オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第38話 ノストラードファミリーと協力関係

 

 皆さんこんにちは、思った以上に普通の都市なヨークシンシティに違和感が凄いゴン・フリークスです。当たり前だけどマフィアは基本見当たらないし一般人だらけだし、これこそ物語の裏側って感じの平穏で溢れてます。

 

 

 

 

 ゴン一行はホテルからほど近いカフェのテラスで、昼前の小休止を取ってくつろいでいた。

 この日は早朝からゴン達の選別した拠点候補にカメラ等の監視体制を施し、この後は何をするかを話し合っているところだった。

 

「なあ、なんでカメラとかあんな遠くに仕掛けるんだよ。せめて出入りしそうなとこに置くとかさぁ」

 

「このバカリオ、機械関係に激強な奴がいるのにバラしてどうすんだよ。メンバーは全員来るのも知ってんだから、後は拠点にする場所さえ確定すれば十分なんだよ」

 

 レオリオは疑問をぶった切られながらも、さらに気になっていたもう一つのことを質問する。

 

「そういやどうやってあの3か所に絞ったんだ?記憶を読み取る奴のせいで建物内までは行ってないんだろ?」

 

「オレとギンがここ一ヶ月くらい誰も出入りしてないのを匂いで確認したんだ。流石に頻繁に人が来るところを拠点にしないでしょ、人を始末したらその分バレるリスクも上がるわけだし」

 

「…ギンはわかるとしてゴンもそんなに鼻がいいのか?」

 

「目に見える範囲でレオリオと同じ香水使ってる人は何人かってことくらい余裕でわかるよ」

 

「えぇ〜、」

 

「ほんとオレがやることねぇのよ、遠目にざっと一周したらハイ次ってなるからよ」

 

「素晴らしい探査能力だ、ゴンとギンに任せれば追跡は問題ないな」

 

 新たにゴンの規格外なところが見つかり半笑いになったレオリオは、続いて先日キルア宛に届いた慣らし中の武器にも目をやる。

 

「早けりゃ後一週間ねえがなんとかなりそうか?そうそう使いこなせるもんじゃないと思うんだが」

 

「よゆーだよ。こういう遊び道具は昔に一通り極めてるからね、勘を取り戻せば問題なし」

 

 そう言ってキルアは手で転がしていた武器、重量が50㌔あるヨーヨーで様々なトリックを披露する。軽々しく扱う姿からその重さは想像できないが、もし一般人がくらえば簡単に命を落とす死の遊戯である。

 

「それ作ってくれたのミルキってお兄さんだよね?グリードアイランドのことも教えてもらったし、情報料とかは本当にいらないの?」

 

 くじら島で開けたジンの餞別の中にあった、ジョイステーションと言うゲームのメモリーカード。その中に入っていたグリードアイランドのセーブデータを対価として、キルアは兄のミルキからゲームの情報とこのヨーヨーを手に入れていた。

 

「いーのいーの、ただのセーブデータならまだしも開発者が用意したもんだぜ?コピーとはいえむしろお釣りを貰いたいくらいだ」

 

「う〜ん、そんなたいしたデータじゃないと思うんだけどなぁ」

 

 データの内容を知っているゴンはそう言うが、実際問題ジンのセーブデータとなれば内容はともかくかなりの価値が付くのは間違いない。このメンバーにとっては親としての義務を放棄した人でなしだが、世間的に見ればとんでもない功績を上げている超一流のハンターなのだ。

 

「ま、キルアの兄貴も文句言ってないならいいじゃねえか。金は有るに越したことはないんだからよ」

 

「レオリオの言い方はあれだが、価値というものは買う側がどれだけ満足できるかで決まる面もある。ゴンはあまり気にしすぎるな」

 

 天空闘技場でかなり儲けたはずのレオリオだがその金銭感覚は良くも悪くも変わっておらず、先日の買い物でも行く先々で値切りに値切ってクラピカを赤面させていた。

 

「まあブタくんのこととかグリードアイランドのことは全部終わってからでいいだろ、それよりこれからのこと話そうぜ」

 

 ヨーヨーを仕舞いながら本題に戻すキルアに、ゴン達も改めて幻影旅団について考える。

 

「うむ、今朝の導く者の鎖(ガイドチェーン)でも蜘蛛の存在は確認出来なかったからな。下手に動いて遭遇するリスクを負うよりは、今しばらく潜伏するべきだと思うが」

 

「けどよ、天空闘技場でも話したが先制するなら集まり切る前に仕掛けるべきじゃねえか?こっちのが多ければまず負けねえだろ」

 

