今日も勝てなかった。この前も勝てなかった。何度も何度も勝てなかった。けれど諦めることはなかった。プライドがそれを許さなかった。例え泥にまみれようが、優雅でなかろうが、泥臭くあきらめが悪かろうが、いつか絶対に一流であると証明してみせる。そう誓い決意したあの頃、今の自分はどうなのだろうか。
ただ一人で河川敷を歩くキングヘイロー、今日のレースでも敗北しまた一着を取れなかった。そのたびに母から連絡がかかってくる。勝っても褒めてはくれない、意地を張り頑固に一流を証明しにかかる娘に呆れているのだろうか
「駄目よ、キングがナイーブな気持ちになっちゃあ!」
気持ちを切り替えようと夕日の河原を見つめる。すると土手のところで大きな身体の少年が拳を構えて1人、シャドーボクシングをしていた。
「あら?ボクシングの練習かしら?」
特に興味もないので寮に帰ろうとその場から離れようとしたが、なぜか目が離せなかった。なぜだかわからないが見入ってしまう。そしてある異変に気が付いた。
「え?身体に痣が……血も出てる!」
ただのシャドーボクシングのはず、なのに身体には痣ができ、出血もしている。そして極めつけはシャドーボクシングをしている相手がハッキリと見えるわけではないが、ゆらゆらと見える。もしここにカフェがいたらな相手がどんな人物なのか教えてくれそうだ。
「凄い」
徐々に真剣になっていく男、動きも激しくなり拳のスピードも速くなっていく、気が付けば完全に見入っていた。そして突如終わりを迎え、目が合った。
「あ、」
「やぁ」
「えっと、そのごめんなさい、ずっと見ていて」
「ああ、いいよ別に」
「ねぇ、どうして身体にそんな傷ができてるの?」
「ああ、これ、リアルまでイメージしたシャドーだからね」
「イメージって、全然想像つかないは」
「はは、ま、そりゃそうさ、簡単にできるものじゃないからな」
笑う少年、土手から上がってくると驚いたのは痣や傷だけでない、その大きな筋肉と古傷だ。
「貴方、いったい何をしたらそうなるのよ」
「ん?ああ、いっぱい戦ったからな」
「戦った?」
「ああ、喧嘩したり、化け物みたいな猿とも喧嘩したし、あらゆる格闘家とも戦った」
「嘘」
「嘘じゃないって」
「だって喧嘩で出来る怪我じゃあないでしょう」
「参ったな~」
信じてもらえない、無理もないだろうこの少年のことを知らないとこの傷のことは理解ができない
「ま、いいや、それでお嬢さんは何をしていたのかな?」
「私はただ歩いてただけよ」
「ふ~ん、そっか」
「………………嘘、少し悩み事」
なぜ今この言葉を口にしたのかキング自身も分からなかった。ただなぜか出てしまった。それだけである。
「悩み事ね、あんた、ウマ娘って言うんだろう」
「そうよ、私はキングヘイロー、一流のウマ娘よ!」
「へぇ、俺は刃牙、ただの高校生さ」
嘘である。こんな高校生がいてたまるか
「それで、一流のウマ娘がどうしたんだい?」
「……………最近なかなか勝てなくてね、それで悩んでるの」
「勝てないか…………そいつは大変だな」
「貴方ね~」
「はは、悪い悪い」
悪気なさそうに笑う男、なんでこんな男に話したのか、バカらしくなってきた。
「勝てないか、なら勝つまで鍛えるしかないだろ」
「ええ、でも」
「俺にも勝ちたい人がいる」
「え?」
「けどまだ駄目だ」
「………………」
「もっと強くならなくちゃいけない、もっと鍛えなければいけない」
「ねえ、あなたの勝ちたい人って?」
「…………親父さ」
「お父さん?」
「ああ」
いったいどのような父親なのか、想像もつかないがなぜかあの人の面影を見る。嫌、考えすぎか、あの化け物のような人に似ている訳がない。
「想像がつかないけど、きっと凄いお父さんなのね」
「ああ、凄いさ、なんせ正真正銘の化け物だからな」
「もうよくわからないわ」
ため息をつきながら川を眺めるキング、勝ちたい相手がいる。託された思いがある。己を証明したい、様々な葛藤がある中でこの青年は何を背負っているのか気になった。
「貴方は何を背負ってるの?」
「……………いや、何も」
「え?」
「ただの親子喧嘩さ、ごく普通の」
「え?」
「そのために鍛えている」
「ちょっと待って、本当に意味が分からない」
「わからなくていいさ」
笑いながらそういう青年、けれど何故かとても楽しそうでスッキリとした表情をしていた。キングもよく電話越しの喧嘩はよくする。しかし拳で喧嘩はしようとしたことがない
「貴方はいったい」
「おっとそろそろ帰らなきゃ」
「え?」
「じゃあ!またあったら話そうか」
「ちょっと待ちなさい!」
こちらの言葉に耳を貸さずにその場から走って立ち去る青年、なんというか忙しい人、けれどこの出会いが何度か続きキングヘイローの人生を大きく変えた。それを知るのはもう少し先であった。
ついに登場、そして長らくお待たせしました。