オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第73話 強まる脅威と迷わない者達

 

 

 NGLの奥地で建造の始まった、女王が王を産むための最終拠点となる蟻塚。

 最も安全な最奥の間で一心不乱に食事を続ける女王は、日々運ばれてくる餌の質にその心と腹を満たされていた。

 

(この素晴らしい栄養価を持つ人間、強い兵が産めるのはもちろんだが賢くなるのが実に良い。まさかこれほど早く良い環境に巣を造れるとは思わなかった)

 

 兵隊アリを産みだしてからすぐに見つけた人間は一定以上の数がいることとその弱さ、何より栄養価の高さから最優先に選んだ餌だった。

 稀に強い個体もいるのか兵の被害もそこそこ出ていたが、最初期に比べ強さを増した兵隊アリ達は問題なく人間を調達し続けている。

 

(そして時折混ざるこのとんでもないエネルギーを持ったレア個体、強い王を産むための最高の餌だと本能が告げている!)

 

 世代を経るごとに数と強さを増していく兵隊アリは、パリストンが定期的に送り込む弱小能力者や新人ハンターでは対処できないレベルと数に達していた。

 重火器を持たないNGLの国民はもちろんのこと、武器を持つ者や念能力者も等しく狩り取られ餌として女王に還元されていく。

 

 女王は今まさに、我が世の春を謳歌していた。

 

(しかし惜しいことをした、まさか最初に口にした人間がレア個体だったとは。私のエネルギーになどしなければ、王の誕生がさらに早まったものを)

 

 女王は初めて人間を食した際、その高い栄養とエネルギーを母体たる己の強化に使用した。

 王を産むことこそが至上命題の女王にとっては失敗だったが、大局的に見た場合最善の選択を取ったと言える。

 

 弱小とはいえ念能力者を取り込んだ女王の身体は、より強い兵を、より強い王を産むための母胎がより高みへと押し上げられていたのだから。

 

(餌の供給も兵隊アリの数と質も軌道に乗った。これから王直属護衛軍を産み、そして最強の王を産む!)

 

 そこには悪意も私利私欲も一切ない、あるのは生存競争に勝とうとする純粋な本能だけだ。

 

 ピュア故に強いその想いは、歪んだ想いによって誘導される。

 

 何処の世界でも、底抜けの悪意を持つのは人類だけなのだから。

 

 

 

 

 

「ちょっと前に来てたオジサンのなんだ、次来た人に渡せって言われて…」

 

 小さな少年がカイトに差し出したのは、薄汚れてこそいるものの間違いなくハンターライセンスだった。

 海に程近い集落を訪れたカイト達を見つけた少年は、余所者に対して警戒する大人達の目を盗んでやってきてことの詳細を語る。

 

「レイナと釣りに行こうとしたら、大きいカニのバケモノがいたんだ。襲われそうになって助けてくれて、ぼくは急いで大人を連れて行ったんだけどもういなかったんだ」

 

 あったのは何かが争った跡といくらかの血痕だけであり、村の大人達は大型の獣に余所者が襲われたと判断してそれ以上の捜索を中止した。

 少年クルトと妹のレイナが見たというカニのバケモノも、大人達は見間違いだと取り合わずに流されてしまったと悲しそうに話す。

 

「ぼくもレイナも守ってもらったのに、オジサンに何もできなかった。背の高いおじさんは信じてくれる?」

 

「(おじさん…)安心しろ、俺達は信じる。襲われた場所と、バケモノのことをもう少し教えてくれ」

 

 カイトは襲われた場所を詳しく聞くとポックルを連れて調査に向かい、ポンズにバケモノの詳細を聞くことと他の情報がないか調べるように指示を出す。

 そして現場に到着すると時間が経っているため僅かにしか残らない争った跡を確認した後、カニのバケモノという情報から海岸線へと向かい非常にわかりにくい洞窟を発見した。

 

 洞窟内にあったのは、ほんの僅かな残骸と巣としての痕跡。

 

 短い期間と思われるが、確かにキメラアントがいたとわかる証拠がそこかしこに転がっていた。

 

「ビンゴですね師匠、間違いなく人間大のキメラアントが存在している!」

 

「あぁ、人間を食ったこともそうだが、念能力者を食ったことでどんな進化をしていることやら。あの集落が無事ってことはもう近くにはいないだろうな」

 

 クルトの言っていたオジサンのものと思われる服の切れ端、それを拾ったカイトは名も顔も知らぬハンターに敬意を送る。

 彼はまず間違いなく死んでしまったが、子供を守りキメラアントの情報を残すという仕事をしっかりとやり遂げた。

 この値千金の情報はすぐにハンター協会へ送られ、事態の早期解決に大きく貢献するだろう。

 

