オレが目指した最強のゴンさん   作:pin

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第94話 ネテロ VS メルエム

 

 

(まったく、ジジイはジジイらしく少しは大人しくなれんのか)

 

 移動手段のためだけに雇われた世界最高峰の暗殺者ゼノ・ゾルディックは、もう姿の見えない昔から親交のある若すぎる年上に呆れてため息をつく。

 

(それにしても圧巻じゃったの、まさかこれだけの数と質をこれほど早く完封するとは)

 

 ゼノが振り返った先、キメラアントの軍団が一切の例外なく荒野に沈んでいた。

 しかも重傷者こそいるが命に別状がある者はおらず、完璧な手加減と最速で事を終える力加減を完全に両立させて戦闘を終えていた。

 

「親父、確認したがすぐに動ける個体はいない。仕事が終わったならさっさと行こう」

 

「高い金の分は働いとらんが十分か。どうじゃったシルバ、生でハンター最強を見た感想は?」

 

「……割に合わんどころじゃないな、最悪ゾルディック家自体を賭けなくてはいかん」

 

「ふむ、同感じゃ。なんでまだ強くなっとるんかなあのジジイ」

 

 ネテロの全盛期を実際に見たことがある数少ない生き残りは、当時と今の相違点を何故か楽しそうに語りながら歩き出す。

 間違いなく劣化したオーラや身体能力に言及しながらも、それを遥かに凌駕するほど極まっている今の方がやりあいたくないと顔をしかめた。

 老人特有の様々な思い出話に花を咲かせる楽しそうなゼノに苦笑したシルバは、ふと視線を外してあらぬ方角を見て眉を寄せる。

 

「キルアが心配か? お前は昔から過保護じゃからの」

 

「親父にだけは言われたくない。…正直キメラアントを見た時、俺もキルに付いていこうかと考えた」

 

「確かにの、アレは間違いなくやばい」

 

「だがそれ以上に、今のキルに目を奪われた」

 

「全く以って同感じゃ」

 

 二人が最後にキルアを見てからおよそ1年半、たったそれだけの時間で雛鳥は保護者の手を離れ大空に飛び立っていた。

 無論まだまだ負けるなどとは欠片も思ってはいないが、不覚を取る可能性は十二分にあると認めなくてはいけなかった。

 

「嫁の癇癪に耐えてでも放り出したかいがあったの、まさかあれほど理想的な成長を遂げるとは」

 

「師にも恵まれたのだろうな、俺達ではあの域に連れて行くことはできても成長はさせられなかった。それと…」

 

「ん?」

 

「いや、何はともあれ死ぬことはないだろう。帰って沙汰を待つ」

 

 シルバは濁したが、キルア以上にネテロを意識していたゼノに見えなかったものが見えていた。

 

(あの少年、アレは一体なんだ?)

 

 煌めくような息子や見るからにやばいピエロとネテロに囲まれ、一見ただオーラの質が高いだけの少年に見えた。

 

 しかしシルバの本能が、現ゾルディック最強の肉体が警報を発していた。

 

(油断云々ではなく、ただただ単純に喰われかねん)

 

 暗殺者として持っていなければならない、相手を恐れ侮らない弱者の心。

 間違いなく世界最高峰の上澄みにいるシルバだったが、だからこそ相性含めて上には上がいると経験から熟知している。

 

(割に合わん、しかし対峙することがあれば殺るのに問題はない)

 

 シルバは暗殺者、真っ向からの打倒でないなら失敗することはないと確信した。

 

 

 とんでもなくマルチな変態と己を凌ぐ才を持つ暗殺者、2つの壁が立ち塞がることの意味を彼はまだ知らない。

 

 

 

 

 

 距離が近くなるにつれより良く見えるようになった光景に、ネテロは想定の範囲内ながらそれでも驚かずにはいられなかった。

 

(まさかここまで一方的とは、王の強さは予想の中で最大級かのぅ)

 

