オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第47話 決戦と脱落者達

 

 

 ゴン一行と幻影旅団の決戦が山場を迎えた頃、周囲のビルから見ていたマフィア達や映像で見ている十老頭は開いた口が塞がらないほど没頭していた。

 人の生き死になど腐るほど見ては作り、数え切れない鉄火場を乗り越えてきた生粋の悪党共がまるで特撮を初めて見た子供のような有様である。

 

 到底敵わぬ巨悪に数で挑むも徐々に削られ、それでも仲間の死を踏み越え挑み続ける陰獣と必死に援護するレオリオ。

 

 遠目にもわかる尋常じゃない獣は侍と身体に人為的な穴がいくつもある男とやり合い、クラピカが鎖で出来た巨人の腕を操って押し潰さんとする。

 

 そして広い交差点の中心で、二人の益荒男がただ純粋に殴り合っていた。

 引くことなく、避けることなく、打ち受け防ぐ単純極まりない殴り合いは、マフィアでありながら襟を正して敬意を送りたくなる魅力があった。

 

 決戦の前に構成員が殺されている者も、流れ弾によって大怪我を負った者も、等しく釘付けになる戦いは正しく世界の上位者同士の存亡をかけた争い。

 一つの山場を迎えた戦争は、さらなる波乱を巻き起こそうと機を伺う。

 

 

 

 

 

 クラピカの鼓舞する者の鎖(インスパイアチェーン)によって強化されたギンは、ノブナガとボノレノフに対して獅子奮迅の活躍を見せていた。

 常に一定の距離を保った上でネテロ戦でも見せた撹乱を行い、ヒットアンドアウェイと能力の咆哮でもって少しずつではあるがダメージを与えている。

 元々がタイマン専門で遠距離の対応に難があるノブナガはもちろんのこと、己の身体を楽器にして音楽を奏でることで能力を発動するボノレノフとの相性の良さが際立っていた。

 

「くっそやりにくいぜチクショウ! ボノお前さっきから何も出来てねえじゃねえか!?」

 

「俺の演奏は繊細なんだ、ああも下品にシャウトされてはどうにもならん」

 

 ギンは居合いについての知識もしっかり得ており、納刀状態のノブナガには決して近付こうとしない。

 ボノレノフが能力戦闘演武曲(バト=レ・カンタービレ)を発動しようとすれば、音楽を奏でる前にダメージ度外視のただ声量を強化した咆哮で音を吹き飛ばす。

 それでも無傷でいられるほど甘くはなく、ノブナガに斬られ不完全でも発動した戦闘演武曲によって所々出血して毛を赤く染めていた。

 

強大な者の鎖(タイタンチェーン)!!」

 

 しかし無傷でいられないのは、ノブナガとボノレノフもまた同様だった。

 ギンはもちろんのこと、後方から援護するクラピカの攻撃も十二分な脅威となって襲いかかる。

 一撃必殺の威力を秘めた大質量のタイタンチェーンに、死角から隙をつくように導く者の鎖(ガイドチェーン)が攻撃し、限界まで細くなり隠で透明化した命奪う者の鎖(アサシンチェーン)が気付かれぬようオーラを奪う。

 普通の操作だけでは追い付かず両手に鎖を持ち指揮者のように身振りを付けて操るさまは、ボノレノフの舞も相まって互いに踊り合っているようにも見えた。

 

(膠着状態、だがやりたいことが出来ていない向こうの方が不利。必ずどこかに付け入る隙があるはず!)

 

 クラピカは全力で戦闘を行いながらも、ギリギリでクロロへの警戒を続けていた。

 盗賊の極意(スキルハンター)のページを開いたまま戦況を見守り続けているクロロが、どのタイミングで動くのかを見切る余裕があるのはクラピカしかいないのだ。

 

(クソッ! レオリオにゴン、そしてキルアはどうなった!? 早く援護に向かわなければ!)

 

 高速で回る思考は予言のこともありどうしても嫌な方へと考えそうになるが、全力で戦い全力で楽しんでいるとわかるゴンのオーラに冷静さを取り戻し微笑みすら浮かぶ。

 

(落ち着け、今更焦ったところで何も変わらない。最高の力を出せる精神を保つんだ)

 

 そしてほんの少し落ち着いてみれば、クラピカが集中出来るように戦うギンも限界を超えた動きに興奮して楽しんでいるように見えた。

 

(そうだな、今はこの自分が成長していく感覚を楽しめばいい。怒りに飲まれるのは復讐を完遂する時でも遅くはないさ)

 

 やがてクラピカの表情から険しさが抜けていき、血が滲むほど強く握っていた鎖も離して優雅に舞い始める。

 クルタ族伝統舞踊に通ずるその動きの一つ一つに意味があり、絆の鎖(リンクチェーン)が未だかつてないほど激しく躍動する。

 舞を神聖視するギュドンドンド族であるボノレノフすら見惚れかける華麗な舞は、ギンとのコンビネーションも相まって確実に幻影旅団を追い詰めていた。

 

 

 

 

 

 戦場の音が僅かに届く交差点に一人佇むキルアは、自分の意志では一切動かない身体を動かすべくまだ未完成の能力を驚異的スピードで習得しようとしていた。

 

(こうして意識だけになるとよくわかる、身体の中を流れる電気とその意味が)

 

 考えることしか出来ないことがかえって功を奏し、精神が呪縛から自由になった天才は身体を流れる電気を把握しかけている状態だった。

 

(腕のこの筋肉、これが動けば指が動く。ここにこの電気を流せば)

 

 パチリと、静電気より小さな音が鳴れば微動だにしなかった指先がピクリと反応する。

 

(読み通り、どうやってるか知らねえけど脳からの電気信号を操作されてるだけだ。これなら動ける!)

