皆さんこんにちは、ビスケがフライング気味に登場して驚いたゴン・フリークスです。
『はい、その方は私の師匠ビスケット・クルーガーで間違いありませんよ』
「まじかよ! こんなちんちくりんがか!?」
『見た目に騙されてはいけませんよキルアくん、特に念能力者なら尚更です。そもそも以前教えたではありませんか、私の師匠はゴンくんと似たような能力を持つと』
「そういやゴリラって言ってたな、それにウイングの師匠ってことはバ「ホイサ!」Baっふん!?」
「…ウイングは覚悟しとくわさ」
『ひぇっ』
ゴン達は突然現れたビスケに対し実力は理解しながらも一応ウイングに連絡を取って確認し、結果としてキルアとウイングが犠牲となってその身元は無事保証された。
しばらく電話の向こうのウイングにネチネチと説教をした後、ゴン達に向き直ったビスケは腰に手をあて胸を反らし改めて自己紹介する。
「確認も取れたことだし、改めてはじめまして。ウイングの師匠でもある心源流師範、
「ちっ、歳考えろよクソバ「ちょいさ!」っなんの!」
見た目にマッチしたぶりっ子ポーズの自己紹介を見て悪態をつくキルアは、二度目の折檻はなんとか反応して躱す。
「あら、本当に聞いてた以上に磨かれてるじゃない。楽しみが減ったようなさらなる輝きが見れそうで楽しみなような、中々に複雑な気分だわさ」
自分の攻撃を避けたキルアとクラピカにヒソカの治療をするレオリオを見て何度も頷いたビスケは、最後に弱体化中のゴンを見据えるとなんとも言えない顔で唸る。
「あんたのそれは制約でそうなってるのよね? それでもその肉体とオーラの質、ウイングが匙を投げるわけだわさ」
「すまないビスケさん、私達、特にキルアは少し込み入った事情がある。鍛えてくれるということだがその条件を教えてもらえないだろうか」
ゴンの体を触りながらチェックするビスケに焦れたクラピカが指導の条件を問えば、思い出したとばかりに手を叩いて提示する。
「条件はあたしが今求めてる宝石を手に入れるのを手伝うこと。下調べした感じ単純な強さよりも頭数が必要っぽいんだわさ」
そして告げられた宝石の在処は、先程まで話題に上がっていたグリードアイランド。
「大富豪のバッテラが選考会を開くって言うからあんた等も参加しなさい、ゲームクリアを目指しながら同時進行で鍛えてあげるわさ」
あまりの都合の良さに押し黙るゴン達の姿に首を傾げたビスケに対し、クラピカが苦笑いしながら条件を受けると口にする。
若干ビスケの実力に疑心暗鬼なキルアもとりあえずは了承し、言質を取ったビスケは夜も遅いということで美容の敵だわさと呟きながら帰っていった。
ゴン達との顔合わせを済ませたビスケは、自己紹介時のおちゃらけが嘘のように真面目な顔で考察を繰り返していた。
甘ちゃんながら武に関しては決して嘘も妥協もしないウイングからの最大限の称賛に、残りの人生を楽しみながらも過去のギラツキがなくなっていたネテロの再起。
共にゴンとその仲間達による影響だと知ったからこその、職権乱用してでも決行した強引な接触は間違いなく正解だったと確信していた。
(対峙して僅かに触れただけでわかる、全員が歴史に名を残すレベルの突出した才能。それが同じ時代、同じ場所に集結してるなんて異常事態だわさ)
実に楽しそうに話していたネテロとウイングに嫉妬し、幻影旅団との戦闘映像という最新情報まで仕入れたビスケは指導者として一瞬で落ちてしまった。
決戦の前半は4種類の鎖を操り、戦況のコントロールすら行っていたクラピカ。
最後に見せた弩級の爆発力は圧巻で、接近戦の手札さえ出来ればいよいよ隙がなくなる。
(一つの悲願に突き進んで成し遂げた想いは純真無垢。しかしその多様な能力は見る角度によって全く違う色合いを見せる。周りの光に応えるように輝くその姿はまさにクリスタル)
決戦の間陰獣を癒し続け、拙いながら妨害もしていたレオリオ。
