放課後のターフ、トレーニングを指示しているのはあのマホメドアライ、かの伝説を認識しているのはチームスピカのトレーナーと生徒会長であるシンボリルドルフとチームリギルのトレーナーのみである。
「さて、まずは痛みになれるため杖アリでもいい、脚を付けながら一周しろ」
「いきなりハードなのが来た!」
「もちろん私も一緒に歩く、トレーニングを含めて」
「え、おじさんも?」
「いや、テイオー、おじさん呼びは」
「かまわん」
サングラスと帽子は被ったままだが動きやすい服装にやけに重そうなブーツを履いている。監視役としてルドルフが少し遠くから眺めているが何も言わない
「何事も慣れだ」
「わかったよ」
渋々と歩きだすテイオー、脚をつけるたびに訪れる痛み、苦痛の表情と冷や汗をかきながらも歩みを止めない、テイオーの横ではゆっくりと自然な動きで歩くアライの姿、何も知らないものからするとリハビリにも見えなくはないが、どう見ても痛めつけている様子にしか見えない
「おい、トレーナー、あのブーツ」
「ああ、かなりの重量だ」
「2キロはあるな」
「ああ、実際軽いと思うかもしれないが、そんなことはない、時間が経てば経つほど脚への負荷はそれなりに来る」
「そうなんですか?」
「ああ、ウマ娘としては軽いかもしれないが普通の人間にとってはかなりキツイ、言い換えればマックイーンが一時期はいていた錘の蹄鉄を付けた状態で走るのと一緒だ」
「なるほど、確かにそれは負荷が来ますね」
「あの時はゴルシちゃんの背中にも負荷が来たな」
「あの時はごめんなさい」
「あははっ」
「ま、ゴルシちゃんにとってはあんなのジェットコースターに乗りなが亀ラップするくらいのレベルだぜ」
「意味が分からん、つかなんでラップ」
テイオーの練習を見ながら見守るチームメンバー、一周し帰ってきたテイオーは物凄い汗をかいていた。無理もない、骨折して間もない段階でこの練習、常人なら歩くことすらままならない
「ふむ、見てわかる程度にかなり辛そうだな」
「あたり……前だよ、物凄く……痛いんだから」
「なら次は杖無しで行こうか、私の手を取りなさい、体重をかけても構わない」
「おいおい、マジか」
「テイオーさん、大丈夫かな」
「まるで減量中のマックイーンみたいだ」
「ちょっとどういうことですの!」
「テイオー」
再び歩き出す2人、明らかにやばい量の汗、だけど先ほどよりかは歩けている。
「おいトレーナー、テイオーはどこまでできると思う」
「少なくとも俺の知る限りだと、この2周で限界だな」
「あ、帰ってきた」
「体の構造はともかく、精神面も考慮するといったんここで切り上げだろうな」
「初見で死にゲーをプレイするようなもんだからな」
「あれ?また歩き始めた?」
「おいおい、マジか」
「しかも今度は補助なしだぜ!」
「裸縛りでミラ〇レアスを倒しに行くようなもんだぞ」
「貴方は先ほどから何を言っているのですか!」
今度は補助なしで歩き始めるテイオー、万が一に備え、後ろからついていくアライ、ゆっくりとゆっくりと亀のような遅さではあるが、着実に一歩を踏み出している。いったいどれだけの時間が経ったのだろうか、何周したのだろうか、痛みに耐え、慣れ、苦痛で表情を浮かべようとも泣き言を一切言わないテイオー、それもそうであるが誰もが一番驚いているのはテイオーを見守りながら歩くアライの方であった。
「テイオーも凄いが、あのおっさん、息が乱れるどころか汗すらかいていない」
「歩くスピードは遅くても脚への負荷はあるはず」
「恐ろしいなあの人は」
「マグロ漁一緒に来てくれねーかな?」
何周したのかは分からないが一度休憩を挟むことになった。掻いた分の汗を、水分を補給しながらもただ休憩するだけではなかった。
「なにこれ?」
「飯だ」
「え?ボクお腹空いてないけど」
