オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第46話 決戦とそれぞれの戦い

 

 

「クソっ!キルア、ゴン無事か!?」

 

 クラピカはイルミの登場で動きの止まった二人を鎖で回収し、ギンの警戒を信頼して容態の確認を行う。

 

「オレにダメージはねぇ、むしろ精神的には人生最高潮だ。ただクソ兄貴の野郎、精神より肉体の操作に全振りしやがった」

 

 悔しそうに顔を歪めるキルアは動こうとしているのか、全身を震わせ唸るがピクリとも動くことが出来ていない。

 

「…オレは操作されてない、けどこれ、体の中をオーラが侵食してきてる!」

 

 その言葉にクラピカがピチピチになっているタンクトップを破けば、ちょうど背骨の上に刺さった針が根を張るように脈動している。

 

「やっぱり自分を操作する能力だったんだね、でも操作自体は出来なくてもやりようなんていくらでもある」

 

 そう言ってイルミが取り出したのはゴンに刺さるものと同じ大きなまち針に見える、ヒソカとはまた違った禍々しさを持つ20センチ程の針。

 

「これを刺された奴は限界以上に頑張って死ぬ、つまりオレのオーラを注入されるってこと。他人の“悪意ある”オーラを打ち込まれて無事で済む道理はないよね」

 

 それを聞いたクラピカは命奪う者の鎖(アサシンチェーン)でオーラを吸い取れないか試みるが、イルミのオーラがゴンのオーラと絡み合うように侵食しているせいで下手をすると精孔を傷付けかねない。

 

「まさかこれを刺してもそこそこ余裕だとは思わなかったけどね、ちょっと勿体無いけどあと3本くらいいっとこうか」

 

 針を振りかぶるイルミから守るようにゴンの前に立ったクラピカだったが、針を持つ手を掴む男がイルミの背後に佇んでいた。

 

「ちょっとイルミ、ボクよりクロロの依頼を優先したの?だとしたら結構頭にくるんだけど♠」

 

「まさか!ちゃんと二人の依頼はそれぞれ遂行してるよ。プロとしてそこは信用してほしいな」

 

「…わかった、そこは信用してあげる♦ゴン、ボクこれからイルミと話し合いがあるからちょっと抜けるけど、もちろん大丈夫だよね♥」

 

 記憶が戻ったヒソカがゴンに笑いかけると、今まで蹲っていたとは思えない勢いで立ち上がる。

 

「もちろん、戻ってくる頃には全部終わってるかもね」

 

 大量の汗をかきとても万全には見えないが、その言葉と目から本気だということがありありと伝わった。

 

「…♥じゃ、行ってくるよ♠」

 

「キルは危なくない距離まで逃ゲロ、絶対に手出しするな」

 

 動いた戦況をほったらかしにして、死神とジョーカーはさっさと戦線を離脱した。

 

 

 

 

 

 警戒するギンとさり気なく牽制していたヒソカがいたため、クロロはノブナガの回復と戦況全体の把握に努めていた。

 

「ヒソカが団長じゃなくてゾルディックを連れて行くとは思わなかったけど、これで向こうの戦力は半減以下だしもうこのまま押し切らない?」

 

「ですね、流石に退屈になってきましたし動いていいんじゃないですか?」

 

「ぼくはこのままサボっててもいいよ」

 

 待機を命じられて手持無沙汰なパクノダ達にせっつかれながら、クロロの視線は最終的にゴンに固定されていた。

 

(あのヒソカが随分と気を許していたじゃないか、むしろ今操作されたと言われたほうがしっくりくるほどに。それにあの背格好、シャルをやったのはおそらく)

 

 そこまで考えたクロロの視線の先で、ゴンの体から大量のオーラが噴出する。

 それは長期戦をかなぐり捨てた全力全壊の決意表明であり、一目でその内包する強さを理解させられるものだった。

 

「やっぱりこのまま見てるわ、あれはウボォーあたりが何とかするでしょ」

 

「休憩楽しぃー」

 

 文句を言っていたパクノダとシズクも手のひらを返し、クロロの頭をノブナガとボノレノフだけでは戦力不足とよぎったところでわずかに出血するウボォーギンがやってきた。

 

「俺様のターゲットがいねえと思ったらあのガキだったのか!随分楽しそうな相手だなオイ!!」

 

「…ウボォーギンはあいつとタイマンだ。ノブナガとボノレノフは獣と鎖野郎を潰せ」

 

