オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第85話 覚悟と生態

 

 

 皆さんこんにちは、外野のちょっかいはなくなったと聞いて安堵するゴン・フリークスです。真っ向勝負も決まって、後はタイミングをどうするか協議中。

 

 

 

 

 

「……ない、詰みだ」

 

「総す、国王様の3-3-4騎馬めちゃくちゃ痺れたっす!! ワダすが受けなかったらどう展開してたすか!?」

 

「ノータイムで返してきてよく言う、受けなければ右辺の中将で切り崩しにかかっていたな。…この盤面になっていたらどう対応した?」

 

「う〜ん悩ましいすね、侍で迎撃するか砦で受けるか…。これどう対応しても何らかの変化があって面白いっすね!」

 

 この日も東ゴルトー改めメンフィスでは、もはや日常の景色となってきたメルエムとコムギによる軍儀の対局が行われていた。

 未だ勝てずにいるメルエムだがコムギ以外は相手にならないレベルに達しており、最近は対局後にこうして検討することも増えより一層軍儀にのめり込んでいる。

 

「国王様、コムギ様、昼食の時間となりましたのでお食事をお持ちしました。軍儀をしながらでも問題ないよう、シェフが工夫をこらしましたのでご賞味頂けたら」

 

 検討が一段落したのを見計らったメイドが配膳した皿の上には、ハンバーガーと肉まんの間の子のような食事がいくつも乗って湯気と食欲をそそる匂いを漂わせていた。

 匂いに気付いたコムギがよだれを垂らす姿に呆れたメルエムが豪快にかぶり付き、一見ジャンクフードながら一流レストラン顔負けの美食っぷりに満足したように頷く。

 

「見事だ、調理長にこれからも精進するように伝えよ。お主も見てばかりいないで食え、先日のように万全を維持できん愚挙はごめんだ」

 

「うっ、へ、へば失礼して頂きます。…うんめぇ〜す♪」

 

 対局中はどれだけ空腹でも気にならないコムギだが、一度食べ始めれば身体が自然と食事を口に運び続ける。

 ハムスターのように頬を膨らませて懸命に食べ続ける姿を確認したメルエムも自分の食事を再開し、ほんの数分対局を休んで栄養補給に努めた。

 メルエムと共に食事をするコムギに未だ納得いかないシャウアプフが悔しそうに控えているが、他ならぬメルエムが決めたこととあって何も言えずにBGM代わりのヴァイオリンを奏でる。

 この食事風景の理由は、メルエムが軍儀の対局を再開しようとした時、やってきたコムギの体重がちっとも増えていなかったことにより始まった。

 世話をしていたメイドから小さな雑穀の握り飯一個しか食べていないと告げられ、食事を用意しようとしても頑なに遠慮されてしまったと報告される。

 そして金が無い畏れ多いと喚くコムギに痺れを切らしたメルエムは、対局中に自分が食す間食の残飯処理という名目で無理矢理食事に参加させたのだ。

 

「あ、あの、本当にお金はいらないんすか?」

 

「くどい、お主は余の満足する仕事をしている。報酬とは別にこのくらいは何の問題もない」

 

 腹も満たされ我に返って震えるコムギに、もはや何度目かも分からぬため息を吐いたメルエム。

 この小汚く弱々しい存在から、芸術のように美しくどんな砦より難攻不落な一手が紡がれる神秘に想いを馳せながら疑問を問うた。

 

「何故そこまで己を卑下するのだ? 対局中の貴様からは、己が頂点という覚悟と自信を強く感じる。それに稼ぎを全て家族に貢ぐ理由もわからん」

 

 メルエムはコムギのことが何一つとして理解できない。

 

 指先一つで肉塊にされることを理解していないにも関わらず、ただメルエムとの身分の違いだけで震える。

 コムギ本人はみすぼらしい服装と貧相な身体が表すように衣食がまるで満たされておらず、逆に親族は彼女の得た賞金で贅沢三昧に暮らしている。

 それでも軍儀の対局中は一切怯えぬばかりか、検討中も全く臆することなく王者としての覇気を纏っている。

 

 世界を手に入れようとしているメルエムにとってコムギは、己の力で得た全てを投げ捨てるばかりかその超常的力を普段から誇示しない意味不明の存在にしか見えなかった。

 

 食事で汚れた口元や手元をメイドに拭われていたコムギはしばし黙って考えをまとめると、平静を保つためか盤と駒を触りながら静かに語りだす。

 

