オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第64話 ゲームクリアと未来に進む者達

 

 

 皆さんこんにちは、無事ツェズゲラさんを出し抜いたゴン・フリークスです。ビスケとヒソカが予想したそのままの展開になって若干引いてます。

 

 

 

 

 

 ヒソカの登場とゲンスルー組の敗北にゴンのゲームクリアと怒涛の展開に多くの者が対応できぬ中、グリードアイランドは関係ないとばかりに最終イベントに突入する。

 

『只今から指定ポケットカードに関するクイズを行い、最高得点者には指定ポケットカードNo.000“支配者の祝福”を贈呈します。全プレイヤー参加可能なので皆様奮ってご参加ください!』

 

 まだ混乱冷めやらぬ中のクイズ大会が開かれようとした時、ゴン達の元へ多くのプレイヤーがスペルカードを用いて転移してくる。

 

 カヅスール組やアスタ組はもちろんすれ違ったのみの名前すら知らないプレイヤーがやってきては口々に偉業を称賛し、クイズ大会で勝ったらカードを買ってくれと交渉してくる。

 さり気なくアベンガネもゲンスルーに触れて命の音(カウントダウン)の完全除念に成功すると、いくつかのグループに声をかけ協力してクイズ大会に挑む。

 

『皆さん準備はよろしいですね? それでは第一問です!』

 

 このクイズ大会は、どれだけグリードアイランドというゲームをやり込んだか試すテスト。

 暴力やスペルカードでカードが奪えるとはいえ、真にゲームと触れ合ってきた者にこそクリアしてほしいという開発者達のささやかな願い。

 多くのカードをスペルカードで奪って集めたハメ組の系譜を継ぐゲンスルー組に対し、念能力や実力でもってまともに攻略を続けてきたツェズゲラ組やゴン達はとてつもなく大きなアドバンテージを持つ。

 どこまでが最高責任者であるジンの想定通りか本人以外知る由もないが、最後の最後、最も多く問題を正解したのはやはり真っ当に攻略を行ったプレイヤー。

 

『集計出ました。最高得点は96点、プレイヤー名ゴレイヌ!!』

 

 10年以上の時間がかかりながらも、ついにグリードアイランドが完全クリアされた瞬間だった。

 

 

 

 

 クイズ大会を優勝したゴレイヌからカード“支配者からの招待”を受け取ったゴンは、ゲーム開発者の待つ城へと一人で訪問していた。

 案内通りに進めばボサボサの黒髪に無精髭の小汚い男と、小柄で金髪の身奇麗な男がゴンを出迎える。

 

「聞いてた通りジンの奴にそっくりだな! ゲームクリアおめでとうゴン、俺はゲーム開発者の一人ドゥーンだ」

 

「僕はリスト、同じく開発者の一人だよ。きっとジンは君がここに来ることも予測してたんだろうね」

 

 最後の指定ポケットカード“支配者の祝福“を受け取ったゴンは、改めて二人からゲームクリアを讃えられそのままジンについての逸話や笑い話を聞く。

 見るからにおおらかで賑やかだとわかるドゥーンはまだしも、礼儀正しく物静かそうな印象のリストもすこぶる饒舌に語る。

 

「エレナ達からも聞いたが、俺等の分も殴っといてくれんだって? あの性悪にはいい薬だろうから思いっきりいってくれや!」

 

「よろしく頼みますねゴンくん、ここグリードアイランドまで吹っ飛んでくるくらいの一発をお見舞いしてやってください」

 

 おおよそ2時間、長いような短いような語らいを終えてゴンは特別なバインダーを受け取る。

 たった3枚のカードを収納できるだけのバインダーは、たった一度だけ現実世界で呼び出せるクリア特典。

 最後に城下町で盛大なパレードが開催され、グリードアイランドは大きな大きな節目を迎えるのだった。

 

 

 

 

 

 無事クリア特典を受け取ったゴン達はツェズゲラ仲介の元、バッテラの要望するカードを特別バインダーへとセットしていた。

 

「“大天使の息吹”と“魔女の若返り薬”をバッテラさんに、“ブループラネット”をビスケ用に。バッテラさんの恋人はレオリオでも無理だったんだね」

 

「昏睡状態になってから時間が経ちすぎていること、患部が脳のせいで治しようがなかったらしい。悔しそうにしていたよ」

 