 クロロは陰獣を押し付けられたフィンクスとフランクリンが問題なさそうなのを確認し、改めて戦力を分けると自分は再び全体の指揮と把握に戻る。

 

(予定外はあったが裏切り者も判明して隔離出来た。もうこちらが負ける道理はないはずだが)

 

 引っかかるのはヒソカの態度。

 

 今まであれだけクロロに固執してきたのは何だったのか、先のやり取りでは僅かな牽制以外視線すら向けることがなかった。

 

(あれが新たなターゲットということか?イルミもあいつをあえて狙ったのだとしたら)

 

 ウボォーギンが誘い邪魔の入らない距離で対峙したゴンの姿は、ハンデを負っているとはいえとてもそこまでの強さには見えなかった。

 

 借筋地獄(ありったけのパワー)――

 

 ゴンの筋肉が二周りは膨れ上がり、旅団すら驚愕したオーラをさらに上回る怪物が出現する。

 

「…さっきのが、マックスじゃなかったんだ」

 

 啞然と呟いたシズクの言葉は、旅団全員の思いを代弁していた。

 

「全員気を引き締めろ、どうやらここからが正念場だ」

 

 仕掛けた罠は正しく作動したにも関わらず、クロロの脳裏に敗北の影がチラ付いた。

 

 

 

 

 

「ギン、これからお前を鼓舞する者の鎖(インスパイアチェーン)で強化する。前線は頼んだぞ」

 

「ぐまっ!!」

 

 絆の鎖(リンクチェーン)本体のブレスレットから、先が矢印の鎖が伸びてギンの首元に巻き付くと本体から分離して首輪の様に残る。

 低い唸り声を上げながらギンは怒っていた、匂いも気配も感じさせずにゴンを傷付けたイルミのことを。

 

 何より守れなかった自分自身を。

 

 それでも自分を信じるクラピカ、そしてゴンのためにギンは限界を超えて戦うことを誓った。

 

 クラピカははるか後方に退避させられたキルアを一瞥し、巻き込まれる心配がないことを確認して安堵の息を吐いた。

 守って戦うには幻影旅団は強大すぎる上に、これからの戦いで他人に配慮する余裕が一切なくなるからだ。

 

(ベストは私とギンで全員倒すことだが、流石にそこまで出来るほど甘くはないか)

 

 それでもゴン達を巻き込んでいる責任として、クラピカは今自分に出来る限界以上で能力を行使する決心をした。

 

強大な者の鎖(タイタンチェーン)、“巨人の拳骨“」

 

 タイタンチェーンは他の鎖と違い特殊な効果はなく、それは絶対時間(エンペラータイム)中でも変わらない。

 

 ただ硬く、ただ強く、精密操作性に優れ、何より燃費が良い。

 

 クラピカの袖から伸びる鎖が急激に伸び、頭上で編み込まれ巨大な拳が形成された。

 

 加えて導く者の鎖(ガイドチェーン)命奪う者の鎖(アサシンチェーン)も励起させ、ギンに与えたインスパイアチェーンと合わせて4本の鎖を同時使用する。

 

 自分の足で動くことすら困難なレベルで鎖を操作する今の状態こそ、クラピカの限界を超えた現時点で最強の戦闘スタイル。

 

(長くは持たん、ノブナガとボノレノフを最速で仕留める!)

 

 凄まじい才能を持つクラピカの弱点、それはオーラ総量の少なさとエンペラータイムの副作用による継戦能力のなさ。

 

 元々ジリ貧だったとはいえ、分の悪い勝負へと身を投じた。

 

 

 レオリオは陰獣の治療を行いつつも、新たに習得した攻撃用の発で必死に援護を行っていた。

 

「くっそ、お前は戦線離脱だ!今すぐ医療機関に行けば助かる!」

 

「すまんがそれは出来ん、儂にも陰獣としての矜持がある。この命、先に繋げる礎としよう」

 

 これでまた一人、レオリオが名前も知らない陰獣が死地へと飛び込んでいった。

 現在残る陰獣は6人にまで減っており、ウボォーギンがいなくなったことでどうにか戦線を維持できている状態だった。

 

「ちくしょうが、痛いの痛いの飛んでいけ(ダメージコンバート)!」

 

 レオリオの新しい発は物にダメージを与えて保存し、任意のタイミングで解放する能力。すでに衝撃を保存したコンクリート片をいくつも戦場に投げ込み近くに来たところで解放、体勢を若干崩すくらいの嫌がらせを行っている。

 

(やっぱりまだダメージを与えられるレベルじゃねえか、だが少しでも効果があるならオーラの残量を気にしつつも援護しねえと)

 

 ウボォーギンという明らかな最大戦力が抜けたにもかかわらず、トータルバランスが高水準のフィンクスと遠近どちらもこなせるフランクリンのペアに終始陰獣が押される展開となっていた。

 

(せめて、ゴンやクラピカが勝つまで持ち堪えねえと押し切られちまう。予言の間違えた選択ってのはどこだ!?)

