皆さんこんにちは、無事幻影旅団の能力を把握出来て安心したゴン・フリークスです。着々と包囲網が張れて順調ですが、順調すぎて逆に不安を感じます。
マチが問題なく天空闘技場から立ち去ったのを確認した後、ゴン一行はヒソカの滞在する部屋に作戦会議の名目で訪れていた。
「しっかし落ち着かねえ部屋だなオイ、ほとんどゴンのとは言え自分のポスターなんて恥ずいだけだな」
「なんか撮られてるとは思ってたけどこんなもん作ってるとか暇人もいたもんだね」
レオリオとキルアは部屋に所狭しと並ぶポスターやぬいぐるみにドン引きし、ヒソカはおもちゃを自慢する子供そのままにコレクションを自慢しだす。
「レオリオのそのポスターなんかは今50万位までプレミア付いてるよ♣この部屋で今一番高いのはクラピカが100階で見せた笑顔のブロマイドで500万かな?ボクとしてはゴンのカストロ戦の笑顔が一番好きなんだけど数が出回ってるせいでプレミア化はしてないんだよね♠キルアのウインクカードもかなり人気で100万は軽く超えてくるしもう宝の山なんだよ♥他にもこれは…」
「よし、マチから引き抜いて蜘蛛全員の能力が判明した。これを元に危険度と優先順位を選定し直すぞ」
ペラペラと喋り続けるヒソカを放置し、ゴン達は新たな情報から旅団のメンバーについての理解を深めていく。以前ヒソカから得た性格や戦闘スタイルと今回手に入れた能力を照らし合わせ、戦闘や情報戦となった場合に起こりうることと対策を詰めていく。
「てかあのマチに鎖ぶち込めたのかなりラッキーじゃん、全員の発わかったのマジででかいわ」
「本当にね、特にフィンクスとフェイタンって二人の能力を知れたのは大きいよ。知らないで突然発動されたら全滅もありえたんじゃないかな」
キルアの言葉に返すゴンは真面目な顔で二つの能力、
「んー?そんなに厄介そうには見えないけどな、どっちもゴンのワンパンで終わりじゃねえのか?」
「その言い方なら蜘蛛全員がゴンのワンパンで終わりだよレオリオ。しかしヨークシンシティに蜘蛛が全員集合する以上、どこかで必ず集団戦が起こる」
「このフィンクスってのがどこまで威力を上げられるかによるけどさ、自分も死ぬ気なら流石にゴンも耐えられない可能性あんだろ。そんでフェイタンの方は最終局面で全員消耗してたらそれこそ一網打尽にされかねない」
楽観的なレオリオに対してクラピカとキルアが説明すれば、そもそもタイマンしか考えてなかったことに気付いて苦笑いする。
「あー、ネテロ会長にチーム戦ってのを教えてもらったばっかなのにもう忘れてたぜ。やっぱヨークシンに行く前に天空闘技場を離れたほうがいいんじゃねえか?」
「一応予定としては7月くらいに休養も兼ねてオレの故郷のくじら島に行くつもりだよ。そこで連携の確認を重点的に…」
その続きを言おうとするゴンの肩に、ひたりと青白い手が置かれる。
「ネテロ会長?教えてもらう?あそんでいたのかい?ボク以外の奴と♠」
ゴン達が話し合いを続けている間ずっと笑顔でグッズを自慢していたヒソカが、それはそれは哀しそうな笑みを浮かべてゴンの背後に立っていた。誰も何も言えない空気の室内で、事の発端となってしまったレオリオの唾を飲む音がやけに大きく響いて、
「うん!だいたい2週間くらい前かな?1日だけ訓練してもらったんだ。ヒソカも誘おうかと思ったけどまだ記憶封印したままだったし、心源流関係だったから声かけなかったんだ。すごく楽しかったし強くなったよ!!」
底抜けに明るいゴンの笑顔で一気に空気が弛緩した。
「…♥それは良かったね、どんなことして遊んだの♦」
その後はゴン達がネテロと行った修行内容を語るようになり、幻影旅団についての話し合いはそれほど盛り上がることはなかった。そしてヒソカはゴンの牢については一切聞くことなく、特に禁止されなかった百式観音について詳しく聞いて笑みを深める。
「んー♥聞けば聞くほどゴンが何をしたか聞きたくなっちゃうよ♥ネテロ会長の発、百式観音ねぇ、実にそそられるじゃないか♠」
