オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第26話 ゴンの全力と百式観音が見るもの

 

 皆さんこんにちは、割と冗談じゃなく内側から爆発しそうなゴン・フリークスです。堅でこれなのに硬でさらなる圧縮をやった本家(ゴンさん)マジリスペクト。

 

 

 

 ネテロとゴンが激突した瞬間、互いの体とオーラが起こした衝撃波は軽々とズシを吹き飛ばした。近くにいたギンが捕まえて事なきを得たが、衝撃波に混ざり石なども飛んでくるため全員ゴンとネテロから更に距離を取る。ギンに襟を咥えられてなすがままのズシは、まるで見えなかった先程の組手と違い自分でも視認できる戦いに引き込まれていく。

 

 

 

 己に向かってくる実物より遥かに大きく見える拳を一つ一つ冷静に捌きながら、ネテロの胸中は冷静とは程遠い狂騒に支配されていた。

 

(あっかーん!!なんじゃこいつマジ何なん!?すでにワシより暴力の化身じゃ!!)

 

 ネテロは最初の激突の時点でゴンの土俵、つまりは力での勝負をかなぐり捨てた。ゴンの何倍も長く培ってきた強化系の鍛錬にオーラの運用技術、ネテロの力の集大成が流すら行っていないただの牢に純粋な力で押し負けている。過去に己の数分の一に満たないオーラ出力で肉弾戦を仕掛けてきた好敵手曰く、習得できればネテロと純粋な力比べが可能とのたまったその意味を正しく理解していた。

 

(まさかワシが受け流すことを強要されるとはのぅ、年は取りたくないと言いたいが、こればっかりは全盛期でも無理じゃったかもしれん)

 

 一撃一撃が一流強化系能力者の硬の如き拳が、身長差の関係で上から雨あられと降り注ぐ。まともに受けられる腑抜けたものは一つもなく、おしなべて回避か受け流しを選択させられる。そしてゴンの拳の余波とネテロによって地面に流された衝撃が大地を砕き、成長し続けるクレーターにより2人の標高が刻一刻と低くなっていく。

 

(このままはちとまずいのう、お互いのために一度仕切り直すか)

 

 ゴンの捌かれた拳撃が3桁を突破した頃、掘削されたクレーターの中心から弾かれるようにネテロが飛び出した。汗をかき息も乱れたその姿に驚愕するウイングをよそに、追ってクレーターから出てきたゴンを見たレオリオが悲鳴を上げる。

 

「ストップだゴン!それ以上はオレでも簡単には治せねえ!組手はここまでだ!」

 

 ゴンの体は全身至るところが内出血してドス黒く変色しており、更にレオリオの目には亀裂骨折や関節の靭帯損傷まで確認できた。あまりの姿に皆絶句する中、息も絶え絶えなゴンはレオリオにすまなそうに顔を向ける。

 

「ごめんレオリオ、まだ止まれないや。もうちょっとでまた一つ登れるんだ、オレの目指す頂までの階段を」

 

「バッカ野郎!いくら念で回復力を強化できるからって限度があるわ!常人なら動くことは疎かショック死するレベルで激痛がはしってんだろ!?」

 

 レオリオの言葉に苦笑いを浮かべたゴンはそれでもネテロに向き直り、ネテロも先程から半身になって残心を解くことはない。

 

「ちっ!ネテロ会長よお、その手治してやっからゴンも治療するってのはどうだ!?結果的に組手も長くなるし悪くないと思うんだが?」

 

「ホッホ、気付かれとったか、じゃがのーさんきゅーじゃ。今この時、刹那の攻防こそが真の糧となる」

 

 言葉と共にひらひらと振られたネテロの右手は、所々出血しているばかりか倍近くまで腫れ上がっている。最初の激突で傷付いた状態では、無傷で捌き切るにはゴンの拳が重すぎたのだ。重傷とも言えるネテロの負傷に驚愕するウイングも組手の中止を訴えるが、そこでまさかのキルアから待ったがかかる。

 

「ゴンが言うこと聞かないとか今更だろ、それならさっさと終わらせた方がよっぽどマシだよ。そんでもって本当にヤバければ無理矢理止めりゃ良いんだ」

 

