うるさい、黙れ、私を見下すな!、小さい体で体格差で勝てない?、うるさい、そんなことあたしが一番分かってるんだ!、消灯時間もとっくに過ぎた学園、ターフではまだ一人、小柄なウマ娘がなりふり構わず走っていた。
「まだ、まだ、こんなんじゃ」
息も切れ、疲弊している身体、追い込み追い込み、勝利を求めて練習する彼女はまさしく今にも壊れそうであった。最近のレースでなかなか勝てずにいた彼女は勝つために自身の身体をひたすら追い込んでいた。彼女のトレーナーもどうすればいいのか、あらゆるアドバイスを、トレーニングを実践するが成果はなかなか出ない、正直なところ行き詰っていた。
「クソ、どうしたら」
「ほう?貴様、確かナリタタイシンといったか」
「は、なに、あんた誰!?」
名前を呼ばれ振り返るとそこには巨大な男がいた、暗く顔は見えなかったが、月明かりに照らされ近づいてきた瞬間に何者かは理解した。最近よく話題に上がる鬼である。
初めて見る大きさと身体、本能的に恐怖を感じ震える声で尋ねた。
「お、オーガがい、いったいなに」
「ただの暇つぶしだ、そしたらたまたま貴様がいただけにすぎん」
「そ、そう」
暇つぶしとはいったい、こんな時間にこんな場所でできることなんてない、けれど今はそんなことどうでもいい、そう考え練習に戻ろうとした。
「やめておけ、そんなことをしても無意味だ」
「は、なに?、あんたも否定すんの、無理だって!!」
切羽詰まっている彼女にとって先ほどの言葉は火に油を注ぐ行為であり、先ほどまで震えていた声とは思えない怒号がオーガに向けられた。
「・・・ただがむしゃらに走ることに何の意味がある」
「そ、それは」
「意味もない行為などやめてしまえ」
それだけを伝えると踵を返し立ち去ろうとするオーガ、静寂な場に遠くなっていく足音だけが響いた。
「だったら、あんたがあたしを鍛えてよ!!」
オーガの足が止まり顔だけ振り向いた。
「あんた、強いんでしょ、見た目からそうだし、周りを黙らせるほどの力をあたしに叩き込んで!!!!!!」
心からの叫び、強くなるためにどんなことでもやってやるという強い意志が目に宿っていた。オーガはにやりと笑うとタイシンに近づきいいだろうと声をかけ明日からと伝え、そのままどこかへ向かっていった。
次の日のターフではタイシンのトレーナーとオーガが一緒に練習を見ていた
「・・・・・ってな感じなんですけど、どう思いますか」
「・・・冷静さを欠いているな」
「はい、なので普段のような走りが本番で、できなくていつも勝てないんです」
「あいにく俺はそういった脚質での話はできなくてな、本職に任せる」
「はい、わかりました、ではメンタル面ではお任せしてもいいでしょうか」
「・・・ん」
現状と今後の予定を確認し、練習を見ていると併走トレーニングになるとうまく走れなくなる彼女の姿が良く目に入った。
「・・・ナリタタイシンよ、貴様、なぜ持ち味を生かさない」
「はぁ、はぁ、え?、持ち味?ちゃんと生かしてるでしょ」
「その割には、相手と競い合いながら、無駄が多い」
「なに?何が言いたいの?」
「競うな!持ち味を生かせ!」
「・・・持ち味」
言っていることが少し理解できたのか、先ほどまでの顔とは少し違った。終盤まで脚をため、驚異的な末脚で勝ちに行くのが彼女のスタイルであり、無意識とはいえそのスタイルができていない状態が続いていた。
「レース本番、貴様は余計なことを考えすぎている」
「それは、仕方ないじゃん、こういう性格だから」
少しムッとした表情で腕を組み可愛らしく見えるが本人はいたって真面目にふてくされている。
「たかがレースの競争相手に勝利するという単純な行為に、小さいだの、勝てないだの、見下すなだのーーーーー、上等な料理にハチミツをブチまけるごとき思想!!!」
大きな声での一喝、タイシンが考えていることに対しての一喝でもあった。
勝つためには無駄なことを考えるな、純粋な闘争で、結果勝てばいいなど次々と言葉が投げかけられていく、トレーナーも同じように頷き、肯定する。いや、急な大声で内心かなりビビりながらうなずいている。
「ナリタタイシンよ、貴様は力が欲しいと言っていたな」
「え、う、はい」
「ならば貴様の身体にある技を叩き込む!」
見ておけとその場で上の服を脱ぐ、いきなりの行為に驚きもしたが、それ以上にオーガの身体に驚いた。異常に発達したファイティングマッスル。すべてが大きくあ間で合った。
(おいおい、なんだこれ、背中が)
