オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第66話 キルアの飛躍と3度目の正直

 

 皆さんこんにちは、ネテロ会長にまだ見ぬ強者達にワクドキ止まらないゴン・フリークスです。早く戦いたい。

 

 

 

 

 

 ネテロがゴン達を歓迎したとはいえ、他の者達ははいそうですかと頷くわけにはいかない。

 組手の人数が増えることは大歓迎であるものの、早々に潰れて後の人生に支障が出ては後味が悪すぎるからだ。

 それはたとえオーラと雰囲気から間違いなく強者とわかっていても譲れない、ネテロとの組手を長い間耐えてきた戦士達の偽らざる本心なのだ。

 

「ということでの、ビスケは問題ないとしてゴンにキルア、そんでヒソカはまずワシ以外と組手じゃ。これで認められないと依頼を受けられなくされちまったからの」

 

「当たり前すぎる措置です→会長。私もサンビカも心の治療は専門外ですから→雑魚」

 

[泣き付かれても困ります(汗)]

 

 ネテロの愚痴に答えたのは、緑色のドレスで犬っぽい顔にメガネをかけた女性と、目元以外極端に露出の少ない白衣を着込んだ筆談をする女性。

 ネテロの依頼唯一にして最大の癒やし、三つ星(トリプル)ハンターのチードルと一つ星(シングル)ハンターのサンビカである。

 

「二人揃っててちょうどよかったわさ、グラサンがレオリオ、威嚇してんのがクラピカよ。レオリオは医療特化の発持ちでメンタルケアもそこそこいけるし、クラピカの方は治療行為にブーストかけられるからどっちも重宝するわさ」

 

 ビスケにチードルとサンビカを紹介されたレオリオとクラピカは、まさか若い女性達が出てくるとは思っていなかったため驚き、レオリオはドギマギした、クラピカは牽制するような顔でそれぞれ挨拶を交わす。

 

「実際に見てから戦力になるか判断します→ビスケ。力不足と判断したらさっさとやめてもらうのでそのつもりで→レオリオクラピカ」

 

[最近休みが少ないので助かります。クラピカさん、後でチードルさんと3人でお茶会しましょう]

 

 サポート班が親交を深める中、組手班はゴンとキルアを誰が審査するかでもめにもめていた。

 見るからにローティーンの二人はいくらオーラや立ち居振る舞いが見事とはいえ、とりあえず高弟クラスが組手するべき派とさっさと師範クラスが組手するべき派で真っ二つに割れていた。

 

「なんでもいいんだけどさ、さっき爺さんと組手してた人より強い人っている? 正直あのくらいの人じゃないと話になんないと思うわ」

 

 一向に決まらない方針に退屈であくびまでするキルアの態度は、いくらできた人間が多いこの場でもしっかりとひんしゅくを買うことに成功する。

 最初に話しかけてきた高弟の一人がその無礼な態度に最も反応し、試すのではなく本気でやってやると息巻いて鍛錬場へとキルアを誘う。

 

「はいはい、一応次の人も準備しといてよ、早く終わり過ぎたら試すもなにもないっしょ」

 

「このガキぃ、心配してやったらいい気になりやがって! 泣かす!!」

 

 明らかに頭に血が上る男にため息を吐いたビスケが審判役として名乗りを上げ、特にもったいぶることもなくすぐさま開始の合図を告げる。

 

 いくら冷静さを欠いているとはいえ、心源流高弟でありながらこの場にいる実力者は伊達ではなかった。

 

 本気の言葉が嘘ではないとわかる踏み込みの速さと深さで、男はキルアの眼前に一瞬で到達すると鋭い正拳突きを放つ。

 この段階でも構えてすらいないキルアに多くの者が落胆する中、放たれた拳とともに男の身体がキルアを素通りして地面にダイブした。

 ビスケから告げられた勝負ありの言葉に皆反応が遅れる中、倒れ伏した男が勢いよく立ち上がるとそのまま傾いて再び転がり驚きを顕にする。

 

「マジかよ!? いつ打ち込まれた!?」

 

「あんたの正拳を躱しざまに往復ビンタの要領で顎に2発。しばらく大人しくしてなさい」

 

 あまりに早すぎる決着に大半が絶句して動けない中、道着を着た者の中で無精髭をはやした男が前に進み出る。

 

「お前さんを侮っていたことを謝罪する。悪いがもう一戦俺の相手をしてくれ」

 

 鍛えられた身体つきとはいえ、道着を着た者の中では細身の男を見てビスケが目を丸くする。

 

「久しぶりじゃない、あんたが自分から出てくるなんて珍しいわね。本気が見れるなら数年ぶりかしら?」

 

「勘弁してくださいビスケさん、組手でそこまではしませんよ。発なしの本気でやるぞ、ここの連中は脳筋が多いからそのほうが納得させられる」

 

「オッケー、さっきの奴みたいに吠え面かかないでよ」

 

「それはお前さんの腕次第さ」

 

 男の構えた姿を確認したキルアは、自然体ながらもやや重心を下げて備える。

 

