オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第49話 決戦と最終局面に向けて

 

 

 キルアとギンは人数で劣りながらも、幻影旅団に対して有利に戦闘を進めていた。

 野生を解放したギンは動きの精細さこそ失われたものの、それを補って余りあるフィジカルと威力の上がった咆哮で押し込む。

 イルミの呪縛から脱したキルアはギンの動きに合わせながら、素早く静かに暗殺者らしく援護と攻撃を重ねていく。

 相変わらずボノレノフにはギンの咆哮が良く刺さり、刀を持つノブナガにはキルアの電撃が非常に厄介となっていた。

 

「ちっ! ガタガタ震えてたビビリのガキが急に一丁前だな!?」

 

「今はビリビリですぅ〜、あんたは見た目通りのノロマで助かるよ」

 

 キルアとギンの役割分担は、キルアがフランクリンを抑えながらノブナガの牽制、ギンがボノレノフを攻め立てながらノブナガの牽制と先ずはボノレノフを落とすように対応していた。

 覚醒したギンはキルアの的確な援護のもとボノレノフを追い詰めようとしており、ノブナガとフランクリンがなんとかしようにも神出鬼没にして電光石火と化したキルアがその類稀なる戦闘センスで尽く潰す。

 

「このガキが! どうやって俺の居合を見切ってやがる!?」

 

 ノブナガは何度も間合いに入りながら未だかすりもしていないキルアに違和感を感じていたが、タイマン専門と揶揄される手札の少なさのせいで愚直に刀を振るう。

 

「ちょこまかとうっとおしいにもほどがあるぜ!」

 

 フランクリンはその大柄で頑強な体格に相応しい固定砲台としての戦闘スタイルが仇となり、至近距離で撹乱し急所への一撃必殺を狙うキルアに悪戦苦闘していた。

 

「あ~、自由はかくも尊いってね。テンション上がるぜ、最高にハイってやつだ!!」

 

 キルアは自分の思い通り以上に動く身体とオーラに今までにない全能感を味わっており、まだまだ実用化には程遠かった数々の能力を行使していく。

 

 電気に変化させたオーラを纏い、限界を超えた反射と速度を得る神速(カンムル)

 

 神速使用時に使える己の意思で高速戦闘を行う“電光石火”。

 

 同じく神速使用時に使える、ノブナガの刀に残る電気に反応して自動的に超速回避を行う“疾風迅雷”。

 

 ギンのオーラを残して残像にする撹乱技と肢曲を組み合わせた、残像に電気としての当たり判定が残る歩法“雷肢曲”。

 

 そこらの念能力者なら生涯をかけて形にするような能力を、大本の発の応用技として習得し使いこなす様は正しく天才の所業。

 

 しかし少しも満足していない。

 

「あいつに追い縋る下地は出来たけどまだ足りねえ、ゴン(修羅)に並び立つなら、電気を操る程度じゃまるで足りねえ!!」

 

 念は心が強く求めることを実現する力、明確な人外を追い求めるキルアは発に己の決意を込める。

 

「発には名前をつけろってね、ジイちゃんに教えてもらった異国の神をもじって雷皇(オレミカヅチ)。オレは(神也)すら統べる王になる!」

 

 殻を破った雛鳥が、雷となって天を飛翔する。

 

 

 

 

 

 ヒソカを追ってクロロが辿り着いたのは、一見なんの変哲もない広めの交差点。

 一歩早く到着したヒソカが拘束したパクノダ達を準備していた地点に投げ込むと、奇術師の嫌がらせ(パニックカード)で増幅された大量の伸縮自在の愛(バンジーガム)で包まれる。

 バンジーガムは周囲の車やフェンス等様々な物に繋がっており、ヒソカが指を鳴らせばクロロの目の前で歪な球状の塊と化す。

 

「ククッ、やっぱり雑魚は駄目だねぇ♣この程度で無力化するなんて話にならない♠」

 

「そう言う割にはシズクとコルトピへの対策は万全だな。それにしてもイルミ、そのざまはなんだ?」

 

 クロロの指摘通り、シズクのデメちゃんは唯一オーラそのものが吸い込めないためバンジーガムで口を塞がれては無力であり、コルトピがもし神の左手悪魔の右手(ギャラリーフェイク)を発動したとしても逃げ場がなく押し潰されてしまう。

 そしてクロロが腑に落ちないのが、パクノダ達同様バンジーガムで雁字搦めにされているイルミの姿である。

 戦場との距離を考えた場合下手をするとイルミは数分とかからず拘束されたと思われ、クロロでも勝てるかわからないイルミとヒソカとの間にそこまでの実力差があるとは流石に考えられなかった。

 

「ごめんごめん、たしかに油断してたのもあるけど俺の立場も考えて欲しいな。ヒソカがクロロとタイマンしようとするのを止めるのは流石に契約違反だからさ」

 

