3連複はコナコースト切っちゃったよ~、なんでいつも勝ちきれないんだろう、教えて競馬上手い人!!(切実)さて、それはともかく完成形です
象形拳、あの時教えてもらった技、あらゆる生物の動きなどをモチーフにした拳法とでもいうべきか、いわゆる所詮真似事、真似をしたところで本物のような力はない、ナリタタイシンは海洋生物をモチーフにした象形拳を生み出し、レースに勝利するなど輝かしい功績を残していたが成長はそこで止まっていた。
本来の持ち味である末脚に象形拳の組み合わせ、しかし周りも力を付け始め油断ならない相手になってきた。ならば真似事を辞める。単純であるが単純ではない、それは新たな方法をゼロから生み出すのと等しい考えであった。
「どうしよう、なんにも思いつかない」
ヒントを探すとしてトレーナーと一緒に水族館に行ったり、動物園に行ったり、あらゆるところに一緒に出掛けていた。これを見ていたモジャモジャのメガネはまるでデートではないかと思っていたが心のうちにしまっていた。
モノマネ、つまり今のままモノマネを続けていても意味はない、モノマネ…………あれ?なんで私、モノマネに引っかかるのだろう?
僅かな引っ掛かりを気にしながら今日も過ごすタイシン、そこにハヤヒデとチケットが姿を現す。もしかしたらなにかいいアイデアをくれるかもしれないと考え、2人に相談する。
「え~わかんないよ」
「ふむ、難しい相談だな」
「………………」
チケットに聞いたのは間違えだったかもしれない、けれどハヤヒデは真剣に考えてくれている。モノマネという部分に引っかかるのか、ブツブツと言葉を漏らしながら考え込んでいる。
「ん~あたしにはわかんないな~」
「チケット、ちょっと黙ってて」
「なんでー!!!!!」
「………モノマネを辞める、いや、そもそもモノマネをするほどその原点が優れていると言うべきか」
「え?どういう事ハヤヒデ?」
「チケット、仮にだがブライアンのような力強い走りを真似しようとする。それは真似されるほど素晴らしい走りともとれる。象形拳とはそのオリジナルの戦い方を真似する。つまりだが、象形拳はモノマネ、オリジナルには近づけない」
「「あ!」」
「場合によってはそれを越すこともできるだろうが、そもそもの原点がオリジナル、つまりタイシンはタイシンのチケットはチケットの私は私の走りと言ったところか」
「でもそれだと意味がないんじゃ」
「ああ、問題の改善はされないだろう、つまり最初から戻ることになる。象形拳を使える前の段階に」
まさしくゼロからのスタートになる。確かにハヤヒデの言う通り問題は解決されていない、次のステージに向かうことはできない、しかしヒントは手に入った。
ヒントを探すために、原点を探るために己の過去を思い返した。しかしいくら思い返してもいい思い出はなく、どうすればいいのかわからない
「タイシン、無理に思い返そうとするな、些細なきっかけがヒントになるかもしれない」
「モリゾー」
「ちょっと待て、今なんて言った!」
「ハヤ・・・・もじゃもじゃ」
「チケット、少し説教が必要なようだな」
「あーーーーーー」
ドナドナされていくチケット、どこかに去って行く二人を眺めながら考える。
考えても結局何も思いつかず一日が終わった。次第に考えることをやめ、モノマネをやめ、いくつもの時間が経ち、日だけが過ぎていく。
結局何も変わらず時間だけが過ぎていく日々にイライラし始めるタイシン、普段なら願うことをすることはないが、神にすらすがりたくなる気持ちであり三女神の像の前にいた。
「どうすれば・・・・」
「相変わらずモノマネに捕らわれ脱却することが出来ず、ただただ悩んでいるようだな、ナリタタイシン」
不敵な笑みを浮かべ現れるオーガ、ニヤニヤとバカにするような顔でこちらを見下してくる。
「うっさい、どっかいって」
「助言をやろう小娘」
「はぁ?」
「貴様らは何だ?」
「は?」
「走るために生まれてきた種族の貴様ら、元は別の世界の魂から派生したもの、貴様らは未だに謎が多い種族ではあるが、根本的な部分は変わらないはずだ」
「・・・意味が分からないんだけど」
「血を感じろ!!!」
「え?」
「己に流れる血を感じろ、それだけだ」
「血を?」
「血のなせる技だ」
「技」
まだピンとこない、一体どういうことなのか、血のなせる技とは一体
「さて、もうすこしお節介を焼くなら、象形拳のなるものの理想」
