オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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 前書きに失礼します作者です。

 暑すぎる夏をなんとか越えれそうなので少しずつ投稿頻度を上げられるようにがんばります。

 皆さんも我慢せずクーラー付けて過ごしましょう。


第79話 各地の戦いとコンタクト

 

 

 NGLの中でも二番目に大きく長い河に、海を目指して泳ぐ一体のキメラアントがいた。

 鰐をそのまま二足歩行にしたかのような大型キメラアントのターガーは、メルエムに逆らわず狩り場の被らない大海に希望を見て移動している最中だった。

 

(やはり水中はいいな! 食うもんには困らんし食い応えのある獲物が多い! 大食いキングの俺様には、広い大海原こそ理想郷だ!)

 

 海を目指す道すがら魚などをつまみ食いし、時には大型の獣や海獣をガッツリ食べながら移動するターガーは間違いなく師団長の中でも強者であり、水中という本来虫が生息しにくい環境に適応したことは大きなアドバンテージとなっている。

 

 雨で増水した濁流を物ともせず泳ぐターガーは、輝かしい未来が待っていることを信じて疑わなかった。

 

(…なんだ? 何かがおかしい、水の流れが変わった?)

 

 濁った視界でわかりにくいが、河の流れが変わりまるで波の中を泳いでいるようになっている。

 海に出たにしては水が濁ったままで塩気もないと疑問に思っていると、そう時間もかからず違和感は確かな実感となって現れた。

 

「ぶはぁっ!? 何だこりゃあ!!」

 

 突如水中から投げ出されたターガーが見たのは、河を逆上りながら突き進む津波。

 数mにも及ぶ瀑布が叩き付けられる寸前、波の上から見下ろす影があった。

 

「オイの“TUBE(イナムラ)”は、波を呼ぶぜよ!!」

 

 大質量の波が猛威をふるい、爆発したかのように河が弾け飛ぶ。

 ターガーは飛び散る水に紛れながら、ダメージを受けながらもなんとか陸に着地して河から距離を取った。

 

 

「ちくしょうが! どこのどいつだ俺様の邪魔をするのは!」

 

「それはこのオイ、漁師ハンターにして伝説のフィッシャーマン、グラチャン様ぜよ!」

 

 ターガーの叫びに答えたのは、陸でありながらサーフボードで波に乗る一人のハンター。

 ねじり鉢巻に大漁と書かれたハッピを着た壮年の男、日に焼けた海の男グラチャンは銛を掲げて名乗りを上げる。

 

「てめえかこの野郎! 俺様の邪魔してただですむと思うなよ!!」

 

「ワハハハー! 鰐はちぃとばかし管轄外じゃが、水生の獲物ならこの銛の餌食ぜよ!!」

 

 土砂降りの雨の中相手に届くよう大声で喧しく会話するが、お互いに相手の戦力を冷静に測りながら機を伺っていた。

 

(オイのTSUNAMI(ダイダルウェイブ)を食らってもピンピンしとるとは、活きの良い獲物ぜよ。肉弾戦は不利じゃな)

 

(土砂降りとはいえ明らかに不自然な波乗り、そういう能力ってことか。さっきのデカイのが連発できるならちとまずいか)

 

 互いに相手の長所を見極め、自分の長所を再確認してオーラを高める。

 

「喰い尽くしてやらァ!!」

 

「今日は鰐鍋ぜよ!!」

 

 土砂降りのNGL片隅で、二人の漢が相手を喰らわんと衝突する。

 

 

 

 

 

 ターガーとグラチャンが衝突した位置から大きく離れた別の国境線付近で、独立を選んだキメラアントの中でも最大派閥であるグループが炎天下の中進軍していた。

 

「ザザン様、間もなぐNGLを出て新天地に入りますだぁ。斥候が言うには良い拠点の候補もあるようだで、女王様の門出にふさわしいだぁ」

 

「あんたもお世辞を言えるようになったのは驚きだねぇ。他の独立組に比べたら遅れてだろうけど、頭数がいるに越したことはないししょうがないさね」

 

 雑兵が運ぶ御輿に乗せた大きなソファーに座る、サソリの尾がある以外はほとんど人間の女性と変わらないキメラアント。

 波打つ見事な長髪とキツめの美貌、そして素晴らしくグラマラスなボディを薄着で惜しげもなく晒す師団長ザザンが不敵に笑って雑兵達を労った。

 褒められたかどうかは微妙ながら、人と蜘蛛を雑に混ぜ合わせたような生理的嫌悪感を強く感じさせる兵隊長パイクは頬を染めて他のキメラアントを叱咤する。

 もともと独立組に自由奔放な者が多かった故、唯一二桁以上の集団となったザザン一行の歩みは非常に遅かった。

 それでも数の利点を活かしたキメラアント達は誰ひとり欠けることなく国境線にたどり着き、先行して調査をしていたキメラアントの報告にあった多くの人間がいる地域に進行しようとしている。