「見ておわかりのようにワダすは盲目です。普通の人ができること、小さな子供ができるような家の手伝いすら満足にできません。幸いそこそこ余裕のある家でしたので、すぐさま口減らしで捨てられることはありませんですた」

 

 それでも当然その扱いは悪く、祖父母から最低限の世話をしてもらえるだけで餓死しないギリギリの有様だったという。

 そんな生活でも幼いながらに生かされている自覚があったため、当時も今も家族にはとても感謝していると笑った。

 

「じいちゃん達がよくやってた軍儀のルールを横で覚えて、盤面が頭の中に浮かぶことに気付けたのは幸運ですた。おかげさまでこうして、軍儀チャンピオンとしてやっていけてます」

 

 最初から無類の強さを持っていたわけではない、それこそ最初は盤面を覚えきれず、駒を持ち動かすことすら覚束なかった。

 それでも軍儀の楽しさ、そして奥深さを知っていくにつれ、コムギの才能は大きく開花していった。

 

「初めて賞金を手に入れたときは震えますた、こんなワダすでも何かを得られるんだとわかって。まぁ、子供のお小遣い程度ですたが」

 

 一度開いた才能は成長も凄まじく、最初の優勝以来は無敗でこの場にいることをメルエムもシャウアプフの報告で把握しており、だからこそ話を遮って本題を問う。

 

「お主の過去には興味がない。聞きたいのは手に入れたものを手放す理由と、余に真っ向から向かえるその覚悟がどこから来るのかだ」

 

「それはワダすが軍儀さえできれば他はなにもいらないからす。そんで覚悟って言うかわかんねーすが、チャンピオンとして一度でも負けたら死のうと思ってるからじゃないすかね?」

 

 コムギはシャウアプフが能力で見ても一切感情を揺らすことなく、必ず太陽が昇ることを語るような自然さでその覚悟を口にした。

 

「『軍儀王、一度負ければただの人』、という言葉があるんすが、軍儀しかできないワダすはただのゴミになるっす。それでも勝ち続ける内は軍儀王すから、国王様と対局している間だけは王同士として立ち会えるんじゃないすかね?」

 

 言ってから明らかに不敬だと気付いたコムギが慌てて床に叩きつけんばかりに頭を下げるが、その覚悟を聞いたメルエムは己の不甲斐なさに腸が煮えくり返る思いだった。

 

「…覚悟の差か、たかが盤面遊戯と思い手を抜いていたわけではないが、そもそもスタートラインにすら立っていなかったか」

 

 その荒れ狂う心情をオーラから感じたシャウアプフが動こうとした刹那、フロアに特大の爆発音が響き渡る。

 

「ぅひゃあっ!?」

 

「メルエム様っ!!?」

 

 特大のオーラを纏ったメルエムの右拳がありえない速度で己の頬に着弾し、数本の歯と大量の血を撒き散らす大ダメージを与えていた。

 

「メルエム様! 何てことを!? 直ちに治療を…」

 

「いらぬ。これは相手の覚悟を見誤り、傲岸不遜と化していた余への戒めだ」

 

「えっ、え? 何が、国王様、怪我を?」

 

 青褪めて近寄ってきたシャウアプフを抑えたメルエムは、頬に飛んできた血の匂いと手触りでおおよその事態を察して震えるコムギと改めて向かい合う。

 

「…ふん、歯はまた生え、傷もいずれ治る。ここからが本番よ、今までと同じと思うな」

 

 食器を片付け戻ってきたメイドに医者を呼ばせたシャウアプフは、怪我の程度はどうであれ頭部へのダメージは万全を期すべきとメルエムに進言するが受け入れられない。

 完全に全力の一撃だったため霞む視界と思考のまま対局を始めようとするメルエムだったが、震えながらも対局に応じようとしないコムギの額に尾の針を突きつけて凄む。

 

「早く指せ、王命であるぞ」

 

「出来ません、国王様が治療を受けるまで死んでも指しません! 万全でなければ許さないと国王様はおっしゃいますた、ワダすも万全のアナタとしか指したくありません!!」

 

 メルエムからのオーラを伴った圧に震え涙を流しながらも、テコでも動かぬと覚悟を決めたコムギは対局中以外開けぬ見えない目を見開きメルエムを見つめる。

 

