オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第31話 嫌がらせピエロとマチの誤算

 

 皆さんこんにちは、ヒソカがただの変態じゃないことを思い出したゴン・フリークスです。これは絆されてるのか、変態の普段の行いのせいなのか。

 

 

 

 カストロ戦に勝利し、ゴンからの拍手で機嫌もいいヒソカ。控室に戻る廊下を歩いていると、関係者以外立入禁止の区画にも関わらず一人の女性が壁を背に待ち構えていた。

 

「来たね、さっさと用を済ませるよ。その傷もどうせ治療するんだし」

 

 ボリュームのあるピンクの髪を結い上げ、くノ一のようなラフな和装に身を包んだ女性。悪名高き幻影旅団の初期メンバーにしてNo.3、ヒソカのお気に入りの一人マチ・コマチネが天空闘技場に来訪した。

 

 

 闘士が使う個室の一つに入ったヒソカとマチ。椅子に座ったヒソカが頬に貼り付けていた薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)を剥がすと、引き裂かれた上に自分の指で抉ったせいでグチャグチャになった傷が姿を現した。

 

「変な遊びで余計な傷を負うのは相変わらずだね、すぐに済むからオーラの止血止めて」

 

 “念糸縫合“

 

 マチの変化系に属する発“念糸”を使った治療法であり、筋肉や血管はもちろん骨や神経すらほんの一瞬で繋げきる。今回のヒソカの怪我は頬が裂けただけなのもあり、それこそ瞬きする間に皮膚がほんの少し足りないだけの見た目となった。

 

「ん~、いつもながら見事だねぇ♥これなら夕食の時に何を食べてもこぼさないですむよ♣」

 

「あっそ、はした金もなんだから一千万よこしな」

 

「後日振込でいい?」

 

 ヒソカが若干傷の残る頬を薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)で隠していると、訝しげにその大きなツリ目を鋭くしているマチに気付いて首を傾げる。

 

「…あんたなんか変わった?さっきの試合も最後はらしくなかったし、キング?ゴン?とかいう奴って誰なわけ?」

 

「あれ、もしかして妬いてる?やだなぁ、ボクがマチのことないがしろにするわけないじゃないか♥どうだいこれから一緒に食事でも♦」

 

「死ね」

 

 マチは訝しげだった表情を思い切りしかめ、嫌悪感を隠そうともせずに部屋を出ようとするも途中でなんとか思いとどまる。

 

「予定変更だよ、8月31日までに暇な奴あらため全団員必ずヨークシンシティに集合。あんたの場合メール見てないとか言ってばっくれそうだったから、あたしが直接言いに来たわけ。流石に今回はちゃんと参加しな」

 

「…ッ」

 

 マチが振り返って予定変更を告げた時、ヒソカは頬のドッキリテクスチャーをテレビの反射で確認していて表情が見えなかった。しかし言葉の途中で一瞬硬直したことには気付き、何ヶ月かぶりに会って感じている違和感がより強くなっていく。

 

「そっか、全員集合になっちゃったか♣タイミングが合えばクロロにちょっかい出したかったのに残念♦」

 

「…、アンタそれ本気で言ってる?今ここで殺してやろうか?」

 

 ヒソカの表情はいつものニヤケ顔ながらもその発言は流すことが出来ず、マチから本気の殺気とオーラが漏れ出す。

 

「やだなぁ、ボクがクロロを狙ってるのは皆知ってることだろ♦邪魔が入る状況ならボクだって自重するんだし、別に口に出すくらいいいじゃないか♠」

 

 マチは両手を上げておどける姿に苛立ちをつのらせながらも、言っている通りヒソカの目的は旅団内でも公然の秘密として認識されている。舌打ちとともに改めて部屋を出ようとするも今度はヒソカから待ったが入り、いい加減本気で切れそうなマチだったが渋々足を止める。

 