 イルミはクロロよりも先にヒソカから依頼を受けており、ゴン達の邪魔をするのはまだしもヒソカの邪魔はプロとしてするわけにはいかなかった。

 

「しかも見てよこれ、ヒソカがここまでするのは完全に想定外。正直言って滅茶苦茶驚いてる」

 

 変わらぬ表情でのたまうイルミの手には左腕が握られており、その腕を基点としてバンジーガムが発動している。

 状況的にはヒソカの腕のはずだが、一見するとヒソカは無傷であり腕もしっかりと付いていた。

 

「世間話の途中で急にあげるって投げ渡されちゃってさ、突然だったから思わず受け取ったらこのざまってわけ。あの左腕はバンジーガムで作られた偽物だよ」

 

「バレちゃった☆」

 

 イルミの説明に笑ったヒソカが左腕を掲げると薄っぺらな嘘(ドッキリテクスチャー)による肌の質感はそのままに、まるで肘から先にスライムが乗ってるかのような動きを見せる。

 クロロは実際に見るまで見抜けないほどの再現性はもちろんのこと、そこから繰り出されるであろう人体を無視した動きを思い浮かべて顔を顰める。

 初見であれば簡単に不意打ちが可能な精巧さなのをあえてバラすのは、クロロの戦闘スタイルが感覚型ではなく思考型なのも理由である。

 

「随分と過保護なことだな、そんなに鎖野郎達が大事か? その感情はヒソカ、お前を明確に弱くするぞ」

 

「…クフッ、アハハハハハハ!」

 

 らしくない哄笑にクロロの中で操作されている説が現実味を帯びてきた中、滲む涙を拭ったヒソカはいつもの嫌らしい嗤いを浮かべる。

 

「イルミもそうだったけどわかってないなぁ、ボクが守護(まも)ったとしたらクロロ、それは君のことだよ♠」

 

 漏れ出す狂気に身構えるクロロを無視して、天を仰いだヒソカは朗々と続ける。

 

「君は手札の多さとそれを十全以上に使いこなす頭脳が最大の強み、体術も相当ハイレベルだけど正直誤差の範囲だね♦万全に準備させたらボクでも勝てるか怪しい、…準備をさせたらね♠」

 

 仕掛けるチャンスはいくらでもあるように見えるが、ヒソカの底知れなさが踏み込むことを躊躇させる。

 

「ボクを殺せる可能性があるならそれでもいいと思ってたんだけどね、もう味わっちゃったんだよ、ただただ純粋に殺り合って骨身を削り合う快感を♥」

 

 クロロの考えるヒソカの弱点は戦いを楽しむがゆえの遊びとムラッ気、相手の最大値をあえて出させて潰しにかかるところに付け入る隙があると見ていた。

 

 逆に言えば、それしか弱点がない強者ということだった。

 

「はっきり言ってもうそんなにそそられてないんだけどさ、結構長いことワクワクさせてくれたしお礼としてボクの手で狩ってあげようかなって♦」

 

 クロロは必死に思考を巡らせる。

 

 数多ある手札を様々に組み合わせて幾通りもシミュレーションを行うが、今の突発的状況では取れる手段が限られ過ぎるばかりかどれも有効とは言い難い。

 盗賊の極意の中にはクロロの趣味により、純粋な戦闘用能力より希少性の高い補助能力が多く入っている。

 

 油断も遊びもないヒソカに、対処可能なプランを組むことが出来なかった。

 

「ゴンの戦う姿も見たいし、さっさと終わらせよう♥じゃあねクロロ、今まで楽しかったよ♠」

 

 優秀すぎる故に理解していながらも、クロロは毒を塗った愛用のナイフを取り出す。

 

 巣から引きずり出され脚のもがれた蜘蛛が、知らぬ間に寝取られていたピエロに蹂躙される。

 

 

 

 

 

 ウボォーギンは本気で拳を振るっていた、何度も何度も命中させては殴り返され、当てた数はもちろんダメージレースでも圧倒的優位にあった。

 

 それが今や、僅かに押されつつある。

 

 ウボォーギンが殴り合いの途中で気付いたある違和感、ゴンが徐々に強く、硬く、速くなっていくという異常事態。

 今の内に仕留めなければ危ういと本能が警鐘を鳴らした故の、確殺出来るタイミングの超破壊拳(ビッグバンインパクト)はクロロに利用され不発に終わった。

 

(何だこのガキ、一体どこまで上がりやがる!?)

 

 身長は半分程で筋肉の厚みも圧倒している相手が、速さで撹乱してくるならまだしも純粋な殴り合いという力勝負で己を超えようとしている。

 その事実がウボォーギンから笑みと余裕を奪い、心の中に今まで感じたことのない感情を呼び起こしていた。

 

(ふざけんじゃねえぞ、俺は、俺様は最強のはずだ!!)

