オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第80話 解放された者達と運命の出会い

 

 

 皆さんこんにちは、思った以上に清潔な蟻塚に驚くゴン・フリークスです。なんと肉団子部屋はお墓と供養碑が建てられていて、献花と血の匂いでちょっとすごいことになってます。

 

 

 

 

 

 玉座の空いたキメラアントの蟻塚では、王について行かなかった残留組とゴン達が大広間で向かい合っていた。

 数の面では圧倒的にキメラアントの方が多かったが、個の質では圧倒的にハンター側が優れているため戦闘になった場合の結果は見るまでもない。

 

「どうもはじめまして、NGLに残ったキメラアントの代表をしているペギーと申します。話し合いがしたいとのことですが、私達は何を差し出せば助かるのですかな?」

 

 女王存命時は世話役と参謀の任にいたペンギン型キメラアントのペギーは、回りくどいことは一切せずに自分達が生き残るために必要なものを問う。

 王に届くとは思えないが、護衛軍には届いていると感じるハンター達に無駄な抵抗は無意味と悟ったからだ。

 

「簡単な質疑応答と出来れば王達の情報がほしいの。情報については無理にとは言わんが、質疑応答には嘘偽りなく答えてくれんか?」

 

「その程度でしたらどちらも問題なく答えられますな。流石に王と戦えと命じられたら断らなくてはいけませんでしたが」

 

 ハンターを連れて帰ったメレオロンとイカルゴの報告にあったように、かなり友好的かつ紳士的に対応するネテロを信用したペギーはあえて集めていたキメラアントを一部残して下がらせる。

 何もする気がないことを表すように残したのは、残留組の中で戦闘力及び特異性のある3体。

 

 死体を操りエアガンのような能力を持つタコ型キメラアントのイカルゴ。

 

 自分と触れている相手の姿から匂いに気配まで完全に隠蔽できるカメレオン型キメラアントのメレオロン。

 

 投げたり吹いたりした物体を加速させて様々な物を弾丸にするコアラ型キメラアントのアラゴ。

 

 ほぼ非戦闘員で構成される残留組の中で戦闘行為が可能な3体であり、それぞれが師団長クラスの実力者だがゴン達の前では見劣りしてしまうのは否めなかった。

 

「ふむ、巣立った王についていかなかったのは離反というわけではなさそうじゃの。足手まといにならないようにといったところか?」

 

「それも勿論ありますが、単純に女王の支配から解放されて人としての精神性が増大したことが一番の理由ですな。それこそ一部の者、…肉団子を制作していた者は自責の念より自ら命を断っています」

 

 キメラアントの種族特性として女王や王には絶対服従というものがあるが、女王が死んだことと個の確立された人間の性質が強かったことで自我がその特性を上回ってしまったのだ。

 獣の性質が強い個体やそもそも人間性に難があった記憶持ちは大体が独立組になり、元々自我の弱い大半の者が種族特性に引っ張られて王に追従している。

 

「これからは罪を償いつつ、ゆくゆくはNGLの民達と共存できたらと思っております。比較的容易そうな被害のなかった集落に何体か向かわせましたが、とりあえずは受け入れられたようでホッとしています」

 

 種族特性を上回るほどの平和的自我を持ったキメラアントは、見た目の異質さを補って余りある善性を発揮して人間に溶け込むことができた。

 たとえ人間だった記憶を持っているとはいえ決して簡単ではなかったことを成し遂げた残留組は、日々懺悔と解放された喜びに挟まれながらも懸命に生きている。

 

「なるほどのぅ、人間に危害を加えぬ意思疎通可能な知的生命体が相手ではこちらも手出しはできんの。監視はつくが、そなたらのやりたいようにやるといい」

 

「感謝します。ハンター協会からのお墨付きとあらば我々もかなり安心できますからな」

 

 心底安堵した様子を見せるペギーと、事の成り行きを大人しく見守っていた3体のキメラアント。

 口を開いたのは、人間だった時から特に仲間思いだったイカルゴだった。

 

「けどこいつ等は王や出てった奴等をどうにかしようとしてんだろ? 同じキメラアントとしてハイドウゾなんて言いたくねえ」

 

「お前は軟体のくせして頭が硬いぜイカルゴ! 王はともかくヂートゥ達は明確に人間と敵対するために出てっただろうが。やればやり返される、NGLが愛する自然の摂理そのままだろうが」

 

「同感だな。彼奴等は馬鹿だったが、本能で理解して独立したはずだ。イカルゴは仲間の定義が広すぎる」

 

 人間ではなくキメラアント全体の肩を持つイカルゴをメレオロンとアラゴがたしなめるが、それでもイカルゴは同じキメラアントのことを悪く思うことができない。

 元々生き物を殺すことに強い忌避感を感じて実行できないイカルゴは、人間が同族を殺すことを肯定できるわけがないのだ。

 

