オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第29話 試合決着ともう何も怖くない

 

 皆さんこんにちは、カストロさんが予想以上に強くて楽しいゴン・フリークスです。やっぱり盤外戦術する変態は駄目ですね、真っ向勝負こそ至高の戦術。

 

 

 

(まったく、発を含めた本気の攻撃すらもう効かないか、呆れるほどのタフネスだ。これはもうゴードン氏にならってポイント勝ちを狙うしかないな)

 

 途中精神的に折れかけたカストロだったが、試合内容としては終始圧倒していると言っても過言ではない。一方的に攻撃を命中させてこちらはかすりもしていないのだから当たり前だが、一撃でもかすればそのまま全てをひっくり返されかねない以上は片時も気を緩めることができない。

 

(確かに威力があるし速さもある、技術的にもそこらの格闘家では太刀打ち出来ない水準だ)

 

 未だかつて出会ったことのない攻撃力とトップクラスの速さを両立させている異常な身体能力に及第点と言える技術力、そしてそれらを十全に扱える卓越した身体操作能力は正に驚愕の一言である。

 

(しかし惜しい、あまりにも素直すぎる!)

 

 この一点がカストロに一方的な試合展開を許していると同時に、年相応の素直な思考が懐かしく若干羨ましくすらあった。上に行くことしか考えず、行けることになんの疑問もない純粋さは年を経るごとに削られていく若さの特権だ。

 ゴンは今も不意に出来たカストロの連撃の間に本人最速の一撃を放つが、ただ速いだけの一撃が当たるのであればそもそも武術は今日まで発展していない。躱したカストロはあえて防御が間に合う攻撃をしかけ、当然のごとく防いだゴンが攻撃に意識を向けた瞬間に発を発動させる。

 それは分身(ダブル)、もう一人のオーラで出来た自分が下からゴンの顎を打ち上げる。顔を上に向けられ死に体となったゴンの体を、左右から滅多打ちにし最後は同じ箇所へ重ねた回し蹴りで吹き飛ばした。

 

「クリーンヒット&ダウン!!カストロ、トータル9ポイント!」

 

 会場の殆どの観客が、カストロの勝利を確信した。ゴードン戦でもポイント的には追い込まれていたが、この試合ゴンの良いところがほぼ無い上にダメージを受けている以上逆転は不可能だと誰もが思った。

 

(このままなら間違いなく勝てるが、そうそう上手くいかないのが武の世界だからな)

 

 大の字に倒れるゴンを油断なく見据えるカストロは、未だに笑みを浮かべるその姿と何度も触れた感触からこれからが本番だと気を引き締め直す。

 

追加出筋(さらなるパワー)

 

 小さく呟いたゴンの体がそのまま宙に跳ね上がり、軽やかに立ち上がったその姿はさらに一回り大きな筋肉をまとっている。そして大きく深呼吸すると、筋繊維の一本一本がまるで針金のように引き絞られた。

 

「フッ、まだ上があるのだろうに、不甲斐ない対戦相手ですまないな」

 

「あー、オレの我儘だからこっちこそ申し訳ない気持ちがあるんだけどね」

 

 お互いに苦笑いで謝罪したと思えば、すぐにまた好戦的な笑みへと変わり構え合う。

 

「こちらとしては構わないよ、私自身間違いなく成長出来たし武に携わるものとしてはやはり勝ちたいのだから。それに武とは本来ずるいものだということを思い出せた、このまま勝つことに戸惑いも後悔もない」

 

 カストロの立ち姿は凛とした闘気を放ち、オーラにも一切の陰りがない。手数を増やすために最初から分身を出現させた状態で、ざわつく観客と違い一切の動揺がないゴンに宣言する。

 

「この分身(ダブル)による虎皎拳を超えし虎皎真拳で勝利を掴ませてもらう!」

 

 2頭の虎が、獲物を裂かんと躍動する。

 

 

 

 残り1ポイントで勝利となるカストロのため、審判はより一層目を凝らして選手の攻防を注視していた。今まではダメージの関係や連撃を一つの攻撃としたことでかなりアバウトな採点だったが、残り1ポイントならばヒットらしいヒットが出た瞬間に宣告すると心に決めていた。

 

(…うん、何も見えないがとりあえず当たってないことだけはわかる!)

