ヨークシンシティを裏から牛耳る、マフィアンコミュニティの頂点十老頭。
2日目も大盛況に終わった表のオークションだったが、地下競売は初日に引き続き延期ないしは中止が言い渡される。
犠牲の出ているマフィア中心に不満や鬱憤が爆発しそうな中、ヨークシンシティで最大の交差点と隣接する広場一帯が厳戒態勢で人払いされる。
見るもよし手を貸すもよし、ただし邪魔だけはするな。
もし十老頭に断りなく行動を起こした場合、コミュニティからの永久追放並びに粛清対象とする。
これを聞いたマフィアはおよそ半分が物見遊山のつもりで周囲のビルに集まり、残りは兵隊を出して対幻影旅団の混成部隊を組織した。
そして交差点に幻影旅団が現れ、始まったのは蹂躙すら生ぬるいと言える鏖。
ものの数分と持たずに壊滅したばかりか、シズクのデメちゃんで一欠片も残さず消滅したマフィアの構成員たち。
誰もが絶句し恐れ慄く中、幻影旅団の前に進み出る者達がいた。
ゴン一行に陰獣を加えた集団と、脚を2本欠いた幻影旅団が夜のヨークシンシティで相見える。
所々ひび割れたコンクリートに折れ残った街灯の根本など、よく見なければ普段どおりの交差点にゴン達は歩みを進めている。
「ちっ、テンション下がるもん見せやがって」
マフィアも裏稼業に頭の先まで浸かっていた悪人達とはいえ、目の前で起こった大量殺戮にレオリオは鬱屈とした感情を抑えることが出来なかった。
「すまんな先生、最初から俺等が出ると幻影旅団を舐める輩が出るだろうからな。下っ端には無理だとわからせる必要があったんだ」
「十老頭のメンツやらってことだろ?わかってても見て気持ちいいもんじゃねえぜ」
歯の治療の一件からやたらとレオリオを慕う病犬に対し、理解は出来ても納得は出来ないと不満を口にする。
ゴンとクラピカも顔を顰めており、キルアにギンと陰獣は特に気にした様子は見られない。
「他の奴等が勝手にやってることなんか気にすんなよ。オレ達はヤバイ予言出てること忘れんな、少しの油断で全滅だぞ」
「その通りだ、策は弄したが上手くいく保証もない。全員で生き残るぞ!」
ギンが圧縮を解き、ゴン達は堅によりオーラを増幅させる。
そのオーラの力強さに目を見張った病犬以外の陰獣も、少なくとも足手まといにはならないと判断して堅を行う。
連携の都合上ゴン達と陰獣に別れ、蜘蛛を撃滅すべく戦闘態勢を整えた。
準備運動にすら及ばない作業を終えた幻影旅団は、こちらに歩いてくる真打ち達の姿を見て獰猛な笑みを浮かべる。
「鎖野郎達はヒソカの記憶通りだな。そんでシャルをやった奴は陰獣の中にいるあいつか?全然強そうじゃねえな」
マフィアの雑兵を蹴散らして昂ぶっているウボォーギンは、パクノダに見せられた記憶ほど強そうに見えない相手に肩透かしをくらって不満そうにした。
「このバカ、シャルがやられるまであたし等が全員気付けないほど誤魔化すのが上手いんだよ。あれも擬態で弱く見せてる可能性が高い」
「マチの言う通りだ、要注意のあいつはウボォーギンに任せる。フィンクス達は陰獣の能力が判明するまでは引き気味で削れ、マフィアの性質上純粋な戦闘力より搦め手を使う奴が多いだろう」