映像越しでも間違いなく致命傷だとわかる傷を負ったクラピカを、生かすばかりか戦線復帰させた常軌を逸した治癒能力。
(そのおおらかさは素朴ながら人を惹きつけてやまない。医療という太古の昔から重宝される能力は今尚輝き続ける。長寿と繁栄を司るその存在はまさしく
念能力によって戦線離脱させられながら、己の力で支配を解き覚醒したキルア。
オーラを電気に変化させるという本来十代前半で修得出来るわけがない発を使いこなし、多様な技を生み出す驚異の戦闘センス。
(冷たく輝きながらも決して非情ではない。希少価値とそれに裏打ちされた才能は破格の一言。不安定さを克服したその鋭い青色はまさしくサファイア)
人間の集団の中に身を置き、念能力を得ながらも野生を失わないギン。
もっと賢くなり魔獣の仲間入りすら可能と思われながら、ただの獣としてゴンと共にあるその姿は自然そのもの。
(馴れ合いながらも決して野生を失わない。自然本来の在り方を貫くその姿は人の手が入らないからこそ美しい。天然由来の無駄をすべて削り取られた姿はまさしく河口の自然石)
そしてビスケをして真っ向の殴り合いでは不覚を取りかねないウボォーギンと正面から殴り合い、イルミからの妨害すら乗り越え打ち勝ったゴン。
技術など最小限、意思と肉体の強さで勝利を掴み取ったその姿はとても十代前半とは思えない。
(長い間弛まぬ努力で鍛え続ける意思の硬さ。未だ底の見えぬポテンシャルは既に至高の領域にある肉体をどこまで高めるというのか。見る者を等しく魅了する王道の輝きはまさしく
宝石ハンターとして世界の誰よりも多くの宝石を見て触れてきたと自負するビスケですら、過去に類を見ないどころかこれから先出会えないと確信するレベルの原石達。
その原石を己の手で磨き輝かせるチャンスを手にした実感を噛み締めると、頬が紅潮し止めることのできない震えが全身に広がる。
(本当嫌になっちゃう、ミイラ取りがミイラになる典型じゃないの、しかもそのことになんの後悔もないんじゃ救いようがないわさ)
滞在する予定のホテルに向かうビスケは一人、人通りもない夜のヨークシンシティを踊るように歩く。
満面の笑みで両手を広げ、都会特有の星が見えない夜空を見上げながら回り続ける。
(あぁ、なんて楽しみなの、あの子達の輝きは、強さはどこまで行けるのかしら! そしてあたし自身、あの子達に触れてどんな変化をするのかしら!?)
ビスケは指導者としての自分と、武人としての自分が等しく昂っていくのを自覚していた。
師は弟子を育て弟子は師を育てる、使い古された言葉がこれ以上ないほど真新しく思える。
(世界は、こんなにも輝いてるわさ!!)
暗い夜空を見上げながらもそこに別の輝きを見るビスケの姿は、可憐な容姿も相まって妖精のような愛らしさと妖しさを同時に見せる。
観客のいない一人っきりの舞を、姿の見えない星だけが見下ろしていた。
(それにしてもあのヤバそうなイケメン、あいつはもう完成されててクソつまんなそうだわさ。目の保養にはなるけど出来れば一緒にいたくないわね)
レオリオから治療中のピエロが、盛大にくしゃみをしたとかしないとか。
バッテラ主催のグリードアイランドプレイヤー選考会当日、ゴン一行は会場の席に座りながら思いの外多い参加者達を観察していた。
優に100人は超えている参加者達は当然ながら全員念能力者であり、ピンからキリとはいえこの数は正に圧巻と言えた。
「それでは早速審査に入る! シャッターとカーテンで仕切ったステージ上で一人ずつ“練”を見せてもらう。合格者が32人出た時点で選考会は終了、早い者勝ちだ。準備の出来た者から入ってこい」
審査員ツェズゲラの開始宣言で、参加者達は3パターンの者達に別れる。
真っ先に動き審査を受ける者、並ぶ列の周囲をうろつく者、そして席に座ったまま微動だにしない者達だ。
「ばっかだねぇ〜、あんな慌てて動く必要なんてないのにさ」