「それだと一網打尽に出来なくて逃げられる可能性があるだろ。これから先の安全も考えれば危険でも全員どうにかすべきじゃね?」

 

 行き交う多くの人々で賑わう中で幻影旅団というワードだけは出さず、しかし変に目立たぬよう普通の雑談をしている風を装う。そして天空闘技場以前から続く問題、危険を冒して一網打尽にするか安全を取って削ることに専念するかでいつものように平行線となる。

 

「相変わらず割れるなぁ、レオリオはわかるけどゴンも削り側なのは未だに違和感あるぜ」

 

「どっちの言い分もわかるからさ、それなら一番強いオレがブレーキになるべきだと思うんだよね。アクセル踏みっ放しじゃいざという時事故にあうだけだからさ」

 

 そして今までの打ち合わせに内容に加え、ヨークシンシティの地理なども加味して更に詰めていく。

 そしてオークション会場の予想や出品物を盗んだ後の行動を話し合っていた時、ゴン達に話しかけてくる男がいた。

 

「す、すまない、ちょっと聞きたいことがあるんだが、その、少々お時間頂けないだろうか」

 

 そこには気の毒なほど大量の汗をかき、子犬のように震えるスクワラの姿があった。

 

 

 

 

 スクワラがゴン達に接触する少し前、前日にヨークシンシティに到着していたスクワラとセンリツは犬の散歩を装い周囲の確認を行っていた。

 周りの音を聞くことに集中するセンリツを3匹の小型犬がリードし、スクワラがリードを持つ2匹の大型犬は少しの異変も見逃さないよう忙しなく顔を動かす。

 

(事前情報通りこの辺りにマフィアはほとんどいないな、治安面やショッピングモールまでの距離も考えればベストの立地か)

 

ヨークシンシティでも中心地にほど近く発展したこのエリアは、マフィア等の裏の顔より一般人向けである表の顔を前面に押し出している。

 

(あ〜ぁ、こんな気持ちのいい朝ならエリザと一緒に歩きたかったぜ。やっぱ転職しようかな、いくら給料が良くても限度があるわな)

 

 自分より索敵能力の高い犬やセンリツと歩いていて気が緩むせいか、交際する彼女や仕事への不満等をつらつらと考えていたスクワラは突然止まった犬に衝突してたたらを踏む。

 

「ととっ、すまんすまん、…センリツ?」

 

 謝りつつ犬の視線を追えば、数歩後ろで立ち止まるセンリツがいた。

 

「スクワラさん、どうやら思っていた以上の大事を引き当ててしまったようです」

 

 目を瞑り両手を耳に当て集中するセンリツは、冷や汗を流しながら徐々に顔色を悪くしていく。

 

「この先の広場に行きましょう、そこまで行けば会話以上の情報を得られます」

 

「あ、ああ、わかった。簡単にでいいから何を聞いたか教えてくれ、内容次第で隊長に連絡を入れる」

 

 尋常でない様子に気を引き締めたスクワラが携帯電話を取り出すと、現時点でわかっていることを教えられて唖然とする。

 

「おそらく4人組、話している内容はオークションを襲撃する蜘蛛について」

 

「…は?蜘蛛ってお前、冗談だろ」

 

「ここまで来てわかりました、彼等は一切疑っていません。どこから情報を仕入れたのか、間違いなく幻影旅団が、しかも全メンバーでオークションを狙っていると確信していますね」

 

「嘘だろオイ…」

 

 スクワラは広場に到着して空いたベンチに座ると、すぐに隊長のダルツォルネに電話をかける。簡単に状況を説明すれば、様子を見て場合によっては接触を図るように命令される。

 

「くっそ、休暇みたいなもんと思ってたがとんだ貧乏くじだ。4人組の様子はどうだセンリツ、…センリツ?」

 

 返事のないセンリツへ訝しそうに視線を向ければ、先程とは比べ物にならないほど顔色の悪いセンリツと全力で尻尾をしまう犬達がいた。

 

「お、おいどうしたんだよ、もしかして気付かれたのか!?」

 

「いえ、そこは大丈夫だけど、ごめんなさい、ちょっと深く聴きすぎたみたい。犬達は風向きが変わったから匂いが届いたんじゃないかしら」

 

 その言葉と犬達の様子に、スクワラは今日何度目かわからない嘘だろという言葉を飲み込んだ。スクワラが発を駆使して調教した自慢の犬達は、たとえ銃火器を持った相手だろうと一切恐れることなく立ち向かえる。

 

(そんなこいつらがこの有様で、センリツも今までこんな姿見たことねえぞ!?)

