オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第42話 奪えなかったものと奪われたもの

 

 皆さんこんにちは、いよいよ幻影旅団との決戦が迫り一層気が引き締まるゴン・フリークスです。ただワクワクすればいいというわけではないので、何ならヒソカとの勝負より憂鬱になります。

 

 

 

 

 

「全員死ぬといいね」

 

 フェイタンのその言葉と共に吐き出されたフランクリンの俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)によるオーラ弾は、広いフロアに集まった何百というマフィア達を原形を留めない肉の塊へと変えた。

 マフィアと同じ黒のスーツに身を包むマチとフィンクス以外の4人は、何の障害もなくオークション会場へと潜入し一瞬で場の制圧を終えてしまった。

 

「あっけねえな、さっさと掃除してお宝頂いてこうぜ」

 

「デメちゃん、死体と血を全部吸い込め。あ、あとイスもお願い」

 

 フランクリンのつまらなそうな言葉に続き、シズクが何でも吸い込む掃除機デメちゃんを具現化する。スイッチを入れればフロアに充満した物体すべてが瞬く間に吸い込まれ、まるで掃除をしたばかりのような床が姿を現す。

 

「それじゃあこのまま金庫に向かおうか、全部消したから時間は稼げたけどお宝の量次第じゃ結構ギリギリかもね」

 

 この場にいないマチとフィンクスは帰りの気球を手配していて、多くの競売品を運ぶとなると人手の問題で時間に余裕はない。

 鍵を持つマフィアを引きずりながら金庫の前までやって来れば、絶望した顔で何度も失敗しながら何とか金庫を開ける。

 

「お宝とのごたいめーん…、あれ?」

 

 シズクの力の抜ける掛け声と共に金庫の中があらわになると、ホコリ一つ入っていない空の金庫が幻影旅団を出迎えた。

 

「…お前ふざけてるか?別の場所案内するなんて随分死にたがりね」

 

 フェイタンは苛立ちを隠すことなくマフィアの指を踏み砕き、悲鳴が上がるのを無視して踏みにじりながらシャルナークへと視線を向ける。

 

「いや、ここ以外に金庫はないよ。この中にないなら初めから存在しなかったってことだね」

 

「そうか、じゃあコイツに色々聞くよ」

 

 空振りに終わり落胆を隠せない他の団員と違い、趣味を満たせることになったフェイタンの顔が妖しく歪む。ひときわ強く踏みにじった足をどけると、マフィアの指は元々は何だったかもわからないペースト状の何かに変貌していた。

 

「安心するよろし、時間ないからすぐ死ねるよ」

 

 シャルナーク達は一応他の調査のため金庫を去り、フェイタンとその場に残された不運なマフィアは残り少ない命を絶望と痛みに満たされその生涯を終えた。

 

 

 

 地下競売の会場となったビルを囲むように、ゴン一行はそれぞれ単身ながら見張りをするマフィアに紛れてビルを監視していた。大半のマフィアがビルから外側を見張っているのに対し、ビルの方向を見張るゴン達はそれぞれの感覚で多くの命が消えたことを察知した。

 

「全員気付いたな?蜘蛛が動き出した、何らかの逃走手段を用意するだろうから見逃しだけはないようにな」

 

了解(ぐまっ)

 

 4人と一匹は傍受もされないほど電波が弱い短距離用の小型無線で連絡を取り合い、すでに潜入していた幻影旅団の手際の良さにわかってはいたが感心した。

 そして全滅しているが故に少なくない時間が経過した頃、特に夜目に優れているキルアがビルに近付く怪しい気球を視認した。

 

「見付けたぜ、多分一人か二人だけ乗ってる気球が近付いてる。もうしばらくしたら他のマフィアにも見えるな」

 

『よし、気球ならば追跡は容易い。飛び立った後残りがいないか確認だけして私達も追跡組に合流する』

 

 そして数分後気球に気付いたマフィア達が色めき立ち、ビルの中に突入した者達から客と競売品が見当たらないと報告がされる。メンツを潰されたと理解した荒くれ者達は怒りに顔を強張らせ、郊外の荒野へと飛んでいく気球を我先にと追いかけていった。

 

 

 

「…うん、誰かが来て競売品の匂いが消えてる。一番新しいのは旅団達と血の匂いだし空振ってるね」

 

「ふむ、足枷がないのは残念だが十老頭が対応したと考えれば妥当か。物を大量に持ち運びできる能力者といったところだな」

 

 ゴン一行は大半のマフィアが出払い閑散としたビルの中で、何が起きたかの確認と手がかりが一つでもないか調査をしていた。

 

「フロアは何もねえがオレでもわかるレベルで血の匂いが充満してやがった。あれはシズクって奴の能力だろうからこいつがいるのは確定だな」

 

「それとフロアにいたマフィアの人数的に考えてフランクリンって奴もいるのが濃厚。あの能力でフロアを傷付けてないのはコントロールやべえ」

 

