうとしたゴードンは、ゴンから立ち上る絶大なオーラに引いていた汗がまた吹き出した。先程までが重い大樹のような纏だったのに対し、まるで小さな太陽が生まれたかのような暴虐的エネルギーの練。

 

「あー、そうだったな、そういえばずっと、纏だったな」

 

優位に立っているという考えは一瞬で蒸発するが、それでも萎えそうな気力を奮い立たせて次の一撃に全てをかける。身体能力がいくら増えようとも、技術がないなら合気をかけられない道理はない。

 オーラを感じることの出来ない観客達ですら、ゴンから立ち昇る威圧感に声を失う。また静寂が支配したリングの上を、ゴンがゆっくり一歩ずつ間合いを詰めていく。

 

(いやー、正直引くな。誰だキングなんて付けやがった奴は、どう見ても怪獣(モンスター)天災(ディザスター)だろ)

 

 ただ歩いているだけのはずなのにどれだけの力が働いているのか、ゴンが一歩進むたびにリングに新たな亀裂が生まれる。今すぐ背中を向けて逃げ出したい本能をねじ伏せ、武闘家としての誇りと意地でもってその場で構える。

 

来いやぁ(ダヴァイ)!!」

 

 目の前まで来たゴンに全神経を集中させ、鼻血が出そうなほど思考を加速させる。どんな攻撃も動きも見逃さない、そんなゴードンの決意は予想外の形で達成された。

 

(遅っ!?掴み、逃げる?…否!勝つ!)

 

 素人でも容易く避けられる遅さで掴みにきたゴンに対し、ゴードンは回避ではなく迎撃を選択する。この時カウンターでジャブの一つでも打てれば、ゴードンが勝利する未来も十分にあり得た。しかしここまで合気を意識し続けたこと、強化系故の一途さが選択肢を無くしてしまった。

 手首を取って肘を極める、手軽で効果が高い小手返しの一種。ゴードンは肘や肩を破壊するつもりで、ゴンの怪力と自分の力を右腕一本に凝縮させる。

 

 ゴンの腕は微動だにしなかった。

 

 ゴードンの技術と力の全てを込めた合気は一切の効果を得られず、それどころかゴンの手は変わらぬ速度でゆっくり自分に向かってくる。なんとか力の流れを操作しようにも、まるで津波にオールを挿しているかの如く動かない。

 

(ふざけるな!こいつ合気を力だけで!?)

 

 ゴードンはゴンの手首を両手で掴み、傍目には見えないがあらゆる方向に力を流そうと試みる。摩擦の強化で踏ん張る足も掴む手も滑ることはないが、刻一刻と迫る掌に絶望感が募る。

 

「えいっ」

 

「は?」

 

 ついに胸ぐらを掴まれたと同時に、呑気な掛け声で無理矢理膝を突かされる。かける合気は尽く力で無効化され、理不尽の権化はこめかみを掴んだ。

 

「うおぉあー!!」

 

 ゴードンの抵抗と絶叫が収まるまで時間はかからなかった。

 

 

 審判のKO宣言が出された後も、会場はしばらくの間静寂に包まれていた。初心者狩りと超大物ルーキーの消化試合と言われたこの一戦は、その年のベストバウトに選ばれてもおかしくない名勝負として観客の心に刻まれる。

 そして最後まで抗い続けその手を離さなかったゴードンの姿は、まるで跪き祈りを捧げる高潔な武僧を思わせた。

 

 

 

「いやー途中どうなるかと思ったけどよ、結果全員快勝だったな!めでてぇめでてぇ」

 

「しかしあのゴードンという者は予想外の強者だった、負ける気はないが油断出来ない相手だ」

 

「けどゴンもどうかと思うぜ、その気になりゃ一発で終わりだったくせによ」

 

「あのレベルの技術は体験したかったんだ、実際すごくためになった」

 