「り、理想型?」
「或いは、目指すべき方向とでもいうべきか、キサマにおしえよう」
熊の戦闘形態を真似た熊掌拳、虎の勢いをイメージした虎形拳、蟷螂の戦闘を採り入れた蟷螂拳、そしておまえのオリジナルシャチの拳
「様々型を工夫するも言うなれば所詮はモノマネッッ」
知っている、モノマネということは、初めて型を作るときにも言われた言葉だ。ゴジラの形を完成させ、火を吐いて戦おうがマネはマネだということを
「見逃すな象形拳の理想型」
「え・・・・象形拳・・・・・って・・型・・・も、モノマネじゃん!」
両腕をゆっくりと持ち上げ手の甲をたたき合わせる。いい音が響き渡り両腕は頭の位置にまで伸ばされた。改めて、弱肉強食だけが旨、そんな苛烈な自然界を幾千世代、彼らに備わる戦闘法、この世の法則に沿う、言うなればそれは、絶対強者の戦闘法だ
そんな神のお墨付き、人は学んだ、強者から学ぶ、強者から学ぶ、生き残った者から学ぶ、選ばれし者から学ぶ、絶対的回答、先人から受け継がれた英知を、オーガは揶揄する。所詮はモノマネと、あまつさえ、ここに象形拳を完成させるとまで・・・・・・
ナリタタイシンは考えた。何から採り入れる・・・・・・?何をマネるのかと、しかしそんな考えとは裏腹にオーガは笑う
「バ~~~~カ、こんな動作、テキトーにキマッてんじゃん」
「は?」
高く上げた拳を勢いよく前に持ってくるとオーガの着ていた服が破けた。破けたと同時に服に隠されていた筋肉があらわとなった。いったいどのように鍛えたらそのような身体になるのか、異常に発達した筋肉はまるで一つの芸術作品、並の格闘家とは比べものにならない
本当に簡単な動きだった。振りかぶったオーガが虚空に向けて放つ直突き、回し蹴り、それら全ては実態となり視覚として捉えられた。オーガ自ら演じるオーガ拳、本人が本人を真似る。これ以上自然な象形拳はまたとあるまい、とても、とても美しく感じた。
「どうだった」
「・・・きっと完璧、本人が本人を真似る完璧に決まってんじゃん」
「ならばどうする」
「・・・・私も私をマネする」
「ならばより己の血を感じることだな」
「普通ならウマソウルとかなんだろうけどね」
「ウマソウルなど知ったことか、己に流れる血が全てを知っている」
「あ、そ・・・どうも」
不器用な感謝を伝えるタイシン、もうこれ以上教えることはないと言わんばかりにその場から去って行くオーガ、血を感じろ、それを意味することは分からない、感じたところで何が分かるのか理解できない、しかしなぜか感じる。
「血を感じろ・・・か」
ゆっくりと己に流れる血を感じ始める。初めは目をつむり感覚を引き上げる。風の音から始まり、虫の音、心臓の音と鼓動が聞こえ始める。より集中し流れる血をイメージする。
「聞こえる」
一定のリズムで鼓動を繰り返す心臓、血を全身を巡らせるためのポンプ、更に集中することで手から足、全身に流れる血液を意識する。しかし意識したところで何かが変わるわけではない、ただただ流れているだけでありそれだけである。
魂、ウマ娘は本来別の世界の魂が人の形となり生を受けると言われている。本来謎が多い生物であり未だに解明できていない超難問である。しかし血と魂、これらは共通するものでもある。
「血と魂・・・原点」
ボソボソとつぶやきながら己を感じる。血が沸騰するような感覚、全身が熱くなり胸の中心が熱い、これは一体何なのか、これが魂なのか、嫌心臓だろう。非現実的な感覚、あのときもそうだ、モノマネの姿が本物に見える目の錯覚、意味が分からないが事実でもある。
仕方なくその場から離れターフに立つ、イライラしたときや不満なときは走ることで少しはましになる。今日は走らないがここはとても落ち着く、芝が、ターフがとても落ち着く、やはりウマ娘、普通の人間ならこんな気持ちにはならない
しかし身体が熱い、焼けるように熱くなってくる。まるでレースの最中のように血が、全身が沸騰するような感覚、ナリタタイシンは一度目を閉じ全身を押さえるように身体を丸めた。しかし身体はどんどん熱くなる。まるで身体の内側から何かが飛び出すような感覚、次第に熱を抑えきれずその場で這いつくばり意識を失った。
意識を失ってからどれだけ時間が経ったのか、目を開けるとそこは普段自分が見ている光景ではなかった。目線の高さが違う。身体がおかしい、人がたくさんいる。ここはどこだ?
