オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第57話 進む攻略と新たな筋肉

 皆さんこんにちは、デスマーチのせいか一瞬で佳境に入った気がするグリードアイランドに戸惑いを隠せないゴン・フリークスです。このペースならバッテラさんの恋人は間に合うかな?

 

 

 

 

 

 アベンガネの訪問後、バインダーを出してプレイヤー状況を監視していたゴン達は多くのプレイヤーが同時に死んだかゲーム外に出たことを確認した。

 状況的に爆弾魔(ボマー)による虐殺が行われたのは間違いなく、ホテルを出てカードショップまで足を運んでいたゴン達はすぐさま大量のカードパックを購入する。

 

「やっぱりな、全然手に入らなかったスペルカードがバンバン出るぜ!」

 

「不謹慎な気もするが俺達は誰もボマーと会ってないからな、出来ることがない以上少しでもゲーム攻略に力を入れるしかない」

 

 キルアとゴレイヌが予測し実行したこと、それはハメ組の崩壊とともにゲーム内に還元されるスペルカードの確保。

 人海戦術で集められ独占されていたスペルカードは、プレイヤーの死でもって再びゲーム内にばら撒かれる。

 もちろん優先順位の高いカードはボマーに渡っただろうが、一人が持てるカードに限りがある以上大半はそのままハメ組と共にあると予測していた。

 

「じゃあオレはハンター試験に行ってくるからさ、後のことは頼んだぜゴレイヌ。お前とオレ以外にゲーム攻略頼りになるやついないからよ」

 

「やるだけやってみるさ、こっちは気にせずしっかり合格してこい」

 

「愚問だね、最速合格記録作ってきてやんよ」

 

 そしてキルアはゴン達からの激励を受けてグリードアイランドから脱出し、残ったメンバーは再びゲーム攻略に向けて動き出した。

 

 

 

 キルアが不在の中グリードアイランド内で新年を迎えたゴン達は、高難度指定カードの情報を集めながらボマーの動向を探っていた。

 

 初めて入手者の出た最高難度カード“大天使の息吹”。

 

 どんなケガや病気もたちどころに完治させるというふざけた効果、入手するには全40種あるスペルカード全てと交換という難度の高さ。

 このカードを手に入れたことで、ボマーたるゲンスルー組がゲームクリアに最も近付いたのは間違いない。

 指定カードの所持枚数も僅差ながらトップであり、これからどう動くかは他のプレイヤーにとって死活問題でもある。

 

「しかし思ってたより動かないんだな、元々プレイヤーキラーなんてしてる連中だからバレたのを機にもっと派手に動くと思ってたぜ」

 

「どうかな? ゲンスルー組が所持していないカードは私達の持つ“奇運アレキサンドライト”を含め、ほとんどが既に独占されているカードだ。そこらのプレイヤーをどうこうしたところで入手できるものでもない以上、今はツェズゲラ組等に探りを入れているのではないか?」

 

「俺もクラピカの意見に同感だ。リスク次第では相手の指定カードを奪うコンボもあるが、それにしても情報収集しないことには始まらないからな」

 

 ゲンスルー組はハメ組を壊滅させた後派手に動いたのが嘘のように沈黙しており、グリードアイランド内は異様な緊張感に包まれている。

 

「まああっちが動かないならこっちはこっちで今まで通りゲーム攻略するわさ。何年も潜伏できる忍耐は認めるけど、最後に力技を使ったってことは搦手の心配はしなくていいしね」

 

「そうだね、アベンガネさんの情報から向こうは3人ってわかってるし、やっぱり最後の障害はツェズゲラさんになりそう」

 

 ゴン達はゲンスルーと会っていないため大量入手したスペルカードを使って襲撃することもできず、地道に未入手カードの情報集めに奔走する。

 しかしいかにゴレイヌといえども、高難度カードの情報を集めるのは文字通り困難を極めた。

 グリードアイランドがゲームである以上、お使い系のクエストやトリガーイベントなど人によっては攻略本を見なければ一生気付けないギミックもある。

 それらを短時間で見つけるには時間がないのはもちろんだが、未だグリードアイランドのシステムを知り尽くしたと言えないゴン達には荷が重すぎた。

 

 結局ハンター試験に向かったキルアが宣言通り最速で合格して戻ってくるまでのおよそ二週間、新たに指定カードを得られなかったゴン達は散々キルアに煽られるも特に進展がないまま時が過ぎる。

 

 カジノの街でキルアとレオリオが散財してたしなめられたり、街全体がラブコメの恋愛都市アイアイでレオリオがクラピカに折檻されたりと、ある意味純粋にゲームそのものを楽しんでいく。

 

 この頃になるとギンも島の念獣を粗方しばき終わってゴン達と合流しており、一向に動かない状況と進まない攻略にビスケの指導欲が再び鎌首をもたげようとしていた。

 

 そしてゴン達が性別を変える効果を持つホルモンクッキーや、様々な効果のある魔女の薬シリーズで遊んでいたところに他のプレイヤーグループからある提案が持ちかけられる。

 