 

 突如として二人になったカストロに驚いたのもそのままに、左右からの凄まじい猛攻で決着かと思えばゴンの両腕が消失してすべての攻撃を弾いていた。この試合の審判を決めるにあたり目が良いことが決め手となった彼にとって、ゴンの動きを見切れぬことはある意味敗北したような心境だった。

 

(しかしなんだあの動きは!?普通あるはずの加速がないばかりか減速もない、常に0と100で動かすことなど人間には不可能では?)

 

 熱狂的な格闘フリークだったことが理由で、天空闘技場のスタッフになった彼自身に格闘技経験はない。そんな彼の人より優れた程度の動体視力と、多くの試合を見続けた経験則ではゴンの動きを理解するには力不足だった。

 

(しっかしゴン選手はでかくなるしカストロ選手は増えるし、フロアマスタークラスは確実に人間やめてるな)

 

 審判として最高ランクの200階担当になっておよそ十年、天空闘技場最高の祭典バトルオリンピアで似たような体験がなければ無様な姿を晒していたかもしれない。しかし彼は毅然とした態度を崩さず、見切れていないことをおくびにも出さず試合を見守り続ける。

 全ては最高の試合を最も近くで体感し、最高の形で締めくくるという役目を全うするため。

 

(迷うなよ俺、噛むなよ俺、最後の宣告は絶対に決める!)

 

 死闘を繰り広げる二人の横で、己の職務と戦うもう一人の闘士が目を血走らせ決着の時を待っている。

 

 

 

 分身と共に猛攻を仕掛けるカストロは、ゴンの目線や攻防から自分へのメッセージを正しく受け取っていた。

 

(自分では理解しているつもりだったが、やはり実戦の中でしかわからないことは多い)

 

 ゴンとの攻防から伝わる分身(ダブル)の弱点や改善点、一人の鍛錬では把握しきれなかったものを一つ一つ浮き彫りにされていた。特に顕著に表れているのは分身の操作性であり虎皎拳を使わせるために自動ではなく手動で操作する以上、分身と同時に攻めた場合どうしても動きの精細さが損なわれている。

 そしてゴンは動きのキレから常にカストロ本人を判別し、それぞれに応じて気を配ることで二人分の猛攻を捌き切っていた。更に筋肉対話(マッスルコントロール)により筋肉のみの牢を行うことで、自傷せずに身体能力を跳ね上げることに成功している。

 数分に渡りゴンの守りを崩せなかったカストロが一度仕切り直すために距離を取り、分身を対角の位置に配置しながら呼吸を整え様子をうかがう。

 

「自分が休む間も分身に攻撃させたほうがこっちの体力を削れていいんじゃない?」

 

「そこまで自惚れていない、二人がかりで届かない以上単身では迎撃されて終わりさ。オーラの無駄使いが出来るほど余裕はないものでね」

 

 互いに警戒しながらも奇妙な親近感が湧くのは長時間戦った故の相互理解か、特にゴンはネテロが最近まで現役引退していたこともありゴードン含め数少ない最強を目指す武人との出会いに心躍らせていた。

 

「ふぅ、ゴードン氏との試合でも声をかけていたが、私には何かアドバイスをくれないのかい?」

 

 息も整い次の攻防に移る準備は出来たが、ゴンのこちらを見る目に何かを感じたカストロはあえて自分から問いかける。

 

「…カストロさんが分身に自分自身を選んだ理由を考えてた。手足を増やすでもなく沢山の人形でもなく虎でもなく、もう一人自分を具現化した、出来てしまった理由を」

 

「なるほど、恥を晒すようだが私自身答えは出ている、ヒソカを恐れているのさ。一対一で戦う度胸がなく、しかし私自身が立ち向かいたいというひねた考えから生まれたのが私の分身さ」

 

