オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第71話 暗躍する者と利用される者

 

 

 皆さんこんにちは、毎日が組手と鍛錬のゴン・フリークスです。それとなくカイトに連絡したけど特に何もなかった、キメラアントはまだ来てないのかな?

 

 

 

 

 ハンター協会最高幹部十二支ん、その中で今最もネテロに関わっている三つ星(トリプル)ハンター“チードル・ヨークシャー”。

 やや柔軟な思考に欠けるものの、高い知性と思考能力が売りの彼女は日々ぶち壊される常識にもはや諦めにも似た心境を抱いていた。

 

 まだ念を覚えてから2年と経っていないにもかかわらず、外科治療の分野で自分はおろかサンビカ・ノートンすら上回るレオリオ。

 

 レオリオの相方にして広すぎるサポートを行えるばかりか、特質系能力でさらなるブーストすら可能とするクラピカ。

 

 サポート係の二人ですら頭がおかしくなりそうだというのに、戦闘分野の三人はさらなる気狂いさを見せ付けている。

 

 もはや神速を超えているのではと思わせる速度とキレを駆使し、ギャラリーどころか誰の目にも映らない動きをするキルア。

 

 常にどこか余裕があり、タイマンならネテロすらあしらっているように見えるヒソカ。

 

 そして身体能力とオーラの質、オーラ総量で人外の域に達しているゴン。

 

 全員がそれぞれの分野でチードルを完全に上回っており、半数以上が念の初心者という明らかな異常事態は時代の変化を如実に表していた。

 

(久しぶりに街に戻ったけど、特にやることもないのよね。協会に行って仕事しようとしてるあたり、我ながらワーカーホリックね)

 

 レオリオとクラピカという、規格外のサポートが加入したことで降って湧いた休暇。

 先にサンビカが休暇を満喫し、続いて休みとなったはずのチードルは自然とハンター協会に足を運んでいた。

 もともと出来る仕事は心源流道場でこなしていたこともあり、特別することもないのに散歩のような感覚でビルへと入っていく。

 

「ややっ! これはチードルさんお久しぶりですね、お元気ですか?」

 

「…たった今気分が悪くなったわ→子」

 

 チードルは建物に入った直後、暇だからといって協会を訪れた自分の選択を後悔した。

 入り口に入ってすぐ、広いフロアにさも偶然居合わせたといった体で十二支んの嫌われ者パリストンがチードルを出迎えていた。

 ただでさえ多忙な副会長の仕事に加え、会長権限の一部を手に入れたパリストンが偶然入り口のフロアをうろついているわけがないのだ。

 

「これといった用があるわけじゃないけど、時間を無駄にしたくないの。さっさと用件を言って→子」

 

「そんな邪険にしなくてもいいじゃないですか、先日サンビカさんにも会いましたが逃げられちゃいましたし」

 

 パリストンのあまりにもわざとらしい落ち込み具合に、気が長い方でもないチードルは早くも苛つき始めるが副会長という一点を鑑みて耐える。

 面白くもない話を聞かされた後、パリストンはやっと思い出したと言いながらいくつかの書類を取り出した。

 

「こちら私の権限で処理してもいいんですけど、一応ネテロ会長の許可を得ようと思いまして。最近私の気配に気付くと逃げちゃうんですよねぇ、チードルさんから渡してくれませんか?」

 

 チードルは手渡された書類全てにざっと目を通し、ネテロから言われていたパリストンへの対応を実行する。

 

「問題ないわね→書類。私から見てもあんたの権限内だから処理していいわ→子」

 

「おや? 良いんですかネテロ会長に見せなくて」

 

「そのネテロ会長から言われてるのよ→子。権限を逸脱してなければ許可するようにって→書類」

 

 書類を返したチードルはこれ以上相手をしたくないと足早に去り、その場に取り残されたパリストンはいつもの笑みで声を上げる。

 

「しっかり見せましたからね! ネテロ会長にちゃんと伝えてくださいよ〜!」

 

 無視して廊下の奥に消えたチードルを最後まで見送り、一人取り残されたパリストンは暗く嗤って繰り返す。

 

「ちゃんと許可は取りましたからね? これはあなたの決定ですよネテロ会長」

 

 いくつもある書類の中の一枚、“未知の生物への対応策”に書かれた内容がこれからの流れを変化させた。

 

 新たなおもちゃを求める鼠が、さらなる病を得ようと暗躍する。

 

 

 

 

 

 もはや日課となった組手の終了間際、この日は誰もが気になっていたことの検証を行うためにゴンとナックルが相対していた。

 

「…なあゴン、本当にお前なんなんだ?」

 

 ナックルの発“天上不知唯我独損(ハコワレ)”は、端的に言えばオーラを貸し付けて破産させる能力。

 相手に攻撃を当てることでポットクリンというマスコットを付与、十秒一割(トイチ)で利息を加算していき破産したら30日間の強制絶状態とする。

 

「もうポットクリンが破裂しそうじゃねえか!? お前どんだけオーラ総量多いんだよ!」

 

『時間で、す、利息、が、付きます、564104…』

 

 本来ぬいぐるみサイズで可愛らしいデザインのポットクリンが、今にも破裂しそうなパンパンの状態でゴンの横で浮かんでいる。

 にこやかな表情はこころなしか苦痛に喘いでいるように見え、このままではゴンが破産する前にパンクしてしまいそうにすら思われた。

 

「んー、なんとなくまだ余裕ある気がするんだよね。これだけ総量があるならもっと出力上げていかないともったいないや」

 

「お前マジで人類辞める気か?」

 

