オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第63話 コンプリートとピエロ

 

 皆さんこんにちは、明らかに原作以上の難関ながら無事一坪の海岸線をゲットしたゴン・フリークスです。なんだか一瞬の気がしますが、半年過ごしたグリードアイランドともお別れが近い。

 

 

 

 

 

 

 レオリオとクラピカがキルアとゴレイヌを治療し、ツェズゲラが恐慌状態の数合わせ組をなだめている中、ゴンはレイザーから改めてジンについて教えてもらっていた。

 

「あのバカに会ったら俺の分も殴っといてくれ。そんでたまには顔を出せとも言っといてくれると助かる」

 

 そんな言葉から始まったレイザーの昔語りとジンとの出会いは、グリードアイランドに閉じ込められたとはいえ今を楽しむことが出来ている感謝の念にあふれていた。

 今何をしているか知らないし、最悪二度と会えないかもしれないが息子のゴンに会えたことも嬉しかったと口にする。

 

「性格は悪いが恐ろしく頭の回る奴だ、お前がここに居ること、俺と戦って勝つことも想定内かもな。間違いなくお前の強さは見誤ってるだろうが」

 

 本気で死を覚悟したとゴンの胸を軽く殴ると、浮かべていた苦笑を柔らかな笑みに変えて締めくくる。

 

「全部出しきった。これで俺は心置きなく、これからの人生を自分のために使える。ゴンもたまには顔を見せに来いよ、待ってるぜ」

 

 そしてレイザーは改めてゴン達挑戦者にイベントクリアの宣言をすると、どこからともなくやってきた女性NPCがプレイヤーを誘う。

 グリードアイランドで最後に残ったメインイベント最初のクリア者にして最後のクリア者であろうゴン達を、レイザーはその姿が見えなくなるまで清々しい気持ちで見送り続けた。

 

 

 

 最後のシナリオが終了し、見事“一坪の海岸線”をゲットしたゴン達は数合わせ組に報酬を払うと早速カードの複製に入る。

 使うスペルカードは複製(クローン)、指定したカードを効果含めて完全コピー可能という強力なカードであり、これを使って限度枚数となる3枚の一坪の海岸線を手に入れた。

 

「私の一坪の海岸線はクローンで構わない、残りの2枚は君達が持っていてほしい。むしろクローンとはいえ受け取るだけの働きができたか疑問だが」

 

「いや、あんた等がいたからこそレイザーを引きずり出せたと言える。そのカードは胸を張って受け取ってくれ」

 

「……、あぁ、そうさせてもらおう」

 

 初めは遠慮気味だったツェズゲラも、ゴレイヌに諭されてしっかりとカードを受け取る。

 ゴリィヌとの落差に内心穏やかではなかったが、それをおくびにも出さないのは流石経験豊富な一つ星(シングル)ハンターといったところか。

 

「せっかく貸してもらったのに服破ってごめんなさい。ツェズゲラさんにはお世話になりました」

 

「いや、重ねて言うが私の力など大したことはなかった。そもそも同じシングル同士、これからは対等に接してくれると助かりま…、助かる」

 

 ツェズゲラはドッジボールでついていけなかったことはもちろん、ゴリィヌとキルアの実力が己を超えていること、ゴンの暴力が自分の推し量れるものではないことを痛感していた。

 それこそ普段どおりを装ってはいるが、仮に実力でカードを奪いに来られたらまるで抵抗できない以上どうしても緊張はなくならない。

 ゴン達が人格面で非常に善良なことを、心の底から安堵しているのだ。

 

「さて、これで私と君達、そしてゲンスルー組の三竦みなわけだが…」

 

 ツェズゲラがある提案を持ちかけようとした瞬間、狙ったかのように他のプレイヤーからの交信が入る。

 相手は今まさに話題に上がったゲンスルー、ツェズゲラはゴン達にも目配せをするとその通信を取る。

 

『やーやーツェズゲラさん、早速だが一坪の海岸線ゲットおめでとうと言わせてもらおう。これで指定ポケットのカードは全て白日のもとにさらされたわけだ』

 

「やはりバインダーをチェックしていたか、それで? わざわざ連絡をしてきてどうした、トレードでも希望なのかな」

 

『オイオイオイ! 俺達から逃げ回ってるくせに随分と態度がでかいな、もしかしたら怪我をしてるかもしれないから心配して連絡してやったんだよ。酷いようなら大天使の息吹を使ってやろうかなってさ!』

