オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第50話 決着と響いた啼泣

 

 

 ボノレノフは己の敗北を認めた。

 

 誇り高きギュドンドンド族の戦士として獣に敗れるのは耐え難い苦痛だったが、むしろ身体能力で劣るばかりか発の相性が最悪のギンに対してここまで持ち堪えたことは驚嘆に値する。

 

(俺は負ける、だが旅団の一員としてコイツだけでも道連れに!)

 

 ボノレノフは再びギンの攻撃を避けつつ舞い始めるが、本来体の穴を通して鳴るはずの音は聞こえてこない。

 

 その無音の音色は部族において、最高戦士の葬送時にのみ奏でられる鎮魂曲。

 

 人は疎か動物すら聞こえず死者にしか認識出来ない、奏者の命を削る呪われし最終楽章。

 

 “終曲(フィナーレ)死神(デス)

 

 幼子の体に穴をあける業が、今は滅びし部族の怨念が、ボノレノフの命を削って具現化するはずだった。

 

 “疾風迅雷・心音殺“

 

「っ!?」

 

 決死の覚悟で高まるオーラに反応したキルアの、超速反応による心臓への一撃。

 微量の電気を使ったなんの変哲もない掌底は、ボノレノフに一時的な不整脈の症状を引き起こし一瞬の空白を生む。

 

「───!!」

 

 そこに追い打ちで至近距離からギンの咆哮により強化された高周波をもろにくらい、内臓を盛大に揺さぶられたボノレノフの意識が闇に落ちていく。

 

「この畜生風情がぁー!!」

 

 崩れ落ちるボノレノフを見て激高したノブナガがギンに襲いかかり、キルアの意識が逸れたのを確認したフランクリンが両手を地に着け構える。

 継ぎ接ぎだらけの口元が解け、喉の奥から迫り上がるようにして巨大な砲身が姿を表した。

 両手の指同様に己を改造して威力の向上したその一撃は、フランクリンが持つ最高火力のバズーカ砲。

 

「ちっ、容赦ねえなぁ。仲間ごと撃つ気かよ」

 

 射線にはキルアを挟んでギンとノブナガも含まれており、流石のギンでもくらったらただでは済まない威力だと高まり続けるオーラから推測出来た。

 

(お前等みたいな甘ちゃんは避けれねぇ、俺達の覚悟を舐めんじゃねえぞ!!)

 

 フランクリンはここまでの戦闘で、キルアの速さは驚異的でも純粋な身体能力や攻撃力という点ではまだまだ子供の域を出ないと見切っている。

 加えて仲間を犠牲にすることが出来ないと見込んだ、威力による不可避の一撃で片を付ける算段だった。

 

「確かに避けれないし防げないけどさ、丁度いいからもう一個新技披露といくぜ」

 

 ポケットから取り出したのは、デフォルメされたキルアが描かれたオーラと電気が封入された乾電池。

 それを口に咥えながら、更にもう一つ切り札を取り出す。

 

「ゴトーの奴には悪いことしたかな、使い捨てになるのは決まってるんだし」

 

 それは世界に100枚もないとされる、古代文明で使用されていた古びた金貨。

 歴史的価値からくる力はもちろん、コインを発の媒体に使うゴトーがオーラを込めた金貨は単体でも高い威力を生む。

 

「作るのは電磁の道、オレの趣味じゃねえけどゴンに教えてもらったから名前は決まってる」

 

 フランクリンとキルアのオーラが高まり、最高潮に達すると同時に最高火力を解き放つ。

 

 “俺の身体はバズーカ砲(オーラキャノン)

 

 “超電磁砲(レールガン)

 

 固定砲台と化したフランクリンから極大のオーラ弾が放たれ、キルアが親指で弾いた金貨が電磁加速により音速を突破する。

 

 互いの最高火力は一瞬の鬩ぎ合いの末、かなりの威力を削がれながらもキルアのレールガンがオーラ弾を貫く。

 

「ちっ、完敗だちくしょうが」

 

 レールガンによる衝撃波に飲まれたフランクリンは意識を手放し、一度に大量のオーラを消費したキルアは膝に手を着き乱れた呼吸を整える。

 

「勝つには勝った、けど素直に喜べねえな」

 

 レールガンはキルアに足りなかった攻撃力を補ってくれる代わりに、足を止めて隙だらけになるというキルア最大の強みである速さを捨てる手札でもある。

 今回は戦況やギンの存在のおかげで妨害なく撃てたが、本来はこんなに簡単には使えない切り札なのだ。

 