 

 自分では影も形もまったく確認出来ない距離にいる4人組が、一体どんな奴等なのかと不安になってきたスクワラ。そんな彼に追い打ちをかけるように、センリツから伝えられたのは聞こえる音と人格的には接触するべきという言葉。

 

「今のお前を見てると、とても大丈夫とは思えないんだがな」

 

「それは重ねてごめんなさい、気になって必要以上に探ったせいで勝手に怯えてるだけよ」

 

「まあ信じるけどよ、頼むから一匹位付いてきてくれ、万が一でも話しかける相手を間違えたくねえから」

 

 スクワラはなんとか年長の犬を立たせると、センリツに大体の場所を聞いてもしもに備えて待機させる。

 

「本当に人格とかは善良な良い人達みたいだからあまり身構えないでね、特に一番大柄な人は間違いなく良心の塊よ」

 

 そんな言葉を背に教えられたカフェへと向かい、テラスが見えるようになれば上手く溶け込んでいるが纏を行っている4人組が確認出来た。

 

(何だよほとんどがガキじゃねえか、むしろでかいやつが一番ヤバそうに見えんぞ)

 

 安心したのも束の間、ここまで付いてきた犬が伏せるとてこでも動かなくなり弱々しい鳴き声を上げて懇願してくる。もともと犬好きが高じて発を決めたスクワラとしては、ここまで怯える犬をこれ以上無理に連れて行くことは出来なかった。

 

「わかったよ、お前はここで“待て“。すぐに戻ってくるからよ」

 

 リードを近場の柵に軽く結ぶと、一人4人組に向けて歩みを進める。マフィアとの接点を求めているのもセンリツが聞いていたため、ノストラードファミリーの名前を出せば問題ないと気楽に近付いて行った。

 

 そしてギンの警戒範囲に入った瞬間、スクワラの脳内を抗い難い恐怖が支配した。

 

(…は?いや、ちょっと待てよ)

 

 自然と俯いてしまった顔をなんとか上げれば、黒髪の少年の足元からこちらを見る小さな動物と目が合った。

 

(…あぁ、エリザ、俺はここで死ぬかもしれない)

 

 捕捉された以上逃げることも不可能と開き直ったスクワラは、出来る限り敵意がないことを示しながらゆっくり一歩一歩近付いていく。

 敵意のないことがわかっているのも有るだろうが、そもそも脅威とみなしていないことも何となくわかるのは犬を操作する能力者としての感受性か。

 

「す、すまない、ちょっと聞きたいことがあるんだが、その、少々お時間頂けないだろうか」

 

 転職を心に誓い恐怖に打ち勝った男、スクワラに詩の続きが書き込まれた瞬間だった。

 

 

 

 

 

 その後センリツや他の犬とも合流し、流石に大人数の為スクワラ達の滞在ホテルへと全員で移動したゴン一行。更に増えたスクワラの使役する犬達に上下関係を叩き込むギンとは別に、スピーカー状態で通話を繋いだダルツォルネを加えてオークションと幻影旅団について話し合っていた。

 

『…本当にオークションが狙われているのか?プロハンターとはいえガセを掴まされた可能性は?』

 

「重ねて言うが、我々にとってこの情報は100%真実だ。そちらが信じようが信じまいが関係なく、そもそも接触してきたにも拘らず無駄な問答は時間の無駄ではないか?」

 

『…すまない、その通りだな。そこの二人の判断を疑うことになっては送り出した俺自身を疑うことになる。ビッグボスに報告するまでは空手形だが、ノストラードファミリーとして全面的に協力させて欲しいと言っておく』

 

 ダルツォルネの言葉にクラピカは驚きをあらわにするが、それ以上に人となりを知っているスクワラとセンリツの驚愕は大きかった。

 

「い、いいんですか隊長!?話を持ってきた俺が言うのもなんですが今日接触した相手にそこまで肩入れして」

 

『二度言わせるな、お前達の裁量で動くことを許したのは俺だ。すなわちお前達の判断は俺の判断、何より本当に幻影旅団の全メンバーが揃うというなら、事はノストラードだけの問題では収まらないだろう』

 

「我々も同じ意見だ。恐らく蜘蛛のターゲットは、オークションに出品される全てだと予想している。その場合十老頭はもちろん、参加するマフィア全てがコケにされることになる」

 

 その予想に改めて事態の大きさを理解したスクワラとセンリツだったが、電話の向こうで静かに笑い出したダルツォルネを疑問に思う。

 

『着実に増えているボスのファンでノストラードの名は随分と高まった。ここで幻影旅団を撃退し、オークションを救ったともなればこの先の栄光は留まることを知らんだろう。クラピカといったな、欲しい兵隊の数を言うといい、その二人含めて念能力者も多く所属している。そちらの望む数を用意しよう』