 ゴンがカードを持ち出す都合上グリードアイランドに残り、仲介役のツェズゲラ含め残りのメンバーは一足先に報告も兼ねてゲーム外に脱出している。

 そしてバッテラが欲しているカードとその理由を知ったレオリオが一先ずバッテラの恋人であるオボロを診察、力が及ばなかったことでカードの報酬枠が増えることはなかった。

 

「しかし危なかったよ、レオリオの診察ではあと一ヶ月も持たなかったらしい。ゲンスルーに手こずっていたら危うく手遅れになるところだった」

 

 ただ眠っているようにも見える昏睡状態のオボロだったが、長すぎる眠りは緩やかに破滅へと向かっていてもはや限界と言ってよかった。

 ゴン達のゲームクリアが間に合ったこと、レオリオとクラピカが延命措置を施せたことはバッテラにとって最高の幸運となった。

 

「私は先にバッテラ氏の元へ戻る。君とGM(ゲームマスター)は積もる話もあるだろう、準備は済ませておくからゆっくり話してくるといい」

 

 そう言ったツェズゲラに続いてゴンも半年の間滞在したグリードアイランドを振り返ると、これからのことを考えながら現実世界へ向けて一歩を踏み出した。

 

 

 

 なおゴンが現実世界に持ち帰るカードを確認したエレナとイータは、ジンが自信満々に自分へと転移するカードを持ち出すと予想していたことを笑いながら話し、どうにかしてジンに伝えて馬鹿に出来ないかGM会議だと張り切っていた。

 

 

 

 

 

 10年以上昏睡する患者の病室とは思えないほど計器類が少なく、手の施しようがないとはとても見えない穏やかな顔で眠り続けるバッテラの恋人オボロ。

 個人部屋としては広すぎる室内にバッテラとツェズゲラ、そしてゴン達が勢ぞろいして主治医のようにカルテを持つレオリオの説明を聞いていた。

 

「打ち所が悪かったことによる脳死、厄介なのは原因がわかっても治療箇所と治療方法が不明ってところだ。これを治せる奴がいたら、そいつはまだまだ謎しかない人間の脳を全て知り尽くしてるってことになる」

 

 今まで誰も治せなかった理由は、念能力というより念能力者の限界。

 今尚ブラックボックスだらけの脳を治療するには、戦闘者が至る念能力では基本的に不可能と言える。

 

「だからこそ“大天使の息吹”ならなんとかなる可能性がある。漠然とした対象を完治させるって効果が正しく機能すればいけるはずだ」

 

 レオリオはまた一人なにもできない患者に会ったことで強い無力感に苛まれ、そんな辛そうな顔を見たクラピカも悲痛な表情を浮かべた。

 

「バッテラさん、きっとオレよりあなたがカードを使ったほうがいい。念は強い想いに応える」

 

 ゴンから震える手でカードを受け取ったバッテラは、オボロの眠るベッドの横に跪き神に祈るようにカードへ想いを込める。

 そして慈愛に満ちた大天使が具現化され、バッテラは万感の想いを言葉に乗せる。

 

「お願いします、オボロを、私の愛する人と一緒に生きたい!」

 

『お安い御用、彼女の全てを癒やしましょう』

 

 大天使がオボロに息を吹きかけるとその身体が光り輝き、微動だにしていなかった脳波を計測する機器に変化が起こる。

 正しく神の御業はどこが悪いかもわからぬ脳を癒やし、弱っていた内臓は疎か長いリハビリが必要であっただろう筋肉までも健康体へと引き上げる。

 それ等全てを瞬きせず目に焼き付けたレオリオは、天使と光が消えて不安そうに目を泳がすバッテラの固く強張った手をオボロの手に持っていく。

 

「バッテラさん、呼びかけてやってくれ。きっと今度こそ、その声が届くはずだ」

 

 バッテラは不安そうなまま壊れ物のように取ったオボロの手が、痩せ細った状態から昔繋いだ頃の柔らかな手に戻っていることに驚く。

 

「……オボロ?」

 

 優しく、しかし決して離すまいと手を握って語りかけたバッテラに応えるように、まぶたが震えると小さく唸りながら身動ぎする。

 

「っ!? オボロ!?」

 