数で劣る幻影旅団だったが誰の目にも不安の色はなく、非戦闘員含めて勝つことしか考えていないようで自信と自負に満ち溢れていた。
そしてウボォーギンがロックオンしている筋肉質の男が陰獣を引き連れゴン達から距離を取り、あからさまに挟み込もうとする動きを見せる。
「ウボォーギン、フランクリン、フィンクス、マチは陰獣に対応しろ。ノブナガ、ボノレノフ、ヒソカは鎖野郎達に対応、残りは戦況を見て動く」
クロロの指示でそれぞれが相手に向かって進み、距離も縮まりいつ戦闘が開始されるか緊張感が漂う。
初めは互いに牽制もかねた様子見が行われると思いきや、陰獣対応のメンバーは誰一人として待つ気がなかった。
「少しは楽しませろよ小動物共がぁ!!」
ウボォーギンが咆哮を上げて先陣を切り、マチ達も一切遅れることなく突貫する。
放出系能力者のフランクリンすら突っ込んだのを見て眉を顰めたクロロだったが、あちらはすぐに片が付くと意識を鎖野郎に向ける。
「死にやが、ッ!?なんだぁ!?」
殴りかかったウボォーギン達の目の前で、一歩引いていた病犬以外の陰獣が風船のように破裂し中からヒルやムカデなどの毒を持った生き物が撒き散らされた。
そして破裂と同時に上空から、陰獣
「超かわい子ちゃん!」
離脱しながら謎の言葉を発する病犬を確認し、ウボォーギン達はヒルやムカデを無視してなんとかファンファンクロスの範囲から逃れるべく動く。
「マチ!?」
フランクリンの悲鳴のような呼びかけにクロロが再び視線を向けると、
ほとんど一歩も動けずヒルとムカデにまみれて絶望の表情を浮かべるマチは、虚空に向いていた目をクロロに移して一筋の涙を流す。
「クロロ、ごめ…」
ファンファンクロスが一帯を覆い隠し、口をすぼめながら急速に縮小する。
「予定通りの一人確保か、嫌んなるねぇ」
「デュフフ、だがヒルは付着した。これでアイツ等は出血と毒に蝕まれる」
「こっからは総力戦だな、油断せず刺し潰すんだな、うん」
たった今破裂した
マチの表情と涙を見たクロロは、沸騰しそうになる感情を何とか抑えて戦況を測り続けていた。
(情報を抜かれたのはマチ、しかも記憶を操作されたのか。つまり裏切り者はヒソカで決まりか?)
マチの様子から大凡を察したクロロは正解にたどり着いたが、記憶に作用する能力から導き出される最悪のケースを想定してしまう。
(いや、記憶を操作されている場合、俺含めて全員に可能性がある。シャルが真っ先に狙われたのはこれも理由の一つか、随分と悪知恵の働くことだ)
もしシャルナークがまだ無事だったならば、クロロも操作されている可能性を潰すために
(ヒソカは動く様子もなし、より慎重に動かざるをえないか)
クロロは非戦闘員の3人に待機の指示を出し、自分は
(俺のものに手を出したんだ、代わりに貴様のものをいただくぞ)
これみよがしに鎖を操るクラピカを目に焼き付け、その全てを奪うことを心に誓った。
幻影旅団が二手に分かれ、マチをファンファンクロスで捕らえることに成功した有利な状況。
ここまでの流れは驚くことに全て予定調和で進行しており、対応する旅団のメンバーすら完全一致していた。
(ここまで想定通りだとはな、この状況でも勝てると確信していたシャルナークには何が見えていた?)