後ろから見ていたトレーナーはオーガの背中の筋肉の形に驚いていた。普通なら目にすることのない筋肉の結晶、どれだけ鍛錬してもこのような筋肉にはならない。絶対と言っていいというほどのものであった。
(凄い、背中に、お、鬼が)
彼がオーガと呼ばれる由来が分かった気がした。背中に鬼が宿り今、目の前で何が行われるのか全く予想がつかなかった。
「これより見せるは象形拳、熊の戦闘形態を真似た熊象拳、虎の勢いをイメージした虎形拳、蟷螂の戦闘法を採り入れた螳螂拳、様々型を工夫するも、言うなれば所詮はモノマネッッ」
「え?ちょ、なに?モノマネ?型?」
「型を見せるのはイメージを作るための手本だ!!!、競い合っている中で型を披露することなど到底できまい、だが、イメージを体現化、具現化することでその迫力を周囲に知らしめることは可能!!!」
一つ一つの型を披露するオーガ、虎、熊、蟷螂、素人目でもはっきりとわかるほどの型を採り入れた生き物の姿が!!!、タイシンは今目の前で起きていることにはっきりと言えば追い付いてはいない、けれどその動きから見せられる生き物のイメージ、迫力は伝わっていた。
弱肉強食だけが旨、苛烈な自然界を幾千世代、彼等に備わる戦闘法、この世の法則に沿う、絶対強者の戦闘法だ、強者から学び、生き残った者から学ぶ、選ばれし者から学ぶ、絶対的解答、モノマネとはいえ、彼女にとっては十分であろう。
「今見せた型、それ以外にも採り入れる、貴様が使えるようになるまで徹底的に叩き込む、泣き言は許さん」
「!!、上等!」
レースでも使える象形拳を身に着けるため、オーガとタイシンとトレーナーによる新しいトレーニングが始まった。出走予定のレースまでにどこまでできるのか、毎日毎日走り、採り入れ、走ることを繰り返す。そんな中で迎えたレース当日。
「タイシン、今日までやれることはやってきた、あとは思う存分発揮するだけだよ」
「わかってる、あと暑苦しい、うざいから」
「うぐ、でも頑張って」
「はいはい」
いつものやり取りが終え、ゲートに向かう中オーガがいた。腕を組み凭れている彼は何も言わず眼だけで勝って来いと言っているような気がした。不思議となぜか笑みがこぼれそのままゲートインをした。
レースが始まり後方での立ち位置のナリタタイシン、いつものように走り、脚をためている。ただ勝つことのみを考え余計なことは一切考えていなかった。
「まだ、まだ、ここじゃない、もっとギリギリで」
最終コーナーを超え、上り坂に差し掛かった瞬間先頭で走っているウマ娘達が異変を感じ掛かり始めた。
(やばいやばい、なにかがくる)
(怖い、逃げなきゃ)
(無理無理、脚が勝手に!!!)
「はぁぁぁぁぁ!!!!!!」
一気に上がってくるタイシン、その動きはとても素早く、そして獲物を狙うような目で合った。彼女が採り入れた生き物はシャチであり、陸上の生物とは無縁ではあるが、海では立派なハンターでもある。型とは言えないが、この状況なら型に捕らわれるよりもイメージから繋げた方が得策である。
狙った獲物は逃さな獰猛なハンター。今目の前で走っている彼女たちを喰らうほどの迫力があった。完全とは言い難いが獲物を定めた時の加速を真似た。驚異的な末脚でグングンと追い抜いていき、タイシンは久々の一着をとることができた。
今日出走したウマ娘たちは食べられるかと思った、怖い、泣き出す子もいたという練習の結果としては上々で合った。
「オーガさん、ありがとうございました」
「・・・まだ、粗いがいいだろう」
「名づけるなら、鯱形拳、ですかね?」
「・・・くだらん」
特に興味もなさそうな感じで応援場所から離れていくオーガ、最後に一言だけ、今以上に強くなりたくなったら尋ねろとだけいい、歩いて行った。そんな彼にここまでしてくれたことに対しても含めて
「優しいんですね、オーガさん」
その一言に足を止めたオーガは、髪がゆらりと立ち上がり、顔だけ振り返った。眉間にしわが寄り睨みつける表情でありこういった。
「それ以上喋ると、犯すぞ!!!」
その一言にトレーナーは全身に衝撃が走った。ぼ、僕をかッッ!!!!!!?
このトレーナーである男の僕を手込めにするとーーー!!!!?
「い、いやぁ~、そ、それはチョットォ」
青い顔をしながら下を向くトレーナー、気が付けばオーガはいなくなっており、先ほどの言葉を思い出し少し体が震え、タイシンを迎えに、控室で着替え終えたタイシンをトレーナーは急に抱きしめ、急なことに赤面したタイシンが蹴るというなんとも締まらない形で一日が終えたのをオーガは知る由もなかった。
ライスシャワー、最強強化されたハルウララ、タキオンどれにしようかな
それとも大穴でメジロパクパクですわ~?