「ま、あとはこれからの課題ってことで。充電もギリギリだけど援護くらいは出来るだろ」

 

 同じく消耗しているせいで押されているギンの助けになるため、重い足を動かしてノブナガへの嫌がらせに向かう。

 

 フランクリンから勝利を収めたキルアの脳裏に、満面の笑みで手を叩く執事長の姿が浮かんでいた。

 

 

 

 陰獣達が横たわる戦場の片隅で、今まさに意識を手放そうとしている男がいる。

 己の発でマチを拘束し続けていた梟は、フランクリンに空けられた腹の傷からの出血がいよいよ限界を迎えようとしていた。

 

(くそ、あと少し、あと少しだ、け…)

 

 ついに梟は意識を失い、強く握りしめていた拳から小さな風呂敷包みが零れ落ちると、ひとりでに開かれた不思議で便利な大風呂敷(ファンファンクロス)からヒルとムカデの残骸に塗れたマチが立ち上がる。

 

「ビチグソ共が、全員縊り殺す!!」

 

「っしゃあー!! 俺の才能やばくねーか!?」

 

 そして病犬の麻痺毒で動けないはずのフィンクスが廻天(リッパー・サイクロトロン)の応用で体を廻る血液を強化、代謝を増幅させることで毒抜きに成功し土壇場で戦線復帰を果たす。

 

「あぁん!? お前等戻りやがったか! サボってた分さっさと働けよ!!」

 

 消耗しているとはいえギンとキルア相手に苦戦するノブナガの悲鳴に、ゴンに対する恐怖を克服したマチとまだまだ元気なフィンクスがすぐさま駆けつける。

 

「あとは俺等とヒソカを追った団長だけか、随分と好き勝手やられちまったな」

 

「けどまだ誰も死んでない、あんな死に損ない共さっさと殺すよ」

 

 戦闘力で言えば間違いなく幻影旅団でも上位、しかもバランス良く何でも出来る二人の参戦は致命的であった。

 毛色がもとに戻ってしまっているギンに神速(カンムル)を維持するのが限界のキルアでは、マチとフィンクス相手に時間稼ぎが出来るかすら怪しい状況である。

 

「あ~、きっちいけどやるっきゃねえか。ギン乗せてくんね? 各個撃破されるくらいなら最初っから合体といこうぜ」

 

「ぐまっ!」

 

 キルアはギンの背に跨がり、特製のヨーヨーを両手で構えて即席の騎兵となる。

 普段の鍛錬で練習したこともあるためぎこちなさこそないが、幻影旅団相手に通用するかと言われれば不安の残る練度でしかなかった。

 

「健気だねぇ、全員ブッ殺すのは決まってんだ。せいぜい楽しませろよな!」

 

 踏み出そうとした両者の出鼻を挫くように、中間地点に鎖が叩き付けられ一筋のラインが入る。

 

「そこが境界線だ、それ以上は危険だから踏み込むな」

 

 鎖と声を追って視線を向ければ、ビルの中に消えていたクラピカが再び戦場で舞い始めていた。

 

「バカな! ウボォーの一撃をくらって生きてるどころか戦線復帰だと!?」

 

 驚愕するノブナガをよそに、ギンはキルアを乗せたまま刻まれた線から更に距離を取る。

 マチ達は驚きながらも人数差がなくなっただけで未だに有利なのは変わらないと構え直し、射程外にいるクラピカの動きを注視した。

 

「…? あれ、クラピカってあんな目の色だったか? しかもなんかやたらなよなよしくね?」

 

 その舞は先程までと比べ、より滑らかに、より艶やかに、より女性的な柔らかさがあった。

 紅紫の眼が輝きを増しオーラが最高潮に達すると、強大な者の鎖(タイタンチェーン)が想いに応え展開される。

 

 それはマチ達のいる一帯を優に覆い尽くす巨大な手。

 

『…は?』

 

 紅紫の眼が発現しているクラピカの新たな発である相対時間(エンプレスタイム)は、ゴンの脳筋万歳(力こそパワー)を参考にして生まれた能力。

 

 その効果は、習得率を任意で振り分けること。

 

 絶対時間(エンペラータイム)ほどの万能性こそないものの爆発力は凄まじく、今のクラピカは変化と放出の習得率を強化系に足すことで180%のタイタンチェーンを振り回す。

 

「さよならだ過去(蜘蛛)、私は未来(仲間)へと進む」

 

