最近誤字脱字や間違いが多くて申し訳ありません。報告してくださる方々に心から感謝を。
何より読んで下さる皆様本当にありがとうございます。今年も残り僅かですがこれからもこの小説にお付き合い下さい。
皆さんこんにちは、首尾よくシャルナークとフェイタンを拉致出来たゴン・フリークスです。実際どこまで出来るのかわからない、クラピカの
シャルナークは腹部の鈍痛と薬物による倦怠感を強く感じ、再び落ちそうになる意識を何とか引き上げて鉛のように重い瞼を持ち上げた。
そこは薄暗い医務室といった様相をしており、動かない体がベッドの上に簡単に固定されている。
幻影旅団の頭脳は伊達ではなく、現状を混乱することなく正しく理解したが残念ながら打開策は全く浮かばなかった。
(あの時のダメージ的に治療はしてもらえてるから殺す気はないか、俺一人ならいいけど高望みかな)
投与されている薬物の影響かまるで体が動かないため、視線だけで周囲を窺えばすぐ横に同じくベッドに固定されたフェイタンの姿があった。
「…?フェイタン?」
見たところ意識がないことはわかったが、それ以上にフェイタンの様子がおかしく感じて思わず声をかけていた。
パワータイプのウボォーギンと違い、スピードタイプのフェイタンは無駄な筋肉を付けず小柄で細身の体躯をしていた。
「え、嘘でしょ成長期?」
そんなフェイタンの体が一目でわかるレベルでムキムキになっており、さらには何故か頬がやや紅潮し呼吸も若干乱れている。
パンプアップして興奮しているようにしか見えなかった。
「起きたか、おはようシャルナーク。無事に済むことはないが死ぬことだけはないと保証しよう」
聞こえてきた声に視線を向ければ、黒いスーツに身を包んだクラピカが闇の奥から姿を現した。
「おはよう、寝起きのコーヒーは出ないのかな?心配してる家族がいるから連絡させてもらえると助かるんだけど」
「ことが終わればまた会えるさ、そこがブタ箱かそれとも裏世界の底かは知らないがな」
取り付く島のないクラピカを観察しながら、シャルナークは相手のレベルの高さに内心舌を巻いていた。真っ向勝負で負ける気は毛頭なかったが、時と場合によっては普通に負けもあり得るとわかったのだ。
(こいつに加えてあのバカげたオーラの奴、陰獣にしては強過ぎる気がするけどリーダーとかかな?)
少しでも情報を得ようと周囲を伺い無駄なおしゃべりを仕掛けるが、クラピカ以外誰か来ることはなく会話に乗ってくることもない。
薄暗い中僅かに発光したように見える瞳で、ただ観察するように見つめられるだけである。
「それだけ話せれば問題ないな、これからお前に制約の鎖を打ち込む。他の蜘蛛をどうにかするまでは拘束させてもらうが、それ以降は自由にするといい」
その言葉に情報を求められると考えていたシャルナークは肩透かしをくらい、疑問の視線を向けるが無視されて制約の内容を説明される。
「この
それはつまり念を使うことと除念を禁止するということであり、破った場合の罰則次第では一生そのままもあり得た。
「安心しろ、殺しはしないと言ったはずだ。制約を破った場合、そのレベルに応じて脳の思考を司る箇所を徐々に破壊していく」
そしてそのなんとも陰湿な制裁に顔を目一杯顰めさせ、何とか思いとどまらせようと取引を持ちかける。
「そんなことされたら死んだも同じじゃない?旅団について情報渡すからさ、しばらくは勘弁しても…」
「蜘蛛全員の発と今現在の潜伏場所、これらはすでに掴んでいるがそれ以上の情報はあるのか?」
被せられたのはシャルナークをして絶句せざるを得ない、超トップシークレットのあり得ない情報だった。
(マジで裏切り者がいる!?それもヒソカじゃない、あいつは全員の能力を把握していない!)
