トウカイテイオーと生きる伝説
日本ダービーを走り終えたトウカイテイオーに骨折が発覚、完治までに時間がかかり菊花賞に出走できないことが確定した。夢であり目標である無敗の三冠、テイオーは泣いた。悔しくて悔しくて、ここにきて走れない、大好きなシンボリルドルフと同じ三冠がもう目の前なのに、どうして、どうしてボクがこんな目に合わなければならないんだ。そう考えていた。
それとは別に日本に生きる伝説がオーガに会いにやってきていた。あのオーガが指導をしていると、天変地異の前触れか、それとも戦争でも起きるのか、事情を聴いても気まぐれとしか答えてくれない、それよりもいったい教え子は誰なのかが気になってしょうがなかった。オーガの息子では絶対ないだろう。
「まさか、日本にある学校、しかもウマ娘とやらに教えているとは」
好奇心で来てしまった。トレセン学園、手続きを済ませ中に入り気ままに歩き回る。ターフを駆け抜ける彼女たちはまさしく車だ。いったい何キロ出しているのか、あれがウマ娘、とてつもなく恐ろしい、目的地もなく歩いているとターフ近くのベンチに一人脚を固定され松葉杖を持ち座っている娘がいた。
「こんにちはお嬢さん」
「え?あ、こ、こんにちは?」
「ああ、すまない驚かせて」
帽子と黒いサングラスに身元が分からない格好をしている大きな男にいきなり話しかけられたら誰だってびっくりする。
「ウマ娘とやらはとても速いんだな」
「おじさんウマ娘見るの初めてなの?」
「ああ、格闘技の方をたしなんでいたためこのようなスポーツは見たことがないんだよ」
「へーそうなんだー、じゃあボクが教えてあげるよ」
さっきまでの緊張は消え、笑顔で説明するテイオー、最高時速70まで出せるなど、大食いなど、人間以上に力が強いなど、初めて知ることだらけでとても驚いた。そして何よりオーガが指導する意味も分かった気がした。そしてテイオーが走れないことに対しての不満や夢がかなわないことに対しての苦しさも教えてもらった。
「そうか、つまりタイトルのようなものが取れなくて落ち込んでいる訳か」
「うん、ボクはね、カイチョーみたいに、シンボリルドルフのようなウマ娘になりたかったの、でもね脚がこんなことになって走れなくなっちゃったんだ」
「なるほど、それは残念だったね、夢を叶えられない辛さは私にもよくわかる」
気が付けば、ぽろぽろと涙が溢れてきているテイオー、その光景が何時しかの自身の息子を思い出させる。彼女もまた似た部分があるのか、それとも別の何かがあるのか、そんな時テイオーの所属するチームのトレーナーがこちらにやってきた。
「すみません、どちらの方でしょうか?、それとどうしてテイオーは泣いているん
だ?」
「あ、トレーナー、ううん、三冠が取れなくて悔しいって話をしてたんだ」
「すまない、君のところの教え子と話していただけなんだ、ただの見物人さ」
「すみませんが、帽子とサングラスを外してもらってもいいですかね?」
「ふむ、これでいいかな?」
サングラスと帽子を外し素顔をあらわにすると、トレーナーは口にくわえていた飴をポロリと落とし声は挙げなかったもののとても驚いた。
「え、なになにどうしたのトレーナー?」
「も、申し訳ありません、すぐに戻してもらって大丈夫です」
「え、ほんとどうしたのトレーナー?」
「テイオー、この方は、アメリカ大統領より有名人と呼ばれた人だ、素顔で出歩けるはずがない、むしろなぜここに」
「え、有名人なのおじさん?」
「ああ、私はマホメド・アライという名前だ」
「ボクシング界の生きる伝説、アメリカだけでなく世界中で有名なお方だ、試合での動きはまさしく蝶のように舞い蜂のように刺す、ガードを取らずすべての攻撃をかわし拳を打ち込むリングでは最強ともいわれ、ボクシングの動きではないと言われたほどの異端、それ程にまで強いお方だ」
そんなあなたがなぜこの日本、ましてやトレセン学園に?そんな疑問を振り払うかのように答えはすぐに返ってきた。オーガが指導をしているという事で興味がわき見に来たと、友人に会いに来てどんな娘を育てているのかが気になってねと
「なるほど、そうですか、すみません貴重なお時間を取らせてしまい」
