オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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 感想を見るとゴリ○ちゃんを知らなそうな人が結構いて時間の流れを感じる作者です。
 お笑い好きな人はぜひともゴ○エちゃんとゴリケルジャク○ンを視聴してみてください。


第61話 ホルモンクッキーと試合終盤

 

 

 時はゴン達がカヅスール組から共同戦線を持ちかけられる前まで遡る。

 それまではデスマーチ中でありながら順調に進んでいたゲーム攻略が、全くと言っていいほど進展がなくなりそれぞれがフラストレーションを溜めていた時期である。

 色々な街を訪れ、色々なゲーム内アイテムを試していた時に出会ったカード。

 

 指定カードNo.33“ホルモンクッキー”。

 

 効果は食した者の性別を24時間変えるというもので、面白がったキルアが全員で使おうと言い出したのだ。

 

「最初は言い出しっぺのオレからいくぜ。予想は今と大して変わらない」

 

「そらあんたとゴンは年齢的に変化し過ぎたらおかしいわさ。何なら身長とか逆に伸びるんじゃない?」

 

 他のメンバーもキルアやビスケの予想と同じく大きな変化なしと予想する中、唯一ゴンがそこそこ大きな変化をすると予想する。

 

「オレはイルミさんに近付くと思うなぁ、髪の毛とかサラサラになるんじゃない?」

 

「げっ! 嫌なこと言うなよ、たしかにクソ兄貴はおふくろ似だけどよ」

 

 ゴンの予想を聞き急に怖気付いたキルアだったが、意を決してクッキーを口に放り込み大して味わわずに飲み込む。

 

「意外と普通にうまいクッキーなのはなんか腹立つな、ってうおぉ!?」

 

 変化はすぐに現れ始め、ビスケの予想通り少しばかり成長し、髪はやや外ハネながらもストレートに近くなりツリ目も更にパッチリと大きくなる。

 キルアとイルミを足して割ったような、子猫を彷彿とさせる美少女が誕生した。

 

「うえ〜、なんか全身ムズムズして気持ち悪ぃ! てか声も変わってね!? マジオレどうなってんの!?」

 

 予想以上の違和感に動揺するキルアに鏡をもたせれば、ゴンの予想通りイルミにかなり近付いたことでショックを受ける。

 それでも落ち着けば変化した身体とオーラを興味深く検証し、何なら身体能力も上がっていることが発覚し完全に元の上位互換だと気付く。

 

「何度も言うけどね、あんたとゴンの年代はむしろ女の子の方が身体能力高いのはざらにある話だわさ。触った感じ成長すれば間違いなく男の姿のほうが強くなるから安心なさい」

 

 ビスケの見解を聞いてようやく人心地付いたキルアは力なく座り込み、次は誰だよと犠牲者を増やすべく周りを急かす。

 

「次は私がいこう。ゴンとキルアを抜けば年少の私ならそれほど大きな変化はすまい」

 

 クッキーが性別を操作していると思われる以上ゴンは対象外として、手を上げたクラピカが臆することなくクッキーを頬張る。

 完全に母親似のクラピカは懐かしい父の面影を見れるかもしれないと秘かに期待しながら、キルアが言うような違和感が訪れるのを静かに待つ。

 

「…、……、………?」

 

 一向にやってこない違和感に首を傾げてゴン達を見渡すも、同じく首を傾げてクラピカを見るばかりでなんの反応も返ってこない。

 

「なんだぁ? 不良品でも入ってるのかこれ」

 

 まったく起こらない変化にクッキーを調べ出すレオリオだったが、なんとも気まずそうにゴンがクラピカへと質問する。

 

「クラピカ、その、生えた?」

 

「むっ、……!?」

 

 言われたクラピカがおもむろに股間へと手を伸ばすと、触れた瞬間思わず手を引き顔を真っ赤に染める。

 その姿ですべてを察したレオリオとキルアが思わず吹き出し、モジモジしだしたクラピカに他のメンバーも笑顔を浮かべる。

 

「オレより変わらないとかマジかクラピカ! 男だったとしてもその見た目かよ!?」

 

「こりゃ最初オレ達が気付けなかったのも当然だ! 何なら女だと思ったら男だった可能性もあったんだな!!」

 