「実は最近新しい発が完成してね、ちゃんと使えるか人の意見が欲しかったんだ♣別に戦おうとかじゃないからちょっとだけ見てくれると嬉しいな♦」

 

 ヒソカは返事を待たずに自分の新たな発、奇術師の嫌がらせ(パニックカード)を具現化させる。マチは一見するとただのトランプながら、よく見るとオーラの振れ幅が不自然なほど大きいことに疑問を感じた。

 

奇術師の嫌がらせ(パニックカード)って名付けてね、柄と数字によって効果と威力が違うトランプを具現化してる♣何を引くかは完全にランダムで、戦闘以外でも占いとかに応用可能♦」

 

 何を引くかはランダムと言いながら念入りにトランプをシャッフルすると、表を下にしながら扇状に広げて差し出す。

 

「他人に見せるのも初めてなくらいできたてホヤホヤなんだけど、ちゃんと具現化できてるかも含めて試しに好きな一枚を引いてくれないかな♠」

 

(…こいつ何を考えてる?さすがにこの状況で取り返しの付かないことをするとは思わないけど、なおさらこの茶番の意味と理由がわからない)

 

 マチは変わらず警鐘を鳴らす己の勘を自覚しながらも、厄介で油断ならないヒソカの新しい発に触れることを優先させた。

 

(最悪あたしが恥をかくくらいなら、少しでも情報を引き出したほうが良い。対策はもちろん、初見かどうかで戦闘時の駆け引きに雲泥の差が出る)

 

 腹を決めたマチがあえて真ん中付近から引いたトランプは、ヒソカが狙って引かせたのか判断に悩むハートのQ。

 

「で?引いてあげたけどこれで何がわかるの?」

 

 たった一枚のトランプとは到底思えないオーラに目を見張りながら、絵柄をヒソカに見せて結果を聞くといやらしい笑みを浮かべる。

 

「すごくいいね♣ハートは特にオーラを込めやすい柄だし、QはAとKに続いて3番目の強さだ♦何より愛の女王なんてまさに君のためにある一枚としか思えない♠」

 

 要領を得ない説明をするヒソカに嫌気が差し、マチは凝でもってトランプを注視する。

 

「ついでに言うと、同じ言葉の含まれてる伸縮自在の愛(バンジーガム)とすこぶる相性が良い♦」

 

 マチはトランプの輪郭が崩れてオーラが波打った時点で手を離したが、意識が観察に傾いていたせいでその場を離脱することが出来なかった。

 

「ボクのバンジーガム()を受け取って♠」

 

 トランプのオーラが弾けてバンジーガムへと変わり、ギリギリで急所をかばったマチをその場に貼り付けた。

 

(強い!どれだけ振り絞っても数分は行動不能、この威力で3番目の強さだって!?こいつなんて発を作りやがった!)

 

 なんとか逃れようと試行錯誤する様をいやらしい顔で見ているのに気付き、マチは先程以上の殺気を発しながら凄むもヒソカは呑気に携帯を取り出して誰かと通話を始める。

 

「出来れば全員で会って話がしたいね♥実は脚を一本捕まえてあるんだ、君の手も借りたいから是非頼むよ♦」

 

 マチは写真でも撮られて粘着されるくらいだとたかをくくっていた自分に激怒し、それ以上に取り返しの付かないことを始めたヒソカに激怒した。

 

「ざっけんじゃねぇぞヒソカ!!テメェあたし等を売りやがったな!?外せ!今すぐズタズタに引き裂いて殺してやる!!」

 

「甘えてんの?殺したけりゃ自分で解いてかかってきなよ♠ま、逃しなんかしないけどね♦」

 

 マチがどれだけ力を振り絞っても、ヒソカのバンジーガムから逃れることが出来ない。ただでさえパニックカードで底上げされている上に、通話を終えたヒソカが重ねる形で補強しだしたからなおさらだった。

 

「ッ!!クソがぁー!!」

 

