オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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 前書きに失敗します作者です。
 リアルが忙しくなってきたため、早くもない更新がさらに遅くなると思われます。
 読んでくださる皆様、感想評価に誤字報告くださる皆様のために完結は約束するのでお待ちいただけたら幸いです。


第72話 動く情勢と新たな力

 

 “暗黒大陸”とは、世界でもごく一部の人間しか知らないトップシークレット。

 世界地図と言われている範囲が一つの湖の中という規格外にも程がある本当の世界は、人類がここまで繁栄したことが正しく奇跡としか言いようがない危険に満ち溢れている。

 今まで世界が挑みまるで歯が立たずに惨敗し続ける歴史の中には、若かりしネテロも含まれていると言えばその脅威の一端を知ることができる。

 

 そんな暗黒大陸の災厄の一つに、危険度としては決して高くない分類の亜人種としてキメラアントが存在する。

 

 摂食交配といわれる、食べた生物に応じた子を成すという特異性を持つこの昆虫は、過去に人間を取り込んだことで高い知能と人間大のサイズを持つ。

 女王がコロニーを造り王を産んだ場合の危険度は高いが、一国を滅ぼしかねないという暗黒大陸にしてはかなり易しい存在である。

 

「本当によかったのかよ、あんだけ苦労したのに捨てちまってさ」

 

「全て予定通りですよ。“案内人”さんもキメラアントくらいなら好きにしていいと言っていましたからね、誠心誠意お願いすればなんとかなるものです」

 

 ハンター協会にある副会長室では、パリストンが一人で姿の見えぬ誰かと会話していた。

 パリストンすら名前も顔も知らない共犯者は、こと潜入や隠密に関して言えば世界最高の能力者であり、莫大な金銭と共通の目的のために手を取り合う間柄だった。

 

「じゃあ俺はボスのとこに戻るからよ、またなんかあれば呼びな。しかしまた俺ばっかり暗黒大陸行ったことネチネチ言われるぜ、まったく律儀なんだか頑固なんだか…」

 

 そして声が聞こえなくなり、もとから無かった気配を改めて探ったパリストンは必要のなくなった契約書を完全に処分する。

 

(やはり彼は優秀ですね、暗黒大陸に単身で乗り込んで必要な情報を手に入れられるんですから)

 

 世界のトップ達が渡航を禁止し、見つかり次第始末される現状でもやりようはいくらでもある。

 大前提として少数精鋭による隠密行動が必要であり、今回の渡航もわずか10人による挑戦だった。

 目的が比較的安全なキメラアントだったとはいえ、成功した最大の理由はキメラアントの生息地や捕獲に適した個体の調査などを万全に行ったからだ。

 

(“観測者”、戦闘力がないとはいえ規格外にも程がありますね)

 

 そんな世界最高の隠密系能力者でも危険な暗黒大陸、そしてしっかりと認識してくるという“案内人”、パリストンが計画して実行した15回の挑戦の内8回失敗しているのも納得の人外魔境である。

 

(そして僕が調べられた範囲で、ジンさんは5回単独で渡航している。本当にふざけた人ですよ)

 

 パリストン自身は暗黒大陸に渡ったことがない、自分で行くには上の立場になりすぎているからだ。

 自分で選抜した猛者達、そして協力者の持つ人材を使っての挑戦は開始当時失敗が続いた。

 “案内人”の性質を理解するのと、協力者の持つ切り札の一人“観測者”を借りられなければ成功率は半減していただろう難易度。

 多くの金銭と人材を失って行う挑戦は、協力者の野望とパリストンの遊び心が続く限り何度でも行われる。

 

(今回のキメラアントはどうなりますかね? 是非とも楽しんでもらいたいですが、手遅れになるのもまた一興ですね)

 

 一瞬で解決されてもいい、実力を上げる糧となってもいい、力及ばず死んでしまってもいい。

 

 パリストンは結果にこだわらない、すでに目的は達せられているのだから。

 

 全ては一番のお気に入り、アイザック・ネテロにちょっかいをかけるため。

 

「楽しんでくださいネテロ会長、あなたの笑顔も怒った顔も大好きですから。…きっと死顔も大好きになれます」

 

 窮鼠猫を噛むどころか、その刃は観音にすら届き殺しうる。

 

 歪んだ鼠は今日も愉しく、己の大事なもののために暗躍する。

 

 

 

 

 

 複数の国が集まって形作るミテネ連邦。

 世界地図で言えば西南端に位置するこの地に、与り知らぬところでトップハンター達に名が知られ始めたカイトがいた。

 つい先日にカキン帝国で受けた動植物の調査依頼を完遂したカイトは、仕事柄よく意見交換を行うとある研究グループからの指名で仲間と弟子を連れ遥々ミテネ連邦を訪れている。

 

「これが海岸で見つかったのか、明らかにでかい上に水生昆虫のものでもないな」

 