 苦悩と後悔をにじませながら自虐したカストロに対し、ゴンは一度首を振ると分身のカストロと本体を見比べて断言する。

 

「その程度の気持ちで出来るほど強化系の分身は甘くないよ。今の言葉からして無意識なんだろうけど、オレの考えた理由は全くの別物だよ」

 

 あまりにもハッキリした物言いに二の句を継げないカストロを無視するように、ゴンは己の出した結論を口にする。

 

「分身はカストロさんが考えた理想の自分自身だよ。恐れず、惑わず、虎皎拳を操り虎皎拳に殉ずる、そんな理想のなりたい自分が具現化したのがあなたの分身(ダブル)だ」

 

 その言葉を理解すると同時に、カストロは今まで感じなかった分身との繋がりを認識した。そして脳内を駆け巡るヒソカに負けてから発を開発するまでの日々、粉々にされた自信と誇りを取り戻そうともがいて縋ったもの。

 

 それは正しく虎皎拳であり直向きに鍛えてきた自分自身。

 

 気づけばカストロの視線は、ゴンではなくその先の分身(カストロ)を見ていた。たとえ親であろうとかつての師であろうと、それこそ自分でさえ見分けのつかない分身(自分自身)

 

「分身を操作する必要はないはずだよ、だってあなたの発は分身(ダブル)というよりも、自分自身(カストロ)のはずだから」

 

 呆けるカストロに活を入れるように構えたゴンだったが、それでもぼんやりと視線の定まらないカストロに対して拳を振るう。カストロは当たり前のように拳を捌くと、同じく視線の定まらない分身と共に今までと変わらないどころかキレを増した猛攻を開始する。

 やがて増し続けるキレにゴンから余裕がなくなった頃、カストロの中で歯車がガッチリと嵌まりその衝撃から刹那の間硬直してしまう。

 

「あっ、やばッ」

 

 余裕のない中振るわれたゴンの拳が、カストロの胸から上を文字通り消し飛ばした。

 

 キルア達がやりやがったとリングになだれ込もうとし、観客達も驚きの悲鳴を上げようとした瞬間。

 

 ぺしり…、と分身のカストロがゴンの頬に触るだけの一撃を当てた。

 

 時間が止まったような静寂に包まれた会場で、本体のはずのカストロが煙のように消え失せる。

 

「ッ!ヒーット!!カストロ、トータルポイント…」

 

 カストロの勝利を宣言しようと声を張り上げた審判の目に、リングに倒れていくカストロの姿がうつった。スローモーションのようにゆっくりと倒れ伏したカストロを数秒見つめ、その後ゴンと何度か見比べると目を瞑り腕を交差して試合の決着を宣言する。

 

「KO!!勝者、ゴン選手!!」

 

 割れんばかりの歓声の中、0ポイントの勝者は悔しげに顔を歪め立ち尽くし、10ポイントの敗者は満足そうな笑みでリングに沈んだ。

 

 

 

「とりあえず正座しろゴン。お前には殺人未遂の容疑がかかってる」

 

「今回は私も擁護出来ない。自傷しなかった点だけは褒められるが、最後の攻防はもう一段ギアを上げるべきだった」

 

「消し飛んじゃったら治せないんですぅ、木っ端能力者ですいませんねぇ」

 

 試合後の控室では正座するゴンを中心に、囲んだキルア達3人が各々言いたいことをネチネチとぶつけていた。ゴン自身カストロを殺してしまったと思ったこともあり、釈然としないながらも甘んじて小言を受けていた。

 

「はいはい皆さん、元々天空闘技場は殺人許可証を発行しています。故意的にならまだしも偶発的なんですからその辺りにしてください」

 

 しばらくは好きにさせていたウイングも流石に見かねたのか、少し威圧しながらキルア達の私刑を止める。そして試合最後の現象について、実際に体感したゴンの見解を聞く。

 

「オレが思ったことを言ってみたらドンピシャだったみたいでさ、あそこまで覚醒したのは予想外だったけどおかげで殺さないですんでよかったよ」

 

