オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第44話 過去の報いと決戦に向けて

 

 

 

 皆さんこんにちは、生陰獣と聞くとなんかあれな感じに聞こえるゴン・フリークスです。どうやら協力してくれるようなので、決戦時の手伝いをお願いしました。

 

 

 

 

 

「…ふひはへんひょうひひほっへはひは(すいません調子に乗ってました)

 

 ノストラードファミリーが滞在するホテルの一室に、己の武器たる自慢の歯を文字通り圧し折られた陰獣病犬(やまいぬ)が正座していた。

 

「幻影旅団の監禁は引き続き私達が行っても文句はないな?そして決戦時に出来れば手を貸して欲しいと十老頭に伝えてくれ、一網打尽にするチャンスだとな」

 

「報告が終わったらまた来てくれ、バッチリ今まで以上の歯にして治してやるからよ」

 

はひ、ふぐひっへひまふ(はい、すぐ行ってきます)

 

 病犬は武器()と同時に自信も折れたのか、来た時の傍若無人さは鳴りを潜め無駄にペコペコしながら報告に帰っていった。

 

「流石だな、俺では陰獣の誰にも勝てないと感じたがまるで相手にしないとは」

 

 1時間ほど前のオークション二日目早朝、ダルツォルネはファミリーのビッグボスであるライト・ノストラードと共に十老頭の元を訪れていた。そこで捕らえたシャルナーク達の引き渡しやこれからの指揮権について言及されたが、まだ功績が欲しかったライトと生で陰獣を見てゴンのほうがやばいと感じたダルツォルネが断る事態となる。

 一悶着あったものの陰獣で戦闘力トップクラスの病犬が確認に訪れ、晴れて十老頭でもノストラードファミリーでもなくクラピカが主導権を握る事に成功した。

 

「陰獣10人もいて一人は運び屋っぽいしあんま期待してなかったけど、普通に強い奴もいるじゃん。オレやクラピカでもやばくね?」

 

「緋の眼になっても危ういだろうな、まさか牢をしているゴンに血を流させるとは」

 

 上下関係がわかりやすいよう殺し合いを提案してきた病犬に対し、ゴンは素の姿に戻り牢まで使ってとりあえず威圧した。

 病犬は潜ってきた修羅場のおかげか冷や汗こそ流していたが、躊躇することなくオーラを込めた歯で噛み付きにかかる。

 

 歯はゴンの前腕にあるたくましい総指伸筋に阻まれ止まった。

 

 それでも陰獣の意地で更にオーラを込めるとなんとか歯の一本が刺さったが、チクリとして思わず腕を引いてしまったゴンのせいで歯の大半を毟り取られてしまうという悲劇が起こる。

 ゴンは申し訳無さそうに歯を集めた後、今は正座してレオリオからの説教を受けていた。

 

「たいして痛くもねえのになんであんなに早く引いたんだよ、お前身体を貫通されても平気だったじゃねえか」

 

「ギンの子供に甘噛みされてたら不意に強く噛まれてビックリしたみたいになって、なんか本能的に引っ込めちゃった」

 

「あー、まあ向こうが言い出したことだったししょうがねえか。それでも来た時は一応謝っとけよ」

 

 そしてレオリオはドケチの手術室(ワンマンドクター)で病犬の歯を入れ歯にする作業、それ以外のメンバーは決戦の場を選定する話し合いを始める。

 様々な要素を検討しながら話し合いを続けていると、突然ゴンがビクリと痙攣したかのように跳ねた。

 

脳筋万歳(力こそパワー)戻ったよ。まだ途中だけどフェイタンの確認に行こう」

 

 まだ作業の残るレオリオと連絡係としてダルツォルネを残し、ゴン達とノストラードの数人で監禁場所へと向かった。

 

 

 

 

 

 

 ノストラードファミリーが臨時で買い取り、シャルナークとフェイタンを監禁している裏の個人病院の一室で信じ難い光景が広がっていた。

 

「そんな、嘘だろ?なんでこんなことができるんだ」

 

 様々な修羅場を潜り思わず目を逸らすような凄惨な現場を数多く作り見てきたシャルナークが、思わず弱音を吐き目を逸らす惨たらしい尋問が行われていた。

 

「止めろ、そんな、そこまですることないじゃないか!」

 

 次は自分の番かもしれない、ただその事実が死をも恐れぬその強靭な精神力を蝕んでいた。

 

「もっと!もっと強く打つね!!そんなんじゃ何も喋らないよ!」

 

「ほらっ!これでどう!能力は戻ったのかい!?」

 