「自己紹介しておこう。俺はイズナビ、これでも師範代を任されている」

 

「オレはキルア。これからよろしく」

 

 不合格になるとは微塵も考えていないキルアの頼もしさに、イズナビは一瞬微笑むもすぐに真剣な表情で構え直す。

 キルアも師匠の一人であるウイングと同じ師範代と聞いて気合を入れ直し、互いの集中とオーラが高まったのを確認したビスケが声を上げる。

 

「始め!」

 

 この一戦が、割ったはずだったキルアの殻を再び割ることになる。

 

 

 

 

 心源流師範代にしてウイングと同期の実力者イズナビ。

 ウイングが指導者として特に優れているのに対し、指導力以上に本人の実力が高いことで師範代の座についている。

 そんなイズナビが、威力より速度とつなぎを重視しているにも関わらずキルアに触れることができないでいた。

 

(小柄でキレがあるとはいえなんて反応速度だ、ここまで躱されるのは記憶にないぞ)

 

 まだ子供のキルアなら威力を下げても十分なダメージを与えられると見越した攻撃すら届かない現状に、イズナビは先が楽しみなような空恐ろしいような複雑な感情を抱く。

 発を禁止していて更にまだまだ慣らしの段階とはいえ、イズナビとしてはすでに組手仲間として歓迎する気しかしていなかった。

 

(ここいらで一段階ギアを上げるか、どこまで出来るのか気になるしな)

 

 手を抜いていたわけではないが、より実戦的思考にシフトして攻めようとした瞬間だった。

 

 弱まった受けの意識を嘲笑うかのように、キルアの抜き手が今まさに眼球へと突き刺さろうとしていた。

 

(ッ!?)

 

 紛うことなき全力の回避と間合いを開けさせるための牽制の蹴り、離れて無傷のキルアに対してイズナビの裂けた右頬から血が滴り落ちる。

 

「目ぇ覚めた? 悪いけどこっちも遊びじゃないんだわ、殺すつもりでいくよ」

 

 据わった目で殺気が漏れ出すキルアを見据え、イズナビは自分がまだまだ過小評価していたことを痛感する。

 

「こっちこそ悪かったな、今やっと追い付いた」

 

 不敵な笑みを浮かべたイズナビから洗練されたオーラが吹き出し、応えるようにキルアのオーラも冷たく研ぎ澄まされていく。

 

 武闘家と暗殺者、異なるルーツを持つ二人の戦いは組手の範疇を超えて加速していく。

 

 

 

 キルアは怒涛の勢いで迫るイズナビの攻撃を捌き避け、時折急所への一撃を放ちながら虎視眈々と機を狙っていた。

 

(ネテロの爺さんとビスケ、レイザーを除けば今までで最強の相手だな。強いけど正直な話ビスケの劣化版か)

 

 真っ当すぎるほど心源流を修めたイズナビは、身体能力においてビスケに遠く及ばない以上劣化版と言われても否定できない。

 これで発を使うならば能力によって差別化されるところだが、純粋な肉弾戦であるため心源流師範代としてのイズナビしか出せない。

 

 それでもイズナビは間違いなく強者だった。

 

 身体能力は同じ師範代のウイングを上回り、心源流の技をそのまま使うのではなく自分の使いやすいように、あるいは戦況によってアレンジする即興性がある。

 攻めと受けどちらも高水準だが、特に相手に攻めさせない攻撃というものに秀でており、相手に受けさせることを強要させるような戦い方だった。

 

 そのイズナビがキルアを捉えきれていなかった。

 

 クリーンヒットはもちろん、まともに受けさせることもできずに試合は進んでいく。

 イズナビを知る者ほど驚きは大きく、更にはキルアの修行を見てきたビスケですら神速(カンムル)を使用しないでここまで動けることに驚愕していた。

 

(なんつーかな、やっぱあれだよなぁ、ゴンのボール補助したのが原因だよな)

 

 レイザー戦でゴンの本気をボールに伝えるための補助は、外さないように狙う必要性から避けることができなかった。

 間違いなく自分を粉砕する一撃にも関わらず、ボールを介するとはいえ当たってから回避しなくてはいけなかったのだ。

 結果としてすべての指を折られこそしたものの、不壊の性質を持つボールが耐えられない衝撃をその程度に抑えることに成功した。

 

(あれに比べればこんなもん、豆鉄砲みたいなもんだ。怖がる要素が微塵もねぇや)

 

 もちろん当たれば大ダメージは確実で、この試合はそのまま押し切られるだろう。

 

 しかし当たらなければどうということはないのだ。

 

 やがてキルアの表情から険しさが抜けていき、余裕を持って避けていた攻撃が徐々に近付いていく。

 数センチが数ミリ、数ミリがミクロン、そして薄皮一枚触れさせる回避とも言えない回避へと突入する。

 

(何なんだこれは、俺は全力を尽くしている、皮膚一枚が遥か彼方のように遠い!?)