 あまりにもゲラゲラと笑う二人をビスケが黙らせ、クラピカが腹いせとばかりにレオリオの口へクッキーを押し込む。

 

「んおぉ! これが違和感かって何じゃあこりゃあ!?」

 

 レオリオの変化は劇的で、元々良かったスタイルが女性的なメリハリボディへと変わる。

 顔もややワイルドながら女性的になり、短髪でスタイルのいい宝塚的姿へと変貌した。

 

「なるほど、これが女の体か。実際なってみるとたしかに脂肪が多めだし関節、特に股関節の可動域がかなり広いな。勉強になるぜ」

 

 サングラスを指で直して殊更真剣に分析している口振りだが、その手がたわわに実った自分の胸を鷲掴みにしていなければ実に様になっていた。

 そして年齢順ならゴレイヌだったが、ビスケもゴンと同じで体が変化する能力を持っているため効果が出るかわからずトリは遠慮するとクッキーを口にする。

 

「あら? どうやら効果が出るみたいね」

 

 その言葉に全員がビスケ本来の姿以上の筋肉ダルマの到来を想像するが、なんとクラピカと似た体格の薄幸の美少年がゴスロリファッションに身を包んだ状態で誕生した。

 

「いや詐欺だろ! なんで女より筋肉ないんだよ!? さっさと元の姿に戻れや!」

 

 逆に女装が似合う姿となったビスケにキルアが猛抗議するも、しばらく身体をチェックした後驚きの表情を浮かべて答える。

 

「驚きだわさ、マジでこれがあたしの男性体本来の姿よ。もし男に産まれてたら武の道は歩めなかったわね」

 

 イケメンながら肉付きが悪すぎてもったいないと鏡を見て呟くビスケは、肉体的、オーラ的に恐ろしいほど弱体化していることに戦慄した。

 そしてついにゴレイヌがホルモンクッキーを食し、女性体となった瞬間驚くべき事実が判明する。

 

「これは!? オーラの質が上がったのはもちろんだが、身体能力もかなり上昇している!!」

 

 なんとビスケ程極端ではなかったものの、ゴレイヌもまた女性体のほうが身体能力が高かったのだ。

 雑な女装にしか見えない見た目にキルアとレオリオが爆笑する中、ゴレイヌの明晰な頭脳はすぐにこの現象を新たな発でもって再現することを検討しだす。

 

 ゴレイヌは元々完全な戦闘職というより、オールラウンダーなハンターを目指して活動を続けてきた。

 しかしハンターという職がそもそも戦闘力を最優先としているのに加え、ゴレイヌ自身強さを諦めるほど自分に失望はしていなかった。

 その上でゴン達とのデスマーチにより一日経つごとに前日の自分を超えていくという確かな実感は、まるで上質な麻薬のように抗い難い魅力をもってゴレイヌを夢中にさせた。

 そんな経験をしたばかりのゴレイヌは、例え女性になるとしても目の前に確かにある強くなるための手段を捨てることができなかったのだ。

 この日からゴレイヌは暇さえあればホルモンクッキーを食して性別を変え、その時の身体の変化とオーラの動きを必死に研究し続けた。

 強くなるための熱意のおかげかそれとも素質があったのかは不明だが、レイザーとの再戦の前にカードを集めている時のことだった。

 

 ホルモンクッキーの効果が切れて男に戻ったゴレイヌの傍らに、女豹のポーズで流し目を送る桃色賢人(ピンクゴレイヌ)が具現化していた。

 

 

 ちなみに自分の体を操作しているゴンは本来ホルモンクッキーの効果を受けないはずだったが、試しに食べた時不思議なことが起こって見事性転換することに。

 その姿は黒髪おかっぱの美幼女であり、行き場をなくした筋肉が胸部に集まり正しくロリ巨乳と化していた。

 コンプライアンス的に危ういその見た目に、レオリオとキルアの目がクラピカとビスケによって潰されたが自分の世界に入っていたゴレイヌの目は無事だったとか。

 

 

 

 

 

「…その、彼はどうしてしまったんだ? 顔見知り程度の私でもあんな性格じゃないと思うんだが」

 