「能力戻ったよ!もっと強く打て舐めてるか!?」

 

「これで全力だよチクショウ!」

 

「もうやめてあげて!!」

 

 恐怖で慄くシャルナークの視線の先で、ノストラード所属のヴェーゼにムチで打たれるフェイタンは完全なるキャラ崩壊を起こしていた。

 

 操作系能力者ヴェーゼの発180分の恋奴隷(インスタントラヴァー)に侵されたフェイタンはその効果で言いなりにされており、痛みを快楽に変換されたことも合わせて見るも無惨な有様となってしまっている。

 

「やはり永続的に系統を縛るのは無理だったか。どうだシャルナーク、こちらの質問に偽りなく答えるならインスタントラヴァーを使わないでやるが」

 

「もう何でも質問してくれ、団員の性癖でも何でも喋っちゃうよ!」

 

 引き攣った笑みで断言したシャルナークに対し、導く者の鎖(ガイドチェーン)で確認しながらクラピカはいくつか質問を始めた。

 

「蜘蛛の残りと決戦することになったがどう思う、奴等は来ると思うか?」

 

「聞いた感じあれだけ挑発したならちゃんと来ると思うよ。挑発しなくても大半は残ってただろうし、クロロの性格的に俺とフェイタンが生きてる内は全員で来るはずさ」

 

「そうか、決戦の場は郊外の荒野を考えているがどう思う?」

 

「それは悪手でしょ、全員の能力知ってるならフランクリンとボノレノフのも知ってるんだろ?君達がどんな能力持ってるか知らないけど間違いなく不利じゃないかな」

 

 淀みなく答えるシャルナークに顔を顰めたクラピカは、ここまで嘘を吐かないことを逆に不審に思ってしまう。

 

「よくそこまで仲間の情報を売れるな、何か良からぬことでも考えていまいな?」

 

「えー?別に何も考えてないよ、ぶっちゃけるけど君達が勝てるなんて思ってないだけさ。あの女の能力を使われたらどの道喋らされるし、思考力が落ちるくらいならこれくらい安い情報だよ」

 

 クラピカの能力でも本気で言っていることがわかり、改めて幻影旅団の結束力と実力が感じられる凄みがあった。

 

「そもそもこれだけ用意周到に動ける君等が、さっきの答えに気付いてないわけないじゃないか。余計なことはやめてさっさと本題に入りなよ」

 

 もう自分の力ではどうしようもないとわかっているのもあるのだろうが、それでもここまで取り乱すことのない姿は逆にクラピカを苛立たせるには十分だった。

 

「…決戦になった場合のそれぞれの役割と動き、予測出来る切り札について全て話せ」

 

「はいはい、長くなるけどメモとか大丈夫?」

 

 そこから疲れ果てたヴェーゼが薬でフェイタンを眠らせて退室してもなお、シャルナークは己の知る限りの情報から予想した戦況を話し続けた。その中にはクラピカが考えていなかった要素も多く含まれていたが、予想が五つを超えた辺りでシャルナークの意図に気付き言葉を遮る。

 

「一度止まれ、起こりうる可能性として上位3つはどれか教えろ。それともまだ言ってないか?」

 

「ちぇっ、気付いちゃったか。最初のやつから順に可能性が高いと俺は見てるよ」

 

 あえて多すぎる情報を出すことで選択を悩んだり混乱させようという目論見は不発に終わり、嘘がないことを確認したクラピカはこれ以上は惑わされるだけと判断してシャルナークに薬を投与する準備を始める。

 

「それでいい、俺も君と話すのは嫌だからね。せいぜい返り討ちに遭って全滅するといい」

 

 そのふてぶてしい笑みに心を乱されながらも、態度や声に出すことなく薬の投与を行う。

 意識を失ってもなお、シャルナークの顔から自信に満ち溢れた笑みが消えることはなかった。

 

 

 

 

 

 もう日が暮れようとしている時間に差し掛かった頃、ノストラードファミリーが滞在するホテルの一室に驚きと喜びの声が響き渡っていた。

 

「こ、これが俺の歯なのか?オーラの通りはいいし噛みごたえも増している!それどころか新雪のような無垢の白さが!?」

 

 クラピカ達がホテルに戻ると、ちょうど病犬への治療が終わったところであった。鏡で自分の歯を何度も確認しながら、今まで以上の力強さと美しさに魅了されている。

 

「色々勉強になったぜ、神字こそ刻んでねえがオレのオーラを込めたからしばらくは強化されると思う。後はまあ噛み合わせとか考えてちっと削ったり歯垢除去とかしといたからちゃんと歯磨きしろよ」