 思わず強く問いかけたバッテラの見守る先、震えるまぶたが開いてオボロが天井を見つめる。

 絶句するバッテラが強く手を握りしめると、ぼんやりとしたまま天井からバッテラへと視線が動いた。

 

「どうしたのバッテラさん? ちょっと痛いわ」

 

「あっ! す、すまん、その、私がわかるか、オボロ」

 

「バッテラさんって呼んだじゃない、随分老け込んじゃったみたいだけど何かあったの? 資産を処分するって言ってたのと関係してる?」

 

「これは、その、済まない、まだ、まだ資産は処分出来ていない」

 

 10年以上待ち望んだ恋人との交流に、バッテラは未だ夢見心地で現実感がないまま会話を続ける。

 いくら大天使の息吹とはいえ長年昏睡していた影響が出ているのか、オボロも寝起きのようなはっきりしない意識で柔らかく微笑んだ。

 

「もう、いつも無理はしないでって言ってるじゃない。あなたが元気でいてくれないと、すごく長い未亡人生活になっちゃうんだから」

 

 たった今まで生死を彷徨っていたオボロの言葉に、もし間に合わなかった時に感じただろう絶望と、間に合った現実の喜びがごちゃまぜになってバッテラの涙腺を決壊させる。

 

「バカを、バカを言うんじゃない。わたっ、私は、オボロと、オボっ…」

 

「そんなに辛いことがあったの? 大丈夫、あたしは何があってもあなたのそばにいるわ。借金でもできちゃった? 一緒なら貧しくてもきっと幸せよ」

 

 気を利かせたゴン達が部屋から退室し、広い病室にはバッテラとオボロのみが残される。

 言葉が出ずに涙を流し続けるバッテラと、ベッドから身を起こし慈愛のこもった笑みを浮かべるオボロ。

 

 傍目には親と子にしか見えない二人の間には確かな愛があり、本来あり得なかった共に歩む未来を消えたはずの大天使が祝福していた。

 

 

 

 

 

 オボロが目覚めた翌日、大天使の息吹の効果ですでに退院した彼女を連れたバッテラがゴン達及びツェズゲラを屋敷に招待していた。

 

「改めて礼を言わせてくれ、言葉など形に残らないがこの感謝を少しでも伝えたいのだ。本当にありがとう!」

 

「あたしからも伝えさせて下さい、皆さんのおかげでこの人を置いていかないですみました。心から感謝を」

 

 バッテラは泣き腫らした目をしながらも晴々とした表情で、オボロは意識もはっきりとして穏やかながら芯の強さが見える笑みでそれぞれが感謝を告げる。

 昨日の内になんとか落ち着いたバッテラから事の顛末を聞いたオボロはしばし取り乱したが、当時から実業家として辣腕を振るっていたバッテラを射止めた人間性は伊達ではなく諸々をしっかりと受け止めていた。

 二人の空白の年月を埋めるには時間がまるで足りていないが、それでも先ずは雑事をすべて片付けることを優先するべきと意見が一致している。

 

「知らなかったとはいえギリギリで間に合って良かった。これがバッテラさんが指定した“魔女の若返り薬”、年齢以上口にしたら消滅しちゃうらしいから気を付けてね」

 

「大丈夫だ、何歳若返るかはもう決めてある」

 

 ゴンから錠剤の入った瓶を受け取ったバッテラはオボロに15錠、自分用に35錠取り出すとレオリオに診てもらいながら薬を飲む。

 飲んだ数だけ若返るという触れ込み通り、バッテラとオボロは問題なく若返り健康にも問題は起こらなかった。

 

「これで少しは恋人に見えるかな?」

 

「気にしないって言ってるのに。けど長く一緒にいられるのは素直に嬉しいわ」

 

 お互いに若返った顔を確認した後、残り半分になった瓶をゴンに向けて差し出す。

 

「私達が持っていてもいらぬトラブルを呼び込むだけだ。残りは君達の好きにして欲しい」

 

「やったじゃんビスケ、これで7歳になれるぜ」

 

「あたしは今が全盛期だわさ! 武人として弱くなることをするわけ無いでしょ! …まあこれはあたしが責任を持って管理しとくわさ」

 

((…7歳?))