「そうなのか? 先着順ならさっさと動いたほうがいいと思うが」
「あれはフェイクだよレオリオ、わざわざ集めておいて全員見ないのはナンセンスだ。それに合格者もそれほど多くは出まい」
「そういうことだわさ。レオリオはもう少し相手を疑うことを覚えなきゃね」
小さいゴンとギンを膝に乗せているビスケの助言にやや面白くなさそうなレオリオと、そんなレオリオを見てしょうがない奴だと笑うクラピカ。
キルアは幻影旅団が片付いてから明らかに距離の縮まった二人に未だ慣れず、そもそも男女の恋愛観自体学べていないため非常に居心地を悪くしている。
ビスケはビスケで若い二人の青臭い恋愛を老婆心で面白がり、ゴンは性に開放的な孤島育ちもあって微笑ましく見守っていた。
そしてキルアは桃色になりかけた空気を変えるように、離れた位置に座るヒソカをさり気なく見てから口を開く。
「あ〜、それと何回も確認するけどよ、あいつは本当にヒソカなんだよな? クソ兄貴が化けてるとかじゃないよな」
「気持ちはわかるが昨日何度も確認しただろ、あいつは正真正銘本物だったし、言った通りの理由で別行動するんだろ」
キルアが入れ替わりを疑うのも当然で、昨夜グリードアイランド行きが決まった時にヒソカから出された提案。
それは選考会含めて、グリードアイランドではゴン達と別行動を取るという宣言。
ヒソカは片腕をなくした代わりにそれ以上の念の腕を手に入れたが、本人曰くパワーは上がっても器用さや元々の腕との違和感から十全に使いこなせているわけではないとのこと。
ゴン達の指導者はビスケという最上の人材が来たということで、ヒソカは念の腕の慣らしと並行してゴン達と別アプローチからゲームクリアを目指すことにしたのだ。
「あたしも心配ないと思うわよ。あのタイプは意味のない嘘も平気でつく狂人だけど、絶対に越えないラインってのを持ってるもんだわさ。ほとんど知らないけど多分ゴンには嘘をつかないんじゃない?」
「私も同じ意見だな、二度
「オレもそうだけど万全じゃない姿は見せたくないんじゃないかな? 常在戦場は当たり前の心構えだけど、それでもお互いマックスの時に戦いたい相手だし」
「ぐげっ」
「んー、まあクソ兄貴はあれで案外回りくどいのは嫌いな質だしな、覚悟して来いってことは自分からは来ないか」
自分以外のメンバーからのお墨付きもあり、アルカとナニカのことでゾルディックに対して神経質になっているキルアもなんとか納得する。
そしてステージに並ぶ列がなくなったのを確認したキルアは席から立ち上がると、この期に及んで様子をうかがう有象無象を嘲笑って歩きだす。
「まっ、こんな茶番はさっさと終わらせようぜ。一人で待つのは暇だからお前等もすぐ来いよ」
あまりに堂々とした歩みに他の参加者が思わず道を開ける中を進み、キルアはステージの中へと消えていく。
そんなキルアを見たゴン達も一斉に立ち上がり歩きだすと、ただでさえ気圧されていた者達が更に数歩後退る。
そこそこ長くなった選考会も、終わりの時が近づいていた。
審査員として一人一人確認していたツェズゲラは、レオリオとその仲間達を過小評価していたと認め考えを改めていた。
トップバッターとしてやってきたキルアはオーラを電気に変えるという信じ難い発を披露し、言葉の節々から全くと言っていいほど手札は見せていないと確信した。
次にやってきたレオリオは衝撃を物に込めるという放出系としてはあまり珍しくない発を見せたが、その後見せられた希少価値の高い治療系能力はチームに誘いたくなるほど魅力的だった。
3番目のクラピカに至っては複数の能力を持つ鎖を具現化しており、幻影旅団を討伐した以上全ての鎖を問題なく運用していると推測出来た。
4番目に入ってきたビスケと名乗る少女も、見ただけでわかる武人としての実力の高さは自分に匹敵する強さだと感じさせるものだった。