「ふふ、あれを止めるのは物理的に骨が折れそうだ。心苦しいがあれ程楽しそうなんだ、やんちゃは子供の特権として大人がフォローしよう」

 

「…ちくしょうが、ゴン!一発だ!次のイッパツで決着付かなけりゃオレは無理矢理止めるからな!気張れよ!!」

 

「ぐまー!!」

 

「ゴンさんがんばれっすー!!」

 

 ゴンは仲間たちのエールに満面の笑みを浮かべると、一度構えを解いて深呼吸する。ネテロも笑いながら一度肩を回すと、オーラを練り直し全力で受ける構えを見せた。

 

「今回全然攻めてないけどいいの?」

 

「カッカッカッ、攻めて欲しけりゃそれなりの強さを見せてみな。てか受け止めてやるって言っちまったしな」

 

 ゴンも笑い返すと、ゆっくりと構える。

 

 腰を深く落とし背中が見えるほどに上半身を捻っていく。

 

 見るからに隙だらけのその構えは、原作を知る者ならお馴染みの構え。

 

 構えが完成して動きが止まると、纏程のオーラが更に圧縮されていきついには見えなくなる。

 

 そしてゴンの全身から光が溢れると、ネテロに向かって宣言した。

 

「勝負」

 

 ネテロに油断はなかった。

 

 組手ということで攻めっ気こそなかったが、欠片も気を抜かずどんな攻撃にも対応できる自信と自負があった。

 

 コマ送りのように目の前に現れたゴンの一撃が、蹴りでなければ対応出来た。

 

(ここにきて蹴りかよ!?)

 

 踏み込んだ左足は大地に杭を刺したかのよう、放たれようとしている右足は見るからに太くなり比喩無く死神の鎌そのものだった。

 

 ここまで一度も見せていなかったゴンの蹴りは、これ以上なくなめらかに、そしていともたやすく音速の壁を突破する。

 

 ネテロは空気の炸裂する音(ボッ)を追い抜いて迫る一撃に、人生で何度も感じた死の気配を感じ取る。

 

(こりゃ無理じゃな、お互いのためにしゃーなしじゃ)

 

 音速を超える蹴りを置き去りにする、神速の観音が姿を表した。

 

 

 

 音を置き去りにする一瞬の攻防は、まだまだ未熟なはずのズシもその目にすることが出来ていた。コマ送りで唸るゴンの蹴りと、更に早く完成するネテロの祈りに突如出現した巨大な観音様。音より早いやり取りの中で、見ていた者達はネテロの声なき声を聞いた。

 

 百式観音 弐乃掌

 

 ゴンの一撃がネテロに届く直前、観音の掌打が横合いから撃ち込まれる。その一撃を受けながら、吹き飛ぶ刹那にゴンはネテロへ視線で伝える。

 

 ゴンの思いを正しく受け取ったネテロは、百式観音から伝わる手応えにこれ以上ないほど顔を歪ませた。

 

「ぐんまぁー!!」

 

 ゴンが己に向かって吹き飛んできた瞬間、ギンは咆哮で勢いを殺しつつ圧縮を解いて自らをクッションに受け止める。そして2本の轍を約10メートル作りながらも、ゴンをしっかりと抱きかかえることに成功した。

 

「きゅーん、きゅーん」

 

「でかしたギン!うおぉードケチの手術室(ワンマンドクター)全開だゴラァ!!」

 

「ゴンの治癒力を強化しろ!鼓舞する者の鎖(インスパイアチェーン)!!」

 

 子供の姿に戻ったことでより悲惨に見えるゴンの顔を必死で舐めるギンと、すぐに追い付いて治療を始めるレオリオとクラピカ。レオリオはカバンから清潔なシーツを出して敷くとゴンを寝かせ、オーラによる治療と外科的治療を合わせて治療していく。クラピカもインスパイアチェーンによる治癒力の強化を、緋の眼による絶対時間(エンペラータイム)でブーストさせながらゴンに施す。

 レオリオは全身の筋肉が断裂一歩手前の上、骨も罅やら亀裂のオンパレードなゴンの体に思わず青くなる。しかし自分とクラピカの治療が始まった瞬間から、恐ろしい速度で治癒が進むのを見ると別の意味で顔を引き攣らせた。

 

「…ネテロ会長?」

 