 

 必死に援護する中助けられない陰獣が出る度に、レオリオの精神は多大なストレスを蓄積させていく。

 加えて予言のこともあり、治療以外は要領が悪いこともあって視野狭窄と呼べる状態へと陥っていく。

 

 最も戦力差のある戦線を支える功労者に、無慈悲な現実が牙を剥こうとしていた。

 

 

「クソ兄貴の野郎、ある意味ファインプレーしやがって」

 

 戦場をなんとか確認出来る距離まで後退させられたキルアだったが、本人も驚くほど冷静に今の状況を歓迎していた。

 キルアの地力が向上するにつれ、少しずつ抵抗出来るようになっていたイルミの縛り。

 

(試験の時は精神操作に比重を置いてたのか、まだ完全じゃねえけど羽が生えたようってのはこのことだな)

 

 イルミは今のキルアを確実に操作するため、精神に対する操作を捨て身体操作にのみ焦点を当てた。

 

 それでキルアが得たものは、値千金とも言える情報と精神の解放。

 

(明らかな異物が頭ん中にある、これが操作の要。予言の内容がわかった)

 

 殻を破るのは命懸け、キルアはイルミの呪縛から脱するために動かぬ身体を動かして脳に埋め込まれた針を抜き取るしかない。

 

(やってやんよ、今のオレなら絶対にいける!)

 

 周囲の警戒はイルミの呪縛が対応してくれると、キルアは目を瞑り極限の集中状態へと落ちていく。

 

 縛られた稀代の天才が、命を賭して自由を掴めと足掻き始めた。

 

 

 借筋地獄を発動したゴンは目の前のウボォーギンを見据え、自分の不利を自覚しながらも吊り上がる口角を止めることが出来なかった。

 

(全力の練で抑え込んでるけど、イルミのオーラのせいで筋肉対話(マッスルコントロール)と牢は使えそうにない。原作トップクラスの強化系を相手に純粋な身体能力とオーラの殴り合いか)

 

 筋肉とオーラが膨れ上がったゴンを見て獰猛に笑うウボォーギンを観察すればするほど、オーラの力強さとその肉体の規格外さが伝わってくる。

 

(ただ、こうして対峙してわかっちゃった。地上最強の生物と同じタイプだと思ってたけど、“こいつは違う“)

 

 ゴンは勝手に期待ハズレを感じながらも、ハンデを背負った自分より間違いなく強いだろうウボォーギンと戦うことが楽しみで仕方がなかった。

 

(これは慢心、力を抜くってことになるのかな?死神の一刺しはイルミの針だろうし、後はオレがオレじゃないだけが問題か)

 

 ゴンとウボォーギンの全力のオーラが互いに干渉し、空気の流れなど物理的現象を引き起こす。

 

(これ以上は考えるだけ無駄かな、今はとにかくウボォーギンに勝つことだけを!)

 

 お互いが間合いにいるのを理解しながらも、あえてさらに近付いていく。

 

 踏み込めば届く距離からさらに近くへ、手を伸ばせば届く距離からさらに一歩を踏み込む。

 

「へへ、随分俺様好みの間合いだな。後悔すんじゃねえぞ?」

 

「ほざけ、今に青褪めるのはそっちだよ」

 

 揃って歯を剥き笑い合うと、これまた揃って身を捻じり拳を引く。

 

 有史以来数えるほどしかないであろう、最強のぶん殴り合いが幕を開けた。

 

 

 

 

 ゴン達と幻影旅団の戦場から離れた、ギリギリで人払いされている交差点にヒソカとイルミが降り立った。

 お互い利害の一致で戦場を離れたこともあり、驚くほどに殺気も何もない緩んだ空気が流れている。

 

「酷いじゃないかヒソカ、キルを殺そうとするなんて許されることじゃないよ」

 