「ヒソカ的にはかち合ったらどう攻略すんだ?直接見た側の意見としては流石に厳しいと思うんだが」
「そうだね、ボクも実際見てみないことにははっきり言えないけど♣今考えてる
百式観音の詳細を聞きながら、それでもなお自然体でそう口にするヒソカの姿はまさに強者としての自信と自負を感じさせた。
「流石だな、私達では攻略の糸口すら見つけられないのが現状なのだが」
「ま、ボクのパニックカードはゴンと真っ向勝負するための能力だからね♥同じ物理攻撃主体のスタイルなら勝ち目があって当然さ♥」
「へー、ヒソカがそこまで言うならマジで勝ち目あるのか。わかっちゃいるけど先はなげーなぁ」
初心者組3人の中で唯一ゴンレベルの強さを目指しているキルアは、あらためて自分との差を明確にされたようで若干へこたれている。ウイング指導の下恐ろしい速度で成長し、能力の応用も形になりかけているほど才能に満ち溢れているキルアでさえ、未だにどれだけ遠くにいるのか見当がつかないでいた。
「皆が天空闘技場にいるのもあと3ヶ月くらいか♠ゴン、君の試合間隔ギリギリで日程を組むのはどうだろう♦試験後からの集大成を見せ合おうじゃないか♥」
「そうだね、オレも戦いたいって思う人はもういないしそっちの方がいいかな。本当に手の内教えなくていいの?」
「もちろん♥ゴンがどんなことをしてきても受け止めてあげるよ♥代わりにボクのこともしっかりと受け止めてね♠」
「オッケー!今度は不甲斐ない負け方しないでよ」
まだまだ先の話にもかかわらずお互いに戦意をぶつけるが、なんとも微妙な表情のレオリオが二人に釘を刺す。
「盛り上がってるとこ悪いけどよ、少なくとも天空闘技場が崩れるようなことはすんなよ?マジで四桁単位で死人が出かねねえからな?本気でフリじゃねえぞ?」
「「…善処
一抹の不安を残しながらも、この日の話し合いはとりあえず終わりを迎えた。
マチに鎖を打ち込んでからの3ヶ月間、ゴン達はウイング指導の下組手に精神鍛錬と修行三昧の日々を過ごすことになる。
天空闘技場内で最高峰の技術持ちであるゴードンにカストロと戦い終わってしまったゴンは、試合をする意味も薄いということでギンと共に基礎値の向上に努めた。
キルア、レオリオ、クラピカの三人は念能力者同士の戦闘に慣れるため月2戦ペースで試合を組み実戦経験を、組手や系統修行で念能力の向上を成し遂げた。
ズシもゴン達との修行に刺激され、発こそまだなものの200階に到達して偶然にもリョナリオによって洗礼を受けた。
ゴン含め非常に地味で変わり映えしない修行内容がほとんどだったが、ゴンとギン以外のメンバーは特に伸び盛りであり日々成長を実感して修行に励んだ。
天空闘技場ではコンスタンスに試合を組むキルア達に加え、ゴードンやカストロと話題ある新しいフロアマスターの誕生に好景気が続いていた。それにつられて闘士達の意識改革と言うべきか、相手を蹴落とす以上に己の研鑽に励む者が増えゴードン的に好ましい環境が形成されつつある。
そんな非常に熱い天空闘技場において、まことしやかに噂されている試合があった。
“キングマッスル”ゴンvs“残虐ピエロ”ヒソカ
お互いカストロ戦以降試合申請の情報はなく、しかし闘技場内での目撃情報は頻繁に上がっている。
そしてスタッフからか闘士からか、7月に両者の試合が組まれたという情報が拡散された。
天空闘技場も本人達からも公式に発表がないため表立った宣伝等もないが、すでに7月のチケットや近隣ホテルの予約にすらプレミアが付き始めている。
チケットのダフ屋すら自分の分を確保することに躍起になる世紀の一戦の予感が、すでに熱い空気の下で灼熱のマグマとなり今か今かと噴火の時を待っていた。
ある観光地からほど近いながら、多くの廃墟が乱立する元別荘地。かなりの賑わいを見せていたその一帯は、突如として生い茂った毒性の強い植物によって衰退を余儀なくされた。そんな数多い廃墟の一つに、幻影旅団内でも知る者の少ない拠点が存在した。
「あら、おかえりなさいマチ。ヒソカにちゃんと予定変更伝えられた?」