 

 本来であれば、その歩みは邪魔されることなく小さな王国を築くはずだった。

 

「なるほどね、これは確かにあたしが出張らないとまずかったわさ」

 

 非戦闘タイプも合わせれば20体にも及ぶキメラアント達の前に、10人程のハンターを引き連れ一人の少女が立ち塞がる。

 

「何か用かしらお嬢ちゃん? 私の、女王の前に立つことの意味を理解しているのかしら」

 

 余裕を見せて問いかけるザザンだったが、目の前の小さな少女からほとばしる覇気に臨戦態勢を整えていた。

 

「こっちも仕事でね、一応確認だけはしないといけないんだわさ。あんたらこの先に何の用? 返答次第じゃこのまま通してあげるわさ」

 

「愚問ね、この女王ザザン様の王国を築くのよ。餌も材料も豊富な土地がこの先にあるんでしょう? 邪魔をするなら捻り潰すわよガキンチョ」

 

 御輿の上で立ち上がったザザンはサソリの尾とオーラを威嚇するように振りかざし、戦闘タイプではなかった御輿を持つキメラアント達が気当たりを起こし崩れ落ちる。

 パイクを筆頭に戦闘タイプのキメラアントも戦闘態勢に入ると、ハンター側も全員オーラを高めて戦闘に備えた。

 

「オッケー、人類そのものの敵として認定するわさ。正直なところ少し気が乗らなかったんだけどね、あんたみたいなのが相手なら心置きなくストレス発散に使えるわさ」

 

 ザザンに立ちはだかるトップハンター、ビスケット・クルーガーがオーラを噴出させながら宣言する。

 

「ここ最近のバカみたいな仕事量、原因のあんた達にその身を以って償ってもらうわさ!!」

 

「やってみなさいよちんちくりん!!」

 

 炎天下のNGL片隅で、女傑が率いる二つの集団が互いを殲滅せんと衝突した。

 

 

 

 

 

 ネテロが率いる突入班は、NGLの奥深い森を凄まじい速度で駆け抜けながら蟻塚を目指していた。

 一度到達したカイトの案内により最短距離を突き進む彼等を妨げるものはなく、キメラアントの影も形も一切見ることなく蟻塚に到着しようとしていた。

 

「…ネテロ会長、後詰めの第三陣から連絡がありました。被害のなかったNGL外縁の集落で、数体のキメラアントが普通に生活していたそうです。なんでも自然をありのままに受け入れるNGL理念の下、新たな住民として迎え入れられたのだとか」

 

「ホッホッ、それはある意味朗報である意味凶報じゃのぅ。手を取り合える可能性を喜ぶべきか、それでも滅ぼす後味の悪さを味わうことになるのか」

 

 速度を落とすことなく行われたノヴの報告は、ネテロの胸中に希望とも絶望とも取れぬ複雑な感情を呼び起こした。

 

(ビーンズいわく、ミテネ連邦の首脳陣はキメラアント殲滅を協会に依頼する可能性が高いらしいしの。王の気性次第じゃが、なんとか和睦に近い結果にしたい。…それでもお互いに血は流れるんじゃろうな)

 

 難しい顔で唸るネテロだったが、いよいよ蟻塚が建つ荒野に入ろうとしたところで眼前に迫る弾丸のようなものに気付く。

 

 百式観音・軽式 参乃掌

 

 神速を超える速度で合わさった観音の掌により、飛来した弾丸のような何かが液体を撒き散らして塵と化す。

 

「ぬお!? ばっちぃのぉ、殺気も感じんかったせいで思わず叩き潰したが、これ何じゃ?」

 

 突然の百式観音で止まったメンバーはネテロが叩き潰した物体を観察するも、元の形はおろか色すらわからない謎の存在に見当はつかなかった。

 

「今向かっている場所を考えれば、キメラアントの可能性もありますが小さすぎる気がしますね。誰も殺気を感じなかったにもかかわらずあの速度ですし、正直なところ何もわかりませんね」

 

 一行の中でおそらく最も知識があるノヴですら何もわからないと首を傾げたが、スンスンと鼻を鳴らすゴンがわかることをいくつか上げる。

 

「匂いは間違いなく虫だよ、それに腐乱臭、人間のだと思う。それと、海鮮? 多分タコの匂いがする」

 

「いや虫や腐乱臭はわかるけどタコってなんだよ!? 海なんか遥か彼方の内陸だぞ!!」

 

「しょうがないじゃん臭うんだから。タコは割と特徴あるから間違えないと思うし…」

 

 ゴンとキルアがわちゃわちゃと言い合いをしていると、またしても飛んできた物体を再びネテロが叩き潰した。

 