「ただ指すだけで満たされていた軍儀、けど国王様と指して知ってしまいますた。軍儀含め盤面遊戯は、相手がいて初めて成り立つんす!」

 

 針が額に刺さり血が出るのも省みず、コムギは生まれて初めて出会った切磋琢磨できる好敵手に宣戦布告する。

 

「軍儀王を無理矢理対局させたいなら、先ずは勝ってからにして欲しいす!!」

 

「……、負けたらただの人になるんじゃなかったのか」

 

「はぅっ!? いや、その、それは言葉の綾というかなんとかす」

 

「…ふふっ」

 

 メルエムは笑った。

 

 生まれてこの方獰猛な笑みしか浮かべてこなかったその顔に、なんとも穏やかな、そして慈愛に満ちた微笑みをたたえた。

 

(おぉ、なんと、なんと神々しく、そして美しぃっ)

 

 目が見えぬコムギと違いその表情を見た唯一の存在シャウアプフは、ただただ滂沱の涙を流しながらメルエムが王として更に上の次元に到達したことを悟った。

 

「余はもうほぼ回復した。簡単に診察した後に此奴…、コムギの治療をせよ」

 

 メイドが連れてきた医者がメルエムを診断すれば歯は折れているがほぼ完治しており、代わりにコムギの額には大袈裟なほど大きな絆創膏が貼られる。

 

「さあ、これで問題ないな。コムギ、余の名メルエムを口にすることを許す。これからはそう呼べ」

 

「そそそそんな畏れ多いす! これまで通り国王様で許して欲しいす!!」

 

「…そうか、ならば対局で勝って呼ばせることにしよう」

 

「軍儀では負けないっすよ!」

 

 太陽王と軍儀王は、再び対局に没頭していく。

 

 賭けるものの大きさか、今まで以上に深く盤面に潜っている二人の王。

 

 真剣そのものながらどこか楽しそうな雰囲気漂う二人を、陶酔と嫉妬半々に顔面をわけたシャウアプフが見つめていた。

 

 

 

 

 

 NGLの蟻塚がそびえ立つ荒野。

 蟻塚建造にあたり整地されたことで大きすぎる石材以外目立ったもののない荒野だったが、暇を持て余した修羅達によりおよそ半分が見るも無惨な有様となっていた。

 

「何度言えばわかっていただけるのですか!? 非戦闘員にあなた方のオーラは毒なのです!! 抑えるかもっと離れるかお願いしているでしょう!!」

 

 ペギーはその愛くるしさすらある姿ながら、羽毛を逆立て精一杯激怒していることを示し声を荒げる。

 軽い運動と言いながら結局地形が変わる戦いを連日行われるせいで、多くのキメラアントの苦情と蟻塚の物理的損壊に追われては無理もないことである。

 

「…ごめんなさい」

 

「…申し訳ないのぅ」

 

 ペギーに叱られるゴンとネテロは正座しながら頭を下げるが、すでに何度も行われてきた謝罪にペギーの怒りが収まることはない。

 

「ゴンはしょうがないにしてもネテロの爺さんはもっとなんとかならねえの? なんか最近は武の極地から遠ざかってね?」

 

「ある意味戻っていると言っていいかもしれませんね。聞いた話でしかありませんが、昔の会長は力に比重を置いた武人だったそうですから」

 

「12歳と100歳超えが同じ顔してガキみたいな喧嘩してんのは笑い話になるんかね? まぁどっちもおっかねぇわな」

 

 叱られ続ける二人を眺めるキルアとノヴにモラウは、メルエム戦に燃えるゴンと擬似的に全盛期を取り戻してはしゃぐネテロの模擬戦を振り返る。

 戦意に引っ張られたのか溢れるパワーを持て余し環境破壊するゴンと、全盛期のフィジカルに技術をアジャストさせ全盛期以上の破壊力を得たネテロ。

 そもそも過度な破壊力を持たないノヴとモラウはもちろん、貫通力に焦点を当てたキルアや過剰な破壊は無駄と考えるヒソカでは起こり得ない戦闘。

 

 人外のキメラアントが普通に恐怖する、人類による怪獣大決戦が連日開催されていた。

 

「いいですか!? 次近くでこんな戦闘をしたら今度こそ蟻塚に入れませんからね!! やるなら遠く、せめて森の向こう側まで行って下さい!」

 

『わかりました』

 

 説教が終わっても怒りが収まらずいつもに増して左右に揺れながら歩いていくペギーを見送り、歯止めが利かないだけで悪いとは本気で思っているゴンとネテロはバツが悪そうに正座をやめる。

