オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第86話 思いとフラグ

 

 

 皆さんこんにちは、蟻塚出禁をくらうと同時に拠点変更になったゴン・フリークスです。ついに決戦へのカウントダウンがスタートしました。

 

 

 

 

 

 その声明は世界のまとめ役であるV5と、最強の専門家集団ハンター協会の連名により発信された。

 

『キメラアントが人類の脅威となるか否か、真っ向からの闘争によって確かめる』

 

 V5やミテネ連邦としては不満ながら、世界の圧倒的多数による民意の暴力を無視できなかった故の結論。

 日時の指定はなく、ただメンフィスに乗り込むメンバーを知らせるメールが直接ビゼフのもとへ届き、すぐさまメルエムに報告が挙げられた。

 

「…ふむ、思っていた以上に都合のいい展開だな。やはり人間側は派閥が無駄に多すぎるとみえる」

 

「ハンター協会の意向が強く反映されているようですね、調べた限り表も裏も合わせて最強の戦闘集団。彼等なら問題ないと判断されたというより条件として提示された、我々キメラアントが侮られている。それだけのこと」

 

「どーするんですかメルエム様? 命じていただければ今すぐ全員ぶち殺して来ますが」

 

「全てはメルエム様の御心のままに」

 

 珍しく軍儀の対局が行われていないフロアに、キメラアントの王メルエムと護衛軍、そして師団長の中でも上位に位置する3体が集合していた。

 公式発表を前に届けられた詳細なメール内容を共有したところでメルエムは考えをまとめるように押し黙り、護衛軍と師団長は命令を待ちながらそれぞれが自分なりに対応を考えている。

 

「…師団長、それぞれ名と意見を手短に述べよ」

 

 突然メルエムから問われた師団長達は思わず硬直するも、護衛軍からの静かな圧に震えながら順番に発言を始めた。

 

「遠距離攻撃班統括のブロヴーダです。攻めてくるなら待ち構えて罠に嵌めるのが一番かと思います」

 

 ロブスターをそのまま二足歩行にしたような異形のブロヴーダは、見た目にそぐわぬ理性と知性を感じさせる声で待ちの提案をする。

 

「特殊攻撃班統括のウェルフィン。無視するか、受け入れられないと大々的に発信するべきと思います。世論はこちらの味方をするかと」

 

 細身の人狼といった見た目のウェルフィンは、狡猾な性分から戦わずして勝つのが最善と進言する。

 

「近接及び戦闘班統括レオル。戦うにしても戦わないにしても、やりすぎないことを念頭に置かなくては過激派が凶行に出かねないと考えます」

 

 大柄で獅子の特徴が色濃く出たレオルは、どう対応するにしても相手に無差別攻撃の大義名分だけは渡してはいけないと答える。

 当たり前だが、これらの対策は言われるまでもなくメルエムにも考え付いている。

 今回わざわざ聞いて師団長の意見を求めたのは、完全なイエスマンの護衛軍と違い師団長がどこまで己の考えを言えるか試したのだ。

 

「ふむ、師団長以下の兵にも戦闘の可能性がある、一層鍛錬に励め。下がってよい」

 

『はっ!!』

 

 一斉に頭を下げた後速やかに退室した師団長を見送り、メルエムは控える護衛軍にそれぞれ指示を出す。

 

「ユピーは引き続き宮殿の警護につけ。侵入者がいた場合は建物の被害を気にせず擦り潰すのだ」

 

「はっ!! 御前失礼します」

 

「プフは政務部が問題なく稼働しているか最終確認を行え。汚職、漏洩などがないか今一度精査せよ」

 

「かしこまりました。御前失礼いたします」

 

 モントゥトゥユピーとシャウアプフが命令されたことに歓喜しながら退室すると、メルエムは残るネフェルピトーに問いかける。

 

「害意はないようだった故に見逃していたが、お前の望み通りの結果は得られそうか?」

 

「いえ、残念ながら母体が弱すぎます。あれでは例え奇跡的に念に目覚めても、施術に耐えられるようにはなりません」

 

「そうか。…不思議だな、惜しいと思うと同時にこれでいいとも思う。ピトーよ、お前には苦労をかけるだろうな」

 

「もったいなきお言葉、ですが私は満たされております。どうかメルエム様は思うがままに、キメラアントの未来は私が繋ぎます」

 

 ネフェルピトーの表情は柔らかく、心の底からそう思っていることはメルエムにも伝わっている。

 それでもメルエムはネフェルピトーに、どんな選択を取るにしても決して裏切らないと確信できる忠臣に命を下す。

 

「ピトーよ、今ここで誓え。キメラアント等どうでもいい、真に迷い決断する時は、余すら関係なくお主がしたいようにするのだ」

 