 

 ツェズゲラは聞こえてくる品のない笑い声に顔をしかめながら、これまでの小競り合いでやや逃げ腰に対応していたことは否定できずに押し黙る。

 通信越しのゲンスルーはひとしきり笑ったあと、今までの軽薄さを引っ込めてツェズゲラに宣言する。

 

『お前が俺達の必要な指定カードを全部持ってるのは知ってる。最終決戦といこうぜ、お前からカードを奪えば俺達の勝ちだ』

 

「…いいだろう、私もここまで来て出し惜しみはすまい。全力で相手をしてやろう」

 

『そうこなくっちゃな。もう一組そこにいるのはゴレイヌ組か? ツェズゲラが逃げたら次はお前等だ、せいぜい震えて待ってるんだな』

 

 ツェズゲラは通信を切られた後しばらく警戒し、すぐさま襲いかかってこないことを確認すると一息ついてゴン達に向き直る。

 

「状況は予想通りあまり良くないようだ。ついては私から君達に提案したいことがある」

 

 それはツェズゲラのシングルとしてのプライドと、ゲンスルーに対する警戒から導き出された妥協案。

 

「私達が独占する指定ポケットカードを譲渡したい。その代わり、クリアの成功報酬の分配に私達を加えてくれ」

 

 ツェズゲラは状況的にゲンスルーが自分を付け狙うはずであり、負けるつもりはないが正直分が悪いと考えている。

 その上で最悪はゲーム外に退避することも視野に入れると、今まで集めたカードは無駄になるしゲンスルーが更にクリアに近くなって面白くない。

 

「君達がゲンスルー組に負けることはまずありえない以上、接敵したらクリアが決まる。奴等に私達が勝てば私達有利な、君達が勝てば君達有利な配分で報酬を得るのはどうだろうか」

 

「随分そっちに都合よくね? こっちは最悪お前等ボコってカード奪ってもいいんだぜ」

 

「それも重々承知しているが、君達にとっても悪くない話だと自負している。これでもシングルだ、君達を出し抜くことも可能と見ているし、断言するが残りのカードを自力で集めるには年単位の時間がかかるぞ」

 

 ツェズゲラはあくまで強気に、しかし背中は服の色が変わるほど冷や汗を流しながらも交渉を続ける。

 強硬策に出ないだろうという相手の善性に期待した賭けと、最悪の場合は仲間だけ逃して自分が玉砕するという覚悟。

 力では決してかなわない相手に挑む、それもまたハンターの本懐のひとつなのだ。

 

「オレはいいと思うよ。こっちがもうちょっと条件を付け加えていいならね」

 

 少し怪しい雰囲気が広がりだした時、黙っていたゴンがあっけらかんとツェズゲラの提案を受け入れる。

 相手の譲歩を得ようと威嚇していたキルアやゴレイヌは少々面食らったが、他のメンバーもとりあえずゴンの条件を聞こうと緊張を解く。

 

「先ずバッテラさんから許されてる持ち帰れるカード1枚の権利をこっちに確約すること。報酬の分配は3:2でこれはツェズゲラさんが負けた時のみ、お互いに総取りできる可能性を残す」

 

 ゴンの提案はツェズゲラ組がゲンスルー組に勝てばツェズゲラ組の総取り、ツェズゲラ組が負ける前にゴン達がゲンスルー組に勝てばゴン達の総取りとして勝負するというもの。

 

「なるほど、私達は負けた時の担保をカード選択権で買い、500億の報酬は早いもの勝ちということか」

 

 ゴン達はゲンスルー組と面識がないため接触できるか怪しい上に、相手の狙いはツェズゲラ組のためチャンス自体が極端に少ない。

 対してツェズゲラ組は勝率が怪しいながらも向こうから仕掛けてくる上、自分達から仕掛けることももちろん可能。

 最悪は当初の予定通りゲーム外に退避すればいいこともあり、実質カード選択権を失うだけでより良い条件になったとも言えた。

 

「ちなみにそこまでして欲しいカードが何か聞いてもいいかな?」

 

「ビスケがグリードアイランドに来た理由でさ、ブループラネットが欲しいんだ。オレ達は全員ビスケに選択権を譲ってるしね」

 

