オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第84話 昇った太陽と影で動くもの

 

 

 皆さんこんにちは、メルエム戦に血沸くゴン・フリークスです。貧者の薔薇など不要。

 

 

 

 

 

 ハンター協会本部に設営された、キメラアント特別対策室。

 協会の仕事も合わさり凄まじい仕事量となったビーンズにパリストン、そして第三陣の責任者チードルがブラック企業も真っ青なデスマーチを続けていた。

 

「大丈夫ですかビーンズさん? なんだか今日は一段と顔色が青いですね☆」

 

「最近光合成があまりできていませんからね、パリストンさんが頑張ってくれているおかげでなんとかなっています」

 

 会話しながら仕事をこなす二人を見るチードルは、まるで口と手が別人のように動く様に感心しながら普通に仕事をするパリストンを驚愕とともに見やった。

 一緒に仕事をするようになり少なくない日数が経ったが、不審な動きをするどころかチードルの仕事も完璧にサポートしている。

 はっきり言ってパリストンがいなかったら全く仕事は終わらず、今の平均3時間睡眠など夢のまた夢だっただろう。

 

(会長とビーンズが大丈夫と言ったのは本当だったわね、一体どういう風の吹き回しかしら)

 

 ネテロの一存によりパリストンに多く仕事を割り振られると決められた時、最初チードルは逐一書類などに不備がないか必死で探していた。

 しかし今やパリストンが悪さをしていないかチェックする時間すらない有様で、実はそれこそパリストンがいたずらもせず真面目に仕事をする理由になっている。

 

 いたずらをしても誰も反応しない、それこそがかまってちゃんにとって一番の苦痛なのだから。

 

「チードルさん、ネテロ会長達がそろそろ東ゴルトーに出発するとのことですが、メンバーはこの7人で本当にいいと思いますか?」

 

「選んだのは私じゃなくて会長よ、不満があるなら会長に言ってちょうだい」

 

「聞き方が悪かったですね。モラウさんとお弟子さんにノヴさんは実際に会ったことがあるんですが、他の三人は会ったことがないもので。心源流本部道場で会ったことのあるチードルさんの見解を聞きたいんです」

 

 ゴン、キルア、ヒソカのことを聞かれたチードルの手が止まる。

 その脳裏では心源流本部道場での数ヶ月が走馬灯のように駆け巡り、パリストンへの嫌悪感等が混ざる前に本心からの答えが口から飛び出していた。

 

「次代の武神に神速、そして、…化物よ」

 

「それは素晴らしい! 若い世代の躍進は未来につながりますねぇ☆チードルさんこの書類修正お願いします」

 

 人類最高峰の悪知恵ネズミは、ここでも筋肉に対する認識を改めることができなかった。

 

 独自の調査からピエロの強さと狂気を知っていたが故の、化物はピエロだと誤解してしまったことによる思考の停止。

 

 チードルは非常に複雑な心境ながら、ピエロこそが次代の武神に相応しい実力者と考えているのにだ。

 

(ゴン・フリークス、ジンの息子。あのバカとは違う方向の、世界の特異点とも言えるキチガイ)

 

 そしてパリストンに詳しく聞かれなかったチードルは、化物がゴンだということを説明することなく仕事に戻る。

 パリストンが正しくゴンの異質さを理解していたとして、キメラアント戦線で何かが変わることはなかっただろう。

 しかしゴンのことをろくに知ろうとしなかったツケは、近い将来パリストンに予想外の事態をもたらすことになるのだ。

 

 いたずらネズミがキチガイ筋肉に興味を持てない中、キメラアントと人類の関係に大きな変化が発生する。

 

「お仕事中失礼します! 東ゴルトーより全世界に向けて緊急生放送が行われようとしています!!」

 

 ハンター協会はおろか世界に向けて、キメラアントからの先制攻撃が炸裂する。

 

 

 

 

 

 世界各国のメディアが発表した、東ゴルトーからの緊急生放送。

 決して大きくも有名でもない東ゴルトーが世界規模の放送権を得ることができたのは、外交手腕を発揮したビゼフと溜め込まれていた総帥ディーゴの資金力によるものだった。

 

 東ゴルトーの時間にして夜の7時、歴史に残る演説が幕を開ける。

 

『親愛なる同志諸君、朕こそは東ゴルトー共和国総帥ディーゴである』

 

 画面に映ったディーゴの姿は、彼を知る者ほど驚きをあらわにする変化をしていた。

 

『今日この時をもって朕の所有する権限を全て放棄し、新たなる指導者をこの国に迎え入れる』

 