早くも乱戦がスタートした陰獣側と違い、クラピカ達は未だに大きな動きを見せずに静かな戦いを続けていた。
たとえ人数差があっても陰獣が不利と考えるクラピカとしては、互いの戦況に差が出来てしまっている今の状況はあまりよろしくない。
「どうするよクラピカ、ウボォーギンって奴が予想以上にヤバイ。オレがあっちの援護しないとすり潰されんぞ」
クロロと互いに注視し合うことで余裕のないクラピカに代わり、戦況を確認していたレオリオの言葉は徐々に不利になる此方側を如実に表していた。
「
「まかせとけ」
レオリオは細心の注意の下立ち位置を調整し、陰獣達を円の範囲内に収めると
現在のレオリオの円は最大で半径10メートル、ただし円の中心をずらすことが出来るようになったため最長20メートル近くまで伸ばすことが出来る。
「
陰獣の予想外とも言える戦況を作っているのは間違いなくウボォーギンだが、フランクリンとフィンクスもとてつもなく厄介に動いている。
最前線で全てを蹂躙しかねないウボォーギン。
二人のカバーをしながらも虎視眈々と機を伺うフィンクス。
3倍以上の戦力差ながら、押されているのはどう見ても陰獣だった。
「お前ら気張れよ!俺達は陰獣だぞ!!」
病犬の発破に応えるように、陰獣は持てる力の全てを絞り出していく。
そしてここまで動きのないクラピカ達だが、これは作戦として超短期決着を狙っているからに他ならない。
最良のタイミングでヒソカを解き放ち、ボノレノフをギン、ノブナガをキルアが足止めしてゴンとヒソカで倒すプランである。
鎖を見せ付けるクラピカは半ば囮であり、何をしてくるかわからないクロロに対する楔の役目を担っている。
しかし、
「…キルアまだいける?」
「けっ、よゆーよゆー、朝までこうしてられるぜ」
前衛が獣一頭に子供二人にも関わらず、決して油断せず最大限の警戒を続けるボノレノフとノブナガにキルアの精神が想定以上の速さで削られていた。
(不味いな、陰獣もどこまで持つかわからん以上ジリ貧。相性の良さで押し切るべきか?)
やや後ろに立つクラピカから見てもキルアの消耗は顕著であり、このままいくよりはこちらからアクションを起こすべきと判断する。
「これ以上はこちらの不利が加速する、キーワードと同時に攻めるぞ」
クラピカの指示にゴン達は堅をさらに増幅させて構え、それを見てボノレノフとノブナガもオーラを増幅させる。
ただ一人妖しく笑うヒソカは、ゴン達を見つつも背後のクロロにこそ照準を合わせていた。
(ここまで理想的な展開になるなんて予想外だよ♥ゴン達が仕掛けてきたら攫っちゃおうかな♠)
ここで誰もが想定外の事態が起こる。
禍々しいオーラが漏れ出したヒソカに対し、疑心暗鬼を捨て切れていない旅団側が過剰に反応してしまったのだ。
「あがっ!?」
さらに精神的に疲弊していたキルアが殺気の変化でフライング気味に発を発動してしまい、ノブナガが思わず抜いてしまった刀を避雷針として地面と平行の
「
「オォーーン!!」
一撃必殺の攻撃力を持つノブナガに電撃が命中したのを好機と見たゴンが突っ込み、ギンがボノレノフに牽制の“咆哮”を放つ。
「変態ピエロ!!」
ここでクラピカがヒソカに対するキーワードを叫び、動こうとしたヒソカも鎖から解放されて一瞬硬直する。
(取った!!)
電気による硬直から動けないノブナガは、目の前に迫ったゴンがシャルナークをやった存在と気付きながらも見ることしか出来ない。
「ノブナガ!?」
パクノダの悲鳴が響く中ゴンの全力の一撃が決まろうとしたその瞬間、ストンッと場違いなほど静かな音が鳴り、
「キル、
何故か響き渡る声と重くドス黒いオーラが突如として発生し、
「ゴン!?」
禍々しさをそのまま形にしたような針を背中に受けたゴンがその場に崩れ落ちる。
「依頼完了。報酬はよろしくねクロロ」
「何でお前がここにいる、クソ兄貴!!」
ゾルディック家長男、イルミ・ゾルディックが参戦した。
後書きで失礼します作者です。
縁の下の11人(イレブンブラックチルドレン)について独自解釈入ります。
原作では黒子風船をオーラで膨らませている能力とあったので、見た目そっくりな風船を作れば見た目そっくりな人形が出来ると解釈しました。
呼吸や表情の変化とかはないが、オーラで形作ってるため能力者もぱっと見では判別困難ということで。
そして風船の中に陰獣蛭のヒルとオリジナル陰獣百足のムカデを混入したということでお願いします。