オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第68話 笑う修羅達と振り回される者達

 皆さんこんにちは、腕取れちゃったせいで1日安静を言い渡されて暇なゴン・フリークスです。ギンも組手で高弟の人をぶっ飛ばして認められ、お菓子につられてクラピカ達の女子会に連行されました。

 

 

 

 

 いつになく鬼気迫る表情、そしてとんでもない処理スピードで業務をこなす仕事のできる男アイザック・ネテロ。

 秘書のビーンズに今日のサポート十二支ん“巳”のゲルが驚き見守る中、普段よりさらに時短で仕事を片付けてすぐに電話をかけ始める。

 

「今どこじゃ? 家? 今すぐ来て繋ぐのじゃ。身だしなみ? 40秒で支度しな」

 

 電話を切って立ち上がるとトイレと言いながら扉へと向かい、部屋を出る前に振り返ってゲルに指示を出す。

 

「パリストンが紛れ込ませたワシの認可がいる書類は却下にしとけ。それ以外はお主の見解で判断してかまわんぞい」

 

「わ、わかりました。…え、本当に紛れ込んでる」

 

 ネテロが退室したあと、書類の山から本当に出てきたパリストンの嫌がらせを発見したゲルは目を見張り、却下の判子を押しながらビーンズに問いかける。

 

「ネテロ会長はどうなさったの? なんだかいつも以上に張り切っていらっしゃるし、まるで子供みたいにソワソワしてて可愛らしいわ」

 

 会長大好き集団十二支ん所属とあってもれなく会長信者の一人であるゲルは、若返ったネテロのさらに子供のようなはしゃぎっぷりに頬を染めながら質問する。

 長い黒髪にスラリとした肢体を持つゲルの艶めかしい姿に、いつものことで慣れきっているビーンズはネテロが嬉々として教えてくれたことを話す。

 

「例の組手にビスケさんが来てくれたそうですよ。しかも去年と今年ハンターになった有望株まで連れてきてくれたようで、今日からの鍛錬が楽しみで仕方ないそうです」

 

「まあ、ビスケさまがいらっしゃったの。それであんなに喜ばれてるなんて、…妬いてしまいますわ」

 

 空気の読める敏腕秘書ビーンズは、ネテロのテンションが上限突破している理由がゴンにあることをさり気なく隠して口を噤む。

 ビスケに対してすら嫉妬する十二支んにゴン達の存在が正しく認知されると、一つ星(シングル)とはいえ新参者でしかない彼等の安寧が脅かされると察したのだ。

 

「それにしてもネテロ会長は何方を呼んでいらっしゃったの? しかも遅刻するなんてお仕置きが必要かしら」

 

「勘弁して頂きたい、私は昼前に来るよう指示されていたんです。2時間早く呼び出されるなど想定外もいいところですよ」

 

 ゲルの本気か冗談かわからない言葉に返答したのは、ただの壁に突如出現したドアから執務室に入ってきた若い男性。

 黒髪を七三分けに整えメガネをかけた、スーツの上着を小脇に抱えるビジネスマンといったイケメンである。

 

「あら、ノヴさんじゃないですか。会長の要望に応えるのは全ハンターの責務ではなくて?」

 

「だからこそ40秒で支度してきたんですよ。淹れたてのコーヒーを置いてきてしまったのは痛恨のミスですがね」

 

 メガネを指で押し上げながらため息を吐くノヴは、ゲルがいることを知っていたおかげで無駄な諍いが起きなかったことに胸を撫で下ろす。

 そんな気苦労を正しく理解したビーンズがノヴにコーヒーを淹れながら労っていると、トイレから戻ってきたネテロがノヴを見つけて急かす。

 

「よお来たの! 早速本部道場に繋ぐのじゃ! 早くせんか早くせんか!」

 

「…かしこまりました。ビーンズさん、コーヒーはまた今度いただきます」

 

「すみませんねノヴさん。会長をよろしくおねがいします」

 

 淹れてもらったコーヒーに口を付けることのないまま、ノヴは自身の発“四次元マンション(ハイドアンドシーク)”で扉を具現化すると肩を落として執務室を出ていく。

 ノヴとは逆にウキウキと執務室を出ようとするネテロは寸前で振り向くと、早々にいなくなることに気を落としていたゲルにまた一つ指示を出す。

 

「明日の手伝いもゲルじゃったな、今日より一時間早く来てくれんかの。朝飯でも一緒に食おうや」

 

 返事は待たずに手を振りながら扉をくぐったネテロが四次元マンションの異空間に消え、閉まった扉もすぐになんの変哲もない壁に戻る。

 

「…そんな、ネテロ会長と食事だなんて! 早く終わらせて準備しなきゃ!!」

 

 黄色い悲鳴を上げながら猛然と仕事を片付け始めたゲルの脳内は、明日のネテロとの食事を想像して恋する乙女のように光り輝く。

 

 食事で釣ってさらに早く仕事を終わらせるつもりでいるネテロの考えに気付いたビーンズは、なんとも言えない哀れむ視線をゲルに向けながらも本人が幸せならいいかと気を取り直して己の職務に取り掛かった。