 贅沢三昧で不健康に膨れていた身体が引き締まり、ぽっちゃり程度の体型になって肌艶も健康的なものとなっていた。

 ディーゴは簡単に自分が指導者の立場から退くこと、これからは相談役という役職で国のために尽くすことを宣言する。

 そして立ち位置を変えて場所を譲り跪くと、新たな最高指導者に深々と頭を下げる。

 その姿は念能力者から見ても操作されている様子はなく、自ら望んで相手を敬うという独裁者らしからぬ振る舞いがあった。

 

 そして多くの人々が見守る中、ここまで影に潜んでいた太陽が世界にその輝きを解き放つ。

 

『これを見る全ての人類に告げる、余こそはあまねくすべてを照らす者、王メルエムである』

 

 姿形は人間に近く言葉を話してこそいるが、ひと目見て人外とわかるメルエムが登場する。

 その強烈な違和感は幼い子供はもちろん、大の大人ですら思わず悲鳴を漏らしてもおかしくはない。

 

『これより余の貴重な時間をしばし使い、これからの国のこと、そして我等キメラアントについて告げていこう』

 

 しかし画面に映るメルエムを見た者、その声を聞いた者は誰もが目を離せなくなっていた。

 画面中央でいつものように片膝を立てて座るその姿は威厳と頼もしさに溢れており、深みある声からはすべてを包み込む包容力とその気質の高さを聞き取れる。

 それは念能力者も例外ではないどころか、その纏うオーラの強大さと鮮烈さに瞬きすら忘れてしまいそうな凄みがあった。

 

 そして語られるメルエムが生まれるまで続いた、NGLにおいて行われたキメラアントによる人間の大量殺戮。

 

 端折りながらも丁寧に説明されたその惨劇に対してメルエムが謝罪することはなかったが、犠牲になった人間の人数すら発表した上で言葉を続ける。

 

『余は功績に対して正しく報いることが王の務めと考えている。しかし死者に報いる方法を知らぬ以上、全ては今生きている民に還元する』

 

 腐敗の進んでいた東ゴルトーを立て直し、すでに効果が出始めている政策をこれからも進めていくことを約束する。

 そして働きには相応の報酬を、忠誠にはそれ相応の地位を与えることを明言していく。

 

『すでにこの国は人とキメラアント関係なく要職に就いている。民よ、面を上げよ。そなた等の望むもの、真の王はここに在る』

 

 己の胸を叩いたメルエムはより一層オーラを励起し、感じられないことに加え映像越しにもかかわらず、一般人相手に明確な存在感を感じさせる。

 

『既得権益と私腹を肥やすしか能のないゴミが幅を利かせていた国は変わる、誰もが働きに応じた報酬を受け取り誰に憚ることなく生を謳歌する。そんな当たり前の国家がここに在る』

 

 完全掌握(余思う故に王なり)により最善の声質とテンポで語られる演説は、操作系の発ではないにも関わらず見た人々の心を掴んで離さない。

 座っていたメルエムは立ち上がり、最後の仕上げとばかりに声を高める。

 

『集え民衆よ! 余がこの世の理想郷を実現してみせる! 今この時より、東ゴルトー共和国は太陽国家メンフィスに名を変え、この箱庭の頂点をとる!!』

 

 ほぼ全ての支配階級が不愉快さに顔をしかめ、多くの被支配階級が興奮で身体を震わせる。

 初めて見る種族、そして王になったばかりのメルエムに対し、誰もが有言実行出来る力があることを疑っていなかった。

 

『国籍も人種も関係ない、余と国に尽くす覚悟のある者を待っている。ビゼフよ、入国審査など雑事の説明は任せる。誰もが理解できるよう抜かりなくやれ』

 

 画面から出ていくメルエムに変わり、政務の屋台骨と化したビゼフが入国審査などの説明を行っていく。

 東ゴルトー共和国改め太陽国家メンフィスで新たな王の誕生に大歓声が上がる中、他国では驚くほどの静寂が広がっていた。

 映像を見ていた多くの人々が、ビゼフの説明を聞き漏らすまいと集中していたからだ。

 

 世界がキメラアントと新たな国家を知り、それは驚くスピードで末端の人間にも浸透していく。

 

 一部の者達を除いて多くの人々が好感を得た演説はメルエムを、キメラアントを蟲ではなく亜人レベルで周知させることに成功した。

 

 

 

 

 

 メルエムの演説から丸一日経った頃、再び集まったV5はキメラアントについて話し合っていた。

 広い丸テーブルには贅を凝らした料理と美酒が並び、アルコールが入ったことで滑らかになった口は過激な言葉を容易く吐いていく。

 