 

 ここからキルアは、命懸けの賭けに出なければならない。

 常に能力で動いていては戦闘などとてもではないが行えないため、先ずは脳に埋め込まれたイルミの操作媒体を摘出しなくてはいけないからだ。

 未完成の能力を完成させ平時でも成功するかわからない超精密動作をするなど明らかな自殺行為だが、キルアには躊躇も恐れもなく凪いだ心で集中力を高めていく。

 

(間違いなく今が予言にあった殻を破る時、なら超えればいい! オレは予言のオレを超えて自分の力で未来を掴む!)

 

 見るものが見れば恐れを抱くほどの極限の集中、正に明鏡止水へと至った雷小僧は絶対の自信で突き進む。

 

 ヨークシンシティの交差点に、雷の燐光が仄かに瞬いた。

 

 

 

 

 

 ウボォーギンとの殴り合いが10発を越えた頃、既に開き始めたダメージ差にゴンは満面の笑みを浮かべて拳を振るっていた。

 

(すごいすごいすごい! ただ乱雑に殴ってるだけに見えて全然違う。踏み込みの位置重心の掛け方拳の振り方全部が最善の選択をして殴ってくる!!)

 

 ウボォーギンの拳は常に想定以上の威力でゴンにダメージを与え、逆にゴンの拳には常に想定以下の手応えしか返ってこない。

 膨大な戦闘経験に裏打ちされた、恐らくは本能による最善の攻撃と最善の防御は一見すると技術も何もない我流の力任せに見える。

 しかし見るものが見ればその印象は変わり、型はなくとも最善の動きをするその姿はまるで河口に流れ着いた一つの自然石。

 人の手によるきらびやかさはないものの、無駄をすべて削ったそれは自然の美しさと何より武骨な強さをこれでもかと見せ付ける。

 ある意味ネテロとは対極に位置する、暴力という武の頂へ手をかけた所にウボォーギンはいた。

 

(きっと全部無意識なんだろうな。反射に至るほど繰り返した最善の型の選択じゃなくて、その時だけの最善の動きを感性で導き出す。オレじゃ辿り着けない一つの極地)

 

 原作も含めてゴンの戦闘センスは決して高いものではない。

 

 身体能力はもちろん反射神経や動体視力に念の素質と全てが人類最高峰の逸材と言っても過言ではないが、それを万全に使いこなすセンスが圧倒的に不足していた。

 もしゴンにキルアの戦闘センスが備わっていたならば、その強さは現時点の数倍を優に超えるものとなっていただろう。

 

 “ゴン”という大器を完璧以上に操るには、ゴンはどう考えても不器用に過ぎた。

 

(けど関係ない、オレはオレのやり方で最強(ゴンさん)になる。原作で至ったあの頂を、未踏のままでは終わらせない!)

 

 それは使命感、ゴンに憑依転生した者としての責務。

 

 ほんの僅かに、しかし致命的にズレた思いを抱えて拳を繰り出し続ける。

 

 

 

 

 ゴンと絶賛殴り合うウボォーギンは最高の相手との心躍る勝負に、満面の笑みを浮かべてはいなかった。

 始めた当初は浮かんでいた笑みも、殴り殴られる度に徐々に困惑の表情へと変わってしまっている。

 

(何だぁこのガキ? 俺様の攻撃が軽減されてる? それに防御も抜いてきてる?)

 

 小難しいことを考えるのは大の苦手とはいえ、膨大な戦闘経験を体で覚えているウボォーギンは自分の感覚とゴンとの差異に首を傾げていた。

 相手はもっと痛がるはず、相手はもっと通用しない攻撃に絶望するはず、この程度の相手ならもう打ち負かしていてもおかしくないはず。

 ゴンの身体能力とオーラの量に質、それらからウボォーギンの本能が導き出したのは愉しい蹂躙劇のはずだった。

 しかしダメージ差こそ出てきているが未だに相手は元気いっぱいで、ウボォーギン自身タイマンの殴り合いでは記憶にないレベルのダメージを負ってきている。

 

(こいつの発か? 真っ向勝負と見せて何かしらの能力を発動してるのか、まぁ俺様の勝利は揺るがないがな)

 

 ウボォーギンは大雑把に二つの戦闘スタイルを持っている。

 一つは弱い有象無象を気持ち良く吹き飛ばすための、攻撃特化の完全力任せなスタイル。

 もう一つは一定以上の強者に対して本気で勝ちにいく、少々窮屈な攻防一体のスタイル。

 ウボォーギンの本能は、数合の打ち合いで攻防一体のスタイルを取ることを選択した。

 

(確かに楽しいんだが、なんか引っかかるんだよな。何でだ? ここ最近いなかった最高の獲物じゃねえのか?)