幻影旅団の拠点に帰還したマチを出迎えたのは、長身でスタイルの良いクール美女であるパクノダ。
「…お願いだからしばらくあの糞ピエロの話はしないで」
「あらあら、団長はいつもの部屋だから用が済んだら飲みましょ」
帰還早々機嫌が最悪のマチに色々と察した彼女は、会いに行くだろう団長の所在だけ教えるとそそくさと奥へと引っ込んでいく。そしてマチは犯罪者集団のアジトだけあって薄暗い通路の先に進み、幻影旅団団長クロロ・ルシルフルが趣味で集めた本を保管する部屋へ辿り着いた。
「クロロ、ヒソカの件で知らせときたい事があるんだけど今大丈夫?」
クロロは特に欲しい物がない時はこの部屋で読書をしていることが多く、邪魔されたくない故にこの拠点は旅団内でもマチにパクノダ、そして情報担当のシャルナークしか場所を知らない。見る者が見れば卒倒しかねないほど多くの稀少な本に囲まれた一見優男な黒髪の男性、ヒソカも認める最強格の一人クロロが読んでいた本から顔を上げた。
「おつかいご苦労だったなマチ。それで?ヒソカに何か感じたのか?」
「正直普段通りっちゃ普段通りなんだけどさ、なんか嫌な予感がするんだよね」
マチ自身確証もなければ引っかかる程度のため、若干気まずそうに天空闘技場でのヒソカの言動を報告する。クロロは黙って最後まで報告を聞くと、しばらくの間顔を伏せ熟考した後にマチへと確認を取る。
「マチの考えとしては、ヒソカはヨークシンで動かないんだな?しかしなんとなく嫌な予感は消えないと」
「まぁそうだね。あいつはイカれた奴だけどバカじゃないし、全員集合する時にわざわざ動かないでしょ。それに初見じゃまず対応できない発までバラしてるから、嫌な予感もヒソカってよりヨークシンに感じてるのかも」
ヒソカの言動とマチの意見を聞き、考えをまとめたクロロはおもむろに携帯で連絡を取り始める。
『やっほー、依頼?』
「9月1日前後に頼みたい事があるんだが空いているか?」
『ざんねーん、もう依頼入ってる。家の誰かに回そうか?』
「いや、お前が受けられないなら今は必要ない。依頼の場所はヨークシンシティで殺しでもないんだが、とりあえず依頼内容と報酬について話せないか?」
『…ふーん、一週間後にカキンの首都に来れば話くらいは聞くよ』
「わかった、着いたら連絡する」
マチは通話の内容からヒソカに対して手を打っていることに気付き、クロロの考えが自分と逆であることに疑問を抱く。そんな雰囲気を感じとったクロロは、通話を終えるとマチに向き直り理由を語る。
「まず第一に、お前の勘は無視出来ないほど的中率が高い。仮にはずれたとしても、多少の金銭が無駄になるだけだしな」
一つ目の理由をやや冗談めかして口にすると、組んだ手に顎を乗せ真剣な表情に変わり言葉を続ける。
「問題なのはマチ、お前がヒソカは動かないと判断したことだ。動くことをほのめかせ、新たな発の情報まで出す。まるで今回は諦めたように見える、あのホラ吹きで天邪鬼のヒソカがなんとも素直なことだ」
クロロの説明が続くにつれ、マチの表情も徐々に強張っていく。クロロの考察と自分が感じたもの、そしてヒソカの性格を照らし合わせれば、信じ難いが同時にらしい答えへと行き着く。
「お前の言うとおりさ、ヒソカはバカどころか恐ろしいほど切れる。そんなあいつがお前を誤魔化したんだ、用心するに越したことはない」
クロロはゆっくりと立ち上がると、幻影旅団団長としての覇気を纏いながら宣言する。
「まだ確証はない以上手出しはしないが、もし動いたらこちらとしても相応の対応をさせてもらう」
相手はクロロをして最強格と認めざるを得ないヒソカ、どう対応しても出血は免れないが決して逃がすことはしない。
「裏切りが発覚次第、No.4ヒソカを処理する」
蜘蛛の頭は己の意に反する脚に気付いた、そして気付いた故に見えなくなった。
己が最も信を置く脚が鎖に囚われていることも、ヒソカという極大の光の裏に隠れた化物にも。
蜘蛛が見誤ったとすればただ一つ、ピエロは思っていた以上に筋肉にゾッコンだった。