 念龍の上から放った遠距離用の百式観音が無傷に終わり、警戒というよりただ待っていたメルエムの眼前にネテロは降り立つ。

 その姿が変わっていることはもちろん、先程相対した以上のオーラを滾らせる相手にネテロは笑みを深め、庇う形となったゴンに振り返り話しかける。

 

「交代じゃな、異論は?」

 

「悔しいけどないよ。オレは一回下がる」

 

 いやに素直ながらまだ自分の出番があるかのように返すゴンを訝しみ、ネテロはメルエムに注意を向けながらも続きを待つ。

 

「メルエムに齧られたらオーラと記憶?を奪われるよ。それ以外はオレの上位互換、あと念を盾に変化させてそれを足場にもする。…オレはちょっと集中するから援護はできない、ゴメン!」

 

 喋るだけ喋ったゴンは返事も待たずに踵を返して走り出し、およそ被害の届かないだろう位置まで離れるとそのまま瞑想を始めた。

 メルエムの手の内を盛大にぶちまけ何やら始めたその姿は、ボロボロでありながらそれを感じさせない意欲と興奮に満ち満ちている。

 

「まったく落ち着きがないのぅ。さて、待たせちまって悪かった、ここからはワシが相手じゃ」

 

「本来王を待たせるのは重罪だが、余も回復する時間が必要だった故許そう。それに順番が変わるだけよ、お主達はなんとしても徴収する」

 

 互いにしばし見つめ合い、ネテロはゴンの言葉から、メルエムは先程受けた攻撃からそれぞれ相手の戦闘スタイルを推測する。

 

(ゴンの上位互換とは骨が折れるのぅ、何とも血沸くわぃ♪)

 

(見るからに上質な肉とはいえ老年、先の攻撃と合わせて考えれば能力主体の技巧派か?)

 

 ほとんど一瞬ながら幾通りものシミュレーションを終えたネテロとメルエムは、高度な柔軟性を維持して対応するという言葉にすれば酷くチープな、しかし膨大な経験値と常軌を逸した思考力による言葉そのままの戦闘を開始した。

 

 百式観音 壱乃掌 ――

 

 先手を取ったのは、神速の百式観音。

 

 メルエムが時の止まった世界でネテロの祈りに千手観音を幻視した瞬間、頭上から振り下ろされた観音の手刀がその身を地面に叩きつけた。

 

 百式観音 伍拾乃掌 ――

 

 余裕はないと知っているネテロは一切様子見をすることなく、組んだ両手による重い一撃を手刀の着弾地点に叩き込む。

 

 百式観音 九十九乃掌 ――

 

 舞った土煙で視界不良を起こしメルエムが見えなくとも気配で大体の場所に当たりをつけ、止めとばかりに無数の連打をもってその一帯を滅多打ちにした。

 

 油断なき百式観音の3連打は普通の一流であれば塵も残らぬ猛攻だったが、優れた肉体とオーラに加えて王盾(キングシールド)を駆使したメルエムはほぼノーダメージで凌ぎ切る。

 

「カァッ!!」

 

「むぅ!!」

 

 百式観音 弐乃掌 ――

 

 未だ立ち込める土煙から飛び出し強襲するメルエムだったが、届く寸前に祈りを間に合わせたネテロにより吹き飛ばされた。

 

(早い! しかし軽い!!)

 

 メルエムはゴン相手にも使った王盾を足場にする三次元的な動きを繰り出し、ネテロの全方位からまるで分身しているかのような速度で突撃を繰り返す。

 

 ネテロはゴンの対応できなかったその猛攻を見極め、常に最善な百式観音を選択しカウンターを取り続ける。

 

 ほんの数秒にしか満たない、しかしネテロとメルエムの攻防は千を超える拳の遣り取りとなって両者の間に無数の火花を生んだ。

 

 満開の火花が咲き誇る、膨大な経験と圧倒的思考力のせめぎ合いは、新たな手を生み出し続けるメルエムに軍配が上がる。

 

(読み切った!!)