 どれだけ騒ごうが天空闘技場の防音設備も伊達ではなく、ヒソカはゴン達がやってくるまでの間、マチの激高する姿を愉しそうに眺め続けていた。

 

 

 

「ほお〜、本当にこんなかわい子ちゃんが悪名高い幻影旅団の一員なんだな」

 

「あんま変なこと言うなよレオリオ、クラピカがブチ切れて殺しちゃったらどうすんだよ」

 

「お前達は私を何だと思っているんだ、大丈夫、殴りかからないだけの理性は残っている」

 

「その全力で抑えてる拳がなければカッコついたのにね」

 

 ヒソカに呼ばれてやってきたゴン達は、部屋に入ってすぐ目に入ったマチに警戒しながらも若干の哀れさを感じずにはいられなかった。

 

「いらっしゃいゴン♥皆もよく来たね、前見せたと思うけどこの子が旅団内でもトップレベルに厄介なマチだよ♦ほらマチ、挨拶しないと♠」

 

「むぅー!!ふがー!!」

 

 バンジーガムで雁字搦めにされるばかりか口枷としてもねじ込まれているマチが、機械仕掛けのように体勢を変えられ最終的にぶりっ子ポーズで固定される。

 

「へえー、これだけくっつければバンジーガムの伸縮だけでポーズも取らせられるんだね」

 

「それ相応にオーラを消費するから戦闘じゃ使えないけどね♣単純な力は旅団内で上から数えたほうが早いマチでもこの通り♥」

 

 女豹のポーズや雑なロボットダンスなど好き勝手に弄ぶヒソカに対し、まさに人も殺せる視線と殺気を向けるマチだったが心の中はだいぶ落ち着いてきていた。

 

(ヒソカが旅団を裏切るほどだから、どんな奴等が来るかと思えば。旅団に恨みがある奴に一般人とガキ二人か、少しは使えるみたいだけどこの程度なら何の問題もない)

 

 マチは自分の生存はほとんど諦めていたが、たとえヒソカでもこのメンバーで旅団をどうこうできるとは到底思えなかった。

 

(あたしが戻らなけりゃ必ずヒソカに疑惑が向く、パクがいる限りごまかせないからこいつ等の企みなんて一瞬で)

 

「随分と落ち着いているな?自分が死なないとたかをくくっているわけではないな、我々の行動は必ずバレることを確信しているといったところか」

 

 マチが声を発した人物に視線を向けると、クラピカが導く者の鎖(ガイドチェーン)を向けて観察していた。

 

「一ついいことを教えてやる、貴様は死なんし蜘蛛のもとへ帰ることも出来る。今から行われることの全てを忘れてな」

 

 クラピカの言葉で、マチの心拍数が一気に跳ね上がる。

 

(おい、パクの能力がバレてるのはヒソカのせいだろうからまだいい。知ってたとしてもそんな都合よく記憶に作用する能力なんて作れるのか!?)

 

 幻影旅団のNo.9であるパクノダは、触れた相手の記憶を読み取ることができる特質系能力者だ。ただし記憶を読み取るとはいっても、質問などに対して相手が思い浮かべたことを知ることが出来る能力である。つまり、相手が完全に忘れている記憶を読み取ることはできない。

 

「そうそう、クラピカの裁定する者の鎖(ルーリングチェーン)だけど流石に辻褄が合わないほど封印すると違和感を感じるね♦それ以外は全く問題なかったから心配しなくていいよ♥」

 

 その言葉で記憶に作用する能力の存在が確定しマチの心中を絶望が支配しかけるが、ヨークシンシティに全旅団員が集合することを思い出しなんとか気を持ち直す。各個撃破するにしても良いところマチ以外に一人か二人が限度であり、依然として幻影旅団の有利は崩れないと考えたのだ。

 

(大丈夫、メンバーは欠けるかもしれないけど旅団までは、団長までは届かない。それならきっとヒソカも処理して…)

 

 そこでマチは、自分を見上げるゴンと目があった。

 

 頭に小さな、しかしオーラを纏った獣を乗せるその黒い目を覗き込んだ瞬間、今までの全てを吹き飛ばす絶望がマチの胸中を埋め尽くした。

 

(ダメだ、ダメだダメだダメだ!コイツを、コイツを旅団にぶつけたらダメだ!!万全に準備してハメ殺すならまだ可能性はある、けどコイツ有利の遭遇戦をされたら誰も、ウボォーですら勝ち目がない!?)