 レオリオからの治療を受け肋の完治したツェズゲラがコートへと近付き、早々にボールを奪われ再びボール回避を始めたゴリィヌについてビスケに質問する。

 先程までと変わらず静かに回避を続けるキルアとは真逆、ゴリィヌはいちいち掛け声を上げながら明らかに無駄な動きでボールを回避していた。

 チアリーディングのユニフォームをなびかせながらまるで踊るように動き回るその姿は、クラピカの舞を静と美に例えるならば動と楽のダンスと言える。

 

「あれも発の制約ってやつだわさ。あの姿になると理性のタガが外れて精神が女性に引っ張られるってわけ」

 

「(わさ?)…なるほど、私から見ても明らかにパワーアップする上での制約か。身体能力を上げるためとはいえ、彼から感じたあの知性を失うのは惜しいな」

 

「ところがどっこい、こと戦闘に関して言えば身体能力関係なく今の姿のほうが圧倒的に強いんだわさ」

 

 ゴレイヌの戦闘面での強さは、正しくその頭脳から導き出す詰将棋のような戦闘スタイルにあった。

 自分と他人を入れ替える2体の念獣を駆使し、一撃必殺はなくとも確実に追い詰めていき最後は打倒する。

 そのスタイルは間違いなく強力であり、鍛錬さえ怠らなければいずれは世界有数の実力者になれるだけのポテンシャルがある。

 

 その強さはそのまま、考えすぎるという弱点に繋がっていた。

 

 相手と自分の位置、念獣の位置と操作、戦闘の移り変わりと展開の読み、十全にこなせる相手など格下にしかいないのだ。

 これこそゴレイヌが感じていた限界であり、格上に通用しないことへの迷いが殻を破ることを邪魔していた故の伸び悩みだった。

 

「もちろん世界最高峰の中にも思考中心の考えすぎる奴はいるわさ。けどある一定以上の実力者になれば、絶対にどこかで理性をねじ伏せる本能の閃きが必要不可欠になる。ゴリィヌは理性と本能がバランスよく融合した、頭は冷静に心は熱くを体現しているんだわさ」

 

 ゴリィヌがハチャメチャな動きや言動を取るとはいえ、ゴレイヌの頭脳や考え方が消えてなくなったわけではない。

 変わらぬ明晰な頭脳は相手と自分の戦力比較を正確に行い、その上で取るべき最善策を導き出している。

 

 導き出した上で僅かに違う動きをするのだ。

 

 自分が不利にならない程度に、相手に優位を与えないように。

 セオリーから外れた動きは実力者ほど違和感を強く感じ、その違和感は些細なミスへと繋がっていく。

 外野からの返球を受けようとしたレイザーは、いつの間にか立ちふさがったゴリィヌが雄叫びを上げてかちあげたボールを苦笑いしながら見送る。

 

(滅茶苦茶に見えてもう一人の邪魔にならずボールを奪える位置を取り続けていたか、ふざけた見た目の割に手強いな)

 

 ボールはキルアがなんとかキャッチしたが、ゴリィヌの両手は真っ赤に腫れて力なく垂れ下がっていた。

 

「衝撃〜☆黒ちゃんが無事だったのはやっぱり手抜きだったからね! これじゃあ投げられないわ」

 

 悔しそうに腕を見つめるゴリィヌがキルアに目配せすると、キルアもゴンを見たあと覚悟を決めたようにオーラを高める。

 

「レイザー、きつかったら避けてもいいぜ」

 

 キルアは高めたオーラを電気へと変化させ、本来絶縁体のボールにオーラを纏わせて帯電させる。

 

(オーラを電気に変化させるだと!? しかもあくまでオーラを纏わせることでボールが帯電するようにコントロールまでしてやがる、化物の仲間は化物だったか)

 

 勝負がドッジボールのため直接攻撃は禁止されているが、レイザーもボールにオーラを纏わせたようにボールそのものに細工することは禁止されていない。

 バチバチと激しく明滅するボールはとても触れていいものとは思えず、レイザーは挑発されながらも回避することを決めて構える。

 

「くらえやこの筋肉ダルマが!!」

 

 キルアはボールを投げるのではなく、なんとボレーシュートの要領でレイザーに向けて蹴り飛ばす。

 腕より強い足による一撃はまさに雷となってレイザーに迫り、威力自体は問題なくとも電撃によるダメージを嫌って余裕を持って回避する。

 