「え、おじさんオーガと友達なの?」
「ああ、若い頃からの付き合いさ、最も初めて会ったのは路上でのストリートファイトだったがね」
しかもトレーニング中のねと付け加え、いったいどのようなトレーニングをしていたのかを尋ねると想像以上でありウマ娘ですらやったことのない超絶ハードトレーニングをしていたことを知った。今では息子が私の動きなどすべてを引き継いでいると、親子そろって恐ろしい才能だと感じた。
「それにしても勿体ないな」
「何がですか?」
「この子だよ、テイオーのお嬢さん」
「え、ボク?」
「ああ、骨折で夢をあきらめてしまうとは仕方がないとはいえ勿体ない、まだまだ強くなれる可能性を秘めているのに」
「……ウマ娘にとって脚は何よりも大切なものです。骨折させてしまったのは私にも責任があります」
「…………そうだな、しかし、脚を早く治すには時間が必要だろうね」
「ええ、医師の判断で復帰レースは決めますが、元の走りのように戻れるかは分からないと」
「ふむ、そうか」
邪魔をして悪かったとその場から離れたアライは高級ホテルのある一室に訪れていた。
「オーガよ、トウカイテイオーというウマ娘を知っているか?」
「ほう、テイオーか、勿論知っている。やかましい小娘だ」
「私はあの娘に何かを感じたのだよ」
「ほう、マホメドアライが気に掛けるとは、一体どのような気まぐれだ」
「それは君も同じだろう、わたしの質問に答えずはぐらかすじゃないか」
それもそうだと笑いながら煙草を取り出し一服、一本を一吸いで煙を吐き出し、灰を捨てる。ウマ娘という変異種はもしかすれば俺以上に強い存在になるかもしれないと、その可能性を引き当てて育てるために気まぐれで指導していると語った。
なるほどと、我が子刃牙が聞いたら真っ先に確かめにきそうだなと、あのオーガがここまで言う種族の生物がどれほどなのか、熊でも像でもイノシシでも持ち前の腕っぷしで殺してきたあのオーガに匹敵するかもしれない存在
「似ているのだろう」
「なにがだい」
「トウカイテイオーとマホメド・アライのステップが」
「なに?」
「やつは天才の領域、足首や体が異常に柔らかい、それこそ格闘技をやれば、全局面対応格闘技術、マホメド・アライ拳法を使えるほどだ、それに頭も良く、飲み込みも早い」
まだまだクソガキではあるがなと付け加えるオーガ、アライは驚いた。彼女にそれ程の動きができるとは、ウマ娘の話は聞いていたが、彼女自身の話は聞いていなかったからである。アライジュニアはアライを超えたが、地に足がつかず有頂天であり、ようやく足が付いたかと思いきやオーガの息子に瞬殺されノックアウト、プライドも何もかも負けた。けれど今はあの頃と違い強さを求めて修行中である。
「なんとも、驚いた」
「テイオーステップ、鍛えればジュニアと肩を並べるかもしれん」
「けれど彼女は歩けないのだろう、松葉杖なしでは」
「知ったことか、あの程度の怪我、簡単に治せるだろう」
簡単に、骨折を簡単に治すことは難しい、けれど一つだけ方法は確かにある。実の息子が成し遂げたこと、日本のマーシャルアーツが、達人たちがくぐり抜けてきた道
何度も何度も破壊し壊し、砕き、折れ、潰れ、それでも鍛錬を続ける猛者たち、人体には科学では証明できない境地がある。ならばウマ娘の身体にもそれを覆す何かしらの何かがあるはずだ。
「たかがそこらの人間より強い雌だ。だが、それより弱い人間ができることをできないと言うのはおかしな話だろう」
ニヤリと笑いながら語りかけてくるオーガ、自分の実の息子以外に試練を与えるのは気にひけるが、興味もあった。けれど先ほどの会話からすべてが無茶苦茶である。もし失敗すれば責任を問わされる。けれどオーガには責任というものがない、弱かったからできなかった。ただそれが事実であり責任はない、けれどアライは違う、オーガほどの権力はない、博打のような賭けだ。
それからは何度か学園を訪れテイオーと一緒にいる時間が多くなったアライはテイオーの闘争心を煽ることに躊躇っていた。それに痺れを切らしたオーガがテイオーを捕まえレースに出たいかを問いだたす。いきなり捕まり鬼のような顔で詰められたテイオーは号泣した。鳴き声を聞いた者が次々と集まるが睨みつけるだけで周りを静止テイオーの返答を待っていた。