 掲げた腕を振り下ろしたクラピカと連動し、鎖で出来た巨人の掌が上空から襲いかかる。

 

 斬れず砕けず避けられない超重量にマチ達三人は必死で防御態勢を取り耐えようと試みるが、意識の差とも言える殺す気のない一撃は受けた時点で詰みだった。

 

 盛大な地響きを立てて着弾した鎖の手は、そのままコンクリートごと三人まとめて握り込むとそのまま固まり拘束した。

 

「拘束完了、後はゴンの手助けをすれば」

 

 

「最初は、グー…」

 

 

 最終局面の戦場に、約束された勝利の拳が降臨する。

 

 

 

 

 空前絶後の殴り合いを続けるゴンとウボォーギンは互いの様子を観察し合い、互いに自分とは似て非なるものだと確信していた。

 

 ゴンの最終目標は最強(ゴンさん)を超えること、強くなることが目的で戦闘は強くなるための手段である。

 

 ウボォーギンは超破壊拳(ビッグバンインパクト)の威力を核ミサイル並みにする野望があるものの、結局は戦闘で楽しむことが目的であり強くなることはそのための手段でしかない。

 

 互いに強さを求める求道者で戦いを楽しむ戦闘狂でありながら、致命的な部分ですれ違いを見せる両者はお互いを相容れない存在だと認識した。

 

 何より同じ戦闘スタイルの相手に負けることは、これまでの自分を否定されるのに等しかった。

 

 強化系の最高峰が、力と、硬さと、速さで殴り合う。

 

 そこに余計な技術やフェイントはなく、考えるのはただ最大威力を相手に叩きつけることのみ。

 

 やがて互いの拳が血で染まりダメージを無視出来なくなった頃、二人の命運を分けるようにしてゴンが見るからに加速していく。

 

 精神性の違いか目的と手段の違いが原因か、極限状態に入ったゴンの成長がウボォーギンの成長を上回る。

 

 イルミのオーラによる後遺症も何のその、戦闘開始直後はやや劣勢だったのを覆し押し込んでいく。

 

 戦況的どころか物理的に後ろへ押されていくウボォーギンは、己のプライドと怒りを最後の力に変えてゴンを弾き飛ばし間合いを作った。

 

 その距離はためが作れる間合い、正真正銘全力の一撃を放つための一呼吸。

 

「ビッグバン、インパクトォ!!」

 

 残る全てを込めた右拳にオーラが集まり、ただの硬でありながら名前という言霊の込められた一撃は硬を上回る威力を生み出す。

 

(ここまでの殴り合いでコイツが硬を出来ないのはわかってる、しかもこの状況なら逃げもしねえ。さっきは外したがこれで終わりだ!!)

 

 いつも以上にオーラを全力で高めるウボォーギンは、目の前で背を向けるように身体を捻ったゴンを見て疑念がよぎる。

 

(まさか避けんのか? なら押し切れる、ここで引くようじゃ俺の勝…)

 

「最初は、グー…」

 

 身体を捻り腰を落とし、全身が軋むほどの力みで噴き出したオーラが一箇所に集まる。

 

(自分が操作系ってわかった時、ジャジャン拳は捨てたつもりだった。けどそれじゃ駄目なんだ、オレが目指す最強はゴンさんであって、ゴンさん以外になっても意味がないんだ!)

 

 最強になるだけなら操作系には操作系なりの選択肢があった、しかしそれを選ばないどころか応用性を投げ捨てたのは原作ゴンさんと同じ土俵に立つため。

 

「ジャン…」

 

 原作ゴンさんを超えることが最終目標、だがそればかりを考えるあまりに初心を完全に忘れてしまっていた。

 

「ケン…!」

 

 ファンの原点はただ一つ、憧れたゴンさんになりたかっただけなのだ。

 

「死ねやクソガキがぁー!!!」

 

 ゴンが硬を使ってきたのは想定外だったウボォーギンだが、ここで引いたら精神的に負けるとわかっている以上攻めるしかない。

 

 ウボォーギン決死のビッグバンインパクトは今までの威力を優に超え、強化系の到達点とも言える一撃となり、

 

「グーッ!!!」

 

 技の宣言、決まった動作、多くの制約により強化されたゴンの拳によって完膚なきまでに砕かれた。

 

(ふざけ…)

 

 そしてゴンのジャジャン拳はそのままウボォーギンの腹部へと命中し、その巨体は数メートル吹き飛んだ後大の字で倒れる。

 