「すみませんな、我々は道こそ違えましたが仲違いしたわけではないので」

 

「むしろ好印象じゃよ。同族というだけでそこまで思い入れることができる、ますます虫というより亜人と定義すべきと判断できるわい」

 

 非常に理性的で話し合いもスムーズに運べるペギー、敵わないと知りながらも同族のために苦言を呈すことのできるイカルゴ、そんなイカルゴを理解しつつもたしなめられるメレオロンとアラゴ。

 

 姿形は異形ながら、その心は間違いなくそこらの人間より清らかだった。

 

「さて、王を目指しているキメラアントは他のハンターが対応するが、肝心要の王についてはワシ等があたる。手伝えとまでは言わんから情報を出せるだけ出してくれんかの?」

 

 彼等からの情報なら信用できると判断したネテロは若干申し訳なさを感じながら問いかけ、その心中を察したペギーはにこやかに答える。

 

「気にせんでください。王に情報を漏らすなと指示されてはおりませんし、これから話す内容で貴方がたの勝率が上がるとも思えませんしな」

 

 それはハンターの強さを正しく理解した上での、王達の強さへの絶対の信頼。

 ペギーは師団長に関しては人数だけを述べ、重要な王と護衛軍について知っていることを話す。

 

 キメラアントの王にして絶対強者のメルエム。系統も能力も不明だが、その身体能力とオーラのゴリ押しだけで護衛軍含めた全キメラアントでも敵わない強さを誇る。

 

 護衛軍の盲信を司るシャウアプフ。系統はおそらく操作系で、他人の洗脳が可能かつ情報収集などに長けている。戦闘力も問題なく高いが、護衛軍の中ではやや劣ると思われる。

 

 護衛軍の武具を司るモントゥトゥユピー。系統は強化か変化系で、己の肉体を状況に応じて変化させながらパワフルに戦う。直接戦闘能力は間違いなく断トツながら、魔獣の混成キメラアントのためか本能が強すぎるように見える。

 

 護衛軍の親愛を司るネフェルピトー。系統は特質系と教えてくれたが、肝心の能力についてはおそらく王にしか明かしていない。接した印象から全局面に対応可能なオールラウンダーと思われ、戦闘力は間違いなく王に次いで高い。

 

「以上が私の知っている王と護衛軍の情報です。付け加えますと、王とネフェルピトー殿に関してはあまり当てにしないでいただきたい」

 

「ふむ? 理由を聞いてもよいかの?」

 

「私の能力で相手の伸びしろといいますか、イメージとしては後どれくらい“入るか”が何となくわかるのです。まあ私ごときでは正確に測れませんでしたが、王とネフェルピトー殿が桁違いだと感じたので今どうなっているのか想像できません」

 

 これだけの情報を与えながらも、ペギーが王達の勝利を欠片も疑っていないことはその態度からわかる。

 最後に見た印象からそう判断しているのに加え、今はどれだけ強くなっているのか想像できないというハンター側にとっての凶報。

 

「…ほほっ、まいったのぅ、近頃は挑むべき相手が多すぎるわい♪」

 

 参った参ったとぼやきながら、ネテロが浮かべるのは鬼気とした笑み。

 

「お主等も気合を入れ直すのじゃ。生まれて間もないガキ共に舐められてんじゃねえぞ」

 

 ネテロのかけた発破にハンター達は皆不敵な笑みを浮かべ、高まるオーラはペギー達キメラアントを後退らせた。

 ゴンもネテロと同じ修羅の笑みを浮かべ、キルアはそんなゴンを見て静かに決意を固める。

 

 誰もがまだ見ぬ王と護衛軍に思いを馳せている中、一人だけ違う意味で思いを馳せる者がいた。

 

 ペギーがある名を口にした時、ゴンのオーラが本人も無意識ながら揺らいだことをただ一人見逃さなかった男。

 

(ネフェルピトーねぇ…、覚えたよその名前。ボクのゴンに手を出そうとする雌猫は処すだけさ)

 

 気ままに殺し戦っていたピエロが、生まれて初めて明確な憎悪を持ってターゲットをロックオンした。

 

 

 

 

 

 ゴン達が蟻塚に到着していたちょうどその頃、東ゴルトーの宮殿最上階フロアで今日もメルエムが執務と遊びを行っていた。

 

「捕らえられていた者達の中から、調査の結果冤罪の者は全員釈放しました。賄賂などで新たに捕らえた者達を含め、収容率は若干の減となっています」

 

「独裁国家にしては少なかったと見るべきか、引き続き我が国に不必要なゴミを洗え。…詰みだな、貴様はもう下がれ」

 

 床に敷いたクッションにあぐらをかくメルエムは、大量の書類に目を通しながらシャウアプフの報告事項を聞き、更には国内の将棋チャンピオンと対局を続け5連勝を上げたところだった。