 どれだけ組手をしてもレオリオに分けても一向に底の見えないゴンのオーラ、この上限を知るべくナックルのハコワレを使って判明したのは規格外でも足りないオーラ総量だった。

 もはや人類かも怪しいオーラの理由は、ゴンが常に発動し続ける筋肉が先かオーラが先か(パーフェクトコミュニケーション)にある。

 今のゴンの筋肉とオーラは、常人どころかネテロですら鍛える余地がないレベルに達しており、本来は負荷をかけようにもかけられないはずなのだ。

 その不可能をゴンは筋肉対話(マッスルコントロール)で解決し、筋肉とオーラの負荷を互いにかけ合わせることで成し得ないはずの負荷を自身に課して成長し続けている。

 

 ゴンが持つ真の才能といえる、身体的器の巨大さ故に辿り着けてしまった極致だった。

 

「こうして数値化してみると改めて冷や汗が出るね♥長期戦は絶対に無理、出力が更に上がったらそもそも掠っただけで耐えられない♠」

 

「どんだけ避けてもこっちの体力とオーラが先に尽きるしな、やっぱゴンに勝つには貫通力しかねえか」

 

「同感♥」

 

 共にゴンを好敵手として定めるキルアとヒソカの共通認識、それは短期決戦と馬鹿げた防御力を抜くための貫通力。

 ヒソカは奇術師の嫌がらせ(パニックカード)含めていくつか手段があるが、キルアはまだ超電磁砲(レールガン)しか有効と思われる手札がない。

 キルアは回避力に限ればすでにヒソカを超えたと言えるレベルに達したが、やはり攻撃力の低さゆえに総合力はまだまだ後塵を拝していた。

 

「駄目だ、もうこんなポットクリン見てられない! ハコワレ解除!!」

 

『じ、か、ん…』

 

 最終的にナックルが能力の限界を本能的に察し、60万を超えた辺りでハコワレを解除する。

 

「あ~、最後にゴンのジャンケンくらってほしかったんだけどなぁ。ダメージなくてもどんなことになるのか見てみたかったぜ」

 

「キルアくん俺に死ねって言ってる?」

 

「いや、俺も見てみたかった」

 

「同じく」

 

「シュートに師匠まで!?」

 

 ギャーギャーと騒ぐナックル達を意に介さず、ゴンは己の拳を見ながら思考を回す。

 結果的にとてつもないオーラ量を持っているとわかったことで、今のオーラ出力に物足りなさを感じてしまったのだ。

 確かに今の時点で攻防力は破格の一言であり、ガス欠を一切気にしないでいいというのも間違いなく長所である。

 

(けど足りない、目指す最強(ゴンさん)はきっともっと凄いはずだ)

 

 これはある意味呪いと言える。

 

 ゴンの記憶の中にいる最強(ゴンさん)は、強さの明確な指標というものがない。

 あるのはあくまで凄いという曖昧な印象でしかなく、極論を言ってしまえば満足しない限り一生辿り着けないのだ。

 超えたのかどうかを判断できるのも全てを知る創造神のみであり、もしかしたらもう超えている可能性もないわけではない。

 

(まだまだだ、こんなにやらなきゃいけないことがポンポン出てくるなんて足りなすぎる。もっと、もっと鍛えなきゃ!)

 

 決意を新たにしたゴンから、とんでもない圧とオーラが溢れる。

 ゴンの中の最強(ゴンさん)がもはや神格化されているため、満足するという結果は一生やってこない。

 

 そして念とは願いを叶える力、ゴンは自分がゴンであると認識している以上、到達点(ゴンさん)に至れることを欠片も疑っていない。

 

 超えるか超えないかは些細な問題なのだ、確かな事実として人類を超越しかけた化け物が成長を続けるのが問題なのだ。

 

 必死に追いつかれまいとする者達、必死に追い縋ろうとする者達が諦めたとしても、筋肉は一切止まることなく鍛え続ける。

 

 筋肉が鍛えるのを止める時、それは心臓という筋肉が止まるまで訪れることはない。

 

 

 

 

 

 人がほとんど寄り付かない、海に面した天然の洞窟。

 波の中から現れたのは、人と大差ない体格をした一匹の昆虫。

 腕が一本欠けたこの虫は、大きさに見合った高い知能を持つ脳で、自分の役目を正しく理解する。

 

『私は、強い王を産む』

 

 とある大陸で細々と暮らしていた女王は、ある日知らぬ間に捕らえられ船で運ばれていた。

 そこからなんとか逃げ出した彼女は本能のままに海へと飛び込み、無事に自由の身となって陸地に辿り着くことができた。

 

『ただの王ではない、ナニモノにも負けぬ、この世の全てを統べる王だ』

 

 栄養補給のため、波打ち際の魚や甲殻類はもちろん飛び交うコウモリや小鳥など手当り次第に貪り食う。

 人に匹敵する頭脳と昆虫としての身体能力は、子を成すための女王とはいえそこらの猛獣以上に厄介な存在となる。

 

『エサだ、栄養と強さ、最高のエサを探すのだ!』

 

 王を産むための環境づくり、女王が人知れず行動を開始し、悪意が彼女を後押しする。

 

 人類に新たな災厄が迫る中、哀れな仔羊達が死地へ向けて歩み始めた。

 

 





 後書きに失礼します作者です。ちょっとした補足説明します。

 今作ではキメラアントは暗黒大陸産で、パリストン等の手によって持ち込まれたものとしています。
 理由として明らかに水生昆虫ではない女王が腕一本の犠牲で辿り着けるとは思えず、空を飛ぶための翅もなさそうなので近場まで運ばれたと考えてます。
 逃げられたのかあえて逃したのか、パリストンだけが知っています。

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