晴れ渡る空のもとターフではチームスピカと鬼が一緒にいた。スピカのトレーナーだけでなくメンバー全員がドキドキしながら整列していた。
「えー、き、今日はオーガさんに一緒に練習を見てもらう事になりましたので、みんなが、頑張りましょう」
震える声で頑張ろうと言うが、見るからに全員が青い顔をしながらオーガを見ていた。彼女たちは全員心の底から自分が声を掛けられることがありませんようにと願っていた。
「えー、スズカはオーガさんに指示を貰ってください」
「・・・・・噓でしょ!!」
スズカは一瞬でこの世の終わりのような顔をした。周りからは頑張れなど心配される声、あげくには骨は拾ってあげるなどの声がかけられた。
そして場所を少し移動し、二人きりになると、オーガからは特に教えることはないと言われた。
「え、ええっと、私はどうすれば」
「・・・あいにく走ることに関しては教えられることは俺にはない」
「え?」
「貴様のトレーナーにレースの映像を見させてもらったが、速くゴールに向かって走っているとしかわからん」
ならいったいどうすればいいのか、スズカは左回りになりながら考えていた。
「貴様はいったいどういった気持ちで走っている」
「え、ええっと、誰にも先頭の景色は譲りたくない気持ちで走っています?」
なぜ疑問形なのかは、いきなりこう言った質問をされたからであろう。緊張と驚きと不安が埋め尽くされる中、何かを考えるオーガ、数分経つとようやく口が開いた。
「ならばスタートダッシュを変えてみるか」
「スタートダッシュですか?」
「脱力という言葉はわかるな」
確か、体の力を抜くような言葉だったはず、あっているかは分からないが、それとどう関係あるのか、疑問に感じた。
「脱力という技を教えよう、過去・・・多くの競技者や武術家がおこなった難行だ」
「難行、それを覚えれば、さらに早くなれるんですか」
見せてやろうと、直線距離を走る準備し、説明をしながら実践する。
「今から見せるのは、脱力を超えた脱力、最終的に目指す形だ」
「形・・ですか」
「いわば、イメージを具現化させ、体現する。筋繊維を液体、さらには気体レベルにまで弛緩させ、しかる後に、緊張へと転ずる、そこに発揮される爆発力、期待を大きく上回る」
「イメージ、液体?」
いったい何を言っているのか、どうするのか分からなかったが、何かが目の前で起こるとスズカはなぜか確信していた。
「仮に忌み嫌われる虫、ゴキブリが人間サイズ以上ならば起きえる可能性、実力、あの生物だけ可能とされる最高速を初速に実現させる技」
「え、む、虫?ご、ごき?」
「目に焼き付けておけスズカよ」
二人の空間にだけ異様な空気が流れるのを他のメンバーも気づき、食い入るように見入る。これから何が起きるのかを彼女たちはまだ知らない、これから起こる現象が後に彼女たちにも影響を与えることを。
オーガは脱力を液体レベルから気化へとイメージし、超脱力をおこなった。
静かになった場では、もちろんスタートの合図もなく、ただ風が吹いていた。
なにか言おうと思ったその瞬間、オーガの姿がブレた、いや、消えたのだ。
「え?」
その瞬間、地面が抉れる音と爆発が起きたような音、そこから発生した風がスズカにたたき押せた。ほんの一瞬、一瞬で姿が消え、はるか先の方でオーガがたっていた。
「え、なにが起こったの?」
「え、そこにいて、今あそこだから、ワケワカンナイヨー」
「おいおい、嘘だろ、反則だろうあれ」
「これが脱力、今のはその先の脱力だが、ウマ娘ならばこれくらいならたやすくできるだろう」
「いや、無理だろこれ」
一同が頷き、肯定する。普通の人間でも無理だと、人間業ではない、けれどこれをものにしたときどうなるのか、今以上に早くなれるのかと考えたが、オーガのある一言で全員が身に着けようとしたのをやめた。
「時間はいっぱいある、ある程度できるまで、やり続けろ」
「え?、い、いつまで?」
「俺がいいというまでだ」
「・・・・・噓でしょ!!!!!!」
本日何度目の噓でしょなのか、鬼がいると全員思いながら、あー、相手は鬼だったと思い返しながら練習に戻った。その後ある程度脱力を身に付けることができるようになり、併走トレーニングでは驚異的なスタートダッシュを身に付けたスズカに勝てる相手はいなくなり、本番のレースでは圧倒的な大差で勝利を手にした。
ライアンかタイシンかブライアンか、それともゴルシか、次は誰にしようか悩む