(ここから先は危険度が跳ね上がるな、退き際を間違えたら全滅する。…そんな無様は晒せない)

 

 情報を残すこと、守るものに責任を持つこと、名もなきハンターによって大事なことを再認識したカイトは己に活を入れ一層気を引き締めた。

 

「師匠、おそらく20近い兵隊を産んで移動したみたいです。時期的にはクルトくんが襲われた一ヶ月前と大体一致します」

 

「わかった、ポンズと合流してハンター協会に報告する。その後はさらにNGLの奥に入るぞ」

 

 ゴンの紹介から弟子にしたポックルと、意気投合して連れてきたというポンズは二人共幻獣ハンターとして高い素質を見せた。

 このまましっかりと育てれば実力はもちろん、ハンターとしてかなり有能な存在になるという確信がカイトにはある。

 

(俺は幻獣ハンターだ。いざという時は荒事専門、ゴンに連絡する)

 

 強者としての自覚と誇りを持ちながらも、カイトが幻獣ハンターという己の本分を見失うことはない。

 世界最強、男なら心を惹かれて当たり前の称号に一切興味がないからだ。

 当時まだ10歳ですらないゴンに器の違いを見せられ、修羅道から足を洗っている故に。

 

(たまに連絡は取ってるが、今どんな化け物になってることやら。見るのは怖いが、基礎を教えた手前興味はあるんだよな)

 

 カイトは知らない。

 

 化け物になると確信したゴンが、想定の数倍の速度でパンプアップしていることを。

 筋肉ダルマによる暴虐の一端を担ったのではないかと、責任問題に巻き込まれかけているということを。

 

 しかしカイトは知っている。

 

 幻獣ハンターの自分が発見してきた生物の中で、最も珍しくやばいものは何なのかを。

 筋肉ダルマのスタートに立ち会ったからこそ誰よりも早く脅威を認識し、手に負えない案件があった場合ぶん投げればいいことを。

 

 世界で一番最初に筋肉を認知した被害者は、ハンターとして仲間を頼ることを厭わない。

 

 

 

 

 

 ハンター協会にある副会長室で、今日も愉しく暗躍するパリストン。

 足がつかぬようにあの手この手で弱小念能力者をNGLに送りながら、つい先程上がってきたハンターからの報告について思考を巡らす。

 

(幻獣ハンターのカイト、ジンさんの弟子で実力も一級品。ここからは時間との勝負ですね)

 

 カイトからの報告書に処理済みの判を押して他の書類と一緒くたにすると、そのまま何事もなかったかのように仕事を続ける。

 

(大きな実績がないためまだ平ハンターですが、実力で言えば間違いなく一つ星(シングル)クラス以上。キメラアントが討伐される前に王の誕生が間に合うか、おそらくは紙一重のタイミングになるはず)

 

 歪みながらも、あるいは壊れているからこそ優秀すぎる頭脳を持つパリストンは、一切目にしていないにも関わらずキメラアントの規模や強さをかなり正確に把握している。

 しかし常人では考えられない精度で推測できている中で、一つだけ読みきれずにズレが生じる要素があった。

 

 キメラアントの女王が最初に口にした人間が、念能力者だったという不幸な奇蹟を予測することができなかった。

 

 犠牲になったハンターがたまたま別件でNGL入りしていたこともあり、さすがのパリストンも女王の母胎としての強化幅をかなり低めに設定してしまう。

 

(かなりの数を喰わせましたからね、親衛隊でしたか? その個体達の働きに期待するとしましょう)

 

 キメラアントにおいて王を除き最高戦力たる王直属護衛軍、彼らの強さは約束されていたがその下である師団長クラスも大幅に強化されていた。

 なんと戦闘タイプの師団長は生まれながらにオーラを纏い、非戦闘タイプも発により特殊な能力を得ているのだ。

 キメラアントに取り込まれた人間の記憶や意識が引き継がれるケースがかなりあったため、念についての基礎知識もかなり正確に把握されている。

 

 数と質が充実したことで、下級兵を強制的に念に目覚めさせる計画も実行されつつあった。

 

 楽園を用意した鼠の想定を遥かに上回る、世界に喧嘩を売れる蟻達が刻一刻と成長し続ける。

 

 

 

 

 

 今日も心源流本部の野外鍛錬場では変わらぬ組手風景が広がっていたが、見守る全ての者がその目を見開き驚愕をあらわにしていた。

 

「ざけんなよジジィ!! 昨日の今日でなんてもん作ってやがる!?」

 

 相変わらずの組手の最中、完全に捕まったキルアは全力で放電することでなんとか拘束から逃れる。

 しかし厳しい目で見つめる相手、ネテロの面影を色濃く持つ筋骨隆々の中年は大して堪えた様子も見せずに佇んでいた。

 