一番の驚きは自身の姿だ。謎の生き物に変わり四足歩行、口には何かをつけられており背中には人が乗っている。身体の自由がきかない、思うように動かない、まるで自分の身体ではないようだ。
「なにこれ?どうなってるの?」
不安と疑問、焦りなど様々な感情があるが一番驚いたのはチケットとハヤヒデの姿だ。同じような姿で目の前を歩いている。背中に人を乗せて番号と名前が書いたゼッケンをつけている。なぜ分かるのか分からなかったがなんとなくわかったと、ゼッケンが最終的な決め手ではあったがなんとなくわかった。
聞いたことのあるファンファーレが鳴り響く、ゲートが目の前にある。これはもう本能で分かる。今からレースをする。他にも多くの何かがいるが視線は前を向いている。これは自分の身体ではないがおそらく別の世界の自分なのだろう。チケットとハヤヒデがいるそしてこれは皐月賞、私が勝ったレース、そしてゲートが開いた。
皐月賞2000メートル、4コーナーにさしかかり一気に全員が仕掛けてきた。やはりハヤヒデが先頭トップに躍り出た。続いてチケット、背中に乗っている人に鞭で叩かれる。勝ちたいという気持ちが乗ってくる。勝たせたいという気持ちが乗ってくる。胸が熱い感覚、あのときのレースとはまた違う感覚、得意な末脚でゴールを奪う瞬間景色が変わった。
今度は謎の生き物と正面で対峙している。お互いを見つめ合い、何かで繋がっている感覚がする。ウマソウル、つまりこの生き物が別世界の私なんだろう、何かを語りかけてくる。しかし言葉は話せない、しかしなにかしら通じるものがある。
「血を証明しろ?」
「勝ちたい気持ちはあるのか?」
「血統を証明しろ!」
「覚醒させろ」
「おまえは俺だ、俺はオマエだ」
なんとなくだが言いたいことが分かる。手を伸ばし鼻先に触れる。暖かく、そして光となり一体になる感覚がする。別の世界での経験が己の経験となり流れ込んでくる。まるでかけていたピースが見つかったような感覚
象形拳の完成形はこれではないのか?原点にして頂点、自身が自信をまねする。そのまねが自信であることが一番、象形拳の理想型は見つかった。オーガの助言を思い出す。
気がつけば世界は元に戻っていた。しかし何かが違った。その場から立ち上がり深呼吸をする。
「・・・いける」
型に捕らわれずただイメージする。仮に型を作るとしてもテキトーでいい、あの生き物をイメージする。最初から自分は四足歩行の生き物だと意識し形をはっきりとさせる。段々とイメージが現れる。そしてゲートに入るイメージ、あの光景を全て構築する。先ほど見た光景をより鮮明に思い浮かべる。
「驚いた」
「え?」
「どこに行ったか探しに来たのだが一体何があった、雰囲気というか何かが違う」
「ハヤヒデ」
「まるで懐かしい感覚、そしてとても恐ろしい」
いつからそこにいたのか、チケットの姿は見えないがそこにいたのはハヤヒデだけであった。いつものようにキリッとしているわけではなく、なにかが見えているのか少しばかり眉間にしわが寄っている。懐かしい感覚、もしかしてだが宿っているのか
「何があったんだタイシン」
「・・ないしょ」
「はは、そうか、しかし」
「なに?」
「私には得体のしれない生き物がこちらをずっと見ている風に見える。嫌、言葉にするのが難しいな、オーラなのかそれともスタンドなのか・・・言語化が難しいな」
「さあ?」
「なにかを掴んだようだなタイシン」
「明日ちょっと三人で併走しない?」
タイシンからの珍しい言葉に驚くがそれ以上に今戦ってみたいという気持ちがある。無論問題ないと言い、次の日の併走では圧倒的な差でハヤヒデとチケットは負けた。併走の際、まるでこの世の者とは言えない生き物と併走している気分で走ったと、懐かしくそして今までにないくらいに強かったと感じたハヤヒデであった。
チケットは四足歩行の生き物と併走している錯覚が見えたと、そして人が背中に乗っていたと、懐かしくそしてとても熱い気持ちになったと、まるであの時のようだと感じた。なぜか涙があふれて止まらなかった。
これにて完成!後は二人をどんな風に魔改造するかが悩む、そして明日のディープ記念はどうしよう、個人的にはゴッドファーザーかトップナイフを軸に考えようかな