「ふむ、完全に別方向から来たの。狙撃手が複数いるのか、それとも移動手段があるのか?」

 

「それよりこのメンバーでも察知できない距離から撃ってきてるのやばくないすか? 師匠の“煙円(スモーキーリング)”にも引っかかってないんすよね?」

 

 モラウの煙を操作する能力紫煙拳(ディープパープル)は、煙そのものに円と同じ効果を持たせることができる。

 煙を薄く広く展開して広範囲を索敵していたモラウでも、狙撃手の存在を察知することはできなかった。

 

「狙撃手はわからねえ。ただ二発目で気付いたんだが、弾丸だけ急に現れてやがる。つまりノヴみたいなテレポートの可能性が高いな」

 

 まさかの足止めを受けて各々が周囲を警戒するが、神速(カンムル)を発動したキルアが三度飛んできた弾丸を受け流して地面に着弾させる。

 

「うわきもっ!? ノミかよこれめちゃくちゃデケェ!!」

 

 ネテロに潰されず地面でもがいていたのは、拳より一回り小さい大きさの巨大なノミ。

 衝撃でしばらく痙攣していたノミだったが、回復したのかその太い脚に見合った跳躍力で自然の中へと還っていく。

 予想外な弾丸の正体に多くが固まる中、幻獣ハンターのカイトは自分の知識から不審点を述べる。

 

「NGLの原生種にあそこまで巨大なノミはいなかったはずだ。モラウ、あのノミがテレポートしてきたのか突然跳ねたかの区別はつくか?」

 

「はっきりとは言えねえが、突然空中に出てきたように感じた。それに今の跳ね方を見るにノミ単体であの速度は無理じゃねえか?」

 

 謎の攻撃ながら脅威度は低いと判断した一行は、各々警戒は続けながらも狙撃手の位置や炙り出し方について話し合う。

 しかし一人議論に混ざらずトランプをシャッフルしていたヒソカが嗤い、注目を集めるように言葉を発した。

 

「捕まえた♦」

 

 ヒソカは奇術師の嫌がらせ(パニックカード)で質を向上し隠で不可視化していた伸縮自在の愛(バンジーガム)を発動させ、森の奥からかかった獲物を眼前に引きずり出す。

 

「これが狙撃手の正体、見えないけど体積的に二人かな? ノミにも帰巣本能があるんだね♣」

 

 逃げたノミにバンジーガムを付着させていたヒソカが雁字搦めで捕まえたのは、一見何もない空間のように見えるがそのオーラの形がおかしかった。

 バンジーガムで包まれている部分はまるでもがくようにうごめき、時折風船のように膨らんでは萎むことを繰り返している。

 

「どうする? このまま潰していいならヤッちゃうけど、ネテロ会長としては話し合いがしたいんでしょ♦」

 

「助かるわい、キメラアントじゃな? ワシ等はお前さん等を問答無用で退治しに来たわけではない。王が巣立ったのも把握しておる、別れた側と話し合いがしたいんじゃが案内してくれんかの」

 

 ネテロの言葉に対して不信感があるのかしばらく応答はなかったが、そもそも逃げられないことに諦めがついたのか狙撃手の姿が現れてくる。

 

「くっせぇー! 俺は死体とくっつく趣味はねぇの! 抵抗しないからさっさとこれ外してくれ!!」

 

「メレオロンお前仲間を見捨てんのか!? 蟻塚に残ってるのは戦えないやつばっかりなんだぞ!!」

 

「殺すつもりならわざわざ捕まえないだろ、大人しくペギーのおっさんに引き継ごうぜイカルゴ」

 

 やいのやいの言い合いをするのはカメレオン型のキメラアントと、大きな毛皮を着込む人間に見える男性。

 ただし男性は動いてこそいるがその目に生気はなく、姿が見えてからは誰でもわかる程の腐乱臭を振りまいていた。

 

「ふむ、メレオロンにイカルゴか。普通に喋るし個体名もあるとは、いよいよ見た目が違うだけで人間と変わらんの」

 

「それどころかほとんどが人間の時の記憶持ちだぜ。まぁ自分の名前忘れてたり欠けてる奴ばっかだけどな」

 

 殺されないとわかってやけにフレンドリーになったメレオロンに触発されたのか、イカルゴもまた完全に擬態を解いて武装解除を行う。

 ノミを育てる媒体として使っていた死体から触腕を抜き取り、能力を解除したキメラアントがゴン達の前に姿を現す。

 赤みがかった肌、丸い胴体、全身筋肉の塊と言える鍛え抜かれたボディ。

 

「いやイカじゃなくてタコじゃん」

 

「タコって言うなぁー!!」

 

 ネテロ率いるハンター達が、ついにキメラアントと相対した。

 

 


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