 

 もはや最小限以下の動きで躱し続けるキルアの姿は、そこにいるにも関わらずまるで幽鬼のように触れられぬ存在のように思えた。

 

「そこまで! これ以上は本当に組手の域を超えるわさ、キルアの実力を疑う奴はもういないでしょ」

 

 どうやっても攻撃を当てられないイズナビと、当たらなくても攻撃に移る隙を見いだせないキルア。

 レベルの噛合により千日手に入ったと判断したビスケの宣言により、さらなる手札を切ろうとしていた二人は動きを止めて互いに見つめ合う。

 

「あんたみたいなのがいるなら修行が捗るぜ、次はこうはいかせねぇ」

 

「こっちのセリフだな。キルアといったか、組手仲間として歓迎する」

 

 もはやギャラリーの中に、キルアを侮るものは一人もいなかった。

 イズナビの目論見通り、素晴らしい体術とオーラ運用を見せたキルアは諸手を挙げて歓迎された。

 そんな中イズナビと、師範クラスの者達は考えていた。

 

 発を使ったキルアがどれほどのレベルなのかを。

 

 ローティーンでありながら高すぎるオーラ運用技術を見せた以上、発がお粗末などということはありえないのはわかる。

 問題は発を使用したときの向上幅であり、どれだけ本人の戦闘スタイルと噛み合っているのか、相手にしたら厄介なのかで戦闘力に雲泥の差が出る。

 

 その辺りを正しく理解しているビスケとゴン達は、キルアという特大の才能が数段飛ばしで飛躍したことを目の当たりにしていた。

 

 イズナビという最高峰の攻めを完全に回避できる下地を持ちながら、さらなる動きを可能とする神速(カンムル)に加えて正しく雷速の攻撃手段を持つ存在となったキルア。

 それでもまだまだ満足せず試合の反省をしていたキルアを、ゴンが満面の笑みと掲げた手で出迎える。

 

 キルアは悔しいような嬉しいような、複雑ながら悪くないと感じさせる表情で強くゴンとハイタッチした。

 

 

 

 

 レオリオとクラピカもキルアを労い、ゴンの頭からキルアの頭に移ったギンもでかしたとばかりに肉球で叩く。

 キルアとイズナビの組手による興奮も冷めやらぬうちに、ビスケから指名を受けたゴンが鍛錬場に向けて歩き出す。

 今度の子供は何を見せてくれるのか、ゴンを知らない者達の疑問は組手が始まる前に解消される。

 

 歩き始めたゴンの身体は、一歩毎に高く、太く、そして鋼のように引き絞られる。

 ビスケの傍ら、鍛錬場の中心に立つ頃にはイズナビを優に上回る筋肉とオーラの怪物が誕生した。

 

 相手は誰だというビスケの問いに誰もとっさに答えられず、ゴンが盛大な肩透かしをくらうところを一人のピエロが名乗り出る。

 

「はぁい♥」

 

 粘つく声に粘つくオーラ、太陽のような圧と輝きを放つゴンに対し、まるで深海のコールタールのような圧と暗さを放つヒソカ。

 

「実力を確かめるだけならボクが相手でも問題ないよね♦というより今のゴンを他の奴に譲る気はないよ♠滾って滾って仕方がない♥」

 

 許可を得るまでもないとゴンの元へと歩むヒソカを見たビスケは、凄みのある笑みを浮かべるゴンを確認した後ネテロへと視線を向ける。

 

「ホッホ♪良いんじゃないかの、同時に二人の実力が見れるから時短にもなるわい。ただしお前さん等やりすぎそうじゃからな、お互いに発を一つ封印するならこのままヤッてよいぞ」

 

 ネテロの条件を聞いたゴンとヒソカは視線を交わし合い、使わない発を宣言する。

 

「もう戻っちゃってるのを許してくれるなら、オレは貯筋解約(筋肉こそパワー)をこれ以上使わない」

 

「それで構わないよ♥ならボクは奇術師の嫌がらせ(パニックカード)を使わない♠」

 

 ゴンとヒソカは互いに背を向けると数歩分の間合いを開け、向き直ると裂帛の気合とともにオーラを解放する。

 

 二人から吹き出したオーラは、量と強化率はゴン、質と洗練さはヒソカに軍配が上がる。

 

 戦いが始まる前からキルアとイズナビ戦以上の衝撃を受けているギャラリーを無視するように、いざという時は力尽くで止める覚悟を決めたビスケが高らかに告げる。

 

「始め!!」

 

 武神を育んだ聖なる山が見守る中、五分の戦績を崩すべく筋肉とピエロが互いの覇を競い合う。

 

 




 後書きに失礼します作者です。

 原作クラピカの師匠であるイズナビの独自設定を少し語ります。

 クラピカは感覚派ではなく理論派だと思われる中、原作クラピカにしっかりと教えることができた点からイズナビ自身も理論派と考察。
 そうなると独学というより体系化した知識を持っているだろうことと、初登場時道着を着ていたことから心源流出身だと勝手に判断しました。

 そうすると年代的にウイングと同期っぽいなぁと考えたり、作者の中では操作系かなぁと妄想してます。

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