 

 マチの動揺はガイドチェーンを使用するクラピカはもちろん、この場で最も付き合いの長いヒソカにも筒抜けとなっていた。

 

「あぁ♥マチがそのざまってことは気のせいじゃない、また強くなったんだねゴン♥あぁどうしよう、ボクの我慢も限界に近いよ♠」

 

 身をよじり己を抱きしめるヒソカからカストロ戦の比ではない、それこそ死者の念を彷彿とさせるオーラが立ち上る。

 ヒソカのオーラに慣れてきていたキルアが全力で部屋の隅へと退避して全身を震わせ、ガイドチェーンの影響で普段より当てられているクラピカを冷や汗にまみれ足が高速でブレているレオリオが前に立ち庇う。

 そして毛を逆立て歯を剥き出すギンをなだめるゴンは、好戦的ながらどこか優しさすら感じる笑みを浮かべていた。

 

(なんだ、これ、ヒソカはやばくて、それにこのガキは立ち向かえてて、悪い夢なら覚めてくれよ、こんな、こんな奴等どうしろっていうのさ)

 

 マチはゴンの底知れなさに絶望し、ヒソカが想定していた強さの数段上だったことに絶望した。そしてそれでも何も出来ない自分に絶望するマチの目が潤み出した頃、子鹿の倍は震えるレオリオが意を決して口を開いた。

 

「オイコラ!ゴンもヒソカもいい加減にしろ!今は幻影旅団の情報を得るとこだろうが!?そういうのはまた今度にしやがれ!」

 

「くふっ♥やっぱりレオリオが精神的には一番良いね♥ごめんごめん、本音もかなり混じったけどこれも必要なことだったのさ♠見てご覧よ、天下の幻影旅団がまるでそこらの乙女みたいじゃないか♦」

 

 オーラを収めたヒソカにキルア達は一息つくも、旅団の存続が危ぶまれているマチの精神は荒れに荒れたままとなっている。

 

「これだけ精神的に追い詰めればルーリングチェーンの効果も更に跳ね上がるはず♣必要なことはさっさと引き出して、皆で水入らずの時をすごそうじゃないか♥」

 

 ヒソカがゴン達にとって見慣れた飄々とした雰囲気に戻り、全員の視線が集まったクラピカは一度大きく深呼吸すると能力を発動させた。

 

裁定する者の鎖(ルーリングチェーン)

 

 

 

 

「ヒソカ!テメェさっきの写真消さねえとあたしがお前を消すからな!!」

 

「クククッ、いいねそれ♦ぜひともお願いするよ♣」

 

「クソがっ!!死ね!!」

 

 天空闘技場の荒くれ者たちのため、諸々の備品が丈夫に作られているにもかかわらずひしゃげるほど強く扉を閉めて出て行くマチ。彼女の記憶にかけられた鍵は、旅団メンバーの発について情報を抜かれた事実を隠し切っていた。

 

(ヒソカの野郎ふざけやがって。まぁなんの気まぐれか知らないけど厄介な発のこともわかったし、ヨークシンでこき使って金でも貢がせるか)

 

 マチは気付けない、記憶の底の底で泣き叫ぶ自分自身に。

 蜘蛛の危機を知る唯一の脚は鎖に縛られ、蜘蛛自身縛られたことに気付くことなく歩き続ける。

 奪うことしか知らない蜘蛛が、奪われる立場になる時が刻一刻と近づいていた。

 

 


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