 

 何よりも強く、ただ強くあることのみを考え生きてきた人生が、間違いなく年下の子供に否定されようとしている。

 クロロやヒソカに搦め手で負けるならば理解出来るしまだ納得するが、鎖野郎のオマケと思っていたガキに真っ向勝負で負けるわけにはいかなかった。

 

(お前は、今ここで、確実にブッ殺す!!!)

 

 ウボォーギンは持てるオーラを総動員し、己の感情のままにその拳を振るい続ける。

 

 

 

(恥ずかしいなぁ、自分で皆に説明したくせにオレが一番実践できてなかったなんて)

 

 借筋地獄(ありったけのパワー)全盛期(ゴンさん)に近い身体能力を得たゴンは、その身体能力に改めて驚嘆しながら今までにない手応えに心の中で苦笑いを浮かべていた。

 反動の弱体化もあり借筋地獄を長時間使ったことがなかったのに加え、牢を使ったほうが強いと考えたこともあり完全に失念していた事実。

 

(念能力は心技体全てが揃ってこそ完成する。脳筋万歳(力こそパワー)が160%で伸び悩んでたのも当たり前だ、そもそも身体がそれ以上の倍率に耐えられなかったんだ)

 

 コントロール出来るレベルの身体能力ではまるで足りていなかったのだ、人生を賭して鍛え抜かれた至高の肉体を持って初めて最大限の効果を発揮出来る、それこそが脳筋万歳という能力。

 

(しかも今のありったけのパワーでもまだ足りない。最高だ、オレはまだまだ強くなれる!!)

 

 拳を振るうごとに上がり続ける強化倍率が、ついに200%の大台に乗り頭打ちとなる。

 倍率で見れば40%の上昇だが、強化される身体能力自体が激増しているため最終的には牢に迫るどころか凌駕する強さを得ていた。

 

(ぶっつけ本番過ぎて完全に振り回されてる。けど問題ない、この身体の一番良い使い方は目の前のコイツが教えてくれた!)

 

 今のゴンにレーシングカーのような複雑な操作は必要なく、求められるのはただ真っ直ぐ最高速なドラッグカーの潔さ。

 

 ただ殴りただ受ける、それのみを突き詰めた脳筋戦法。

 

(オレは、今ここで、もっと強くなる!!!)

 

 躍動する筋肉同士の戦いが、フィナーレに向けて加速する。

 

 

 

 

 

 痛みと治療でトランス状態と化していたレオリオだったが、不意に強く抱き締められた激痛で現実に引き戻された。

 

(やべっ、集中が途切れちまった!)

 

 慌てて目を開けたレオリオの眼前に映ったのは、こちらを見つめるクラピカの見開いた眼。

 

(あん? 緋の眼ってこんな色だったか? って違う! 痛いの痛いの飛んでいけ(ダメージコンバート)の反動は!?)

 

 未だに抱きしめてくるクラピカの腕を解いて身を起こせば、ドケチの手術室(ワンマンドクター)の中で漂っていたドス黒いオーラは完全に消失していた。

 

「…なんとか上手くいったか、クラピカも一応聞くが大丈夫だな?」

 

 ダメージを多く引き受けた関係でまだ完治には程遠いレオリオだったが、クラピカにいたっては戦闘行為が可能なレベルまで治療は終了していた。

 

「私は問題ない。名残惜しかったが、まだ戦闘が続いている以上ゆっくりはしていられないからな」

 

 普通に立ち上がるクラピカを見て自分も動こうとしたレオリオは、胸部に走る激痛に思わず膝を突いて蹲る。

 痛みもそうだが、何よりオーラが枯渇しかけている故に立ち上がることすら困難となっていた。

 

「大丈夫だレオリオ、治療されながら感知したがこちらの優勢だ。確実に予言は変わった」

 

 断言されたその言葉にレオリオの体から一気に力が抜け、張り詰めていた糸が切れるように瓦礫へ寄りかかる。

 

「そうか、オレは大丈夫、このまま寝ても死にやしねえ。すまんがクラピカはゴン達の援護に…」

 

 意識を失いかけたレオリオに、クラピカから触れるだけの口付けが落とされた。

 

「少しだけだがオーラを送った。勝利の瞬間には、お前にも立ち会ってもらいたいからな」

 

 クラピカは鼓舞する者の鎖(インスパイアチェーン)で治癒力を強化させながら、同時にオーラを譲渡することでレオリオの回復を促す。

 呆けた顔を浮かべるレオリオに満面の笑みを向けると、もう一度口付けをして戦場へ戻るべく背を向ける。

 

「救ってもらったこの命、クルタ族の供養とお前に全て捧げる。覚悟しておけ、私は物凄く面倒くさい女だぞ?」

 

「ハハッ、前も言っただろ、何でもしてやるってよ。勝ってこい、そしたら全部受け止めてやんよ」

 

 クラピカのオーラが輝きを増し、ビルの外へと駆け出していく。

 

 新たな力に目覚めたクルタの女帝が、再び戦場へと舞い降りる。

 

 


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