 

 何万通りの攻め筋から唯一無二の一手を掴み取ったメルエムは勝利を確信し、短いながら濃密にすぎる至高の戦闘を終わらせる致命の一撃を放ち、

 

 百式観音・軽式 参乃掌 ――

 

 これまで一度も欠かさなかった祈る動作のない、百式観音・軽式が意識の外からメルエムの身体を打ち据えた。

 

 百式観音・重式 伍拾乃掌 ――

 

 無防備なところへの被弾と驚愕から生まれたほんの僅かな硬直、その時間を限界まで使った長い祈りがこの日最大の一撃として放たれメルエムを起点に特大のクレーターが出現した。

 

(手応えあり、流石に手傷は負わせたかの?)

 

 奥の掌と言える零を除けば最大の一撃を命中させたネテロだが、これで終わるはずがないと一切の油断なく噴煙立ち上るクレーターを見据える。

 そして予想に違わずクレーターから負傷したメルエムが飛び上がり、口から滲んだ血を拭うとネテロと正面から対峙した。

 

「素晴らしい一撃だった、しかし真に見事なのはそこまでの流れ。余が回避も防御もできぬ完璧な打ち回しは、分野が違えど正に芸術と言える」

 

 擦過傷に打撲、決して軽くはない傷を負ったメルエムだが、その足取りは揺れることなくまだまだ戦闘を続けられる。

 ゴンが外殻を砕かなければ更にダメージを抑えられたが、オーラの一部を奪い強化したことに比べれば微々たる差だった。

 

「やれやれ、今のでその程度じゃ零でも仕留めきれんか。まったく困ったもんじゃ」

 

 あまりに濃密な時を過ごしたネテロは大きく息をついて肩を叩くと、これだけの戦闘に一切見向きもせず瞑想を続けるゴンをちらりと見やった。

 その頼もしいやらつれないやらなんとも言えぬ感情を苦笑いとして発散すると、こちらも一息ついていたメルエムと向き合って感謝を捧げる。

 

「まさか仮想未来のゴンを相手にできるとはのぅ。メルエム、お主に最大級の感謝を」

 

 百式観音・祈祷式 真乃像 ――

 

 突然の嘘偽りない感謝の念に眉を顰めたメルエムに対し、ネテロは大きく下がりながらこの世全てに祈りを捧げる。

 ネテロの身体がほのかに輝くと、半透明の巨大な観音が掌に乗せ空中へと持ち上げる。

 常人から見たら種も仕掛けもない空中浮遊、だがメルエムからしたら届く高さに浮いただけの謎の行動に疑念が深まるが、突然己の前に出現した特大のオーラに身構える。

 

「ここからは、ワシがお前さんの相手になるぜ!」

 

 見るからに若返った姿の念獣出現に合点がいったメルエムは、まるで孤独狸固(ココリコ)のように無防備で孤立する本体()に意識が向いてしまう。

 

「そりゃ悪手だろ、王サマ」

 

 超一流でも察知できたか怪しいその隙を、全盛期の修羅は溢すことなく掴み取る。

 

「一骨!!」

 

「ぬぐぅっ!?」

 

 それはただの正拳突き、ただし人生を武に捧げたネテロが放つ珠玉の拳。

 

 命中寸前に展開された王盾すら粉砕して打ち込まれた拳は、そのエネルギーを余すことなくメルエムに浸透させ絶大なダメージを与えた。

 

「ふんはぁっ!!」

 

 ゴンやメルエムと違い吹き飛ばして威力を無駄にしないが故に、ネテロの攻撃は一切途切れることのない追い打ちを可能にする。

 

 先程とは逆にネテロが攻めメルエムが対応するという攻防は、満開の火花ではなく一本に見える大輪の火花を生んだ。

 

(こいつ、これだけやって捌き切るか!?)