 

「感謝するぜ先生!これで俺は一段上の強さを手に入れた!」

 

 一度帰る時の消沈振りもなんのその、新たな武器()を手に入れた病犬はヒャッホウと雪に突っ込む犬のように戻って行った。

 

「あんのバカ犬、俺にばっか仕事押し付けんじゃねえよクソ」

 

 ホテルへの案内が役目だったとはいえすぐさま戻った病犬に文句を言うのは、シャツとスラックスにサンダルとラフな格好をしたひょろりとした男である陰獣の(フクロウ)

 

「あ~ぁ、そもそもウチは話し合い出来る頭の奴が少なすぎんだよ、荒事専門っても限度があんだろ。教養や学なんて言わんからせめて見た目くらいはよぉ」

 

「わざわざすまんな、お前が競売品を持ち出した運び屋か。それで、十老頭はなんと言っていたんだ」

 

 物静かな印象があるフクロウと違ってペラペラとうるさいくらい喋る梟に対し、クラピカは先に用件を聞かせるように食い気味で質問をする。

 

「あぁそうだったな、決戦の時は必ず教えろとお達しだ。陰獣も出張るからよ、内情はどうあれ対外的には十老頭が対応した風に見せたいそうだ。それが飲めなきゃ勝手にやれとさ」

 

「願ってもない提案だ、何なら公式に十老頭が事を収めたと発表してもいい。私達の目的はあくまでも蜘蛛の壊滅、それで得られるものに大して執着もない」

 

「いやクラピカ懸賞金は惜しくね?」

 

「そーだそーだ、いくつチョコロボ君買えると思ってんだ」

 

 クラピカも梟もうるさい外野は無視して話し合いを続け、大まかな作戦と決戦場の候補を共有すると場所だけは十老頭に決めさせるということで決まる。

 

「いや〜、あんた話はわかるし頭もイイねぇ〜。どう、陰獣になんねぇ?椅子は空いてないけどあんたなら奪える奴も何人かいるよ?」

 

「考えておこう。日時は最速で今夜、そのあたりも十老頭に確認を取ってくれ。後何かあれば…」

 

「クラピカ、今センリツからの連絡で幻影旅団が全員廃ビルを出たとよ。方向はヨークシンの外じゃなくて中、聞こえた範囲だと待つのもバカらしいから打って出たらしい」

 

 レオリオからの報告にクラピカと梟は目を鋭くし、それぞれ準備のための行動を開始する。

 

「陰獣はすぐに動けるよう準備してある、おそらく決戦の場は広場が隣接したこの大型交差点だ。急いで戻ってもろもろ済ますからこれからの連絡は携帯でいいな?」

 

「了解した。これはノストラードが用意した盗聴に強い無線だ、連絡はこれを使ってくれ」

 

 梟が慌ただしく十老頭のもとへ戻っていくと、クラピカもゴン達に向き直り最終確認を行う。

 

「レオリオ、病犬の治療をしていたがオーラは残ってるか?」

 

「少し休めば問題ない、決戦までには全快できるぜ」

 

「キルア、お前は戦えそうか?場合によっては裏方にまわってもらってもいいが」

 

「なめんなよ、最近は縛りを大分抑えられるようになってきた。最悪遠距離の手札もあるから無様は晒さねえよ」

 

「ギン、申し訳ないが今回の要はお前だ。かなり無理をさせると思うが頼んだ」

 

「ぐまっ!!」

 

「…ゴン、お前にこんな事は頼みたくないが、いや、命令させてくれ。お前の罪は私が引き受ける、全てを蹂躙しろ」

 

「大丈夫だよクラピカ、簡単に死ぬほど幻影旅団は弱くない。それにもし殺しちゃっても、それはオレの罪でオレの成果だ。最強(ゴンさん)を目指した時点で覚悟は出来てる」

 

「すまな…、ありがとう。十老頭の連絡が入り次第出る、それまでは集中力を高めてくれ。皆、勝つぞ!!」

 

 ゴン達、そしてノストラードファミリーの面々はクラピカの宣言に力強い返事で答えた。

 

 

 

 

 

 クロロの血祭り宣言から一夜明けた朝、まだ早い時間にも関わらず全旅団員が集まりこれからについて話し合っていた。

 最大の論点とも言えるパクノダ達非戦闘員の扱いだが、とりあえずはクロロとマチが側について戦線には余程がない限り干渉しないことでまとまった。

 