「百式観音・祈祷式 真の像と名付けた。まあ、早い話が全盛期のワシじゃよ」

 

 キルアが相対する百式観音より後方に、弥勒菩薩と同じ体勢で祈るネテロの姿がある。

 その姿は心ここにあらずといった無表情であり、驚くことに言葉自体念獣のはずの百式観音が発していた。

 

「本体のワシが動かず無防備で祈り続ける限り顕現し、射程距離は本体が目に見える範囲ならばどこまでも行けるぞい」

 

 改めて全盛期の身体を確かめるように動かすネテロは、本体に攻撃を行おうとしたキルアの意を察知し未然に防ぐばかりか再びその首根っこを掴む。

 

「楽な方に逃げるでない、この距離で本体に意識を割く余裕などないじゃろ。お前さんは大人しくワシの慣らしに付き合うしかないのじゃ」

 

「わかったから離せチクショー!! 吠え面かかせてやる!!」

 

「ホッホッホッ」

 

 その後全力で百式観音・祈祷式 真の像と戦闘を行ったキルアだったが、普通の百式観音では可能だった先読みや技の間隙をつくことができなくなっていた。

 いくら早いとはいえ決まった型しか持たなかった今までと違い、臨機応変にどんな攻撃でも行ってくることに加え常に最速ではない緩急と虚実を持った動き。

 

 百戦錬磨の老獪さを持つ全盛期の修羅は、タイマンにおいて観音を遥かに上回る強さを発揮した。

 

「ふむ、かなり掴んだの。次はヒソカに頼みたいがどうじゃ?」

 

 神速(カンムル)も雷撃も通用せずいいようにあしらわれたキルアがダウンすると、ネテロは続いてゴンではなくヒソカに矛先を向ける。

 身体能力が全盛期に戻ったが純粋な力は明らかにゴンが上なのを考え、より身体操作を緻密に行えるようにヒソカを相手に選んだのだ。

 

 何より自分より強いだろう相手に、いつまでもデカい顔をさせていられるほどネテロは老成できていなかった。

 

「思った以上だね♠ハンター試験の時はそこまで唆られなかったけど、今のネテロ会長はすごく魅力的だよ♥」

 

 研ぎ澄まされたオーラに重く暗いオーラが蠢き、念獣ネテロとヒソカが鍛錬場で相対する。

 どう低く見積もっても世界トップ5には入るだろう二人の戦闘を、見守る全ての者が欠片も見逃さんと全力の凝で待ち構える。

 

「まだ慣らしが必要でしょ? 付き合ってあげるから早く熟してよ♥」

 

「ちっ、上から目線じゃのぅ。お言葉に甘えさせていただくわいっ!」

 

 始まったネテロとヒソカの攻防は、正しく極めた者同士の至高の芸術だった。

 

 互いにオーラの基本運用と体術のみによる戦闘は、武に携わるものならばどんな手を使っても目にしなくてはいけないすべてが詰まった技術の応酬。

 

 観戦する者達は年配の者ほど滂沱の涙を流し、若輩の者ほど目を血走らせ瞬きも惜しいと記憶に焼き付ける。

 

「カカッ、今のワシ相手でも余裕があるかよ!?」

 

「動きがまだまだちぐはぐだよ♠本体が弱くなったら本末転倒な気もするけど両立できるの?」

 

「いらん心配じゃ!」

 

 加速していく戦闘、洗練されていく攻防。

 

 全盛期の身体能力を慣らしている段階のネテロの猛攻は、尽くヒソカに防がれ躱され有効打とならない。

 音速を超える拳打も蹴撃も、物理的に避けられないサイズでなければヒソカは対応できる。

 キルアが手も足も出なかったフェイントや緩急も、卓越した頭脳と常軌を逸した勘により通用しない。

 

 わかりやすい派手さや念能力者らしさは少ないものの、頂点同士の戦いと幼子でも理解できる演武だった。

 

「悔しいなぁ、オレはきっとあそこにはいけないや」

 

「お前があそこにいったら悪夢以外のなにものでもねえよ。オレ達は、オレ達の強さで頂点にいかなきゃなんねえんだ」

 

「うん!」

 

 ゴンとキルアは惑わない。

 

 二つの頂きを目の当たりにして糧としながらも、自分達の至るべき場所は違うと理解しているから。

 

 どんな山でも裾野はつながっているように、強さも始まりは同じでも各々辿り着くべき極みは違う。

 

 ネテロ、ビスケ、そしてヒソカという最高峰を知りながらも、ゴンとキルアは自分達のほうが高みにいけることを信じて疑わない。

 

 改めて下剋上を誓った筋肉と雷小僧は、新たな前人未到となるべく闘志を燃やした。

 

 

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