 

「明日からは遠出して模擬戦するしかないのぅ。ノヴよ、まだ扉を増やせるか?」

 

「増やせますがそんなことに使いませんよ。どうせ大した時間もかからないんですから走ってください」

 

「ゴンはいい加減無差別破壊はやめたほうがいいぞ。相手を見失ってちゃ元も子もないだろ」

 

「すぐに壊れちゃう大地が悪いんだよ」

 

「お前は何を言ってんだ?」

 

 メルエム達との決戦を控えながらも、他国とハンター協会による条件のすり合わせにより手持ち無沙汰なゴン一行。

 この日も鍛錬後の時間をわちゃわちゃと過ごしていた彼等のもとに、合流した第三陣と共にキメラアントについて色々調査していたカイトがある報告をしに来た。

 

「思っていた通りの結果が出た。結論から言えばこれ以上キメラアントが増える可能性は低い」

 

 反キメラアントを掲げていた各国はもちろん、キメラアント融和派とも言えるハンター協会ですら問題視されていたキメラアントの第2世代に対する懸念。

 この問題についてキメラアントの生態に詳しい専門家やカイト含む複数の幻獣ハンターによる調査研究の結果、キメラアントには新たな世代を生み出す生殖器官がそもそも存在しないことがわかった。

 

「元々女王の摂食交配により生まれた兵隊だからな、手駒を増やせる個体も念能力を使っていただけで厳密に言えばキメラアントを増やしていたわけじゃなかった。懸念だった新たな女王の誕生についてだが、現状絶対的な王がいることから可能性は限りなく低い」

 

 蟻の名を冠するキメラアントは交配方法がまるで違うものの、その習性や生態は普通の蟻と非常に酷似している。

 特に勢力の拡大を一匹の女王に依存している点が完全に一致しており、新たな女王が誕生しない限りは基本的に数が増えることがない。

 

「巣分かれしたこの蟻塚で新たな女王が出ないか心配だったが、他の集落に行った個体も含めて女王化の兆候はない。一先ずは安心していいはずだ」

 

「質問なんだけどさ、王の伴侶ってか番は女王にならねえの? 流石に王が女王にはならないんだろうけどさ」

 

「そこがキメラアントの面白いところでな、王は君臨してもその後の交配には一切関わらない。条件を満たした個体の中から、突然変異的に新たな女王が生まれるんだ。王の番は本来存在しないんだが、ここまで人間の因子が多ければ可能性はあるな」

 

 キルアの質問にもよどみなく答えたカイトは、最後に新たな女王として条件を満たしているだろう個体を答える。

 

「護衛軍は全員条件を満たしてるはずだ。特に雌型なのが確認されているネフェルピトー、キメラアントとの共存を目指すなら、最優先駆除対象だ」

 

 その場にいた全員が何故かやる気に満ち溢れているピエロを思い浮かべ、カイトは何故か姿の見えないその所在を問う。

 

「んー、なんかちょっと集中したいみたいで山籠りしてる。決戦の日にちとかが決まったら呼んでくれだって」

 

「…そいつは本当にヒソカだったのか?」

 

 知り合ってまだ時間の経っていないカイトですら、ヒソカの謎の行動に首を傾げるのだった。

 

 

 

 

 

 自然豊かなNGLのさらなる奥地、自然に形成された石柱の一つにトランプタワーを作るヒソカがいた。

 その身から漏れるオーラはおどろおどろしく瘴気を放っており、半径数キロにわたり小動物もいないばかりか、オーラに触れ続けた植物は枯れ果てて無惨に散っていた。

 命あるものなら例外なく忌避するオーラの中心で集中力を高め続けるヒソカは、ネフェルピトーを万に一つも取り逃がさぬようオーラを練り上げ続ける。

 

(憎い、ゴンから意識されてる雌猫が憎い。必要とはいえゴンとの時間を削らせている雌猫が憎い…)

 

 その顔には薬物中毒者の禁断症状ですら生易しいと思わせる苦痛がありありと浮かんでおり、今すぐにゴンのところに行きたい願望をギリギリで抑え込んでいた。

 

(ネフェルピトー、楽に死ねると思わないでね☠)

 

 強すぎるピエロの想いが届いたのか、遥か遠くで一体のキメラアントの尻尾がブワリと膨らんだ。

 

 

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