「鎖野郎と仲間達に加えて陰獣もいるわけだが、まさか人数が足りないなどとは言わないだろうな?」

 

「いーや足りないね!ぶっ殺せる人数が足んねえよ!!全員ヤッたら十老頭とか言うのも含めてマフィアは皆殺しだ!!」

 

 過激に叫ぶウボォーギンに対し周りが応えることはないが、逆にそれを止めようとする者もいなかった。

 これには戦闘員側がやる気十分過ぎることが影響しているが、普段は一歩引いて旅団全体を考えているフランクリンすら出し抜かれたことで前のめりになっていることも理由の一つである。

 

「十老頭については少し待て、シャルを奪還していくつか調査を入れてからだ」

 

 クロロとしては競売品をスムーズに盗むため、十老頭を利用して一芝居うつプランが頭の中にある。しかし先ずは歯向かうゴン達を片付けてからであり、迅速に潰すための策については昨夜の内に検討済みだった。

 

「先ずは全員がパクノダから鎖野郎と仲間達の記憶を受け取れ。そして仲間の一人のレオリオをよく覚えておけ、こいつは殺さずに最優先で行動不能にする」

 

 パクノダが順に記憶弾(メモリーボム)で記憶を共有すると、その中のレオリオに就いて理解したメンバーが納得して呆れた視線をクロロに向ける。

 

「団長、確かにこいつは治療系なんてレア物だけどよ、それにしたってそんな余裕あるのか?」

 

 フィンクスが代表してクロロに質問するが、それに対して自分の欲以上に旅団のことを考えての命令だと答える。

 

「ヒソカの記憶や通話した印象でしかないが、鎖野郎はだいぶ甘ちゃんで中途半端な復讐者だと判断した。間違いなく拉致られた二人は生きてるが、だとしても無事な保証がない以上は治療の手札を増やしておきたい」

 

「鎖野郎はクルタ族の生き残りだからね、あたし等が拷問したことを知ってるならフェイタンはかなり痛めつけられてるでしょ」

 

「そうか?それなら許されざる者(ペインパッカー)でやり返すんじゃねえのか?」

 

「シャルさんの携帯する他人の運命(ブラックボイス)が効いてなかったですし、何らかの対策を取ってるんじゃないですかね?」

 

 一夜明けたことで幾分冷静さを取り戻したメンバーは、昨夜が嘘のように活発な意見交換を行って話を詰めていく。そこに相手が念を覚えて一年未満と侮る気配はなく、全力で叩き潰すという確固たる決意が感じられた。

 

「ゾルディックのガキはまだ戦闘スタイルが予測出来るが、このゴンとギンがよくわからねぇな。おいヒソカ、この二人についてもっとなんかわからねえのか?」

 

「んー、ハンター試験でちょっとやり合ったことは覚えてるんだけど、忘れちゃったってことは特に奇抜なことはしなかったんだと思うよ♦」

 

 フランクリンの質問に全く悪びれずに忘れたと答えるヒソカだったが、興味のないことはすぐに忘れることを知る他のメンバーは特に疑問に思うこともなく流してしまう。

 

「大体の情報共有は出来たな、日が暮れたらここを出るぞ」

 

「あぁ?鎖野郎からの連絡待ちじゃなかったのか?」

 

 クラピカからの連絡が来る前に動くという宣言にウボォーギンが疑問を口にするが、クロロは表情を変えることなく淡々と考えを述べる。

 

「禁止されたのはヨークシンシティから去ることだけだから問題なかろう。考えが甘いとしか言えんが、全員揃っているこの時に俺達を一網打尽にしたいのが透けて見える。それにそう遅くならずに連絡が来るさ、決戦は今夜だ」

 

 その言葉を聞き各々が気を引き締め直し、思い上がった敵を殲滅せんと気炎を上げる。

 

 意識がクラピカに向いている蜘蛛は、ピエロが後ろ手に送ったメールに気付くことが出来なかった。

 

 ピエロと蜘蛛、そして筋肉と陰、強者の密度がバグっているヨークシンシティで、ハルマゲドン開始のカウントダウンがスタートした。

 

 

 

 






後書きで失礼します作者です。

おそらく今年最後の更新のため、改めてこの小説を読んでくださる皆様、誤字脱字報告してくれる方々、感想評価をくださる方々に深くお礼申し上げます。

個人的には来年中の完結を目指してますが、どうか最後までお付き合い頂けたらと思います。

HUNTER×HUNTERとハーメルン、そして読者の皆様に心から感謝を込めて、良いお年を。

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