「空いていなくても食べるんだ、確実に消費しているカロリー、骨折を治そうとしている今の君はどんどんカロリーを消費している。今の君に必要なエネルギー補給だ」
並べられる料理の数々、たんぱく質やカルシウム、ビタミンが豊富なメニューである。遠くから食べたそうに見つめる者もいるが無視する。何故か変な猫と一緒に肉を焼いているものもいるが無視する。
「それを食べたらまた一周だ」
「え~休ませてくれないの~」
「食べている間休めているだろう、時間はあるが君の目指すタイトルに間に合うのかな?」
「それは」
「ならさっさと食べるべきだ」
「わかったよ~」
文句を言いつつもしっかりと食べるテイオー、遠くから腹の音が聞こえるが無視する。しっかりと食べ終えるとすぐさま再スタートする。それを毎日毎日ひたすら繰り返していた。時間が経てば痛みにも慣れ、練習中は杖無しで歩けるようにはなれた。
毎日ではないがルドルフが監視し、他のウマ娘も監視していた。
そんな中ある日のトレーニング、スタミナと上半身の強化でひたすらにサンドバックを打つテイオー、あの時と同じ3.4時間ほどテイオーの足元には汗の水たまりができていた。そしてあの時と同じようにルドルフもいる。
「はぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!!!」
「ふむ、いいパンチだ」
「凄い集中力だな」
「限られた時間の中でどれだけ本気になれるかが問題だからな」
「もう慣れたとはいえ、いまだに来るものがあるな」
「仕方ない、固唾をのんで見守るしかない」
ドスドスと音を立てるサンドバック、最後の冠を手に入れるため死力を尽くすテイオー、だが次第に音が止んでいく。
「どうした?テイ……オー!?」
「…………」
「……………心が先に来たか」
「なに?」
「………っく……ぐ……ぐすっ」
「テイオー」
どれだけ、どれだけ頑張ろうが一向に治る気配のない脚、そして過ぎる時間、テイオーは不安と焦りと恐怖で塗りつぶされ、ついに限界を超えてしまった。そんなテイオーを優しく抱きしめるルドルフ、涙を流す少女を慰めようと頭を撫でる。
「すまない、今日はここまでにしてくれ」
「そうか」
「ああ、行こうかテイオー、気分転換しに」
ゆっくりと手をつないでトレーニングルームから出ていこうとする2人、涙を流し、まだ幼い少女はぐちゃぐちゃな心境でその場を後にしようとした。
「ああ、そういえばトウカイテイオー」
「……なんだよ~」
「最後の冠を目指すものが決まったらしい、そしてトウカイテイオーの挑戦を受諾した」
「!?」
「……………ごめん、カイチョー、少し待ってて」
「テイオー?」
ルドルフから離れサンドバックに戻るテイオー、すると先ほどのようにサンドバックをたたき始めた。目の色が変わった。
「て、テイオー?」
「君の目指す最後の冠に出走する予定のメンバーからの言葉だ」
先ほどまでの弱弱しかった音が変わった。
「はぁはぁはぁはぁはぁ!」
サンドバックの音が次第に大きくなっていく、そして踏み込むたびに脚のギブスが砕けていく、叩き、叩き、砕け、最後には完全に脚があらわとなった。
「はぁぁぁぁぁっ!!!!!!!!!!!」
そしてその脚でそのままサンドバックを蹴り上げ吹き飛ばした。凄い音を立て吹き飛んでいくサンドバック、ルドルフにはあの時の言葉を思い出した。。
正直半信半疑でもあり、ほぼ信じることはなかったあの言葉、だがどうだ、今目の前で起きた光景を信じるなと?バカを言うな信じるしかないだろう、走ることができない、歩くことが精いっぱいのあの脚でサンドバックを蹴り壊したのだ。
驚愕しているルドルフ。全身からオーラのようなものが溢れているテイオー、マホメド・アライはルドルフの方に顔を向けた。
出ましたあの名言、ここからは一気に魔改造されていく予定です。気が向いたら、面白いと思ったら読んでください。