 

 百式観音・重式と拳骨は確かに残るダメージをメルエムに与えたが、それでもなおその後の猛攻を紙一重で凌ぎ続ける。

 反撃に移る余力こそないものの、類稀な頭脳と王盾を駆使して詰まされる一手だけはなんとしてでも防いでいた。

 

(だがここまでくれば千日手、お前の限界まで付き合ってやるよ!)

 

 ネテロは完全な勝利を手にするため、早期決着を捨てメルエムを逃さないことに全力を注ぐ。

 ダメージを回復する暇を与えず、一手間違えればそのまま押し切れるだけの威力を打ち続ける。

 

(流石ハンター協会の頂点、これ程上手く攻められては打開策が打てん!)

 

 メルエムはまるでコムギに千日手を仕掛けられているような絶望感を味わいながら、それでも勝機だけは残すべく敗北の崖際で踏ん張る。

 

 決着まで決して止まらぬと火花を咲かせ続けるネテロだったが、勝つための戦闘を長引かせるという選択が思いもよらぬ存在を間に合わせた。

 

『メルエム様ーーーっ!!!』

 

「むぅ!?」

 

 それは途中でたまたま合流し超速で駆け付けた忠臣、シャウアプフとモントゥトゥユピーがメルエムの不興も顧みずにネテロ本体に攻撃を放つ。

 

「ちぃっ!」

 

 完全な不意打ちにも何とか反応して本体への攻撃を防いだネテロは、完全に隙だらけにも関わらず攻めてこなかったメルエムを見やる。

 

「申し訳ありませんメルエム様、出過ぎた真似を謝罪はしません。然るべき罰を受けます」

 

「メルエム様、おれは、おれは負けました!!」

 

「…よい、助けられたのは事実故、お主等の忠義を受け入れよう」

 

 メルエムは己の矜持から横槍による決着を容認出来ず、這いつくばるシャウアプフとモントゥトゥユピーを見下ろすに留めていた。

 ネテロもノヴの四次元マンション(ハイドアンドシーク)でかなり遠方に隔離したにも関わらず間に合ったことに驚愕したが、言葉と雰囲気からモラウ達とキルアが勝利しただろうことを確信し安堵する。

 

『全てを捧げます、この卑小な身を御身のために!!』

 

「……許可する。今まで、そしてこれからも大儀であった」

 

 しかし続くメルエム達の遣り取りは、百戦錬磨のネテロをして絶句した。

 

 シャウアプフの身体が視認も困難なレベルでバラけ、モントゥトゥユピーの身体が形を保てずとろけだす。

 

 それぞれの手段で食しやすく、吸収されやすく、もう元の姿には戻れないほど変容した両者を、メルエムは口と尾の針を使って一息に飲み込む。

 

「……空気のように軽く、それでいて濃蜜な香りと甘みはまさにこの世から失われし失楽園の(ミスト)。」

 

 徴収される瞬間人生最高の時を迎えたシャウアプフが光り輝き、その溢れんばかりに覚醒したオーラが一欠片も残さずメルエムの血肉となる。

 

「……どんな金属よりも重く、それ以上に濃厚な旨味と充足感は天から落とされた星の(ドロップ)

 

 同じく徴収される瞬間最高の煌めきを放ったモントゥトゥユピーは、全てが針に吸われた後一部が体内より滲み出て最小限の鎧に手甲具足となって固まる。

 

「あぁ、なんと甘美で、そして虚しい。余は最高の忠臣を二人も失ってしまった」

 

 メルエムから噴出したオーラは、まさに超新星爆発を思わせる絶大なエネルギー。

 

 オーラ的にも肉体的にも、並ぶ者無き空前絶後の太陽王が真なる覚醒を果たした。

 

「助力を得ての勝利、それもよかろう。余の全てを以って、蹂躙する」

 

「これはちぃっとまずいかの」

 

 太陽と観音の死闘は新たなステージに駆け上がり、続く階段を静かに筋肉が爆走している。

 

 

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