「心が乱れているな、これ以上の情報でなければ取引は成立しないぞ?」
(まずいまずいまずい!俺とフェイタンが狙われたのも計算尽くだ!情報戦と一発逆転の殲滅力を削ぎに来たんだ!裏切り者は誰だ!?)
現状を打破しようにも薬で体はピクリとも動かず、当たり前のようにアンテナも携帯も目に入る位置には存在しない。
「何もないようだな?安心しろ、除念しても5歳児程度の思考力は残るだろう。いざという時は愛しい家族のため、率先してその身を犠牲にするんだな」
「クソ野郎が!そんなもん捨ててかかってこい!俺が、俺達が怖いのか!?」
先端に鍵の付いた鎖が鎌首をもたげ、シャルナークの額に狙いを定めるとゆっくりと抵抗なく沈んでいく。
「あぁ、怖いね。だからこそ全力で潰すのだ」
「やめろぉー!クソ野郎!ぶっ殺すぞォ!!」
「
怒れる復讐者の、2つ目の裁きが蜘蛛に刺し込まれた。
シャルナークにルーリングチェーンを刺した後は薬で意識を奪い、長時間の
「当たり前だがいい情報はなかったな、まあすでに最高の情報が手に入ってるからしょうがないか」
レオリオが口にしたように、シャルナークとフェイタンから新たな情報を得ることはできなかった。それでもいくつかわかったこともあり、幻影旅団の数を減らせた以上の収穫を得ることが出来たのも確かだった。
「クラピカ大丈夫?ルーリングチェーンを2つに
「今すぐの戦闘は難しいだろうが、少し休めば問題ないレベルだな。ゴンこそ大丈夫か?それ相応のオーラを吸い取ったが」
「全然平気!まだ能力は戻らないけど問題なく戦えるよ」
シャルナークも疑問に思ったフェイタンのパンプアップ、それはエンペラータイムで強化したアサシンチェーンによってもたらされたもの。
「これが上手くいけばルーリングチェーンより悪質だよなぁ、幻影旅団脳筋化作戦か」
キルアが何とも言えない顔で口にした、旅団脳筋化作戦。
それはアサシンチェーンの強化能力でゴンから抽出した
アサシンチェーンで投与された能力は、時間制限こそあるものの誰でも問題なく習得出来るという特性を持つ。
つまり脳筋万歳を投与されている間は、放出変化具現化の習得率が消滅することを意味している。
ゴンは制約として放出変化具現化が二度と習得出来ないことを盛り込んでいるため、“二度と習得出来ない”が完全に適用されれば時間制限が過ぎた後も3系統の発を完全無効化することが出来る可能性があった。
「流石にそこまで上手くいくとは考えていないが、少なくともフェイタンの
たとえ脳筋化作戦が失敗しても、フェイタンに刺したルーリングチェーンの効果でペインパッカーはおそらくもう発動出来ない。
フェイタンは痛みを快楽に感じるように脳を変えられてしまったのだから。
「いやー、最初は殺さないのはどうかと思ったけどさ、殺さない代わりに除念した時も効果が出て治療出来ないってのはマジでヤバいな。下手したら兄貴の能力以上に受けたくないぜ」
自身が受けた姿を想像し、鳥肌の立った腕をさするキルアと同感だと頷くゴンにレオリオ。
一応まだ戦闘行為を取れるため拘束を続けるが、フェイタンとシャルナークはほぼ無力化したと言っても過言ではなかった。
「よし、休憩も十分だ、後の監視はノストラードに任せてダルツォルネと話をしよう。十老頭への報告は止めさせているが、もしかしたら陰獣の手助けが必要になるやもしれんからな」
「やっぱり予言のこと気にしてる?ウイングさんやネテロ会長にお願いしないの」
頑なに他人の協力を拒んでいたクラピカだったが、自分の予言を見てからかなりノストラードファミリーに助力を求めるようになった。
ゴンは自分達のために己を殺しているように見えたが、クラピカは優しく微笑むとゴンの頭に手を乗せ首を横に振る。