 ボールを蹴り出したキルアの後ろに、体毛がビキニ状に変化した白の賢人(ホワイトゴレイヌ)が佇んでいた。

 

「どっせい!!」

 

 秘かに具現化し直していたホワイトゴレイヌと入れ替わったゴリィヌが、外野に飛んできたボールをドロップキックで蹴り返す。

 

「アイターッ!!」

 

 電撃の大半はゴリィヌに炸裂して消え失せたが、キルアの蹴り出した威力を反発力にさらなる勢いを生んだボールがレイザーの意表をついて迫る。

 

「(ダメージ覚悟で間髪入れず攻撃だと!?)ぐぅっ!?」

 

 意表をつかれながらも反応したレイザーだったが、ボールに残った電撃で筋肉が痙攣しキャッチしきれず取り零してしまう。

 

『レイザーアウト!』

 

「どんなもんじゃい! これぞあたしとキルちゃんの合体攻撃よ!!」

 

 ゴリィヌは若干焦げて髪が逆立ちながらもレイザーに指を突き付け、内野に残るキルアには投げキッスでねぎらう。

 投げキッスを気持ち悪がるキルアとホワイトゴレイヌと入れ替わりまた内野に戻ったゴリィヌを見たレイザーは、獰猛な笑みを浮かべて転がるボールを掴み上げる。

 

「まさかゴンじゃなくお前達に不覚を取るとはな、バックだ!」

 

『レイザーがバックを宣言、レイザーチームボールで試合再開しマ…』

 

 レイザーが一つ指を鳴らすと、具現化されていた念獣達がオーラに戻る。

 揺らめくオーラはそのままレイザーへと戻っていき、元々多かったオーラが更に膨れ上がって威圧感を撒き散らす。

 

「…なん、という」

 

「ちょっと! そこまでするのはやりすぎだわさ!! クリア者を出さないつもり!?」

 

 オーラにあてられたツェズゲラが絶望の表情を浮かべ、いくらなんでも高い難易度にビスケが苦言を呈する。

 

「もちろん本来ここまではしない。グリードアイランド責任者で俺の恩人でもあるジンからの願い、ゴンが来たら手加減するなって依頼を遂行してるのさ」

 

 ゲームシナリオ的には、海賊達から全勝できるだけの実力があれば“一坪の海岸線”をゲットさせてもいいとされている。

 レイザーはあくまで裏ボスといった立ち位置であり、現実世界で囚人の海賊達がハメを外しすぎないようにソウフラビにいるのだ。

 

「安心しな、次の挑戦に俺は出ない。今回負けてもカードはゲットさせてやるよ」

 

 見下すようなレイザーの言葉に怒りをあらわにするキルアとゴリィヌだが、直接相対する二人は自分達では絶対に勝てないと理解してしまっていた。

 それだけ本気のレイザーは強者であり、本人も囚人という経歴からくる凄みが殺気となって噴出している。

 

 

 ドクン──

 

 

『あっ…』

 

 それに最初に気付いたのは、キルア、クラピカ、レオリオの3人だった。

 この場にいる者の中で彼等だけが弱体化する前のゴンを知っており、最も近くでそのオーラに触れてきた故に気付けた。

 

 

 ドクン───

 

 

 いつの間にかギンが戦闘態勢を解いて毛づくろいを始めており、立ち尽くすゴンの横で呑気にあくびまでしていた。

 そして何かを感じ取ったレイザーとビスケ、続いてゴリィヌとツェズゲラが思わずゴンに視線を向ける。

 

 

 ドクン!!────

 

 

 傷付き深い眠りについていた筋肉が、長い雌伏の時を経てついに超回復を完了しようとしていた。

 

 




 後書きにも失礼します作者です。

 ゴリィヌモードについてまた少し補足します。

 感想にも結構あった制約や代償ですが、ゴレイヌ自身が使う分には性格が変わるだけでそれ以外はほとんどありません。
 というのも能力でパワーアップしているのではなく、ゴリィヌになればパワーアップ出来る故に性転換するだけの能力だからです。
 他人を性転換するとなると色々制限が必要になって難易度が上がりますが、本来弱体化しかしない自分の性転換に制約や代償はないだろうという考えです。

 平成中期はお笑いバラエティ全盛期だと個人的には思ってます。

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