 それは複数の中堅グループ合同による、ゲンスルー組及びツェズゲラ組打倒のための共同戦線参加の打診だった。

 

 

 

「今回集まってくれたことに感謝する。早速本題に入るが、今この場にいるメンバーで協力関係を結びたい。ゲンスルー組とツェズゲラ組が揃って95種集めたからな、このまま普通にやっていては勝ち目がない」

 

 この会合の発起人であるカヅスールは、そう言って集まったメンバーを見渡す。

 

 カヅスール組3人、アスタ組3人、ハンゼ組3人、そしてゴン達6人の合計15人ものプレイヤーが一堂に会し、これからの対策について話し合いを始めた。

 

「てかこの面子ならヤビビ組あたりも呼べばよかったんじゃない? むしろそっちのゴレイヌ組は戦力バランス的に呼ばないほうが良かった気がするけどね」

 

「ヤビビ組は降りるそうだ。ここにきてツェズゲラ組も本格的に動き出したことで諦めが付いたと言っていたよ。そしてゴレイヌ組を呼んだ理由だが、まさに戦力強化に最も適していたからだ。ゲームシステムについてはまだまだ未熟な点で我々も優位に立てるしな」

 

 集まったグループの中では上位に入るカヅスールとアスタのやり取りを聞いていたゴン達は、ゴレイヌ組と認識されていることに本人が困っていたが他のメンバーは別に構わないと素知らぬ顔だった。

 そして始まる共同戦線を名目にした情報交換では、ゴン達から躊躇なく提供されたゲンスルーの能力と独占している“奇運アレキサンドライト“の情報によりカヅスールも予想外なほど活発な情報交換が行われた。

 ゴン達も知らなかったゲームの仕様やカードの入手方法を数多く仕入れることができ、手に入れた情報通りなら90種の大台に乗ることすら夢ではなくなった。

 

「自分で開催しておきながらここまで有意義な情報交換が行えるとは思ってもみなかったよ、ここからなにか他にやりたいことのある者はいるか?」

 

「それなら誰も独占していないカードをこのメンバーで独占しておきたい。調べてみたらソウフラビにまだ誰も入手出来てないカードがあるから行ってみない?」

 

 アスタ組のメンバーからの提案は、最高難度カードの一つ“一坪の海岸線”を独占したいというもの。

 ハンゼ組がそのカードを入手しようとして全く手がかりすらなかったと発言するが、せっかくだし挑戦しようとカヅスールがスペルカードを取り出す。

 複数人を訪れたことのある街や会ったことのある人物のもとに運ぶ“同行(アカンパニー)”、ゴン達総勢15名のプレイヤーがソウフラビへ向けて飛び立った。

 

 

 

 海辺の街ソウフラビ、その名の通り海辺に存在するその街は魔法都市マサドラに比べて明らかに田舎の漁村といった風情があった。

 到着したゴン達はすぐさま手分けして街の中を調査し、“一坪の海岸線”の情報を得ようと動き始める。

 しかし前情報が外れることもなく、特に進展のなかったゴン達含めアスタ組以外のメンバーは早々に担当エリアを調査し終わって集合する。

 

「ほら見ろ俺等が言ったとおりじゃねえか、一ヶ月以上探し回って無理だったんだから今更見つかるわけねえよ」

 

 ハンゼ組は誰よりも早く調査を終えてからというもの、リーダーのハンゼは延々と愚痴を垂れ流し他のメンバーからなだめられている状況だった。

 ゴン達もこれは無駄足だったかと半ば諦めムードとなっていたところ、アスタ組の一人が息を切らせながら大慌てで戻ってくる。

 

「出たぞ! イベントが発生した! きっと“一坪の海岸線”のイベントだ!!」

 

 グリードアイランド発売から十年以上、ついに最後のメインイベントが発生した。

 

 

 

 “レイザーと14人の悪魔”、調査中のアスタ組がある女性に話しかけたところ教えてもらえた海賊達の情報。

 レイザーを頭とした悪漢の集まりであり、ある宝が奴等のせいで輝きを失っていると語られる。

 そして海賊達を撃退できたならば、その宝を譲ると締めくくられた。

 

「あのNPCのことは覚えてる、神に誓ってこんな情報はくれなかったんだが」

 

 首を傾げるハンゼの疑問に答えたのは、アスタ組のメンバーの女性。

 レイザーと14人の悪魔で15人、今いるメンバーの合計も15人、この人数がイベント発生のトリガーだったのではないかと推測した。

 

「なるほど、ゲームシステムを考えると15人以上が“同行(アカンパニー)”でソウフラビを訪れるってところか。ハメ組以外のグループは、どんなに多くても10人を超えないところを考えれば未発見だったのも頷けるな」

 

 まさかの事態に盛り上がるメンバーはすぐさま女性から海賊の根城を教えてもらい、このままカードをゲットだと言わんばかりに意気揚々と歩き出す。

 そんなカヅスール達の一歩後ろを歩きながら、ゴレイヌがゴン達にだけ聞こえる声で呟く。

 

「えげつねェな……」

 