無論帰ってきた言葉はレースに出たい、けれどこの脚では出られないと、そんなこと知るかとの一蹴り、すぐに練習を始めると無理やり着替えさせトレーニングルームにてバックを殴らせていた。
「ここからはお節介は無しだ」
「ああ、わかった」
ひたすらにバックを打ち続けるテイオー、トレーニングルームから姿を消したオーガはどこかに消え、テイオーとアライ、そしてこの騒ぎを聞きつけ、途中から参戦したルドルフの三名だけである。静かな部屋にバックをつく音だけが響く、脚のトレーニングはできないが、上半身を鍛えることはできる。松葉杖無しで撃たせ、テイオーの足回りは気が付けば汗の水たまりができていた。本来ならターフを走らせるところだが、サンドバッグの方がやりやすい。
「一体、何時間ああして」
「かれこれ3.4時間ほどかな」
「なぜこのようなことを、テイオーはああしてトレーニングを」
「三冠最後の菊花賞に出るためだ」
「なに?」
「普通なら出走できるはずはない、なんせ脚が折れているのだから」
「ならば、なぜ!!!!」
「科学的ではない、古流武術にはいくつもの実証例がある。人体にはそれほどの力がある。己の体の一部を壊し続け強化していき、気が付けば壊れなくなるほど、何度も積み重ね、次第に慣れ、身体の回復も早くなる」
「つまりテイオーは今から体を壊し続けるというのか!!!!」
「私たち人間にできて君たちウマ娘にできるはずがない、君たちは甘えすぎなのだよ」
「甘いだと!!!!、私たちを舐めるなよ!、人間より力も強い私たちが甘えているだと言いたいのか」
「事実そうさ、種目は違えど、人の身体に耳と尻尾が生えている程度、このようなことができても不思議ではない、むしろなぜやらないのかが分からない」
「今後の人生がかかっている身体!!!!そう簡単に壊していいはずがないだろう!」
「もっともな意見だ、そしてやはり甘い」
「甘いだと!」
握りこぶしを作り今にも喰い殺さんと言わんばかりの眼力で睨みつけるルドルフ、他の学生がいれば確実に気絶しているほどの覇気を出している。三冠、確かに簡単な偉業でもないし多くのウマ娘が勝ち取れるものではない、夢破れ、二冠、一冠だけ、それが現実であり結果でもある。三冠を獲得できるのは文字通り化け物のみ、その重みは三冠バであるルドルフは分かっていた。
三冠の凄さ、三冠に届く者たち、挑む者たち、敗れる者たちが多くいる中こう呼ばれる。
「最も速いウマ娘が勝つと呼ばれる皐月賞」
「最も運のあるウマ娘が勝つと呼ばれる日本ダービー」(東京優駿)
「もっとも強いウマ娘が勝つと呼ばれる菊花賞」
その全てを勝ち抜き手中に収めたも者が呼ばれる三冠バ、そもそも日本ダービーを勝った時点でテイオーは強かった。一生に一度の同世代のウマ娘が夢見て憧れ、そして数多の傑物がその夢に敗れてきた最高峰のレース
ダービーウマ娘であるトウカイテイオー、ダービーウマ娘とはその夢の屍の頂点に君臨する者、三冠バともなれば日本のウマ娘の頂点と言っていいほどである。
「ハッキリ言おう、君たちのレースにかける思い、闘争力は我々をはるかに凌駕する。大勢の観衆の中、持ちうるすべてを出し切り勝ちに行く、とてもじゃないが真似できない」
「…………」
「だからこそ勿体ない、一時期の躓きで夢をあきらめる?馬鹿を言うな、あと少しで手に入る夢ならば、追いかけて何が悪い」
「だが、仮に手に入ったとしても、この先にレースに支障が起きるのならば、二度と走れることがなくなるのならば、諦めた方がいい!」
「それも間違っていない、だがねお嬢さん、最終的に決めるのは彼女だ」
「テイオー!!!!」
「あ、あれ?カイチョー?」
「一度休憩しようか、30分程席をはずそう」
トレーニングルームでの二人だけの時間、水分補給しながら汗を拭くテイオー、アドレナリンがあふれ出しているおかげか、脚への痛みはさほどなかった。
「テイオー、無理にやらなくていいんだ、私はお前の身体が心配だ」
「カイチョー」