 

 そそくさと瓶をしまうビスケに疑問を浮かべるバッテラとツェズゲラだったが、気を取り直して報酬の支払いに入る。

 

「先ずはゲームをクリアしたゴンくん。契約上500億の報酬だったが、資産を処分するに当たって予想以上に金銭が残ってしまってね。感謝の意も込めて報酬は1000億払わせてもらう」

 

 まさかの報酬2倍にレオリオとビスケが歓声を上げ、クラピカとゴレイヌは想像もできない大金に顔を強張らせる。

 元々いつでも資産を処分出来るように備えていたバッテラの行動は迅速で、昨夜の内に個人資産以外の権利や最低限の物件以外は全て処理し、報酬もすでにゴンの口座に振り込んでいたりする。

 その事実に分配やらで慌てふためくゴン達を微笑ましそうに見つめ、バッテラは所在なさげに佇むツェズゲラへと声をかける。

 

「ツェズゲラ、私は君に一番感謝しているんだ。君のおかげでクリアが早まり、そしてゴンくん達がゲームに参加してくれた。君なくしてこの結果はあり得なかった」

 

「ありがとうございます。しかしそれも結局は依頼通りに任務を遂行したまでです。報酬以外に賃金を頂いていた以上当然のこと」

 

 謙遜するツェズゲラに苦笑いを浮かべたバッテラはいくつかの書類を取り出し、首を傾げるツェズゲラへ手渡すと告げる。

 

「若返り薬と一緒さ、私にはもう無用の長物だ。私の所持するグリードアイランド31本、これの所有権を君に譲渡したい」

 

 ツェズゲラが渡された書類に書かれていたのは、バッテラの所有するグリードアイランドの目録。

 はっきり言ってゴン達以上の報酬に目を剥いたツェズゲラは、これを受け取ることによるリスクとリターンを考えて唸る。

 高額でグリードアイランドを集めていたバッテラが手を引くことにより確実に相場は下がることに加え、一度クリアして要領を理解した以上これだけの本数は必要ない。

 しかしたとえ値下がりしても一本100億を下回ることはないだろうこと、クリア報酬である3枚のカードを自分達で独占できる可能性を考えれば受け取らない理由がなかった。

 

「…本当によろしいのですか、私に譲らずしかるべきところへ出せば巨万の富を生みますよ」

 

「オボロに出会ってから富など全く興味はない。しかるべきところ、それは真摯にグリードアイランドクリアを目指した君のところに他ならない」

 

 バッテラの意思が固いことを確認したツェズゲラは頷き、グリードアイランドの所有権を受け取ることにサインする。

 現金でないとはいえゴン達を遥かに超える時価の報酬を得たが、ゴン達もそれに異を唱えることなく純粋にツェズゲラを労う。

 

「しかしこの本数とプレイヤーをどうするか、すでにクリア者が出たとはいえカードを持ち帰れるのは魅力的だ。それに脱出できない者をそのままにするべきか骨を折るべきか」

 

 早速これからのゲーム管理について考えだしたツェズゲラに対し、ゴンがGM(ゲームマスター)達と話して予測したことを告げる。

 

「多分脱出できないプレイヤーについては大丈夫だと思うよ。それと最初の問題はプレイヤーをどうやって決めるかになるんじゃないかな」

 

「ふむ? それはどういう意味…」

 

『ピンポンパンポ〜ン♪ グリードアイランドをプレイする全ての皆様! 只今から運営より重要な報告をさせていただきますので傾聴をお願いします!』

 

 理由を問おうとしたツェズゲラを制するように、ゴンがまだはめていたグリードアイランドの指輪から音声が響き渡る。

 

『プレイヤーゴンがゲームクリアしたことは皆様記憶に新しいと思います。それに伴い、グリードアイランドは大幅アップデートを実施いたします!』

 

 アップデート内容として挙げられたのは、マップの変更及び新規イベントの実装、更には指定ポケットカードの一新や新たなスペルカードの追加と膨大な量に及んだ。

 何年もの間コツコツと準備してきたのだろうアップデートにかかる期間は一ヶ月、そのため全てのプレイヤーは一度ゲーム外に飛ばされると告げられる。

 

『もちろん現バージョンで所持するカードや成した功績によって特典もございます。新たなイベントに新たな敵、“グリードアイランド2”でまた皆様に会えることを心よりお待ちしております!