 

「そんな、完全な素人だったのに、ほんの10局で…」

 

「こちらへどうぞ。少しお休み頂いた後、報酬をお支払いします」

 

 うなだれる将棋チャンピオンを、雑務を担当する人間の女性が連れてフロアを出ていく。

 ディーゴが総帥だった時は喜び組と呼ばれていた女性達は、歌やダンスだけでなく事務仕事や給仕にも精通していた事から、裏切らないよう洗脳された後にメイドとして働かされていた。

 

「これで残るチャンピオンは一人のみでございますね。ルールがシンプルなものから始めたにも関わらず、新たな盤面遊戯ほど早く攻略なされている。なにか秘訣がお有りで?」

 

 メルエムは宮殿の守備隊長との戦闘以降、食事等の小休止以外は常に執務と盤面遊戯に没頭している。

 ある程度は最初から知識として頭の中にあったとはいえ、慣れからか執務も盤面遊戯も初日とは雲泥の処理速度を叩き出していた。

 

「秘訣か、…盤面遊戯だけでなく執務も含め、全ての事象には“呼吸”がある。流れと言ったほうが一般的か? まぁいい、この呼吸は各分野にそれぞれ特徴こそあるが、根本のところは変わらん。早い話が乱さなければそれでいい」

 

 相手がいる盤面遊戯や戦闘なら、自分は呼吸を乱さずに相手の呼吸を乱せばそれだけ有利になる。

 執務においても経営や政策が健全なら、国は正しく呼吸をすることができて金も人も全てが巡る。

 

「なるほど、まさに万物に通じる真理かと。頭脳労働に勤しんでおられたのは、その感覚を養うのが目的でしたか」

 

「それもあるが、単純にこの国の現状に耐えられなかっただけだ。我が国が汚れ腐敗しているなど、一分一秒すら憤死ものの恥辱よ」

 

 メルエムは会話をしながらもまた新たな政策を書き上げたのか、数枚の書類をメイドに渡してビゼフ率いる政務部へと持って行かせる。

 既にいくつもの政策を打ち出して実行してきた東ゴルトーは、まだほんの短い期間にも関わらず末端の停滞や腐敗が解消されてきており、そう遠くない未来に訪れるであろう爆発的成長を予感させるには十分な成果を上げていた。

 

「この肉体のスペックはこの国に来た時把握した。思考と知識のすり合わせも済んだ。国務の至急改善すべき箇所も最低限は終えた。残る盤面遊戯はこの国発祥の軍儀と言ったな、そのチャンピオンを下し次第徴収に入るが準備は万全か?」

 

「はっ! 国内における強者を念の習得に関わらず集めております。軽く確認したところ技術と経験は満足いただけるかと」

 

 メルエムの発である覇王蹂躙(オマエのモノはオレのモノ)は、オーラを奪えること以上に技術や経験を奪えることにこそ真の価値がある。

 確かに念能力者にとってオーラを奪う能力は非常に強力だが、そもそもメルエムは種族的に人間を遥かに上回るオーラと身体能力を最初から有している。

 それに対して技術や経験においては、そもそも生まれてから数十日なことに加えて戦闘も守備隊長と行った一方的なものしかない。

 

 最速のF1に知識も豊富なドライバー、ただしコースを走った経験がないようなものなのだ。

 

「くくっ、今の余の思考速度ならば、人が武に捧げた時間など数分で精査できるだろう。数多の技術と経験を得た余が、どこまで高みに行けるのか愉しみだ」

 

 仮に覇王蹂躙を普通の念能力者が使用した場合、奪って増大したオーラにより精孔を傷付けるか、他人の経験を得ることによる自我の崩壊が起きかねない。

 メルエムの最高の肉体と強靭な自我が揃って初めて真価を発揮する能力が、彼を最高の王に相応しい強さへと押し上げる。

 

「プフよ、軍儀のチャンピオンを連れてこい。遅くても明日、早ければ今日から徴収を始める」

 

「はっ! メルエム様がさらなる高みに昇る瞬間をこの目に焼き付けさせていただきます!!」

 

 メルエムは知らない。

 

 強くなるように創られた最強ではなく、0%とも言える確率で生まれた突然変異の規格外さを。

 

 全てにおいて優れる彼では到達できない、ただ一つに純化しきったことで至れる領域を。

 

「ほ、本日はお日柄もよぐ、総帥様に、はい、拝謁できる栄光を賜りましで…」

 

 目が見えず薄汚れた、人間の中でもさらに小さく弱いその少女が持つ異常な力を。

 

「コムギと申します。軍儀しか能のない愚図ですが、精一杯努めさせていただきます」

 

 メルエムは生まれて初めて、どう足掻いても勝てない相手を知る。

 

 

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