「私も意外だったんだがな、自分が主体で他を使うということなら気にならないようだ。流石にネテロ会長レベルに手助けを求めたくないのは我が事ながら度し難いが」
最後は苦笑いになっていたが本心から言っていることがわかり、ゴンだけでなくレオリオとキルアも安心したように息を吐いた。
「さあ、ここからは蜘蛛も本気で来るだろう。一層気を引き締めていくぞ」
クラピカの言葉に各々返事を返し、さらなる勝利に向かって力強く一歩を踏み出した。
幻影旅団が潜伏している廃ビルでは、今にも仲間割れが勃発しそうな空気に満ち溢れていた。
「ヒソカぁ!!やっぱりテメェ裏切ってんじゃねぇだろうな!?」
「しつこいなぁ、ボクは後何回パクノダに記憶を見られればいいんだい?流石に全員がパクノダに見てもらうべきだと思うよ、そのパクノダが裏切ってたとしたら意味ないけどね♠」
「ふざけ…」
「いい加減にしろフィンクス、ヒソカもいちいち挑発するな。マチ、詳しくあったことを報告しろ。パクノダは記憶を見ながら気になったことがあれば言え」
シャルナークとフェイタンを欠いて帰還したメンバーをウボォーギン筆頭に半数が罵倒し、パクノダ筆頭に半数が正しい判断だと肯定した。
それに伴い最も怪しいヒソカが矢面に立たされたが、無駄な同士討ちを嫌ったクロロに止められ渋々ながら沈黙するとマチから事の詳細を聞かされる。
「ウボォー並みのオーラの化け物に鎖野郎の二人か、一応聞くが心当たりなんてないよなヒソカ」
「ん?鎖使いは知ってるし仲間にも見当がついたよ♦」
知ってるとは思わなかったノブナガが目を剥き、やはりかと襲いかかろうとしたフィンクスを慌ててパクノダが止める。
「ストップ!これに関しては私も同罪よ!ごめんなさいクロロ、必要ないと思って報告してなかったわ」
そしてパクノダは旅団に恨みを持つクラピカと、その仲間と思われるゴン達のことを自分の口から説明する。シャルナークを蹴り飛ばしたガタイのいい男については不明だが、少なくともクラピカについては間違いないと詳細な容姿についてもしっかりと報告した。
「で?報告しなかったのはどういう訳だ、知ってたなら回避も出来たんじゃねえのか」
報告を聞いてパクノダすら怪しく感じ始めたフィンクスが詰問を始めようとするが、耐えきれないとばかりにクスクスと笑うヒソカに怒りの目を向ける。
「言ってあげなよパクノダ、私はあなたのお母さんじゃないってさ♦最近ぬるいとは思ってたけど、ここまでくると呆れや落胆より笑いがこみ上げてくるよ♠」
「あぁ!?どういう意味だコラ!」
「クラピカは念を覚えて1年どころか半年ちょっとしか経ってない、私達の脅威になるとは考えられなかったの。ごめんなさい、ヒソカが名前を覚えているのを気になった時に報告していれば」
本気で後悔を滲ませるパクノダを目の当たりにし、爆発しかけていたフィンクスは気不味そうに押し黙る。
「全員少しは落ち着いたか?俺自身冷静になりきれていないところはあるが、少なくとも相手はこちらの足を掬う程度の実力があることがわかった。だからまずは落ち着くぞ」
クロロの指示で何とか落ち着きを取り戻した旅団だったが、いざ話し合いを始めようと言う時に普段からまず内容を整理してくれていたシャルナークがいないことで早くももたついてしまう。
「なぁ、シャルとフェイタンが拉致られたのは偶然だと思うか?」
「あの場で乱戦してた残りは俺とフランクリンだ、拘束するなら見るからに非力なフェイタンと次点でシャルだったんじゃねえか?」
進まない話し合いに疑問を口にしたノブナガに対し流石に考え過ぎではと怪訝に思ったフィンクスが否定するが、マチの記憶を本人以上に精査していたパクノダが驚くべき事実を発見する。