 硬をした直後の被弾のため即死かと思いきや、ビッグバンインパクトがジャジャン拳のオーラを殆ど吹き飛ばしていたためなんとか一命を取り留める。

 

「オレの、勝ちだッ!!」

 

 ゴンの勝利宣言を聞きながら、拳とともに大事なものが砕けたウボォーギンの意識は闇へと堕ちた。

 

 

 

 ゴンの勝利をその目にしたクラピカは呆気にとられたように周囲を見渡し、自分たち以外誰も立ち上がらないのを確認して気が緩みかける。

 

(いや、まだクロロが残っている。ヒソカが負けた時のことを考えてすぐに回復を)

 

「あぁっ♥あぁ〜ゴン!! なんて、なんて素敵な一撃♥どこまで、どこまでボクを魅了するんだい!?」

 

 ドチャリとクラピカの横に塊が投げ込まれ、ギンとキルアが駆け寄るよりも早くヒソカがゴンに迫る。

 

「硬が出来るようになったんだね♥あれは隙だらけなのが制約になってるのかい? 見るからにオーラの強化率も増えてるし進化するにもほどがあるよ♥あぁ、この身で君の成長を今すぐ受け止めたい♥」

 

「どけや変態!! こちとら疲れてんだからさっさと休みたいんだよ!」

 

「ぐげっ!!」

 

 貯筋解約(筋肉こそパワー)が解けて座り込んだゴンの周りを、触れずに至近距離で回っていたヒソカがギンとキルアによって引き剥がされる。

 

「あぁ、キルアも随分と美味しそうになったじゃないか♥クラピカにギンも見違えたし、もう、たまらないじゃないか♥」

 

 自分の身体を掻き抱いて天を仰ぎ、そのまま動かなくなったヒソカから視線をずらしたクラピカは横に転がる塊へと目を向ける。

 

 そこには意識のないパクノダ達三人と、ボロボロで気絶するクロロが伸縮自在の愛(バンジーガム)で拘束されていた。

 

 クラピカはもう一度周囲を見渡し、この場にいないシャルナークとフェイタン含めてヒソカを除く幻影旅団12人全員を仕留めたことを3度は確認する。

 

「イテテテッ、お、やっぱり終わったか。ゴンのすんげえオーラを感じたから出て来たが正解だったな」

 

 クラピカの背後のビルからレオリオも這い出てきて、クラピカの横に並ぶと戯れ合うゴン達を笑いながら眺める。

 

「そんでお前はこんなとこで何してんだ、あいつらに混ざらなくていいのかよ?」

 

「…わからないんだ、待ち望んでいた瞬間なのに、頭が混乱して体が動かない」

 

 これは現実なのかと疑心暗鬼すら感じるクラピカの頭に、温かく優しい大きな手が乗せられる。

 

 やや乱雑に撫でながら、覗き込むようにして目を合わせたレオリオが満面の笑みで告げる。

 

「全部吐き出せ、そんで笑うんだよ! これから、ここからお前の本当の人生が始まるんだ!!」

 

 殴られたような衝撃を受けたクラピカの眼から大粒の涙が零れ落ち、決壊したダムのようにとめどなく流れ続ける。

 

「ひっ、ひぐ、う、うぁ…」

 

 やがて喉の奥からしゃくり上げるように声が漏れ、最終的に幼子のように大声で泣き始める。

 

「あ〜〜、うわぁ~〜!!」

 

それはクルタ族の虐殺から今まで、ただひたすらに耐えて孤独に戦い続けたクラピカの魂の叫び。

 

「あぁ〜〜〜!!!」

 

 悲しみ、達成感、安堵、多すぎる感情の爆発で目の色が緋色と紅紫色を行ったり来たりするクラピカはレオリオの横で立ったまま泣き続ける。

 

 何事かと慌てて寄って来るゴン達の無事な姿を見て、より激しく泣き始める。

 

 優しく頭を撫でるレオリオの服を摘みながら、泣き続けるクラピカはこれだけでもと必死で伝える。

 

「みっ、皆っ、ありっ、ありがどゔ!!」

 

 それだけ言って再び泣き喚くクラピカを見たゴン達は、顔を見合わせると笑って一斉にクラピカへと抱き着く。

 

 中心で泣くクラピカと囲んで笑うゴン達の姿は未来への希望に満ち溢れており、ハブられるヒソカはそれを恍惚の表情で見詰める。

 

 ヨークシンシティで行われた蜘蛛と筋肉の決戦は、多くの犠牲を生みながらも蜘蛛の完全敗北で幕を閉じた。

 

 

 


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