 ゴンとクラピカと別れてフロアの調査をしてきたレオリオとキルアも合流し、お互いにわかったことを確認しあい襲撃してきたメンバーの予測をする。

 

「気球に乗ってきた中にマチの匂いがあったのもわかっている。あとは襲撃組が向かった先に他のメンバーが待ち構えているかが問題か?」

 

「そこなんだが、センリツとスクワラが廃ビルを見張っててここ数時間で誰かが出入りした様子はないとさ。流石に何人残ってるかまではわからんらしいがな」

 

「じゃあ相手は6人でほぼ確定か。現場指揮ってことで団長のクロロかシャルナークがいるだろうし、そいつともう一人拉致で決定か?」

 

「金庫の匂い的に多分拷問されてる。それならフェイタンがいる可能性が高いよ」

 

 ゴン達は現場の状況やゴンの嗅覚による調査で、襲撃してきた幻影旅団のメンバーをほとんど看破することに成功していた。

 

「戦闘特化のウボォーギンがいないのは幸いだ。他のマフィアと合流してメンバーを確認次第、手筈通りクロロかシャルナーク、そしてフェイタンを優先して拉致する」

 

 そしてゴン達はシャッチモーノに持ってきてもらった車に乗り込み、運転センスに最も優れたクラピカの運転で先行しているマフィア達の後を追った。

 

 

 

「やっぱりヒソカが裏切ってんじゃねえのか?狙ってたお宝を陰獣が持ち出すってことは俺等の行動がバレてたってことだろ」

 

 ヨークシンシティ郊外に広がる荒野へ向かう気球に揺られながら、フィンクスはクロロに連絡を取りヒソカの裏切りについて言及していた。色々とネットで調べているシャルナーク以外のメンバーもクロロの発言に注目しており、それ次第では追ってきているマフィアを振り切ってでも拠点に戻るつもりだった。

 

『いや、重ねてパクノダに調べさせたが白だ。裏切り以外の何かが俺達の行動を探っているようだが、襲撃がある確証があったわけではないんだろう。そうでなければ競売にマフィアが集まっていた理由がない』

 

「ヒソカは白ねえ、ヨークシンに入るのを追跡された雑魚もいないだろうし、俺等の顔を知ってるやつに見られでもしたか?」

 

『そのあたりはシャルの調査待ちだ。お前達はそのままマフィアを相手にして、可能ならば情報を集めろ』

 

「了解ボス、んじゃまた何かあったら連絡する」

 

 通話を切ったフィンクスが確認するようにメンバーを見渡せば、聞こえていた全員がそれぞれマフィアとの戦いに備えて休憩を取り始める。

 

「よぉシャル、なんかわかりそうか?」

 

「流石にそんなすぐわかったりしないよ、…と言いたいけど多分これかなって情報は出てきたね」

 

 シャルナーク自身ハンターライセンスを持つプロハンターであり、様々な情報屋等も駆使して表と裏多くの情報を集める手腕に優れている。さらにそれら多くの真偽不明の情報から取捨選択する頭脳も持ち合わせており、オークション会場から飛び立って短い時間でほとんど事実にたどり着いていた。

 

「ノストラードファミリーっていう最近勢力拡大してるマフィアがいるんだけどね、そこの売りがなんと絶対に当たる占いなんて噂があるみたい」

 

「はあ?あたし達のことが占いでバレたって言うの?」

 

「けどこれならクロロが言ったみたいに、確証はないけど襲撃はあるってわかったのも辻褄が合うよね。ちょっと深く調べてみたら十老頭とも付き合いがあるみたいだし、そういう念能力者を囲んだんじゃないかな」

 

 初めは半信半疑のマチだったが、現状とシャルナークの予測を聞けば否定する要素はない上に自分の勘もそれが正解だと告げていた。

 

「で、どうするの?すぐクロロに連絡いれる?」

 

「いや、もう少しちゃんと調べてからにするよ。この後マフィア達からも色々聞けるだろうし」

 

 そして気球は燃料ギリギリまで飛び続け、荒野の中にある崖の上へと着陸する。

 ヨークシンシティから追跡してきた数百人はいるマフィア達は崖下に陣取り、各々怒号を上げたり発砲したりとまるでお祭り騒ぎのように喧しい。

 

「じゃあ無駄なマフィアは間引こうか。全滅させちゃ意味ないからフランクリンはダブルマシンガン禁止ね」

 

「めんどくせぇな、お前等でやればいいじゃねえか」

 

「お、まさか怖気付いたんじゃねえだろうな?一番少なかった奴は罰ゲームにしようぜ」

 

「遅い奴不利ね、いじめちゃ駄目よ」

 

「…んだと?」

 

 百倍の戦力差でありながら全く気負った様子もなく牽制し合う男達に、マチは呆れたような視線を向けながらシズクと一緒に一歩下がる。

 