 

 

 

 

 心源流本部にある広々とした道場内は、ネテロがまだ来ていないにも関わらず高弟達が死屍累々の有様だった。

 端からレオリオとサンビカとチードルが傷を癒やし、クラピカとビスケが体力とオーラを回復しているがまるで追い付いていない。

 そんな道場内では今現在、ゴンとヒソカとキルアの3人が三つ巴の組手を行っていた。

 

「いいね、凄くいいよキルア♥まさか君がここまで来てるなんて思わなかった♥」

 

「舐めんなよ変態ヤローが! クソ兄貴の前にテメーを泣かしてやんよ!!」

 

「本当に凄いよキルア!! どうやってここまで強くなったの!?」

 

「お前のせいだよ!!!」

 

 全員道場を破壊しないようにするという枷こそあるものの、ほとんど実戦と言って過言ではない組手は心源流の師範や師範代ですら息を呑むとんでもない勝負だった。

 

 圧倒的フィジカルで全てをなぎ倒そうと暴れるゴン。

 

 室内とあって伸縮自在の愛(バンジーガム)を巣のように張り巡らし、高速移動すると同時に拘束しようと企むヒソカ。

 

 そしてそんな二人の攻撃を完璧に回避し、一撃必殺を狙い電撃で牽制するキルア。

 

 一人に集中すれば当たり前のようにもう一人に隙をつかれ、稀に手を組んでも次の瞬間には敵となる。

 圧倒的に多く被弾しながらも意に介さないゴンと、一切の攻撃を受けずに立ち回るキルアは対照的であり、そんな二人と遊ぶヒソカは満面の笑みでいたる所に罠をはる。

 念で補強された道場が軋んで悲鳴を上げ、限界も近いと判断した最年長ローガンが声を張る。

 

「そこまで!! 今日の午前の部は終了、各自午後に向けて休憩!」

 

 その合図で大人しく組手をやめたゴンとキルアは、近付いてきた師範や師範代と互いに意見交換を行っていく。

 そして軽く汗を流すゴンと肩で息をするキルアに対し、ヒソカはまるで疲労した様子を見せず似合わない爽やかな笑顔で組手を思い返していた。

 

「…ビスケットさん、あいつ等なんなんすか? あんな化け物共が、今まで世界に知られていなかったなんてありえない」

 

 ビスケのクッキィちゃんに疲労回復マッサージを受ける高弟の一人、昨日キルアに惨敗を喫したヤムは折れそうになる心をなんとか保たせて鍛錬に参加していた。

 しかしヤムと同レベルの高弟の多くは昨夜の内にそれぞれ所属する支部に帰還しており、高弟で残るのは実力的にほぼ師範代クラスしかいなくなっている。

 

「プライバシーもあるからぼかすけどね、キルアとヒソカは完全に裏出身だからほとんど知られてなかっただけだわさ。ただゴンに関して言えばあたしもあんたと同じ気持ちよ、どうしてあんなことになるまで知られずにいたのか不思議でしょうがない」

 

 ゴンの実力はビスケとウイングが鍛えたとはいえ、それはあくまでも伸ばしたというのが正しい。

 いわば強者に至る加速装置の役割を果たしただけであり、そういう意味ではゴンは出会った段階で完成していたと言っても間違いではないのだ。

 普通はある程度鍛えた上でしか見えてこない己の芯と到達点が、鍛える前から確固とした形で存在していたとしか思えないあべこべな存在のゴン。

 

「これを言うのは指導者として失格だけどね、ゴンはもちろんあの子達から目を逸らすのは逃げじゃないわさ。あんたも当たり前のように才能があるからね、完全に折れる前に出ていくのも正しい判断よ」

 

 処置が終わって次の高弟に向かうビスケの背中から視線をずらしたヤムは、昨日から仲間入りしたゴン達のことを観察する。

 

 自分など足元にも及ばない実力だと理解させられたゴンとヒソカとキルア。

 

 バカみたいな外科治療速度を誇るレオリオとバカみたいなサポート能力を持つクラピカ。

 

(俺に才能があるのは間違いないんだよな、ただあいつ等が化け物ってだけでさ)

 

 ヤムの実力はすでにゲンスルーはもちろん、幻影旅団の非戦闘員達にも勝てるだけの強さを持っている。

 心源流拳法に数多ある型の中で、特に百式観音の連撃性に傾倒した派閥が編み出した“観音風風拳”。

 観音風風拳の若きホープにしてさらなる発展を確証されているヤムにとって、ゴン達は初めて出会った年下の格上と言ってよかった。

 

(逃げにはならないか。けど、それを決めるのはビスケットさんじゃなくて俺自身なんだよな)

 

 ヤムの脳裏に、昨夜去っていった高弟達の表情が浮かび上がる。

 その表情に理由もわからず怒りと焦りを感じたその意味を、ゴン達を観察していたヤムは心折れる前に気付くことが出来た。

 彼等はこれからも鍛錬は続けるし師範を目指すと言いつつ、武闘家として一番大事なものが抜け落ちてしまっていた。

 

 世界で一番強くなるという目標をなくしてしまっていた。

 

 そこに気付いてから周りを見れば、師範の中にもゴン達を敵わぬ相手と諦めた者達が目に映る。

 ヤムは己の両頬を力一杯叩くと、どこまでもまっすぐ上を目指すゴン達を見据える。

 

(ふざけんなよ、俺は逃げねえ! 今は敵わなくてもこれからだ、これから俺はもっと強くなってやる!!)