そして最後にやってきた小さな参加者ゴン。
この邂逅が後にツェズゲラの、ハンターとしての在り方に多大な影響を与えることになる。
幻影旅団を討伐したメンバーとは到底思えない小さなゴンがステージに現れた時、ツェズゲラの第一印象は良いとは到底言えないものだった。
少年どころか幼児と言われてもおかしくないその見た目と、同じく明らかに幼生とわかる小動物を連れていてはしょうがない誤解である。
「練を見せる前にツェズゲラさんに聞きたいというかお願いしたいことが有るんだけどいいかな?」
「ふっ、まぁ聞くだけは聞いてあげよう。それに応えるかはまた別の話だがな」
ゴンが質問したのはギンと一緒にグリードアイランドに入れるのかどうか、そしてもしギンだけ弾かれたら今度はギン単体でグリードアイランドに入らせてくれるかの二点。
その質問に少しの間考えたツェズゲラは考えをまとめると、自分の推測と断ってから答える。
「おそらく共にゲーム内に入れると思う、でなければ特定の存在を操作する能力者が圧倒的に不利だからな。もちろん人間が二人同時には入れないが、獣ならばなんとかなるだろう」
加えてギンが弾かれた場合は、単体でグリードアイランドに挑戦出来るだけの実力を見せれば許可すると付け加える。
「ありがとう。じゃあ先にギンが練を見せるね」
「ぐまっ!」
ゴンの頭から飛び降りたギンが圧縮を解くと、一瞬でツェズゲラを超える体格の獣が出現する。
ツェズゲラはあまりのことに絶句すると同時に、間違いなくギンはゴンと違うオーラを纏う念獣だと理解した。
「これは驚きだ、人に操作されるでもなく自力で念に目覚める獣がいたとは。しかもこのオーラ、悔しいが私ですら負けかねないだろう」
ギンに対して合格を言い渡すと、再び小さくなってゴンの頭の上へと飛び乗る。
そしていよいよゴンが練を見せる順番となり、この小さな挑戦者は何を見せてくれるのかと期待が膨らむ。
(ここまで全員が期待を上回る実力者、この重厚な纏をする少年は何を見せてくれるのか)
目を瞑り深く深呼吸するゴンのオーラがやや少なくなり、オーラを一気に高める練の前段階に入る。
(一体どんな発を見せてくれる? 君の鍛錬の集大成を見せてみろ!)
ゴンが目を見開き身構えると、精孔から信じられない量のオーラが一気に噴出する。
(どんな能力だ、まさかそのまま練を見せるわけでもあるま…)
高まるオーラは上限がないかのように高まり続け、量も質もツェズゲラの理解の範疇から逸脱する。
(……なんだこれは? これが、これが人の出せるオーラなのか!?)
過去に触れる機会のあった死者の念、生者には出せないそのオーラの質に戦慄したが、それを遥かに上回る衝撃がツェズゲラを襲った。
そのオーラはどこまでも深く、どこまでも重く、どこまでも強く、そしてどこまでも澄み切った命の輝きだった。
「…もう十分だ、ゴン・フリークス、君の合格を祝福しよう。少し気が早いが、グリードアイランドへようこそ」
満面の笑みで礼を言い合格者達の待機するフロアへ向かったゴンを見送り、ツェズゲラは次の参加者が来るまでの短い時間ただ天井を見上げていた。
(あの年であのオーラを出す人間がいるのだな、一体どれだけ地獄の鍛錬を積めばあの領域に辿り着けるのか。…ふふっ、鍛錬か、それこそ練といった念の基礎などここ数年した記憶がないな)
ツェズゲラは
そして己の半分も生きていない子供が自分の遙か先を走り、そのことに少しも満足していないのを知ってしまった。
(鍛え直しだ、グリードアイランド内でも基礎修行は出来る。人があそこまで行けるというのなら、私もまだまだ先に行けるはずだ!)
ここにまた一人筋肉に感化されたハンターが決意新たに気炎を上げ、そして近い将来万全の状態になった筋肉の人智を超えた圧倒的パワーを思い知ることになる。
心を奮い立たせたのが筋肉なら、心を折るのもまた筋肉なのだ。