 

「では遠慮なく言わせてもらう、ノストラードファミリーに求める戦力はゼロだ。ここにいる二人を索敵要員として雇わせてもらえればあとは足手まといだ」

 

 スクワラとセンリツは後何度絶句すればいいのか。ダルツォルネの持っているだろう携帯が軋む音を聞きながらクラピカを伺えば、まるで試すかのように携帯を静かに見つめていた。

 やがて電話の向こうから深い深呼吸が一つ聞こえると、少しの沈黙の後にダルツォルネから返答が返ってくる。

 

『わかった、大丈夫とは思うがあまり雑に使ってくれるなよ?戦闘力こそ高くないが二人共得難い能力を持っている』

 

「もちろんだ、協力感謝する。そちらの打ち合わせもあるだろう、私達は拠点に戻る故何かあれば連絡してくれ」

 

 クラピカはそう言って立ち上がると、途中から犬達と戯れていた三人と一匹を伴って退出する。

 残るスクワラとセンリツはたっぷりと3分間は気まずい沈黙を味わったが、聞こえてきたダルツォルネの声は思いの外落ち着いていた。

 

『諸々言いたいことはあるが、とりあえず良くやった。また連絡するがお前達は基本的に向こうの指示に従って動け、こちらの護衛任務は余程がない限り構わなくていい』

 

「了解です。…その、いいんですか隊長?ノストラードファミリーが舐められてるようなもんでしたが」

 

『ふん、それなら直接相対したお前に聞くが、ファミリーの全力で報いを受けさせると言ったらどうする?』

 

「全力で逃げますね」

 

 スクワラのあまりにもな回答に盛大な溜息が漏れ、ダルツォルネは先程のクラピカとのやり取りで大凡の方向性は決まったと告げる。

 

『要は大きく動くなと釘を刺されたのだ。最初はゲリラ戦で臨むつもりなんだろうな、戦力より索敵を求めている時点で間違いない。それにな、一応ビッグボス経由で十老頭に連絡が行くだろうが、ことがことだけに何か起きるまでは下手な対応が出来ん』

 

「はあ、なるほど。それでも手数は多いにこしたことはないと思いますが」

 

『バカを言うな、兵隊はおろか能力者すら足手まといと言った以上奴等でも勝てる保証はないのだろう。そんな相手には蟻をいくら差し向けても気付くことすらなく踏み潰されて終わりだ』

 

 もはやスクワラは己と犬達の命が風前の灯のように思えてしまい、断りを入れるとフラフラとベッドに向かって行ってしまった。

 

『…センリツ、奴等の強さはどれほどかわかったりしないか?』

 

「正直に言えば私の感じ取れるレベルを優に超えていますが、おそらく一番弱いレオリオでも隊長より強いかと」

 

『そうか、今後の方針は先程言ったとおりだ。こちらからはなにかなければ連絡しないが、そちらは最低でも一日一回は報告しろ』

 

「了解」

 

 切れた携帯をしばらく眺めていたセンリツは、言うべきか否かを考え結局言わなかったことを思い返す。

 

(黒髪の子、ゴン君といったかしら、あの子は一体何者?)

 

 注意深く聴いたことでわかったゴンの異常性、連れていた小型化していると思われる密度のおかしいペットとはまた違う違和感。

 

(全身余すことなく、それこそ心臓ですら完璧にコントロールされているようなまるでメトロノームの規則性)

 

 それは生物であれば絶対にあり得ない音。

 まるで人間から機械の音が響いているような見た目との差異は、センリツに多大なストレスを与えて恐ろしさすら感じさせていた。

 

(何より私の耳の良さを知っていた?他の三人はもちろん、普通なら驚くはずなのに全く驚いていなかった)

 

 センリツの聴力はその生い立ちと念能力が合わさって、視認が困難な距離の会話すら聞き取るという常軌を逸したものとなっている。その能力はレオリオやクラピカはもちろん、なんならネテロですら驚愕するほどの特異性である。

 

(あそこまで音で読めない人は初めてだけど、いい子なのは間違いなさそうだしわざわざ報告する程の内容でもないわよね)

 

 センリツは自分の耳に絶対の信頼を寄せている、その耳がゴンの周りの三人は信用出来ると判断していた。

 

(大丈夫、たとえ幻影旅団が相手でも、私は私に出来ることをするだけ)

 

 スクワラが本格的に不貞寝に入ったのを音で確認し、まだ日も高いがセンリツも横になれば精神的な疲れから一瞬で意識が遠のいた。

 

 


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