 

 目をギラつかせたヤムは立ち上がると、速さという点で最も優れているように見えたキルアへと駆け寄って意見交換に加わる。

 

 そこに年下だからと侮る感情はもちろん、教わることに対する恥の感情すら一切ない。

 

 天才として強者へのエスカレーターに乗っていたヤムは、武を学んでから初めて己の足で階段を駆け上がり始めた。

 

 

 

 

 ネテロが本部道場を訪れる時間は決まっていないが、最近はほぼ午後すぐに来ることが多くなっている。

 それ故に本部道場にいる者達は、ネテロ来訪後すぐに組手を行えるよう準備するようになり、いつしか昼食をかなり早い時間に食べるという生活習慣が出来上がっていた。

 

「なんじゃい、せっかく早く来たのに待ちぼうけかよ。朝から楽しそうなことしといてつまらんのう」

 

「そう思うなら次からはちゃんと連絡よこすわさ。こっちだってジジィのために予定組んでんだからね」

 

「…無駄にしたコーヒー達が報われませんね」

 

 人によっては朝食と言えそうな昼食を食べていたゴン達のもとに、人騒がせな老人が突撃してきたのは誰もが半分ほど食事に手を付けたタイミングだった。

 急なネテロ到着に驚き組手を開始しようとした心源流の者達だったが、医療班筆頭のチードルが1時間の食休みを入れなければ許可しないと断言する。

 さらにこの場で最もネテロに対して遠慮のないビスケがネチネチと説教をし、なんとも言えない空気となりながらも束の間の休息は守られた。

 

「会長の仕事はそんなに暇なんかな? いくらなんでも終わらせて来るには早すぎるだろ」

 

「まあデカい組織だからな、仕事の割り振りがしっかりしてるってことだろ。クラピカそっちのソース取ってくれ」

 

 多くあるテーブルの一角を占拠するゴン達は、他の者が引くレベルの大量すぎる料理を喋りながらも最低限のマナーはなんとか保って胃袋に詰め込んでいた。

 明らかに燃費が悪いとわかる筋肉ダルマはもちろん、元々が大きいギンに育ち盛りのキルア、そして大量のオーラを使い続けるレオリオとクラピカも常人の数倍の量を無理なくたいらげる。

 ゴン達の食事風景をニコニコと見守るヒソカが最も少食という、頭が混乱する光景が広がっていた。

 

「せっかく早く来たのに無駄足じゃのう、お主等は楽しそうなことしとったらしいし」

 

 ビスケの説教から解放されたネテロがゴン達のテーブルに近付くと、まだ誰も手を付けていなかったデザートの点心を一つ口に放り込む。

 そのまま新たな椅子を持ってきて座ると、ハンター試験以来のヒソカとの会話を始める。

 

「なんとまぁ、お主がそこまで化けるとは夢にも思わなかったわい。変わったわけでもないようじゃし、やっと見つけることができたってことかの?」

 

 昨日の組手を見たネテロは、一年ぶりに見るヒソカがハンター試験の時とは別次元の強さを持っていることを知って驚愕した。

 しかも全方位に喧嘩を売るような全身凶器といった印象が鳴りを潜め、その狂気は一つの大きく尖すぎる凶器となって磨かれている。

 

「退屈しない最高の子達がいるからね♥まあここまで骨抜きになるのはボクも予想外だったけど、悪くないどころか最高の気分だよ♥」

 

 ゴン達を厭らしい笑みで見つめるヒソカと、獰猛な笑みで返すゴンに嫌悪感丸出しのキルア達。

 ちょっと思っていたのとは違ったが、ネテロはゴン達の姿にかつての好敵手達を重ねていた。

 もはや生きている者も少数で、現役でいる者など片手の指でも多い彼等を懐かしく思い、新たに好敵手へ加わった元気すぎるゴン達に心の中で感謝を送る。

 

「さて、昨日はもう遅かった故にお開きとなったが、今日の鍛錬はまずお前さん等に頼もうと思う」

 

 ネテロの言葉にゴン達は望むところだと気炎を上げ、様子を窺っていた者達が驚愕する内容が告げられる。

 

「ゴンにヒソカ、そしてキルア3人とワシの3対1、ただし互いに全力じゃ」

 

 それは組手の範疇を超える宣言、この場の誰も体験したことのない未知の領域。

 

「百式観音、小童共に味わわせてやるよ」

 

 三種の修羅が凄惨な笑みを交わす中、巻き込まれた修羅見習いは一人盛大に顔を引き攣らせた。

 

 




生まれて初めてツイッター始めます。嘘じゃないヨ

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