 生まれてからこの方偽りなく望み通りに生きてきたネフェルピトーは、メルエムも関係なくというある意味自らの望みに背くことを命じられ困惑した。

 

「…かしこまりました、それがメルエム様の命とあれば」

 

 それでも他ならぬメルエムからの王命故に、ネフェルピトーは心の一番大事な所に刻み込む。

 

 満足そうに頷いたメルエムに再び宮殿周囲の警護を言い付けられ、窓から宮殿の尖塔へと登ったネフェルピトーは円を広げながら思考する。

 

(メルエム様もキメラアントも関係なく僕のしたいように、……な~んも思い浮かばんにゃぁ)

 

 その悩む心情を表すように、ユラユラと揺れる猫のしっぽが力なく項垂れた。

 

 

 

 

 

 ハンター協会本部にある、パリストンが普段使っている副会長用の執務室。

 最近は蟻塚に残ったキメラアントの対応も含め相変わらず激務が続いており、流石のパリストンも疲れを隠せなくなってきている。

 

(ここまで腑抜けばかりとは、人間を取り込ませすぎるのは悪手でしたね。仮に次があるなら、もっと野性的な種を持ち込まないと)

 

 すでに関与を止めていることも理由だが、パリストンはもうキメラアントを終わったものとして反省と検討を繰り返している。

 確かにメルエムと護衛軍は予想通りの脅威となったが、それ以外があまりにも不甲斐なさすぎるばかりか世論まで利用するなど期待ハズレもいいところだった。

 パリストンが望んでいたのはこんな似た者同士の戦争ではなく、もっと自然的で単純な生命の奪い合いと本能のぶつかり合いだったのだ。

 

(まあ今回はかなり多くの情報が手に入ったことを喜ぶべきですか。遠くない未来に動く“彼”ともより深く繋がれたわけですし)

 

 自分で入れたコーヒーを飲みながらその卓越した頭脳を回していたパリストンは、茶菓子として置いていたクッキーがいつの間にか減っていることに気付く。

 そのことに一切の反応をすることもなく、しばし黙ってから静かに口を開いた。

 

「何か報告があるんじゃないんですか? 黙られていてはこちらからは何もわからないんですがね」

 

「お、気付いてたのか。それなら俺の分のコーヒーくらい淹れてくれてもいいじゃねえか」

 

「それは失礼しました、今まで飲食しているところを見ていないもので気が回らず。砂糖とミルクはいりますか?」

 

 パリストンが新たにコーヒーを淹れて机に置くと、どれだけ注視していても気付けば少しずつコーヒーが減っていく。

 クッキーに関しても同じ現象が起こっており、その出鱈目な隠密能力に内心で舌を巻いた。

 

「ああ、ちなみに今回はボスから連絡があるわけじゃねえ。たまたま近くに寄ったから変なことをしてないか監視に来ただけだ」

 

「信用がありませんね、まぁそういう相手の方が信頼はできるので構いません。あなたのボスにはしっかりと報告しておいてください」

 

 その後は当たり障りのない世間話からキメラアントの情報など、互いに探り合いながら会話を続けていく。

 そして互いのコーヒーもクッキーも空になると、簡単な挨拶だけして声が聞こえなくなる。

 

(本当にいなくなったのかどうなのか、別に探られて痛い腹はないのでどうでもいいんですけど。ま、今回の会合で大分絞れました)

 

 残っていた仕事を再開しながら、パリストンは観測者について思考を始める。

 協力者から紹介され重宝している世界屈指の隠密に対し、何も知らないところから数人レベルまでその正体を絞ることに成功していた。

 

(可能性として一番高いのはあの人ですね、今回会いに来てくれたおかげで一気に有力になりました)

 

 可能性の低くなった者を頭の中のリストから消し、最有力となった人物の予定や行動をより細かく精査していく。

 それに伴いさらに上がる可能性を踏まえ、観測者のボスが考えているだろうこれからのプランについても予想する。

 

(…なるほど、カキン帝国がスポンサーというわけですか。資金力はもちろん、あそこの王家は中々に面白いことになっていますからね。そうなると今度はまだ動いていない理由がわかりませんが、協力者の家系はボクにとって予測はできても理解不能ですからねぇ)

 

 いつもの薄ら笑いの裏で協力者についてあらかた看破したパリストンは、ここまで紐付けられるほどの情報を持ってきてくれた観測者に心の中で感謝する。

 自分という大前提がいるとはいえ、ネテロに心酔するメンバーで固められた十二支んに紛れ込むその異端者に。

 

(ボクは気付いていませんよ。だからこれからもよろしくお願いしますね、観測者サイユウさん)