 ツェズゲラがビスケに視線を向ければ、試合中垣間見えた老獪さが消えてキャピキャピしたビスケが目を潤ませて見つめ返してきた。

 他のメンバーを見ても特に嘘を言っている風にも見えないため、ツェズゲラは最後に仲間とアイコンタクトで確認を取るとゴンに向き直る。

 

「その条件を飲ませてもらう。どちらが勝っても恨みっこはなしでいこう」

 

「わかった。じゃあカードを預かるね」

 

 本来正式な書面などで取り決めるべきだが、互いにシングルハンターとしての信頼性で口約束のままカード交換を行う。

 ツェズゲラ組からそこそこ多めのカードをゴン達がそれぞれ分けて受け取り、ツェズゲラ達も所持カードが変わらないように贋作(フェイク)のカードを使って傍目には変化なしを装う。

 

「君達もカードを変化させるなどして所持カードを偽装するん…、何をしている?」

 

 ツェズゲラはゴンとビスケが二人でカードの交換を行いだしたこと、しかもゴンはカードの効果を打ち消す“聖騎士の首飾り”を首に下げていることを不審に思った。

 ツェズゲラと同じくキルア達も首を傾げていることでさらに嫌な予感を感じたが、行動を起こすには致命的に手遅れだった。

 

「ごめんね、ツェズゲラさん」

 

 ゴンがビスケから受け取ったカードをバインダーに差し込むと、突如として全員のバインダーから音声が流れ出す。

 

『プレイヤーゴンが全ての指定ポケットカードをバインダーにセットしました! 只今を持ちまして、グリードアイランドは最終イベントに突入します!!』

 

「……は?」

 

 まさかの事態にツェズゲラの思考がストップし、啞然としながらゴンを見つめる。

 ゴンとビスケ以外の全員が呆気にとられる中、ツェズゲラの仲間であるドッブルが慌てて声を上げる。

 

「ツェズゲラ! ゲンスルー組がこっちに向かってるぞ!!」

 

「そういうことかよ、こいつ等爆弾魔(ボマー)の仲間だったのか!」

 

「離脱するぞツェズゲラ!!」

 

 慌ててゴン達から距離を取った3人とは違い、冷静さを取り戻したツェズゲラはその場を動かず頭を抱える。

 

「くっ、くくっ、ハァーッハハハ!!」

 

 そして天を仰いで突然笑い出すと、厳戒態勢を取る仲間達に手を振ってなだめる。

 

「まんまとしてやられたというわけか、いつからか聞いてもいいかな?」

 

「カードを受け取ったのは何日か前だけど、ハメ組が全滅したと同時に動いたんだって」

 

「なるほど、どうりで奴等の攻勢が弱かったはずだ。様子見にしてもおかしいと思ったがそういうことなら納得だ」

 

 穏やかにやり取りをするツェズゲラとゴンに周りが困惑する中、同行(アカンパニー)のカードで4人の人物がこの場に到着する。

 着陸時の土煙から現れたのは、3発の不発弾を従える奇術師。

 

「上手くいったみたいだねゴン♥ボクも役に立てて嬉しいよってなんだいそのオーラは!? 身体も元に戻ってるどころかさらなる進化を!? あぁ、あぁ〜〜素敵すぎるぅ♥」

 

 クールに決めようとした仮面が一瞬で剥がれたピエロに引きずられ、伸縮自在の愛(バンジーガム)で繋がれたゲンスルー達が地面を削りながら懇願する。

 

「もういいだろ!? ゲームもクリアしたんだからいい加減解放してくれ!」

 

「何なら俺とバラは好きにしていい、頼むからゲンスルーだけでも見逃してくれ!」

 

「馬鹿なこと言ってんじゃねぇぞサブ!! 俺達は言われた通りに動いたんだからこれでお役御免のはずだ!」

 

 必死の抗議もゴンに夢中のピエロには届かず、ゲンスルー、サブ、バラの3人はゴンの周囲をうろちょろするヒソカに振り回され続ける。

 そのあまりに異常な光景に絶句するドッブル達は、苦笑しながら頭を下げるツェズゲラにやっと現実に引き戻された。

 

「すまない、全員で決めたこととはいえ最後の判断ミスは私にある。まさかここまで用意周到だったとは予想外だ」

 

 ゴンが“大天使の息吹”含め想定以上の指定ポケットカードを持っていたこと、ゲンスルー達の無様な姿の理由はハメ組全滅直後にまで遡る。

 

 

 

 

 