 200階初戦を危なげなく勝利したゴン達は、ホテルに戻る前に次戦の受付を済ませてしまおうと仲良く受付に向かっていた。試合直後にファンはもちろんテレビ局まで詰めかけてきたが、絶やキルアのアシストを使い早々に撒くことに成功してからは誰にも会わずに進んでいる。

 先程の試合について話しながら歩いていると、受付に近い廊下の先でこちらを待ち構える人物がいた。ゴン達が気付いて立ち止まると、空いていた数メートルを笑みを浮かべて詰めてくる。

 

「全員見事な試合だった。正直に言えば過小評価していた」

 

 ゆったりした服とマントを着た長髪の美青年、ウイングも認めた強者の一人である闘士カストロ。戦績くらいしか情報のないゴン達が若干警戒していると、察したカストロは笑みを引っ込め真剣な表情となる。

 

「突然の訪問は謝罪する。私としても予定になかったのだが、少々思う所があり訪ねてきた次第で悪意は無い」

 

 カストロはギン含め全員に一度視線を向けると、しっかりと頭を下げて謝罪する。その姿は理性的で礼儀正しさを感じさせ、ゴン達も警戒を解き話を聞く姿勢を見せる。

 

「単刀直入に用件を伝えよう、次戦私と戦ってくれ“キング“ゴン。フロアマスターになるため、そしてヒソカに勝つために君を踏み台にする」

 

 本気であることの証明か闘気とオーラを燃え上がらせるカストロだったが、ゴンは戦意溢れるその瞳の奥に諦観と恐怖が渦巻いているのを見たような気がした。

 

 

 

「あのカストロとかいう気に入らねぇイケメン君は何だったんですかねぇ、ゴンが何も言わんから黙ってたけどよ」

 

 カストロの宣戦布告をゴンが承諾した後、ゴン達とカストロは受付で申請を済ませると特に何もなく別れてそれぞれの帰路についていた。天空闘技場を出てからはレオリオが先程のやり取りに文句を言ったり、キルアがゴンにもっと堂々としろと小言を言っている。

 

「2人共いい加減にしたらどうだ、カストロに思うこともあるだろうが結局は試合の勝敗が重要だ。ならば我々はゴンを信じて黙って見ていればいいんだ」

 

「それくらいわかってんだよ、オレが言いたいのはゴンが試合と修行以外でのほほんとし過ぎだってこと。ヒソカとまでは言わないけどそれらしく振る舞わないと今日みたいにいらんちょっかい受けるんだしさ」

 

 その後もゴンそっちのけであーだこーだと言い合う3人に、苦笑いを浮かべて付いていくゴンと興味のないギン。ホテルに到着してそのまま報告がてらウイングとズシの部屋を訪問すると、全員が予想外の人物に出迎えられる。

 

「いやー皆さんのことを師匠に報告したらなんだかんだあって伝わったようでして、たまたま近くを通ったということで寄られたそうです」

 

「自分感激っす!道着にサイン貰っちゃったっす!家宝にするっす!」

 

 恐縮して汗を流すウイングと、満面の笑みで目をキラキラと輝かせるズシ。部屋の中心にはアロハシャツに短パンとラフな格好をしてサングラスを付けた老人が、飲み物片手に椅子にふんぞり返っている。

 

「ホッホッホ、てれび越しじゃが試合を見させてもらった。各々鍛錬を怠っていないようで結構結構」

 

 最後に会ったのは約2ヶ月ほど前だが、明らかに若々しさを増しているハンター協会会長がそこにいた。

 

「裏ハンター試験は文句なく合格しとるがどうじゃ、元世界最強と楽しい楽しいゲームをしようじゃないか」

 

 圧倒的オーラにゴンとギン以外が体を強張らせるのを愉しそうに眺め、アイザック・ネテロはこの訪問の目的を告げる。

 

「小童共に、世界の広さを教えてやるぜ」

 

 悪戯好きな観音様の授業参観が始まる。

 

 


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