「あたしとシズクは見てるからさっさと片付けてきな。まさか手伝いがいるなんて言わないわよね」

 

「がんばってくださーい」

 

 シャルナーク達は10メートル以上はある崖をちょっとした段差のように飛び降りると、纏うオーラを増やしてがなり立てるマフィア達へと歩いて行く。

 

 4人の蜘蛛と数百の羽虫による、一方的な蹂躙劇が幕を開けた。

 

 

 

 戦いとも呼べない戦闘が始まって数分が経つ頃にはマフィアの数は半分近くまで減ったが、それでもまだまだ残るためにシャルナーク達4人はそれぞれ単独で好き勝手に狩り続けていた。

 マフィア側も人数と共に同士討ちの心配が減ったこともあって火力の高い銃火器を持ち出しているが、幻影旅団にとっては豆鉄砲がどれだけ性能を上げても豆鉄砲に変わりはない。

 マフィアの頸が圧し折れ、頭が飛び、骨や内臓が砕け、突然気が狂ったように同士討ちを始める。

 遠距離から狙撃を試みた者達も銃を奪ったシャルナークに頭を撃ち抜かれ、対戦車ミサイルを持ち出した者には撃った瞬間フランクリンに投げられたマフィアが直撃して周囲諸共爆散した。

 

(うーん、流石にこれだけいると時間かかるなぁ。こんな時こそウボォーがいれば任せて楽できたのに)

 

 シャルナークは他のメンバーの様子を窺いながら奪った銃を乱射し、時折能力の携帯する他人の運命(ブラックボイス)を使ってマフィアに同士討ちをさせては場を混乱させていた。

 

(アンテナ回収したしまた誰かに使おうかな、丁度いい人間(マシン)いないかなぁ)

 

 あまりの手応えのなさに若干だれながらも、決して油断していなかったシャルナークは拙い絶で背後を取った存在を見逃さなかった。

 

(念が使えてガタイも良いしレア物じゃん。ラッキー、こいつならすぐには壊れなそう)

 

 背後から振るわれた拳をギリギリで避け、能力の要であるアンテナを脇腹に突き刺す。サングラスに黒スーツという他と変わらない恰好ながら、やけにピッチリしたスーツに首を傾げながらも操作するため携帯に目をやった。

 

 超至近距離でオーラが爆発的に膨れ上がった。

 

「え?」

 

 突然発生したウボォーギンをも凌駕しかねないオーラに硬直したシャルナークが見たものは、アンテナが刺さりながらも操作された様子のないマフィア(ゴン)が脚を振りかぶる姿。

 

「なん…」

 

 疑問を最後まで口に出来なかったシャルナークが蹴り上げられて宙を舞い、乱回転しながら血の雨を降らせ疑問に支配されながら意識を闇へと落とした。

 

 

 

 崖上から俯瞰して見ていたマチとシズクを含め、幻影旅団全員が突如出現した化け物じみたオーラに一瞬体を硬直させた。

 

『!?』

 

 そしてオーラの元を確認しようと視線を向ければ、大量の血を吐きながら吹き飛ぶシャルナークによってさらなる驚愕に包まれる。

 

「ッ!?クソが!」

 

 シャルナークに全員の意識が集中してしまった瞬間、フェイタンは己が鎖に拘束されるまでその存在に気付くことが出来なかった。

 

「フェイタン!?」

 

 旅団内でもトップクラスのスピードを誇るフェイタンがあっけなく拘束されたことに加え、まだ空中にいたシャルナークにも鎖が巻き付き凄まじい勢いで二人を連れ去っていく。

 

「ちぃっ!させるかよ!!」

 

 二人を追おうとした幻影旅団の機先を制するように、再び膨れ上がったオーラが炸裂して行先を遮るように大量の土煙が立ち上る。

 

「こんのっ!フランクリン!ダブルマシンガンで薙ぎ払え!!」

 

「バカ野郎!シャルやフェイタンが盾にされてたらどうする!相手の数もわからねえ以上一旦引くぞ!!」

 

「それこそバカじゃねえか!二人を追うのが先決だろうが!!」

 

「二人共落ち着きな!!フィンクス、こっちにはシズクもいるし引くよ。大丈夫、拉致したんならすぐには殺されない」

 

「戻りましょうフィンクスさん、もしあれが陰獣だったらあんなのが10人いることになります。確実に罠ですよ」

 

「〜っ!ちくしょうがぁ!!」

 

 2本の脚を失った蜘蛛は、さらなる損失を恐れ一度巣へと帰還する。

 

 もぎ取られた脚が向かうのは、怒れる復讐者と仲間達の根城。

 

 何も奪えずただ奪われた蜘蛛は激高し、最大の理性を失った残りの脚は暴走を始める。

 

 ここに蜘蛛と筋肉の、全面戦争の幕が切って落とされた。

 

 

 


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