 ゴンは一先ず問題無いと判断したウイングが気付いた時、ネテロはしかめっ面でゴンの横へどかりと胡座をかいて座っていた。

 

「あれがお前さんの答えか、一応何であの結論にたどり着いたか聞いてもいいかの?」

 

 本人達以外が意味もわからず疑問に思っていると、見た目はまだ痛々しいながらゴンも起き上がりネテロと向かい合う。

 

「ありがとうレオリオ、クラピカ。組手もまだあるし残りは自分で治すからもういいよ」

 

「んー、クラピカと二人がかりだと流石に早いな。とりあえずやばい所は何とかしたが今日はもうあんまり動くなよ、帰りもギンに乗せてもらえ」

 

 改めて診察して後遺症などが無いことを確認したレオリオは、ゴンとネテロが話し始める前にどうしても聞きたいことを質問する。

 

「なあ、あの千手観音がネテロ会長の発ってことでいいんだよな?オレの気のせいじゃなけりゃありえんスピードじゃなかった?」

 

「私も同意見だ、ゴンの蹴り自体想像を絶する速さだったが完全に後手の状態から先に打ち込んでいた。正直な所、理解が及ばない」

 

 二人の質問に対して不貞腐れたように答えないネテロを見かね、ウイングが百式観音について簡単に説明する。神速の祈る動作から発動する不可避の速攻たる一撃、知る限り最強の能力だとウイングが締めくくるもネテロの表情が晴れることはない。周りが怪訝そうに見守る中、今まで黙っていたキルアが口を開く。

 

「その最強の能力が破られかけてちゃ世話ないわな。ジイさんの発も大概頭おかしいけど、やっぱ頭筋肉に関しちゃゴンの圧勝だな」

 

 その言葉にウイング筆頭に驚きの声が上がると、キルアはレオリオとクラピカに百式観音の対応法が思い浮かぶか聞く。

 

「そうだな、私の考えとしてはそれ以上に速く動くか、技と技のつなぎで何とかするくらいしか浮かばない」

 

「あー、攻撃を耐えてガス欠を待つくらいか?あんなもんそうそう数撃てねぇだろ」

 

 二人の意見もウイングが技の間隙などあってないようなもの、数も最低数百発は問題無いことを告げられるとキルアへと視線が集まる。

 

「もっと簡単だぜ、あのデカい手を真正面からぶち破って近付くつもりだろゴン。さっきも吹き飛ばされこそしたけど明らかに手が歪んでたし、ジイさんもちょい後ろに押されただろ?」

 

 驚きの視線がネテロに集中すると、大きくため息を吐いて嫌そうに同意する。

 

「悔しいがそのとおりじゃ。今まで同じことをした奴がいなかったわけじゃないが、ここまで破られかけたのは間違いなく初めてじゃの」

 

 考えられる限り最も力尽くな攻略法に改めて周りが絶句する中、続けてネテロが口を開く。

 

「今まで同じことをした奴等は、それ以外思い付かんから破れかぶれでそうしたに過ぎん。じゃがお前さんは確信を持って選んだ、ワシの百式観音がいったいどう見えているのか教えて欲しい」

 

 100歳以上年下の相手に教えを請うネテロの心境は複雑怪奇に荒れていたが、それ以上に知らないままでいることに対する不快感が大きかった。全員に見つめられたゴンは考えをまとめると、恐らくは合ってると思うと前置きして結論から述べる。

 

「百式観音ってさ、ものすごく大きい何かを相手にするための発だよね」

 

 言われた瞬間、ネテロの胸中を苦い記憶が支配した。

 

「でかい相手?何でそうなるんだ?」

 

「大前提としてさ、百式観音は神速の一撃が目的の能力じゃないんだよね」

 

 ネテロが元々出来た神速の祈り、それをそのままの速度で撃つのが百式観音だとゴンは言う。しかし違いがよくわからず混乱するレオリオ。

 

「発っていうのはさ、一言で言っちゃえばその人の願いだよ。出来ないこと、足りないものを補うための手段」

 

 ネテロは最初から神速の一撃を打てるし、その身一つで鍛え上げてきた武人故に2対1で戦いたいとはきっと思わない、リーチを伸ばしたいのならば大きくする必要性は少ない。

 