 

 変わらぬ表情のパリストンだったが、纏うオーラが不穏な色を浮かべて揺らめいた。

 

 

 

 

 

 NGLから出国したゴン一行は西ゴルトー共和国へと拠点を移し、メンフィスの国境に近い街に滞在しながらキメラアント側からのアプローチを待っている。

 拠点の移動に伴いノヴの四次元マンション(ハイドアンドシーク)があるとはいえ流石に遠くなりすぎたキャンプ地は引き払い、急ピッチで建造される施設の中で久しぶりにいつものメンバーが集まっていた。

 

「…ん? オレの知識が間違ってんのか? え、あれ、赤ちゃんてこんなに早く出てくんの!?」

 

「かわいいね〜、パッと見はクラピカ似かな? 双子ちゃんだね!」

 

 キルアとゴンが驚愕しながら見つめる先、ギンのお腹に寄りかかるクラピカの腕の中では二人の赤子がスヤスヤと寝息を立てている。

 髪は金髪に黒髪と別々だが、生まれたばかりとはいえ見て分かるほどクラピカに似た顔が並んでいた。

 

「かわいいだろ〜♥どっちも女の子で金髪がクレア、黒髪がカリンだ。母子ともに健康そのもの、オレがパパだぜコノヤロー♥」

 

 恐ろしいほど緩み切ってだらしないながら、普段とはどこか違う慈愛に満ちた満面の笑みを浮かべるレオリオ。

 クラピカは母親になったことで精神的に一段成長したのか、その身体に今まで以上に深く落ち着いたオーラを纏っていた。

 

「紅紫の眼の状態で自分と子供を強化し続けていた影響でな、本来十ヶ月かかるはずが半年もしないで産まれてしまった。流石に最初は焦ったんだが、何度診察されても問題なしだったからな。それからは開き直って全力で強化した」

 

 レオリオ同様慈愛に満ちた笑みで赤子を見つめたあと、クレアをキルアに、カリンをゴンに向ける。

 抱いてやってくれと差し出されたゴンとキルアは、片や島の妹分で、片や本当の妹で経験している分慣れた手付きでそれぞれ赤子を抱える。

 

「レオリオより上手いじゃないか。事後報告で悪いが、その子達の名前に二人の字を使わせてもらった。これから戦いに行くのに縁起でもないが、改めて礼を言わせてくれ。…ありがとう、私が母となれたのは二人のおかげだ」

 

「オレからもだ! ゴンとキルアのおかげで最高の嫁さんと子供に恵まれた。これからも感謝し続けるからよ、さっさと勝って帰ってこい!!」

 

「ぐまっ!!」

 

 クラピカとレオリオからの言葉と、赤子の番キツネグマと化したギンからの激励。

 そしてその小さな命から確かに感じる生きることへの渇望と、赤子ゆえの今まさに成長し続けているオーラの感触。

 

「勝ってくるに決まってんだろ、今回のことが終わったらオレも妹“達”を迎えに行く。紹介させてくれ、最愛の家族に最高の親友達をさ」

 

「予感があるんだ。オレの目指す最強(ゴンさん)、その領域に踏み込めるって。次会ったらきっとビックリするよ」

 

 近い決戦までの短い間、ゴン達は変わらぬ絆を確かめ新たな命と戯れる。

 

 キメラアントという種の命運を左右する、種族を超えたぶん殴り合いまであと少し。

 

 

 

 なお張り切りすぎて漏れ出るオーラの邪悪さが消えないピエロは、主治医にして父となったレオリオに断固面会禁止を言い渡され一人寂しく夜空を見上げていた。

 

 





 後書きに失礼します作者です。
 この作品の中で書く予定がないので、フライング気味ですが観測者こと十二支んの申サイユウについて補足します。

 名前こそ出ていませんがサイユウの能力は“見ざる聞かざる言わざる3匹のサルを具現化する”と原作で言っています。相手にその状態を付与する能力らしいですが、切り札として自分に使うなら面白いなということで妄想しました。
 “見られざる聞かれざる言われざる”状態となり、ぶっちゃけメレオロンの上位互換となります。会話はできてますが聞かれざるなので声で特定はできないし、見られざるなので姿は見えないし、言われざるなので何をしても指摘されません。
 制約として相手に攻撃不可の防御不可。誓約として相手に面と向かって正体を言い当てられたらその相手から二度と隠れられなくなります。

 パリストンはある程度以上の実力者は常に居場所の把握を心がけていて、特に足跡を追いやすいジン以外の十二支んはほぼ完璧に把握している。観測者と今まで会話した回数やタイミング、ボスに会っているだろうタイミングなどから消去法でサイユウにたどり着きました。
 
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