以上、運営からのお知らせでした。放送終了と共に全プレイヤーの強制脱出を行いますのでご容赦を、ピンポンパンポ〜ン♪』

 

 呆気にとられるゴン達のもとに、一気に帰還したプレイヤーで大混乱が起きていると報告が入る。

 ツェズゲラは責任者になった直後の問題発生に大きくため息を吐くと、やることが見つかったとばかり不敵な笑みを浮かべて踵を返す。

 

「これから忙しくなるな、しかし遣り甲斐もあり間違いなく儲かるときた! さらには初クリア者になるチャンスもまた手に入るとは。バッテラさん、ここで失礼させてもらう。後でいくつか相談させてくれ」

 

 筋肉に心を折られた一つ星(シングル)は、新たな挑戦を見つけて奮い立つ。

 単純な暴力とは違うハンターとしての強さ、伸ばすべきものを再認識した星はさらなる輝きを得ようと再び立ち上がった。

 

 

 

 

 日が暮れて誰もいない、グリードアイランドの入ったジョイステの稼動音が響く広い室内。

 その片隅で一人、息も絶え絶えにジョイステに練を行い続けるモタリケがいた。

 他のプレイヤー同様にゲーム外に飛ばされたモタリケは、グリードアイランドの権利がツェズゲラのものとなったこと、アップデート後プレイを望む者の選考会を開くと知らされた。

 

「なんでだ、ちくしょう、どうして今更!?」

 

 底辺能力者のモタリケでは選考会を突破できるはずがなく、他のグリードアイランドを手に入れる伝手などもちろんない。

 何よりモタリケを絶望させたのは、運営から告げられた“一新”の言葉。

 

「頼むよ、俺から、俺から家族を奪わないでくれよぉ」

 

 何度練をしても何も起こらず、素養もなければ鍛錬も疎かなモタリケはすぐに限界を迎えた。

 弱々しくすすり泣くモタリケの手の中には2つの指輪、セーブデータを収めた指輪とゲーム内で結婚した時奮発した指輪があった。

 

「結局ダメだったのか、俺は、やっぱり何も手に入れられないのか」

 

 絶望から何もかもどうでも良くなったモタリケは、手にする2つの指輪を投げ捨てようとするもどうしても手放すことができない。

 捨てられぬ家族との繋がりを両手で包んだモタリケは、せめてもの抵抗とでも言うように言葉を発する。

 

「運営さん、聞こえていたらお願いします。どうか、どうか妻と息子をアップデート後も存在させてください。たとえNPCでも、消えてしまうなんて、そんなの辛すぎる」

 

 大粒の涙を流しながら、精一杯の愛を込めて願う。

 

「二人の幸せを、どうか、どうかお願いします」

 

 答えるわけがない、クリアを諦めた底辺能力者の願いなど叶うわけがないと思っていたモタリケだったが、涙に濡れた2つの指輪が突然光を放つ。

 

『プレイヤーモタリケが、トロフィー“帰りを待つ者”を獲得しました。NPC“アリー”と“スターク”は、グリードアイランド2でも夫と父を待ち続けるでしょう』

 

 驚き固まるモタリケの掌の上で、2つの指輪が一つに融合していく。

 一つとなった指輪の内側には、モタリケ、アリー、スタークの名前が刻まれている。

 

『プレイヤーモタリケの功績によりNPCは進化しました。グリードアイランド2への参加を心よりお待ちしております』

 

 そこに全てを失った悲しき男はいなかった。

 

 もう一度家族に会うため、守るものがある漢が涙を拭って立ち上がった。

 

 





 後書きに失礼します作者です。

 ヒソカのパニックカードの♠について補足説明します。

 オーラや念を切れるようにはなりましたが、もちろん数字の大きさで切れる範囲が変わります。ゴンのオーラを切るとなると最低でもJ以上は必要になります。
 加えてカードは一度使ったら消えるので、オーラを切る場合は同時に肉体を切ることができません。つまり2連撃が必要になります。
 そのことをヒソカ自身理解してるので、今回の進化はさらなる進化の足がかりとなっています。

 作者はこの小説を書くまでこんなにヒソカに感情移入するとは思っていませんでしたが、今は読者からも愛されているようで嬉しく思います。

 感想や評価、更新するたびにいただける誤字脱字報告は非常に力になっています。
 いよいよ蟻編に突入しますが最後までお付き合いいただけたら幸いです。

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