「つまりは自分じゃどうしようもないこと、多分大きすぎる相手への手段として生まれたのがあの大きな観音様なんだよ」

 

「リーチを伸ばすのもそうだが、多人数相手に攻撃範囲を増やす意味での巨大化は有りだと思うのだが」

 

「リーチを伸ばすなら観音の腕を伸ばしたほうがオーラの燃費的には良いだろうし、間隙なく神速の一撃が打てるなら一対一を沢山すれば良いだけだよね」

 

 強さを求めるネテロがそのあたりに気づかないはずはないと言えば、クラピカもなるほどと観音が大きい理由に納得する。そしてキルアがゴンの行動の理由を理解する。

 

「それであの牢とかいう技術の出番なわけだ、デカければ当たり前だけど密度は犠牲になる。いくら強くて速い一撃でも小さくて硬いもんでぶち破れるってわけと」

 

「はぁ〜、脳筋だな…」

 

 疑問が解けてスッキリしているキルア達とは別に、ウイングの頭の中は気が気ではなかった。

 

 この世界の禁忌である暗黒大陸。

 

 もしそのことをゴンが知っているならば教えた存在がいるわけだが、それ自体は完全な情報統制をしくのは困難なためまだいい。

 

(問題は、強さを求めるゴン君が暗黒大陸を目指しかねないということ。将来得るであろう力やそのカリスマ性とも言える生き方は、良くも悪くも他人に多大な影響を与える)

 

 戦慄するウイングとは別に、ネテロもまた深い自問自答を繰り返していた。若かりし頃の苦い敗北の記憶、スケールが違い過ぎたことにより早々に撤退を余儀なくされた経験は今尚ネテロを苛んでいる。

 

(なるほどのぉ、負けたことは無いなど口が裂けても言えんが、敗北をそのままにしとるという意味ではワシ唯一の敗北と言えるか)

 

 己でも疑問に思わなかった百式観音の生まれた理由、ゴンによる指摘はネテロの心の奥深くでガッチリとはまった。そこでこちらを不安そうに伺うウイングに気付き、その胸中も正しく理解したネテロは苦笑して首を振る。

 

(安心せい、ゴンは脳筋無鉄砲に見えて実にしたたかで地に足を付けとる。少なくてもこの箱庭で最強を確信するまで暗黒大陸に逃げやせんわ)

 

 苦笑を微笑みに変えたネテロの目には、この後の組手の作戦会議を百式観音含めて賑やかに行う若木達が映っていた。下しか知らず、がむしゃらに上を目指すその姿はネテロには輝いて見える。

 

(サビ落としか、まだ自惚れていたようじゃの)

 

 唯一ネテロを見ていたウイングは、暗黒大陸のことなど一瞬で吹き飛ぶほどの衝撃を受けた。

 その凄惨に過ぎる笑みは、強者たるウイングをして理由の無い恐怖、幼子が暗い夜に対して感じる様な恐怖を感じた。

 

「まずは手始めに百式観音の圧縮からか?…クックッ、血沸く血沸く♪」

 

 修羅を経て仏に至った観音が、今再び修羅に舞い戻ろうとしていた。

 

 




 後書きに失礼します作者デス。今回も補足説明入ります。

 ズバリ百式観音の誕生について独自解釈で語ります。

 発現した時期と理由
  ネテロが暗黒大陸から“逃げ帰った“後。
  暗黒大陸のでか過ぎる魔獣たちを見て敵わないと思ったから。

 話の中でも書きましたが、百式観音は神速の一撃を撃つことが能力ではなく、ただでかくてネテロの速さに追いつける能力の発だと考えました。
 色んな所で言われてる自分で戦ったほうが強いだろって意見には割と賛成で、じゃあ強さを追い求めていたネテロが何故あの大きさの観音を作り出したのかってことから暗黒大陸の魔獣に対抗するためだと考察。
 暗黒大陸が描写されて本人がデカくて逃げ帰ったと発言してることから、間違いなくしこりとして残っていたはず。その敗北の苦い思いから、半自動的に誕生したと考えました。
 時期の考察としてはネテロ自身半世紀前が最強と言っていて、更に暗黒大陸で百式観音が手も足も出なかったみたいな話もなかったことから帰ってきてから発現して鍛えたと考えてます。

 以上、作者の妄想でした。

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