「まだ詳細なデータは出ていませんが、わかっている範囲ではキメラアントと多くの共通点が見つかっています。ただこの大きさとなると、最悪の場合街どころか国が危険になりかねないかと」

 

 カイトの目の前にあるのは、ケースに入った昆虫と思われる一本の腕。

 発見からこの研究グループの元に来るまで数日かかったらしいが、特に傷んだ様子もなく素人でもその危険性を推し量れる迫力があった。

 研究者の懸念はカイトの見立てでも正しく、何より見つかった場所が厄介だった。

 

「見つかった海岸付近の海流から見て、本体が流れ着いたとしたらどこの可能性が高い?」

 

「…NGL自治国です。だからこそ我々が連絡を取れる中で最強のカイトさんを呼ばせていただきました」

 

「…あの国か、そいつはまずいな」

 

 研究者共々顔をしかめたカイトは、本気で一国が消え去る可能性を念頭に置いて思考を続ける。

 

「わかった、今すぐNGLに向かう。国境付近に俺の仲間を待機させるから、何かあればすぐに連絡を取り合おう」

 

「了解しました。くれぐれもお気をつけて」

 

 頭を下げる研究者に頷くと、カイトは待たせている仕事仲間と弟子の待つ部屋へと向かった。

 

 

 

「というわけでポックルとポンズは俺とNGL入り、リンとポドンゴはこの研究所の手伝い、残りは国境付近でサポートを頼む。今回は特に危険度が高い、退き際を間違えるなよ」

 

 カイトの言葉に殆どの者が頷く中、丸く大きな帽子が特徴の美少女ポンズが小さく手を挙げる。

 

「あの、ポックルはわかるんですけど私もですか? 間違いなく足手まといになると思うんですけど」

 

「今回はあくまで調査が目的だ、戦闘は最小限しか考えていないから問題ない。ポンズの索敵や連絡手段があったほうが助かる」

 

「いざとなったら俺と師匠が守るから心配すんな!」

 

 ゴン達と一緒にプロハンターとなったポックル、そして同じ試験で不合格になったポンズはひょんなことから行動を共にするようになり、二人してカイトの弟子として様々なことを学んでいた。

 

「他に何かあるやつはいないな? 事は一刻を争う、NGLに向かうぞ」

 

 すぐに行動を開始したカイト達は2日後国境に辿り着き、入国するための厳重すぎる検査を受けていた。

 

 

 

「別にギミックがあるわけでもない普通の太刀なんだが駄目なのか?」

 

「金属製の武器は許可出来ません」

 

「この弓は化学製品を使ってないのか?」

 

「それは弾骨熊の骨と海竜の腱から作った天然物だ、ちょっと調べてもらえばわかるはずさ」

 

「ちょっと!? 危ないから雑に扱わないでって言ったじゃない!」

 

「素晴らしい!! 完全に天然素材だけでコロニーが作られている、こんな帽子は初めてだ!」

 

 NGL、ネオグリーンライフ自治国は徹底的に機械文明から脱却した自然主義国家である。

 生活は完全に自給自足、自然災害や獣の大量発生などがあってもそのまま死ぬのが本来の姿と諦める。

 そんな行き過ぎた国の国境は、超ハイテク技術を駆使して機械等の侵入を防ぐことに注力していた。

 

「太刀も駄目だったのは予想外だったが、ポックルの弓とポンズの帽子がセーフだったのは助かるな」

 

「師匠の戦力はあまり変わりませんからね」

 

「私はこれ取り上げられたら役立たずだったしよかった」

 

 監視も兼ねたガイドが目を光らせるのを感じながら、ポックルとポンズは持ち込めた自分達の装備を入念にチェックする。

 ポックルが持つ弓は念を修得した記念にカイトから譲られた逸品であり、実力に見合っているとは言えないながらも使いこなそうと日々大切に扱っていた。

 ポンズの特徴的なまん丸帽子は彼女の特別製で、なんと帽子の中が猛毒を持つ気性の荒い蜂の巣になっている。

 様々な薬品やフェロモン、念を修得してからは発も駆使しているこの帽子は師匠のカイトからしても驚くべきアイテムである。

 

「よし、じゃあガイドさん、ここから一番近い集落に案内してくれ。その後は徐々に奥に入っていく」

 

「わかりました、ではついてきてください」

 

 カイト達は全員馬にまたがると、ガイドの案内でNGL内部を進んでいく。

 

 多くの変遷を経て、旗だらけの3人が死地へと足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

「率直な評価を聞きたいのじゃが、ワシはヒソカに勝てるかの?」

 

「無理でしょうね、正直ゴンすら怪しくなってきてるわさ。タイマンで確実に勝てるとしたら、もうキルアだけじゃないかしら」

 

 本部道場から戻ってきたネテロの自室、ハンター協会会長としては質素にすぎるその部屋でネテロとビスケが軽い酒盛りをしながら会話していた。

 会話の内容はゴン、ヒソカ、キルアの3人についてであり、その実力の伸びに対する愚痴とも言えた。

 