「ウマ娘にとって骨折は痛いこと、骨折前のように走れるかは努力次第になるが、二度と走れなくなるよりかはいい、頼む、安静にしてくれ」
「カイチョー、ボクは」
「そこまでだぜ、シンボリルドルフ」
「!!!!」
気配もなく音もなく後ろに現れたオーガ、あきれた表情で立つ男、テイオーを無理あり練習させるに至った張本人でもある。
「貴様!」
「ちょいと過保護すぎやしねーか?」
「過保護で何が悪い!」
「そんなんじゃあ何時まで経っても甘いままだ」
「だがそれで怪我が悪化して走れなくなるよりかははるかにましだ!」
「それを決めるのはそこの小娘だ」
「え、ボ、ボク?」
「え?」
「どうするかは自分で考えな」
邪魔したなとその場から出ていくオーガ、静寂の訪れるこの場に先ほど席を外したアライが帰って来る。
「ん?どうしたのかね?」
「いや、オーガが先ほどな」
「なるほど、教育熱心なんだなオーガは」
「え?」
「は?」
「ん?」
え、あれが教育熱心?理不尽の塊とかではなく?そういった表情をする二人にどうしたのかと言った表情を浮かべるアライ
「カイチョー、ボク決めたよ」
「テイオー」
「ボク、夢をあきらめたくない!」
「な、テイオー!」
「それは!」
「唯一抜きん出て並ぶ者なし、カイチョーがよく言っている言葉だよ」
トレセン学園のスクールモットー、常に頂点を目指せとのこと、まさかテイオーの口からこの言葉が出るとは思わなかった。それと同時にテイオーの目は燃えていた。
「ボク、絶対にあきらめない、それに骨折がなんだ、ボクは最強無敵のウマ娘、トウカイテイオーだ!」
「テイオー」
「よくわからんが、話は付いたみたいだな」
テイオーのことは以外にもよく知っている。この目はあきらめない目、頑固なる意思があるときの目だ、だがこちらも引けない
「テイ「信じてやれ」オー」
「なに?」
「確かに、二度と走れなくなる可能性がある中、こうして夢を追うと言っているのだ、先駆者である君が信じてあげなくてどうする」
「しかし」
「君は優しすぎる、それだと彼女の成長が止まってしまう、この決断も大人になるためへの一歩と考えればいい」
「カイチョー、お願い、もし治らなくて無理そうだったらちゃんと休むから!」
「だが…………いや…………わかった」
「え?いいの?」
「はぁ、ただし常に監視はつけさせてもらう、万が一の時に備えてな、それと練習は私も参加する。このままだと心配で寝れやしない」
「カイチョー!! わーいやったー」
怒り、戸惑い、緊張、焦り、そしてついに折れたルドルフ、安全に越したことないと、それなりの条件下の中で練習することを許可された。するとアドレナリンが切れたのか脚に軽い痛みがテイオーを襲った。
「う、痛い」
「ふむ、やはり痛みには慣れていないか」
「大丈夫かテイオー!」
「安心しろ、そんなこともあろうかとちゃんと準備している」
「え?準備?」
「先ほど席を外した際、万が一に備えて来てもらったのだよ」
「え?」
「先ほどマックイーンお嬢様から連絡を受けこちらに参りました」
「えええええええ~」
「ふむ、医者がいるなら大丈夫か」
「か、カイチョー!」
「すまないがよろしく頼む」
「わかりました」
「ナンデオチュウシャモッテルノー!」
「それはお嬢様の主治医だからです」
「ワケワカンナイヨー!!!!」
本当に訳が分からないので間違ってはいないテイオー
「痛み止めを打っておこう」
「ヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤダヤ」
「三冠バを目指すんだろ?たかが注射ごときで駄々をこねるな」
「だって嫌いなんだもん!」
「テイオー大丈夫だ、私もいるから」
「カイチョー」
「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!!!」
トレーニングルームにテイオー声が響いた。こうしてトウカイテイオーの三冠への道が再び開かれた。
思った以上に長く書いてしまった。無理やり感が半端ないがなんとか頑張って魔改造していこうと思います。テイオーの扱いとしてはアライジュニア感覚です。
文才がないと難しい~、刃牙キャラで書くのも難しい~