「結局何もしなかったんだし良いじゃないか、こっちだって色々邪魔されて面白くないんだよ♠そもそもクロロからなんて依頼されたのさ、ボクの依頼があるんだから手伝ってくれればよかったのに♣」

 

 ヒソカとしてはイルミへの依頼内容的に考え、あの場面ではこちら側に付くと踏んでいただけに腑に落ちない思いを抱えていた。

 事実ヒソカはこうしてイルミと二人きりになっており、ここからどうすればクロロとのタイマンが実現するのか疑問に思っていた。

 

「うーん、本当は良くないけど依頼主への説明責任の範疇かな。クロロの依頼も達成したようなもんだし」

 

 少し考える素振りを見せたイルミは無表情に頷くと、クロロから受けた依頼と報酬について説明する。

 

「依頼内容はヨークシンシティで発生する邪魔者の排除、報酬は相場の3倍を一括払い。プラスおまけとしてオークション終了後にヒソカとのタイマンを行うことだよ」

 

「…なるほど、それならゴン達の邪魔をしたのも頷けるね♣イルミとしてはクロロ側に付いたほうがボクの依頼を完遂できると見たわけだ♠」

 

「そういうこと」

 

 ヒソカは改めてクロロの高い頭脳による策略を称賛すると共に、イルミに対して自分の意志で行動できる依頼をしたことが失敗だったと認めた。

 

 その上で新たな策を構築し、その準備を開始する。

 

「それにしてもあの針、とっておきみたいだけどよくゴンに刺さったね♣やっぱり鋭い一点にオーラを集めてるのかい?」

 

「ん?あれは攻撃用の針じゃないから避ける以外に防げないよ。刺さって見えるけどオーラで癒着と侵入をしてるって言ったほうが近い」

 

 イルミは突然“何か”をしだしたヒソカを訝しむも、自分に対する殺気も悪意も感じないためとりあえず会話を続ける。

 

「正直に言うと俺結構ヒヤヒヤしてたんだよね、あれにかなりお熱みたいだったから普通に襲いかかってくると思ったよ」

 

「ん〜?そりゃ面白くはなかったけどさ、ゴンの中に一番最初に入れたのはボクだし?グチャグチャにしてグチャグチャにされた仲だし?あの程度で動揺するほど浅い関係じゃないし?そもそもあんな愛のないのはノーカンだし?」

 

「…」

 

 イルミは無表情の裏で絶句していた。

 

 己が勝てないと思わせる数少ない強者の成れの果てに。

 

 休まず何事かを呟きながら準備を続けるヒソカは、かつてのドロドロとした絡みつく存在感もなく何なら今すぐ殺せるのではと感じさせる腑抜けさだった。

 戦場に戻らせないためにこうして時間稼ぎしているが、向こうに戻っても別にいいのではと思ってしまう。

 

「これでいいかな?さて、ボクはちょっと忘れ物を取ってくるからイルミはここで待っててくれないかな♠」

 

「それは無理、てかもう少し待ってればクロロとタイマン出来るんだしそれでよくない? そんなにあれが育つのを見たいわけ?」

 

 イルミからしたら当然の疑問、そんなにゴンの成長を見守りたいのかという問い。

 

「アハハハハハハ!!」

 

 それに返ってきたのは最大級の哄笑、身を捩り腹を抱え耐えきれないとばかりに笑い転げる。

 

「それがあるのは認めるけど残念、それ以上に焦ってるのさ♣このままじゃクロロとタイマン出来ずに全部終わっちゃうってね♠」

 

 それはイルミの見解とは真逆の答え、ヒソカがいなくても幻影旅団が負けると考えているということ。

 

「…ありえないでしょ、一番やばいあれには針を刺したしキルもいない。残りの雑魚に獣とチンピラじゃ話にならない」

 

 否定したイルミだったが、そこでヒソカから漏れてきた禍々しさに気付いた。

 

 ヒソカの狂気は消え去ったわけではない、単に全方位にばら撒かれなくなっただけなのだ。

 

 ただ一人に向けられた狂気はむしろ純度を増し、イルミをして顔を顰めるほどのオーラとなる。

 

「イルミはわからなくていいんだよ、ライバルは少ないに越したことはないからね♥じゃ、お留守番出来るように大人しくしてもらおうか♠」

 

 夜のヨークシンシティで人知れず、暗殺者とピエロが己の我を通すため対峙した。

 

 


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