「移民、いや亡命レベルの見境のない入国審査、多く移動する前にさっさと消し飛ばすべきでは?」

 

「そうしてやりたいのは山々だがな、加盟国の中でも一定数は傍観する立場を表明している。あまりに非人道的手段を取ってはこれからの統治に問題が生じかねん」

 

「忌々しい、暗黒大陸の脅威は我等が管理してこそ人類のためになると言うに。下々はそれを知りもせず喚くばかりよ」

 

「しかり、やはりハンター協会に責任を持たせ諸共吹き飛ばすのが最善策か?」

 

「アイザック・ネテロは断ったよ、前回決めたように真っ向から打倒してみせるとほざきおった。吹き飛ばすならハンター協会が敗北してから好きにしろとな」

 

 今すぐにでもなかったことにしたいV5と、とりあえずの様子見を選択する各国の首脳陣と民衆。

 暗黒大陸という特級の危険地帯を知っているか否かという違いがあるとはいえ、どちらの言い分にも一理あると言わざるをえないものがあった。

 

 今までに持ち帰られてきた“災厄”はそれだけ危険な存在であり、それに対してキメラアントは意思の疎通が可能なのだから。

 

 すでにハンター協会へ依頼を出した後ということもあり名案もなく静寂が広がるが、世界最高峰のセキュリティに守られた室内で新たに声を上げるものがいた。

 

「お食事中に失礼、ボスから伝言をお届けに参りましたよっと」

 

 突如丸テーブルの中央から響いた声に反応するV5だったが、どれだけ目を凝らしても気配を読もうとしてもテーブルの上には料理と酒しかない。

 部屋の外の護衛を呼ぶか悩んだ僅かな逡巡に被せるように、突然の来訪者は静かに言葉を続ける。

 

「危害を加えるつもりなら端から声なんてかけねえよ。俺は“観測者”って呼ばれてる、伝言を伝えたらすぐ帰るから話だけでも聞いてくれや」

 

「…いいだろう。ボスとやらの正体は教えてくれるのか?」

 

「それは駄目だ。まあ慌てなくても近い内に自分から接触してくるんじゃね?」

 

 観測者が語った伝言は、キメラアントがボスによって持ち込まれたこととこれくらいならこれから先何度でも可能だということ。

 世界の管理者を自認するV5に対する挑発とも取れる発言であり、事実声こそ出さなかったが聞いた全員が怒りに顔を歪めていた。

 

「今回のキメラアントはそれこそ“案内人”の許可も貰ってるからよ、いきなりミサイルやら薔薇やらで台無しにしないでほしいんだわ。ハンター協会が依頼を終えるまでに余計なことをしたら、どっかの災厄が事故で流出するかもしれんから注意しろとさ」

 

 それはコントロール出来ない人類の脅威を解放するという脅し、暗黒大陸からキメラアントを持ち込めることと今この場にいる事実から決して口だけではないとわかる言葉。

 

「依頼を出したならアイザック・ネテロに任せて大人しくしてな。…伝言は以上だ、もう帰るから引き続きお食事楽しんでくれや」

 

 その言葉を最後に声は聞こえなくなり、たっぷり数分押し黙っていたV5の一人が酒を飲むとグラスを叩き付けて粉々にする。

 

「…方針は決まったな、ハンター協会が勝てば良し、負ければ諸共全て消し飛ばす。異論があるものは?」

 

 世界を人質に取られたからとはいえ、正体も分からぬ何者かに強制された決定。

 屈辱に苛まれるV5はそのまま解散し、キメラアントの命運はハンター協会へと委ねられる。

 

 

 

「…本当にこれで良かったんで? 何ならさっさとアイザック・ネテロごと吹き飛ばさせたほうがこれから先は簡単だったと思いますけど」

 

『バカ野郎、そんなのちっとも面白くねえだろうが。せっかくここまでお膳立てしたんだ、どっちに転ぶとしても最後まで見なきゃ損ってもんだ』

 

「そんなもんですかね、ま、俺は今まで通り楽しいものを観させてもらえれば文句はないですよ。キメラアント対ハンターってのもメチャクチャ面白そうだし」

 

『だろう? ちゃんと観て来いよ、お前の報告は間違いないからな』

 

「了解ボス」

 

 

 

 いくつもの思惑が交錯する中、世界の進む道は決定する。

 

 キメラアントとハンター、思い通りの未来を掴み取るのはどちらになるのか。

 

 確かなことは唯一つ、我を通せるのはより強いものだけなのだ。

 

 


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