「シャルを蹴り飛ばした奴、ブラックボイスで操作されてないわ!少なくともこいつはシャルの能力を知っていた!?」
パクノダの発見に再び旅団同士で疑心暗鬼が広がり、これを重く見たクロロが全員の記憶を確認するように指示をするがそれでも裏切り者は見付からない。
パクノダ自身もクロロにしか教えていなかった隠していた能力、自分の記憶を相手に読ませる
「…なあ、これはフェイタンかシャルが俺等を裏切ってるってことか?」
フィンクスは最初の憤りっぷりが鳴りを潜め、気の毒になるほど意気消沈した姿を曝け出していた。
「操作されてる可能性だってあるんだ、裏切られたのが決定したわけじゃねえよ」
そういうフランクリン自身も声に力はなく、何ならヒソカ以外の全員が重い雰囲気を醸し出していた。
「…相手の力量的に散開するのは悪手、下手したら操作されてるシャルやフェイタンが敵に回る可能性すらある。ねえクロロ、撤退も視野に入れないといけないんじゃない?」
最悪の最悪を想定したマチの弱気すぎる提案だったが、これに対してウボォーギンとヒソカが異を唱えた。
「ふざけんじゃねえよ!ここまでコケにされて逃げるってか!?俺は一人でも残るぜ、地獄を見せてやるまで引けるかってんだ!!」
「ボクも撤退は反対かなぁ、というよりここで逃げ出すようなら期待ハズレもいいところだし旅団自体抜けさせてもらうよ♠」
二人の理由はまるで正反対だったが、少なくとも撤退に反対という点では一致していた。
「俺も残るぜ、目の前で拉致られて腸煮えくり返ってんだ。誰が尻尾巻いて逃げ出すかよ!」
「もちろん俺も残る。ヒソカの監視には飽き飽きしてたんだ、ここらで動かねえとスッキリしねぇ」
フィンクスとノブナガも残ることを正式に宣言し、ボノレノフも黙って立ち上がると残る組の側に並ぶ。
「旅団の掟は全滅しないことだ、団長やパクノダ達が撤退するなら俺も残る」
フランクリンも旅団の掟を持ち出し、暗にクロロと非戦闘員の撤退を示唆する。
全員からの視線を受けるクロロがしばし熟考し、答えを出そうと顔を上げた瞬間狙ったように携帯が着信を知らせた。
液晶に映った着信先は、囚われたはずのシャルナークから。
「…誰だ?まさかシャルではあるまい」
『名前くらいはすでに掴んだのではないか?お前達蜘蛛に怨みを持つ者とだけ言っておこう』
この際パスワード等をどうしたかは気にせず、クロロはわざわざ連絡してきた相手に意図を問う。
『なに、臆病な虫が慌てて巣篭もりするのではないか心配になってな。そちらにいくつか情報をくれてやろうと思ったのさ』
呆れるほど強気で告げられたのは二つ。
一つはシャルナークとフェイタンは生きているが、旅団の誰か一人でも撤退すれば見せしめに始末するということ。
そしてもう一つは、決戦の場を設けてやるから逃げずに正面から戦えという完全なる挑発。
『こちらとしてもゲリラ戦が二度通用するとは考えていない。よって逃げられるくらいなら雌雄を決するべきと連絡したんだが、まさか天下に名を轟かす幻影旅団様が怖くて受けないなどとは言うまいな?』
「…」
クロロの持つ携帯が軋む嫌な音を立て、周囲で聞いていた者達も怒りと屈辱でオーラが揺らめく。
『場所と時間はこちらから指定させてもらうし、もちろん罠もしっかりと張らせていただこう。事が決まり次第また連絡する。以上だ』
「…」
クラピカからの通話が切れてからおよそ一分が経過した頃、顔を憤怒に染めたクロロが静かな絶対零度の声で告げる。
「撤退はなしだ、少し上手くいって思い上がったガキ共を血祭りにあげるぞ!」
張っていたセンリツが思わず悲鳴を上げるほど、廃ビル内に旅団の決意の咆哮が響き渡った。