 グリードアイランドに入った者が最初に出てくる場所“シソの木”、その周囲に広がる草原にハメ組のメンバーが暗い表情で勢揃いしていた。

 幹部ゲンスルーの裏切りと仲間の死体を目の当たりにしたことで、数の暴力に頼った弱者達は既に反抗する気概を失ってしまっていた。

 死んだメンバー以外にアベンガネがこの場にいなかったが、そのことに気付く人間すらいない有様である。

 

「おーおー、雑魚が雁首揃えて辛気臭いな。こっちまで気が滅入りそうだぜ」

 

 最初に出てきたハメ組のリーダーに続き、悪態をつきながらゲンスルーにサブとバラがやってくる。

 そして早速取り出したバインダーで所持カードを確認すると、その圧巻のカード量に興奮した笑みを浮かべた。

 

「これでいいだろう、早く能力を解除してくれ。メンバーの中にはタイムリミットが近い者もいるんだ」

 

「せっかちだねぇ、少しは感慨に浸らせろよ。サブ、バラ、やるぞ」

 

 ゲンスルー達は親指を立てたままの拳を近付け、全員の親指を接触させると声を揃える。

 

解放(リリース)!!』

 

 その瞬間一斉に爆発する命の音(カウントダウン)

 

 解放とは名ばかりの一斉起爆は、ハメ組のメンバー全員を呆気なく即死させる。

 

「お前等みたいな雑魚との約束なんざ守るわけねえーだろ! せいぜいあの世で楽しくな!」

 

 数十人の爆殺死体の前でゲラゲラと笑う3人は一切罪悪感なく悲惨な光景に背を向け、次はツェズゲラをぶっ殺すと喋りながらその場を去る。

 

「無駄な努力ご苦労さま♣君達のカードはボクが全部いただくよ♦」

 

「なにっ!?」

 

 去る寸前の背中に声をかけたのは、凄惨な死体の中返り血一つなく佇むヒソカ。

 何故気付けなかったのか不思議に思う3人だったが、ゲンスルーは特に大きな疑問を感じて問い詰める。

 

「覚えてるぜ、最近仲間になった新入りだな。カウントダウンは肩にセットしたはずだが、お前除念師か?」

 

 ゲンスルーはその不自然なほどの汚れのなさから、カウントダウンを耐えたのではなく除念したと考えたがそれにしても違和感を感じていた。

 ヒソカの醸し出す雰囲気に、ゲンスルーの強者としての勘が大きな警鐘を鳴らしている。

 

「あの品のない爆弾は切り払ったよ♠ボクも新しいステージに上がれたから、あの汚いのを付けたのは大目に見てあげる♦」

 

 ヒソカの奇術師の嫌がらせ(パニックカード)は、柄によって特性を変える。

 

 オーラを増幅しバンジーガムと相性のいい♥。

 

 手放すことで補正が入り持続力に優れた♦。

 

 隠で不可視化しやすくバランスのいい♣。

 

 そして斬撃特化の♠。

 

 グリードアイランドに入ってからこれまでただひたすらに発の能力向上に努めたヒソカは、パニックカードの♠をさらなる高みへと導いた。

 

 オーラ及び念能力の切断である。

 

 クラピカの裁定する者の鎖(ルーリングチェーン)のように体内に浸透するタイプや、かけた念が物質化しないタイプは除念不可だがそこは問題ではない。

 

 ゴンの脳筋万歳(力こそパワー)の補正を切り裂く手段を得たことこそが重要なのだ。

 

 そのためだけにヒソカは爆発すれば自分も危ういカウントダウンを解除せずに放置し、爆破される寸前に覚悟とリスクを負ってパニックカードを使い進化させた。

 

「殺しちゃったらカードが失われるんだっけ? ゴンを驚かせたいから、反抗できないように痛めつけた後は今まで通りに過ごさせてあげる♣」

 

「ゲン、さっさと3人でやっちまおうぜ」

 

「能力について知ってるやつは少ないほうがいいだろ」

 

 臨戦態勢に入ったサブとバラにつられて構えたゲンスルーだが、何故か冷や汗と震えが止まらなくなっていた。

 

「転移系のスペルカードはたんまりくすねてある、どこにも逃がさないよ♠」

 

 栄光への第一歩を踏み出したはずの爆弾魔は、気付けばピエロに続く破滅の道への一歩を踏み出していたのだった。

 

 


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