 カストロの発だった分身(ダブル)の覚醒、それはもはや分身ではなく正真正銘もう一人のカストロ自身。

 

「おかしいと思ったんだよ、ただ人数を増やしたいならもっと良いやり方があるのにあんな精巧な自分を具現化してるんだもん。カストロさんは恐れからって言ってたけど、それこそ分身する意味がまるでないしね」

 

 人数が欲しいなら虎皎拳の型しか使えない人形を複数、怖いと言うならそれこそ鎧でも武器でもあったほうがよほど安心感がある。たった一人自分を具現化した理由としては、どう考えても割に合っていない。

 

「あいつ念は独学だったんだろ?単純にそこまで考えてなかったってだけなんじゃねえの?」

 

「いえ、試合中にゴン君が言っていましたが逆ですよ。独学だからこそ実現するにはそれ相応以上の想いが必要なんです」

 

 キルアの疑問も、この中で最も念について熟知しているウイングの言葉で否定される。

 

「ヒソカとの試合で精神的に追い詰められたカストロさんは、立ち直るための何かを欲したはずです。それが今まで鍛えてきた自分であり、これから先至るであろう理想の自分だったということですか」

 

 ゴンの言っていた言葉とカストロの境遇を合わせて出た結論は、長年武に携わってきたウイングにとっても非常に納得のいくものだった。

 

「皆さんは伸び盛りですからまだまだ先でしょうが、もし壁に突き当たったら自分の原点を思い出すのがとても有効です。念とは心技体の中でも特に心が重要ですからね」

 

 それぞれが自分の原点について思いを馳せる中、突如として控室の扉が開き表情を輝かせたカストロが突入してきた。

 

「キングよ!あなたは正しく武の王たる器だ!!このカストロ、貴方の言葉で世界が開けたようです!」

 

 突然の訪問に誰も反応出来ない中、とりあえず正座したままだったゴンのそばに駆け寄ったカストロはスライディング土下座から懇願する。

 

「先の試合で念の奥深さを改めて理解しました、どうか念について私にご教授していただけないでしょうか!差し出せるものは大してありませんが、どうか平にお願い申し上げます!!」

 

 言うだけ言って微動だにしなくなったカストロに対し、ゴンはウイングを見やると頷かれたのを確認して口を開く。

 

「カストロさ「どうかカストロとお呼び下さい!」…カストロ、オレもまだ修行中の身でさ、今念についてはこっちのウイングさんに教えてもらってるんだ」

 

「はじめましてカストロさん、私は心源流師範代のウイングと申します。縁あってこちらのゴン君たちの指導をしています」

 

「なんと、その若さで音に聞く心源流の師範代とは」

 

 その後つきっきりとはいかないが念の修行についての指導をすること、ゴン達はもちろんズシとも組手などの鍛錬を行うことで話はまとまり、金銭の問題も特にこじれることなく決まった。

 

「なんと恵まれた鍛錬環境か、まあ私が加わることはあまりないだろうがその時はキング含めよろしくお願いする」

 

 とりあえずは念の系統修行を重点的に指示されたカストロ、集中して取り組むために一人での修行を宣言すると報告があると続ける。

 

「実はキングを訪ねる前にヒソカと会ってね、私も怪我はないということで10日後の試合を組んだ」

 

「はあ?試合中に怖いだ何だ言ってたくせに随分急じゃね?もうちょい修行期間取ればよかったじゃん」

 

 キルアからのもっともな指摘に、カストロは自信に溢れた表情を浮かべる。

 

「勝てる確率のほうが少ないのは重々承知しているが、やはりヒソカとの再戦なくして私の未来はない。問題ない!キングとの試合で私は自分自身を取り戻した、もう何も恐れるものはないのだ!」

 

 マントを翻し高笑いと共に部屋を出ていくカストロを、ゴン達は一抹の不安を感じながら見送った。

 

 

 

 ゴン達の控室から出て来たカストロを目撃し、一緒に修行するつもりならどうしてくれようかとトランプの束を握り潰す変態がいたとかいないとか。

 

 

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