 疑問符を浮かべるゴン達の中で唯一、キルアのみその言葉の真意に気付いて説明する。

 

「15人以上いないと発生しないイベント、けど“一坪の海岸線”のカード化限度枚数は3枚だろ? 仮に今のメンバーでゲット出来たら絶対に揉めるぜ」

 

 その説明で全員がその危険性に気付き、そもそもゴン達以外のグループがカードをゲットしたらゲンスルー組の格好の餌食である。

 

「最悪恨まれても私達が独占するべきだな。問題は勝負内容がおそらくチーム戦だということ、このメンバーで勝てると思うか?」

 

「無理なんじゃない? あの程度の使い手が最高難度のカードをゲット出来るなら、とっくの昔にゲームクリアしてるわさ。今回はあくまで情報収集に徹するべきね」

 

 最高戦力であるゴン達が早々にやる気をなくしているにも関わらず、カヅスール達はどっちが海賊かわからない横柄さでアジトに突入する。

 そこは場末の酒場のようにカウンターとテーブルがあり、揃いのシャツとズボン、そして先にポンポンの付いた帽子を被った男達が思い思いに酒を呷っていた。

 

「なんだぁテメェ等、俺達になんか用でもあんのかい?」

 

 かなりの巨漢や筋肉質の男も多い中、代表して出てきたのは決して大柄ではない細身の男だった。

 他の男達も細身の男に続いて立ち上がると、揃ってゴン達を威嚇するように周囲を囲う。

 

「お前達が海賊だな? 今すぐこの街から出ていってもらいたい。抵抗するなら力尽くでだ」

 

 やや顔を引きつらせたカヅスールが用件を告げると、海賊達は一斉に笑い出し酒を呷りながら小馬鹿にしたように口を開く。

 

「ハイわかりましたなんて言うと思ってんのか? 力尽く非常に結構、やれるもんならやってみな!」

 

 細身の男が目配せすると、海賊の中でも特に巨漢の男が進み出て床にアルコール度数の高い酒を円を描くように撒く。

 撒いた酒に火を点ければ火のリングが出来上がり、その中からゴン達に向けて挑発的な言葉を投げ付ける。

 

「俺様をこのリングから出せたらテメェ等の挑戦を受けてやるよ。それすら出来ない雑魚なら今すぐママのところに帰りな!」

 

「舐めやがって、吠え面かかせてやるよ!」

 

 ゲラゲラと笑う男にハンゼが青筋を浮かべて突貫し、たった一発の張り手で壁際まで吹き飛ばされて動かなくなる。

 突然の事に誰も動けない中ゴン達は普通に行動を開始、ハンゼの容態を診たレオリオはただの脳震盪だと軽く治療して気付けを行い、ゴレイヌがゴン達以外認識できない速度で黒い賢人(ブラックゴレイヌ)を発動し巨漢の男をリングの外に転移させる。

 

「…はぁ!? いつの間に!?」

 

「これで文句ないな? どうすれば街を出ていってくれるか教えてもらおうか」

 

 ゴン達はブラックゴレイヌを視認できた海賊がいないことを確認し、彼等の大凡の実力を把握すると勝負内容について問いただす。

 

「ふざけんじゃねぇぞ! 何しやがったか知らねぇがこんなもん認められっかよ!!」

 

 激昂した男がゴレイヌに掴みかかろうとするも、細身の男に飛び蹴りをくらって吹き飛びカウンターを粉砕する。

 

「お前が言ったくせに切れてんじゃねえよ。いいぜ、俺等のボスに会わせてやる」

 

 何がなんだかわからないカヅスール達を置き去りに、ゴン達は海賊についていって建物の奥へと進んでいく。

 ゴン達と慌てて追い付いたカヅスール達がたどり着いたのは、様々な器具や設備のある広い体育館のような空間だった。

 広さはもちろん高い天井は先程までいた狭く汚い酒場との落差が凄まじく、さすがのゴン達も思わず入り口を入ってすぐに足を止めてしまっている。

 

「ボス、俺達を退治しに来た奴等がいますがどうします?」

 

「お? ついに来たか、そろそろソウフラビに住民税払わないといけないと思ってたが必要なさそうだ」

 

 ボスと呼ばれた男はラフなTシャツと短パンに運動靴、筋トレをしているのも相まってそこらのジムにいる気のいいゴリマッチョな兄ちゃんといった風貌だった。

 襟足を少し伸ばしたソフトモヒカンと、細目で微笑んで見える柔らかい表情はとても悪漢を束ねる海賊の頭には見えなかった。

 

「よく来たな、今から俺達と色んなスポーツで対戦してもらう。先に8勝したほうの勝ち、そっちが勝てば俺達はこの街を出ていくよ」

 

 しかしゴン達には痛いほどよくわかった。

 

 恐ろしいほど鍛え抜かれた肉体はもちろん、その洗練されたオーラが男の実力を言葉より雄弁に語る。

 

「俺の名はレイザー、短い間だがよろしくな」

 

 グリードアイランド製作チームの一人、世界トップクラスの強者レイザーがゴン達の前に立ちはだかる。

 

 


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