 

 ダメージを負い、顔を腫れさせ、血を流しながらも満面の笑みで殴りかかってくる相手(ゴン)

 真っ直ぐ向けてくるその目に負の感情は一切なく、ただただ尊敬と楽しいというキラキラした感情を映している。

 

 ウボォーギンはそれが堪らなく癇に障り、それ以上に知らない感情がくすぶってくるのを感じていた。

 

(チクショウ、楽しいはずなのに愉しくねえ。俺様はこんななのに笑ってんじゃねえぞ!)

 

 困惑から怒りの表情へと変わったウボォーギンが更に苛烈に攻め立てるが、押し切れないどころかゴンの笑みをやめさせることすら出来ない。

 

 自分の心に生じる感情の正体もわからぬまま、ゴンに向かって拳を繰り出し続ける。

 

 

 

 

 

廻天(リッパー・サイクロトロン)!」

 

 フィンクスの腕を回せば回すほど威力の上がる能力により、今まで多くの攻撃を防ぎ貢献していた陰獣岩亀(イワガメ)が文字通り爆散した。

 

「出鱈目すぎんだろクソが!」

 

 病犬は折れた左腕を無理やり伸ばしながら、自分含めて5人に減ったまだ動ける陰獣を確認して歯を食いしばる。

 

(このままじゃ時間もかせげないで押しつぶされる。たった二人相手にこのザマじゃ陰獣も終わりかね)

 

 残った陰獣でフランクリンとフィンクスを仕留めるのは無理があり、ここまで戦線を支えてきた岩亀の死は辛うじて保っていた均衡を破られる決定打となる。

 それでも病犬は自分にできる最善をつくすため、何よりここまで必死に陰獣を援護してくれたレオリオに報いるために決死の決意を固めた。

 

「俺が活路を開く! 万が一生きてたらまた会おうぜ!!」

 

 再び腕を回してチャージしているフィンクスを見据え、病犬は全力でオーラを纏うと一直線に駆けていく。

 フィンクスへの信頼か他を警戒してかフランクリンが動かなかったため、病犬の無謀な特攻は無事肉迫することに成功する。

 

「お前みたいに真っ直ぐなバカは嫌いじゃねえ、だがくたばれ!」

 

 フィンクスの10回以上回した廻天が唸りを上げて襲いかかり、病犬は全力で絞り出したオーラを全て己の歯へと注ぎ込む。

 

 フィンクスの拳は病犬の下顎と上顎の一部を完全に消し飛ばし、その余波で細い体は血の尾を引き宙を舞った。

 

「病犬!?」

 

 知らぬ仲ではない相手の悲惨な姿に悲鳴を上げるレオリオとは別に、残った陰獣は病犬の功績を確認して心の中で喝采をあげた。

 

「お前らわかってんな!? 陰獣の名にかけてあの継ぎ接ぎヤローを抑えるぞ!」

 

 残った陰獣がフランクリンに向けて一斉に走り出し、怪訝な顔で止めようとしたフィンクスだったが力が抜けたようにストンと座り込む。

 

「っ!? 毒か!!」

 

 病犬を殴り飛ばしたフィンクスの拳に、廻天のオーラを突き破り数本の歯が突き刺さっていた。

 病犬の一噛みは病を運ぶ毒の一噛み、首から下を麻痺させる神経毒が決死のオーラで強化されフィンクスを無力化することに成功した。

 

「なめんじゃねえ、俺が接近戦を出来ないと思ったら大間違いだ!」

 

 これで戦力差は4倍になったとはいえ、フランクリンは強化系と隣り合う放出系の完全戦闘職。

 未だ予断の許さない戦線を見つめていたレオリオも、改めて援護すべく気合を入れ直し、

 

 目の前に拳を繰り出す直前のウボォーギンが突如として出現した。

 

「…へ?」

 

 瞬きすらしていないにもかかわらず現れた巨体に思考が真っ白に染まり、とんでもないオーラの拳がスローモーションのようにゆっくりと迫る。

 

(あ、これもうダメなやつだ)

 

 迫る拳と動けない自分から死を回避するのは不可能と悟り、走馬灯が駆け抜け最後に浮かんだのは全員で歩いた夕暮れのヨークシンシティ。

 

(死なせたくないと思ったオレが第一犠牲者か、けど予言が変わったってことはあの悲惨な結末も変わったはずだ。みんな、勝てよ)

 

 レオリオの胸中を支配するのは、死への恐怖ではなく残されるゴン達への想い。

 

「へ?」

 

 そんな覚悟を決めたレオリオとウボォーギンの拳の間に、素早く割り込んできた者がいた。

 

(クラピカ!?)

 

 ギリギリでレオリオの盾となったクラピカの胸に拳が突き刺さり、レオリオ諸共広場の脇にあるビルへと一瞬で吹き飛ばす。

 

 蜘蛛と筋肉の決戦が、クライマックスへと向かい加速する。

 

 


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