「全員ハンター試験で会っとるはずなんじゃがなぁ、マジで別人にしか見えないとかワシもついにボケたかもしれん」

 

「それなんだけど本当にヒソカもそんなに伸びてるの? あたしが初めて見た時からは確かに伸びてるけど、それでも別人とまではいかないわさ」

 

 元々世界最高レベルの強さを誇っていたヒソカの急激な成長、ネテロはそれを目の当たりにして、ビスケは信じられないが故に大きな驚きを感じている。

 

「間違いなくゴンの影響じゃな、以前の素行を鑑みるに精神的に満たされたんじゃろう。あやつのハンター試験後の行動を調べてみたら、お前誰じゃとしか言葉が出てこなかったわ」

 

 調べられる範囲で調べたヒソカの情報は、快楽殺人に興じていたはずの以前とはまるで違っていた。

 そもそも幻影旅団を一網打尽にした際もゴン達にしっかりと協力しており、ハンター試験前のヒソカに教えても確実に信じないと断言できる変化。

 

 遊びと狩りに夢中だった強いだけの死神は、いつの間にか最強の変態ピエロにジョブチェンジしていた。

 

「ヒソカもそうだけどゴンも本当にやばいわさ、百式観音の相性が悪い相手なんて想像してなかった。あの二人に関して言えばまだあたしのほうがジジィより相性よさそうね」

 

 強化率200%でカッチカチなゴンに、打撃にバカみたいな耐性持ちの伸縮自在の愛(バンジーガム)を使いこなすヒソカ。

 

 百式観音に頼らざるをえない老いたネテロでは、伸び続ける若木の成長速度についていけなくなっていた。

 

「老いもまた武術において大事な要素、そう言ってた頃の自分をぶん殴りたいわい。…悔しいな、奴等の若さが羨ましいとは」

 

 そこそこ酒の入ったネテロの弱気、その姿は普段雑に扱いながらも慕っているビスケにとって看過できないもの。

 懐から瓶を取り出すと、静かに机に置いてネテロへと押し出す。

 

「ゴンの父親ジンが作ったグリードアイランド、そのクリア報酬“魔女の若返り薬”だわさ。一粒飲めば1歳若返る錠剤が、瓶の中にあと50錠入ってる」

 

 据わった目をしたネテロがビスケと瓶を交互に見たあと、その意味を問いただすようにビスケを見据える。

 ビスケがキルアに啖呵を切ったように、ネテロもまたこれまで鍛えてきた時間に誇りを持っている。

 

 これまでの自分を否定しかねない、念能力者として致命的なダメージを負う可能性があった。

 

「ジジィに渡すか悩んだんだけどね、少なくてもあたしが持ってるよりはいいわさ。使う使わないは自由、ただあたしは、強い師匠の姿を見たいの」

 

 自分の酒を飲み干したビスケは立ち上がると扉へ向かい、部屋を出る前に振り返って笑う。

 

「今の師匠ならそれを使っても大丈夫。昔の身体能力に今の技術があれば無敵よ、あなたにはまだまだあたし達の高い壁でいてもらわないとね」

 

 酔っちゃったと呟きながら出ていったビスケから瓶に視線を移したネテロは、薬を見つめながらも全く違うことを考えていた。

 

 百式観音におんぶにだっこな老いた身体。

 

 百式観音の圧縮は無理だったが、威力や速度を上げることには成功した事実。

 

 ビスケの語った全盛期の身体能力に今の技術力という夢物語。

 

「…なんじゃ、思い付いてみれば簡単なことじゃな。新しいことをするのはジジィには難しいが、できることを工夫するのは年の功じゃ」

 

 魔女の若返り薬を手に取ったネテロは棚の中にしまい、もしもの時は使うことを決めながらも意識の外に押しやる。

 

「そうじゃったな、ワシの原点は…、オレは誰にも負けたくないんだ」

 

 ネテロは床で座禅を組むと静かに祈り始める。

 

 その心には殺してでも勝ちたいという物騒なことを考えながらも、今いる強敵達、慕ってくれる弟子、強くしてくれた武に対する感謝の念で溢れていた。

 

 何よりここまで鍛えてきた自分自身、これまでの人生に敬意と誇りを強く認識した。

 

 他人が観音を幻視したことで今の形となった百式観音、ネテロは今初めて、自分の望む姿を形にするべく感謝の祈りを捧げる。

 

「はじめましてか、それとも久しぶりか? どっちでもいい、オレはタイマンで誰にも負けたくねえ!」

 

 祈るネテロの見つめる先、オーラが揺らいで一つの形となる。

 

「“百式観音・祈祷式 真の像”ってとこか? いこうぜ相棒(オレ)、アイザック・ネテロこそが最強だ!」

 

 歯を剥き出して嗤うネテロに応えるように、全盛期の修羅が満面の笑みで拳を天に突き上げた。

 

 

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